生命の創発

2005年10月26日 | いのちの大切さ

 宇宙カレンダーの9月16~21日頃(38~40億年前)、原始の海は、煮えたぎる 原子や分子のスープ状態でした。

 熱湯の海には、暴風雨の雲の合間から絶え間なくイナズマが閃き落雷します(放電)。

 オゾン層はまだできていないので、遮るものなしに強烈な紫外線が直射し、宇宙線が降り注ぎます。
 
 酸素大気がないので、隕石は途中で流れ星になって燃え尽きることなく、海も陸も直撃します。

 化学反応を引き起こすそうしたいくつもの要因によって、海では激しい化学反応が起こり続けます。

 それによって次々に、様々な原子がつながりあって分子が生まれ、分子が複雑につながりあって高分子が生まれていきます。

 ここで重要なのは、複雑といってももちろんデタラメではなく、整然とした秩序をもってつながっていく、つまり「組織化」していくということです。

 理科系の苦手な人は、面倒な化学式はいったんぜんぶ忘れましょう。

 ただ、そのシーン、つまり物質がダイナミックに「自己複雑化・自己組織化」していくシーンをイメージしてみていただきたいのです。

 原初、1つのエネルギーだった宇宙が、やがてクォーク、そして陽子や中性子や電子、さらに原子、分子、高分子と自己組織化を遂げていくシーンを想像してみてください。

 1つの宇宙の中の地球の中の海の中で、高分子が誕生するのですが、しかしそれは宇宙のある部分が自己組織化してそういう形になっただけであって、宇宙でない何かになったわけではありません。

 高分子がさらにつながりつながって、複雑化のあるレベルをジャンプした時、それまでには存在しなかった「生命」という存在が、宇宙の中の天の川銀河の中の地球の中に、誕生します。

 それまでは物質だけだった世界に、物質を基礎としながら、ただの物質には還元しきれない、新しい特性をもった「生命」という存在が生み出されたのです。

 (「生命の特性はそれが創発する前の物質の特性には還元できない」、つまり「生命は物質に還元できない」というのは、現代生物学の大きな合意点だと思われます。)

 さて、ネット学生のみなさん、単なる物質に還元することのできない「生命」特有の性質というのは、何だったか覚えていますか?

 私たち人間は、まぎれもなく「生命」の1種ですから、生命の特性を知らないということは、自分の特性をも知らないということになりかねません。

 ぜひ、ここで苦手だったかもしれない「生物」の暗記項目としてではなく、自分の本質として、生命の本質をつかみなおしておいてください。

 生命の特性とは、①細胞膜によって自分と外部を区分しながらつながっている、②新陳代謝によって外界と交流しながら自分を維持する、③生殖によって自分とほとんど同じ生命体を複製する、という3つでしたね。

 (これに④成長する、を加えることもあります。)

 英語の科学用語で、それ以前にはなかった新しい性質が生まれることをemergence といいます。

 「発現」あるいは「創発」と訳されますが、私は「創発」という訳語が非常に気に入っています。

 それまで存在しなかったまったく新しいものが「創造的に発生する」というニュアンスがとても印象的で心に響くからです。

おそらく、38億から40億年前、1年に縮尺した宇宙カレンダーでは秋の実りの季節、海の中で生命が創発したのです。

ということは、同時に地球上に、太陽系に、天の川銀河系に……ということはすなわち宇宙に生命が創発したわけです。

 (もしかすると、すでに広い宇宙のどこかの星で生命が創発していたかもしれませんが、それは今のところわからないことなので、カッコに括っておきましょう。)

 浜辺に立って大きな海を眺めると、一種独特の感じが心に湧いてくるという方は多いのではないでしょうか。

何か、大きな、包むような、力に溢れた、しかし優しさ……といった感じです。

 浜辺を歩いていると、打ち上げられた海草やカニや小魚の死骸、無数の貝殻、そして嵐の後には大きな魚や海鳥の死骸などが目に入ります。

 無数の命を宿し、無数の死をもたらし、しかし海の波は絶えることなく、寄せては渚で砕けそして帰っていきます。

 それは、ほとんど永遠に近く繰り返すいわば海の脈動です。

 そうした海辺のシーンを見ている時、私は、海が数え切れないほどの生と死の営みを包み込んだ「母なる海」なのだと実感するのです。

 そしてそれは、おそらく私を含むすべての生命が元々海で生まれたことの太古の記憶に関わっているのではないか、と思ったりするのです。

 どこかで(うまく思い出せないのですが)、フランス語では海も母も「メール」であり、漢字の「海」には母という字が入っている、という詩を読んだことがあります(堀口大学だったか)。

人気blogランキングへ

にほんブログ村 教育ブログへ
コメント (1)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 母なる地球の胎動 | トップ | 海の詩 »
最新の画像もっと見る

1 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
母(la mére)の中に海(la mer)がある。 (asassata)
2005-10-27 06:03:52
私と名前が二文字違いで、かつ、小学校一年生のときに初めて座った席が隣同士で手をつないで下校したという(←自分ではぜんぜん覚えていないけど)女の子のお祖父さんでもある三好達治さんの詩のようです。



http://www.nikkoku.net/ezine/asobi/asb02_05.html
返信する

コメントを投稿

いのちの大切さ」カテゴリの最新記事