Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

イドメネオ検閲の生贄

2006-09-29 | 
「気がふれたか、断じて受け入れられん。」がワシントン訪問中のドイツ連邦共和国内務大臣ショイブレ博士の第一声だったようだ。ドイツオペラベルリンで再上演される予定だったオペラセリア「イドメネオ」は、モーツァルトイヤー最大のオペライヴェントとなった。

プリミエールで評価の高かったハンツ・ノイエンフェルツの演出は、今シーズン11月に再演されることが決っていた。それが、モスリムの予期不可な攻撃を恐れて、上演中止となった。劇場長キルスティン・ヘルムスは、テロ攻撃を恐れて、演出の修正を演出家に申し入れたがならず、警察や警備当局の憂慮を受け入れて自主規制の検閲として中止に踏み切った。この旧西ベルリンの劇場にしては、珍しく多数の報道陣が詰め掛けたようだ。

この女性の決断を聞いた、自ら銃撃により下半身不随となった保守政治家の反応が冒頭の言葉である。特にCSU&CDUの保守系政治家の批判は痛烈である。左派党が「決断は理解できる」としたのに対し、SPDは起こりうる脅しに前もって跪くようで受け入れられないとしている。

さて問題の演出では、オペラの後で態々タイトルロールのイデメネオが登場して、仏陀、キリスト、モハメッドとネプチューンの首を血みどろになりながら切り取る。2003年3月のプリミエー会場ではブーイングが凄かったが、評価は高かったようだ。なぜならば、フランス風オペラにイタリア語の歌詞をつけたモーツァルトの音楽と自らも関与した台本はフランス革命の無神論が基礎になっていると言うコンセプトがくっきり見て取れたからのようである。因みにシラーの「盗賊」と同年の作品である。

クレタ王イドメネオが嵐に遭い、最初に出合った人間を生贄にするとして海神ネプチューンに無事な帰還を許されたが、島で出合ったのは自らの息子イダマンテであった。生贄になるまでは世界は荒れ続ける。イデメネオのみが理由を知っている。モーツァルトとしては始めて作家と共同して真剣に取り組んだ台本で、修正を重ねながら晩年も「大オペラ」と呼んで熱心に上演をしている。ミュンヘンに移ったカールデオドール候の依頼でキュヴェリエ劇場で1880年に上演されている。

このオペラの素晴らしさは、そうした時代背景があるからこそ、観衆を挑発するような態度はある程度認められるとしても、けっしてそうした演出に顕在するのでは無く人間描写の音楽的充実に内在しなければいけない。演出家自身も、現在の社会情勢ならば、違った演出をしただろうと言うが、これはこの数年の時の流れを考えれば、つまらない言い訳で、こうした演出をする資格があるのかどうか疑わしい。

該当の演出の価値がモハメッドのカリカルチャー程度とは思わないが、すくなくとも辞任したこの 女 性 支 配 人 にとってはそれほどの価値しかなかったのであろう。それならばなぜその程度の価値の演出を再演する必要があったのだ。こうした人間が文化マネージメントをしているオペラと言うものは、今更社会の税金で賄われるべきものでは無い。

ショイブレ博士が「ドイツのモスレム」に呼びかけるように、モスリムがこの舞台を観て何かを得るものでなければ何の価値も無い。今更、切り取られた神のを並べてどうする。現在のドイツにはそうした偉大な芸術文化は存在しないと皆が認める。

大フリードリッヒ王が言った、「モスリムを受け入れよう。我々の法に準拠する限り、モスクも作ってあげよう。」とする啓蒙主義の寛容精神が繰り返される。

世界メディアや安物メディアが言うような「表現の自由」云々の問題では決して無いのである。必要なのは表現なのである。モーツァルトイヤーなどと宣のがおこがましい。(人身御供の啓蒙主義 [ 音 ] / 2006-09-30 へと続く)



参照:
教皇の信仰病理学講座 [ 文学・思想 ] / 2006-09-18
皇帝のモハメッド批判 [ 文化一般 ] / 2006-09-16
ネット世界における検閲 [ 雑感 ] / 2006-09-25
政教分離の無為と有為 [ ワールドカップ'06 ] / 2006-07-10
リベラリズムの暴力と無力 [ 歴史・時事 ] / 2004-11-06
キッパ坊やとヒジャブ嬢ちゃん [ 歴史・時事 ] / 2004-11-06
固いものと柔らかいもの [ 文学・思想 ] / 2005-07-27
海の潮は藍より青し [ 文学・思想 ] / 2005-08-28
言葉の意味と響きの束縛 [ 音 ] / 2006-04-15

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2 コメント

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ベルリンドイツオペラ (selbstkochen)
2006-12-19 08:56:39
ご無沙汰してます。

イドメネオ、再演されたようですね。
牽強付会っぽいですが昨今の都知事の件といい、何か違和感を感じます。
上演を中止にする意味がどれほどあったのか、
その程度のものしか作っていなかったと考えていたのか。
税金は大切に…、あ、どちらにも納税していませんが(笑)。


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最大のスキャンダル (pfaelzerwein)
2006-12-19 17:23:05
ニュースか何かでやってましたか?

ご指摘のように、芸術監督とそこまで判断調整出来ないレヴェルの支配人しかいないのですね。支払いも少ないでしょうか。文化マネージメントを学んできた者の就職先としては良くない勤め先なのでしょう。

芸術文化関連で質に拘らなくなれば終わりですね。本年最大のスキャンダルでしょうか。

何時も更新毎に拝見しています。
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