sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

岸本佐知子さんトーク

2019-10-22 | 本とか
翻訳家の話を聞く。
去年くらいからできるだけたくさんいろんな人のトークを聞くようにしてるけど、
結局、作家と写真家に偏ってるかな。まあ偏るのは仕方ないけど。
映画監督のトークも、最近聴いてないな。俳優のトークは、まあいいかと思うことが多い。
映画の内容についてや撮影秘話的なものは面白くても、もっと内側の自分の言葉
自分の生活、自分の人生が面白いのは、やはり作家かな。
人の話をだまって聞くのは、つい自分のことでいっぱいになってしまう自分にとって、
落ち着いて考えるためのよい訓練でもあります。
読書会もそういうところがあるな。つい熱弁しそうになるけど(たまにしてしまうけど)。

岸本佐知子さんは、好きな翻訳家ですが、エッセイがまた面白いのです。
なんだかぐにょぐにょとした異世界にどんどん入って言ってしまうタイプで
スーパーの列に並ぶだけの話でも共感とバカバカしい笑いと不思議が渾然一体。
昨年だったか、、ミランダ・ジュライの長編小説「最初の悪い男」の発刊後のトークで
津村記久子さんとのトークがあって、それにも行ったのですが
その時は津村さんの大阪弁こてこてマイペースの喋りが強くて
岸本さんの印象が薄かった。津村さんの小説もいくつか読んだし面白い人で好きですが
圧倒的に声が大きい人なんですよね。音量的ということではなく、声の文字が太い。
インパクトがあってキャッチーというか、シャープな声で大きな文字で
主役の場所からネタになる話をどんどん繰り出す感じがするけど(それも面白かったけど)、
岸本さんはもっと線が細い。柔らかい声で、真ん中に出ていかないままで、
でも何か聞かれるといくらでも話すことが出てくる感じ。
じっくり聴けば聴くほど面白い人ですね。こういう人が好き。

でも今回のトークで、いい聞き手である編集者の方を相手に存分に話すのを聞いて
こういう面白さの方がわたしは好きだなぁと思ったのでした。
ぱっと前後がなくてもわかりやすい面白さやノリではなく、
話を聞いていると、どんどんいくらでも面白いものがもしゃもしゃと出てくる感じ。
今回のトークはショーン・タンの新刊の訳の話が中心だったんだけど
最近訳されたルシア・ベルリン作の「掃除婦のための手引き書」についても話されてて
この本買ってあるけどまだ読んでないわたしは、早く読みたくなってうずうずした。
本当に優れた作品のようで、すごい評判がいいし(これ書いてる時点でまだ積読中・・・)
それから岸本さんご本人の生活や翻訳についての話もたくさん聞けて、ほんと面白かった。
津村記久子さんと違って、話す声の文字が細い感じの人なんだけど
だからといって内容が薄いわけでも少ないわけでもないんですよね。
辞書にない言葉を探すためにこそ、辞書をどんどん引けと言われた話、
ショーン・タンの描く移民の目は世界をまだよく知らない子供の目と同じなのだという話、
(移民や異邦人の目は生まれて数年しか経ってない子供と似ている、彼らには世界は不思議なんです)
翻訳は言葉を言葉に訳すのではなく、言葉で表している何か
イメージの連続のような何かを、別の言葉にする作業なのだという話。
普段の生活や最近凝ってるもの、煮詰まった時にするグニャグニャ踊り・・・。
ご本人、すごくチャーミングな雰囲気の方で、写真で見た高野文子さんに似てるかな。
すごい好きだわ。ファンです。

京都のモンターグブックストアという、翻訳書ばかり扱っている本屋さんのイベントで
そのときJR京都構内の美術館「えき」のショーン・タン展のチケットがもらえたので
それも帰りに見に行きました。

自分の好みではないのですが、それにしても大変素晴らしいです。すごいいい。
彼の絵本などの仕事とは少し毛色の違う、アクリル絵具でいろんな街の情景を描いた
サムホールサイズのシリーズは、もうすごい好みで大好きでした。
なんでもない街角の絵ですが、熟練の写真家の街のスナップのような雰囲気がある。
巨匠写真家の良いスナップ写真と同じ種類の感動と、絵の良さと両方あった。良い。
そしてこれは京都のためにかいてくれた1枚で唯一撮影可だったもの。かわいいね。