sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:パストライブス

2024-05-02 | 映画


この映画、平日のシネコンのレイトショーで見たんだけど、なんと完全に一人で貸切だった!初めてかも!
しかし、うーん…
お話は、幼なじみで大好き同士の二人が、一方が外国へ移住することで遠く離れてしまい
その後SNSで繋がるけど実際に会うことはなく別々の人生に。
その二人にやっと会う機会が訪れて・・・というもの。

シンプルな話ながらわたしの周りの見た人見た人がみな熱く褒めるし
有名人のコメントも驚きと感動の気持ちがこもってるし、
この映画の良さがわからないのはわたしの目が曇ってるのか心が鈍ってるのか…?
予告編見たときから微妙だなと思いつつも本編をじっくり見たらきっと熱く褒めたくなるはず!
と期待して見たけど、やっぱりそうでもなかったのでした。
いや、嫌いではないです。丁寧に作られた良い映画だと思う。
でもわたしには特に何も訴えてこなかった。好みの問題ですかね?
運命や縁があるのにすれ違う二人、という話は古来、「人魚姫」などから去年の「別れる決心」まで
それはたくさんあるけど、わたし大体好きなんですよ、でも今回は乗れなかったのよね。

男女の恋愛ではないけど「ソウルメイト」で描かれたほどの魂レベルの繋がりを、
この映画の二人には感じられなかったからかもしれない。
子供時代や若い頃のエピソードや伏線がもう少し欲しかった。
ヘソンの人物造形が薄いのと、ふたりの特別なエピソードがあまりなくて、
二人だけの小さい秘密とか特別な共通の思い出とか共通の夢とか何かあるとよかったのに
普通に公園で遊んだくらいだったからなぁ。
ヒロインは勝ち気で前向きで元気な素敵な女性だけど、思いやりとか優しさをあまり感じないし、
へソンがそばにいるときだけは好きになるけど、離れてるとすっかり忘れて恋愛して結婚したりで、
個人的好みとしては運命とかイニョンとか言うには「一途」が足りない気が。笑

映画見すぎて、すぐ映画的にリアル以上を求めてしまうけど、まあ普通はそういうものよね、と思うと、
その普通さこそがリアルで、こういう思い出への共感を呼ぶのかもしれません。
そういう平凡なひとたちの話を丁寧に描く感じの映画が好きなはずなんだけど、
ここではなぜかわたしには裏目に出ました。

ただ、アーサーはよかったな。「ファーストカウ」のクッキー役だった俳優さんだけど、
世界で一番優しい顔のロビン・ウィリアムズを継ぐのは彼かもしれない。

ヒロインの夫役のこのアーサーだけが迷いのある人物で、彼は妻の心の行方が少し不安で、
でも受け入れるべきと思いつつ、密かに小さな苦悩の種を抱えてる。
今書きながらわかった。わたしは人の弱さや迷いを見たいのだなと思います。
二人の心にやましさや弱さ、迷いを感じなかったせいかもしれません。
ヒロインが心の中だけでも少し迷いや揺れがあると面白かったかなぁ。
あるいは弱さや迷いを吹き飛ばすような情熱を。
あるいは前述の「ソウルメイト」のような、別の次元の結びつきを。

前世や輪廻という概念が、欧米人にはエキゾチックで新鮮で、興味深く見られたのだろう、
という評も見たけど、確かにそうかもね。東洋的神秘がちょっとロマンチックだったのかも。
というには淡い二人の関係は、悪くない感じで爽やかだったけど。

輪廻してもまた何度でも巡り会うというような話でいつも思い出すのは萩尾望都の短編「酔夢」。
黒曜石の瞳の少女がいつも夢に見る青年。
何度も生まれ変わっては出会い惹かれ合うのだけど恋が叶う前にいつもどちらかが死んでしまい、
またそれを何度生まれ変わっても繰り返し続けるというような話でした。
あらすじだけではわからないなぁ。なんとも美しく悲しいお話なんだけど、
少女だったわたしは黒曜石とはどんな石だろうと想像したものです。
そしてはるか長い年月を叶わないまま焦がれて、それを繰り返し生きる恋の切なさ、
いつも始まりさえせずに終わってしまう永遠に序章だけのロマンス、
それでも相手を思い続けながら何度でも生まれ変わり出会うその時間の長さ思いの深さに
圧倒されたものでした。
もちろん「睡夢」はあまりに非日常な話で、現実的な「パストライブス」とは比較できないけど
黒曜石の少女を思い出すと、「パストライブス」はなんとも薄く軽いものに思えちゃうのよね。