Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

詐欺の前に凍りつく聴衆

2012-08-19 | 文化一般
忘れないうちにルツェルン音楽祭の開幕公演について書き留めておこう。指揮者ぐるみの殆ど詐欺のような公演については、もう少し時間的な余裕があればその内実を明らかにしてみたかったが、ならなかった。

音楽祭にアンサムブルを率いて参加するスイスの音楽家を公演当日に訪ねて、その話をしたところ、やはり健康上の理由はあるのではないかと流石に同業者であり評論家でもあるので控えめに述べていたが、ネットで見たようなシンガポールからマーラーの第八交響曲のために準備したと言うような話があり、トマトと卵を投げつけられる事態であるのは十分に分っていた。彼が言うように代わりの指揮者を立てて公演する方を皆は歓迎したに違いない。

まさにスイス人も気がつかないほどに、入場券の払い戻しなどの可能性を含めて、如何に巧妙にスイス経済やその法体制が仕組まれているかなのである。それゆえか、そうしたあたりの悪いチケットなどは日本の旅行会社などに纏めて売られていたようで、それらしい観光客が特別に目に付いた。バーデンバーデンなどならば、税金を使って、十分に海外から集金が出来ないと言うお人よしぶりはいかにもドイツ連邦共和国らしさである。

クラウディオ・アバドの健康状態は、春からの活躍を見ていても全く問題がなさそうであったが、一病息災で流石にトマトや卵が投げつけられるようなことは無かった。しかし、会場のそこいらではルサンチマンの渦がめらめらと浮遊する気配が感じられた。

スイスの大統領女史などの挨拶や講演の入りはとても悪く、例年のことであるのかもしれないが、今ひとつ祝祭的なムードとならないこの音楽祭の雰囲気を良く示していた。

こうした一方的なプログラム改変がなければヴィーナークラシックの管弦楽曲などに足を運ぶことは無いのだが、お陰でベートーヴェンの「エグモント」などで、改めてこの作曲家の作品の管弦楽を生で味わうことが出来た。一体、最後にベートーヴェンを聞いたのは歌劇「フィデリオ」以外では何十年前だろうか?バーンスタインの広島コンサート-か、それともベーム指揮のヴィーナーフィルハーモニカーだろうか?

そして直ぐにこの指揮者の手の内が、途轍もなく素晴らしい名手たちによって奏でられるのは良く分った。なるほどオールスターキャストの管弦楽団なので、どうしても似たような聞いたことの無い斉藤記念などと比較してしまうのであるが、その交響楽団の個性ではなく、集中した練習で有機的な表現を獲得してしまっているのには驚きしかない。

ヒットラーを演じて世界的に注目を浴びたブルノ・ガンツの語りやユアン・バンスの声の表現よりもなによりも管楽器類のスターや弦楽の表現力が主役であり、その指揮が主役であったことは間違いない。

そうした状況が休憩を挟んでのモーツァルトのレクイエムでは、出だしのマイヤーらの音楽が全てで、また殆ど最高のモーツァルトのオペラの至極のときの重唱のような素晴らしさに比して、後半の落ち方は激しく、新聞評に拠ればゲネラルプローベで上手く行っていた部分を完全に外して惨憺たる結果となっていた。最後にこの曲を体験したのがヘンゲルブロックの古楽合奏であったことを考えると、今更こうした曲を舞台に乗せてもどうしようもないことは初めから分っていたのである。

流石にレクエムの後半になって席を立つ人は殆どいなかったが、そこに全てが表れているようで、更に指揮者が曲の最後に取ったと思わせるポーズの馬鹿らしさはトマトと生卵に匹敵するものであった。

嘗て、日本の評論家が「アバドが背後からの間髪要れずのブラボーの嵐に目をむいた」と書いたが、まさしくそのポーズの意味は、三回の公開録音録画の残響を保存して編集をし易くするすると言う考慮でしかないのである。それならば同じ詐欺仲間の音楽祭事務局と共闘してプログラムにお願いを書けば良いだけなのである。それをいかにも芸術的な意志と見せかけるところに詐欺師ありなのだ。

そしてそのようなことを全て感じることの出来る感性の高いスイスの聴衆は完全に凍りついた。今まで超一流から実験的な音楽家の演奏会などに数え切れないほど居合わせたが、生まれて初めてあのような雰囲気を体験した。当然のことながら、それが何を語るかは、指揮者や演奏者、主催者などが皆気がついた筈である。主催者が入れた僅かばかりのサクラの拍手がとても白々しかった。

それにしても、良い席で聞いたこの会場の音響効果は今まで体験したものの中でも最高域に達していた。比較的小さめの大ホールとしては、大阪のシムフォニーホ-ルやルートヴィヒスブルクのコンサートホールなどがあるが、専用ホールとして比較にならないほど素晴らしい。



参照:
第八交響曲をキャンセル 2012-05-09 | 文化一般
ほとんどコンサートゴアーの様 2012-04-17 | 文化一般
草臥れ果てた一日の成果 2012-08-09 | 生活
ロビーや市民感情を乗り越えて 2012-08-11 | 文化一般

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