Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

我々が被った受難の二百年

2010-04-04 | 
かなり老けたおばさんが相席をことわりにやって来た。お婆さんと表さずおばさんといったのは、その顔付きの鋭さと自我の強さを感じたからである。その後ろの席にはFAZ執筆のドイツで有名な年配の音楽評論家のおばさんの顔も窺える。

暫らくプログラムを覗きこんでいると、巾着袋を置いて飲みも飲み物を取りに行くと、「見ていてね」と頼まれた。そうこうしていると、受難曲の話となった。要するに、「ヘルヴェッヘの演奏実践はどう思うか?」ということになり、「2002年の演奏での二種類の異質な管弦楽や合唱団のそれはそれなりに効果を挙げていたが、本日はおそらく均質なものになるだろう」と予想を申し上げた。もちろん彼女の言後には、そのときの違和感があり、バート・ホムブルクでの教会での自らも歌えるような体験を対抗軸として語っていた。この対話はお互いに本質的な受難曲オラトリオへの姿勢を意識している事を示しているに他ならなかった。

それならば大バッハのマタイ受難曲への再三手を入れた取り組みは何だったのか?一体、ルターの教会とこれら受難曲との繋がりは何だったのか?我々が、大バッハの芸術として受け止めているそれは一体何なのか?と次々へと疑問が湧き起こるであろう。

奇しくも今回購入したバッハシリーズからの豪勢な装丁のCDには、それが当日の演奏会の音楽監督であるヘルヴェック氏によって詳しく触れられている。その基本的な考え方は、このBLOGにおいてバッハを語る時の私の立場と全く違わないだけでなく、同様の例示が述べられている。そしてその具体例として、音楽と詞の繰り返された学問上の論争が挙げられている。

つまり1606年のブルマイスター論文と1784年のシューバルトのその期間になされた、数学者マラン・メルセンヌの「宇宙のハーモニー」(1626)、アタナシウス・キルヒャーの「宇宙のムズリギア」(1650)、ヨハン・マッテゾンの「楽士長の御手本」(1739)、クヴァンツの「フルート奏法の指導試案」(1752)が修めたことである。それら貴重な議論がシュヴァイツァーやアンドレ・ピローは愚か二十世紀初頭のフィリップ・スピッタの「バッハとシュッツにおける受難曲」にすら全く活かされておらず、あまりにも叙述法の議論を無視した多感様式・ロココ様式からロマン派を経た、メンデルスゾーンやブラームスによるバッハへの視点から解放されるのは、アントン・ヴェーベルンなどのセマンティックな解釈を待たなければならなかったことで、音楽学上もそれに準じている事を示している。

要するに、ポリフォニー音楽がモノディーヘと進み通奏低音などのベースによってそれが恰も絵画のように(背景との)パースぺクティヴを持ち得たのは、トリエント会議においてそれまでのゴシック様式の厳しい多声音楽が、ジョスカン・デ・プレなどの活き活きとした音楽として人々を惹き付ける効果が要請されたためだとする。そうした社会的背景には、宗教改革によって危機感を募らせ ― そこに先に挙げたスペインのハプスブルク家やイエズス会の反動的な運動があり ―、それは音楽芸術ではラッソーなどに代表されるが、逆説的にプロテスタント陣営においてもシュッツやブクステーデを通して大きくバッハにもその影響を与えるとするのは先の記事で私見を述べた通りである。この指導的な音楽家が知識人でもある事はこれを読めば明らかだ。

更にその議論を、18世紀の知識人でもあったバッハが当時の重要な教養であったキセロやクインティリアヌスの叙述術を研究していた事実からその本題に入って行く。しかしその前提としてこの指揮者は、「バロック芸術は、後の二百年間に及ぶエポックとは異なって、あくまでも客観的な感情表現であって、主観的な感性とかなにかを表現するのではなく、そうした感覚的な表現によって聴者を挑発して、覚醒する客観性を意図している」と定義している。(続く)



参照:
復古調の嘆き節の野暮ったさ 2010-03-30 | 文化一般
保存資料の感情移入する名技性 2010-01-19 | 雑感
目の鱗を落とす下手褒め 2008-10-07 | マスメディア批評
個性が塗り潰された音響 2008-10-03 | 音
強靭で灰汁の強い宣教 2007-01-16 | 生活
尋常ならない拘りの音 2009-01-14 | マスメディア批評
2005年シラー・イヤーに寄せて 2005-01-17 | 文学・思想
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