ミステリー「検屍官」

　ヴァージニア州リッチモンド。６月６日金曜夜は雨が激しかった。日付が変わり、土曜の早朝３時、ドクター・ケイ・スカーペッタの寝室の電話がけたたましく鳴る。自分より10歳上の50歳近い刑事ピート・マリノからだった。ウマが合うとはいえない二人がなぜかペアで一連の事件を担当している。
　被害者は30歳の女性だった。同種の事件被害者がこれで4例目になる。全裸で縛られ、息絶えている。所持品として使い古したリュックに入っていたのは聴診器とペンライト、弁当箱、医学書3冊。自分と同業の女性だ。ベッドの横にはナイフで引き裂かれた黄色いガウン、ベッド両脇にコードを引きちぎられた２台の室内灯、壁からコードを引き抜かれた電話機があった。夫は別の部屋で消沈している。夫婦はハーバード大学で知り合ったらしい。妻はメディカル・スクールに通い、夫は学部生だった。犯人は寝室からかなり離れたトイレの窓から侵入したもよう。踏み台にしたに庭用テーブルが組み立てたまま放置されていた。最近、同種の手口を使った犯罪が３件起きている。これが４件目になる。リッチモンドの若い女性たちは恐れおののいていた。
　M&Aを扱うノンフィクションに飽きて、パトリシア・コーンウェルのミステリーを読み始めた。「POST-MORTEM（死後）」というラテン語の書名がついている。調べてみると相原真理子訳は「検屍官」となっている。今年はさまざまなノンフィクションを７、８冊読んできたが、ミステリーで静かに新年を迎える。

いろいろな体温計

　非接触型の体温計を買った。だるま型で置物としてデザインされている。額に近づけて体温を計る。ボタンを押したまま額に近づけるとピッと鳴り、２秒ぐらいでピピッと鳴る。これで体温を計れる。体温を測定していないときは室温が表示されている。
　脇の下に入れて用いる従来型の体温計も併用している。こちらの方が信頼感がある。実際の体温との誤差が少ないような気がする。非接触型の体温計で計った測定値より狂いが少ない。
　非接触型で計ると低すぎて測定不能になることが最近よくある。気温、室温が低いために額表面の温度がかなり下がっているからだ。またストーブのまえにしばらくいてから非接触型体温計を額にあてると、37度を超えていることがある。従来型の体温計を使って脇の下で計り直すと非接触型体温計の欠陥に気づかされる。非接触型は周囲の温度を敏感に反映する。人間の体温は周囲の温度にそれほどまでには反応しないはずだ。
　夏の暑いとき、37度を超えていることがあった。従来型の体温計を左脇にはさんで37度を超えているときでも右脇で計ると36度台におさまることがある。今年の春頃は35度台しかでず、自分は平熱が低いのだと思っていた。どうも体温は気温によって変化する傾向があるらしい。人間は恒温動物だと思っていたが、変温動物にもなるのだろう。
　職場の入り口にはAIサーマルカメラが設置してあり、指示された場所に立つと自動的に体温が表示される。私の体温は最近は35.8度か35.9度になる。家で計る体温より0.6度低い。夏の暑い時期、外から入った瞬間、赤字で40度と表示されたことがあった。すぐに36度台に下がったので、外気温で体が熱くなっていることをそのまま表示したようだ。サーマルカメラはすばらしいが、体温を正確に測定しているかどうか、疑問が残る。
　一体全体、人間の体温はどれほど変化するものなのか。元気なときの体温がすべて平熱だとしたら、平熱の幅はどれくらいあるのか。さまざまな種類の体温計が疑問を呈してくれている。

ワーナー社社長スティーヴ・J・ロスの素顔

　コロナ禍でみんなマスクをするようになった。ことし知り合った人たちはマスクをした顔しか見ていない。マスクの下の素顔をみる機会が一度もない。もちろんその人の体型や立ち居振る舞い、髪型、声質などからその人をアイデンティファイすることができるから不便はない。ただマスクの下はどんな顔か、興味をかき立てられることが多い。若い女の子はマスクのおかげでみんな可愛く見える。

　有名人の仮面を剥がして素顔を知りたい欲望はいつでもある。1989年、タイム社と合併したワーナー社の社長スティーヴ・J・ロスをとりあげる。タイム社というエリート企業と調子を合わせていけるのかと周囲から訝られたたたき上げの人物だ。
　1927年ニューヨーク市ブルックリンのユダヤ系が多くすむ地区に生まれた。衣料品街でセールスマンをはじめ、1954年葬儀屋の娘キャロルと結婚する。葬儀屋家業を継ぎ、事業を拡大、ビルのメンテナンス、レンタカー、貸本業、印刷、信用保証など、「ゆりかごから墓場まで」をモットーに事業の手を広げていく。家族を顧みる時間がなく、妻キャロルに愛想を尽かされ、離婚。
　テキサスのコカコーラ・ボトリング経営者の娘コートニーと知り合う。２年間、パートナー同伴が必要なシーンにはいつもコートニーを連れていったが、別の女性アマンダが現れるとポイと乗り移る。アマンダとは正式に結婚。彼女も資産家の娘だったが、結婚10か月でみずから家を出てしまった。
　すると元の鞘に戻ったかのようにコートニーと結婚する。女性ばかりでなく、会社関係のつき合いでも人当たりがよく、金に糸目をつけない使いぶりのロスは、社交界での評判では群を抜いていた。このころロスはケーブルテレビや映画制作にも乗りだし、飛ぶ鳥を撃ち落とす勢いだった。
　企業間の吸収合併が隆盛を極めた1989年、ロスが牛耳るワーナー社が、タイム誌、ライフ写真誌ほかピープルやスポーツ・イラストレイティッドなどを発行するエリート企業と合併してうまくいくかどうか、疑問視する声が上がっていた。「To the End of Time」はここから始まる。Timeは「とき」と世界的有名雑誌「タイム」の掛詞になっている。

トイレのドアノブに注意

　新型コロナ対策の話題ばかりで恐縮だが、いま喫緊の課題なのでご容赦を願う。
　参議院議員で医師でもある桜井充氏がBSフジのプライムニュースに出演し、自らがコロナに罹患した原因として「これしか考えられない」と語ったことがある。数人で割烹へ行き、食事したとき、そこのトイレを使った。ドアノブなどをさわったあと、手を洗剤で洗わず水洗いしただけで出てきた。そしてその手で小さなつまみを手づかみして食べた。うかつだった。これが感染の原因だったに違いない、と。
　氏はこうもいう。感染者の糞便には新型コロナウイルスが含まれており、便器の蓋をしないで水を流すとそれが周辺へ飛び散る。ダイアモンド・プリンセス号でも船室のトイレの床からウイルスが検出された。またトイレを使った人が触るドアノブ、留め金も要注意だ、とのこと。
　氏によれば、ウイルスが体内に入るのは粘膜を通じてであり、皮膚から入ることはない。粘膜は顔面の３か所以外に下半身に２か所ある。下半身を忘れてはいけない。ふだん自分はトイレを使うまえにも手を洗っている。手で性器を触るからだ。
　じつはこのような実体験談がほしかった。感染予防に直接役立つ。詳しくは下記で検索すれば、テレビ放映がそのまま観られる。
　FNNプライムオンライン『桜井議員が感染生報告 コロナ医療崩壊の実情 菅首相会見を詳細検証』【前編】

　蛇足かもしれないが、飲食店などでは手洗い場の洗剤できれいに手を洗っても、トイレの出入り口にまたドアがあり、ドアノブをさわる。自分であらためて手を除菌するしかない。念には念を、自分で考えて感染予防をするしかない。

都心へ出かけた

パソコンの脇に置いてある鉢植えのハイビスカスが咲いた。１日だけ花開いて、すぐ萎む。一輪ずつしか開かない点もおもしろい。サマーブリーフという種類のようだが、秋から冬に咲いている。

　きのうお茶の水の病院へ出かけた。血液検査を受け、薬をもらうための、半年に一度のルーティンになっている。検査結果は良好で、ふつうなら、せっかく都心に出たのだからどこかを散策して帰ろうという気分になるところだが、今回はそのような気分にならない。新型コロナ第3波が重くのしかかっている。
　朝の中央線が混雑した。９時から9時半ぐらい、国分寺から新宿にかけての混みようがすごかった。座っている席のまえにも人が立つ。私は最近、帽子をかぶることにしている。すっかり薄くなった頭髪でも、ウイルスが付着するとたいへんだから、つば広の帽子をかぶっている。電車に乗る日は、毎日上着を換えている。かりにウイルスが上着についたとしても、3日も経てばウイルスは死ぬ。病院に着いてからはマスクも新しいものに取りかえた。いつも予備のマスクを持ち歩いている。
　12時まえ、病院の会計を済ませ、昼食。２月以来、外食することを極力控えてきた。検査のため朝食抜きで来たので、エクセルシオールに入った。他の人が使ったあとのテーブルに着き、店を出るときにはていねいに手指を除菌した。アルコール77パーセントの除菌液を小瓶に詰めて持ち歩いている。
　これでコロナ対策は万全なのだろうか。なにかできることで落ちていることはないか。知りたいことはさまざまある。
　○PCR検査結果が陽性と出た無症状患者は、のちに発症しているのか。それとも無症状のまま陰性に戻るのか。
　○高齢者の無症状感染者が他の人に感染させる力はどの程度か。きわめて弱いのではないか。
　○感染経路不明と発表された人の、感染した場所、機会などの「心当たり」をなぜ公表しないのか。個人が特定されることを恐れるあまり、多数の利益を損ねているのではないか。
　きょう東京都の感染者数は500人と発表された。経済を動かすための施策は首相や都知事に委ねるしかないが、感染しないためには一人ひとりが気をつけるしかない。