亡くなったダブルチャンピオン

2007-03-31 00:00:53 | しょうぎ
3月26日、達正光六段が逝去された。41歳。心不全ということで、色々、憶測があるようだが、文字通り、心臓疾患で自宅で急逝されたようだ。最近は、プロ棋士の傍ら、父親の会社を手伝っていたと聞く。また、体調があまりよくなかったという話もあるようだ。1984年にプロ四段となり、23年間の通算成績が347勝377敗と若干負け越しているが、それは、羽生、谷川といった超強豪たちが多くの勝星を持っていってしまうため、普通の棋士は少し負け越しになっていくということだ。

棋士の寿命ということを少し考えてみたのだが、本当はよくわからない。統計母数が少なすぎるのと、過去に亡くなった棋士の平均値を出しても、存命中の高齢の退役棋士とか、どうやって平均値を出すのかよくわからないからだ。

しかし、一般的に言えば、プロ棋士というのは、不健康な生活に陥りやすく、病気になりやすいものである。直近では、将棋連盟の森下卓九段が腸捻転で入院したり、詰将棋王でもある宮田敦史五段が胃潰瘍で長期治療中だったり、女流でも坂東香菜子さんが気胸で苦しんだり、やや罹病率が高いような気がしている。

棋士が不健康になる生活的理由にはことかかないが、まず、運動不足。それも日常的であり、さらに対局中にはもっと体は固まっているわけだ。そして、不規則。対局は週に1回あるかないかで、その時は朝から夜までだ。順位戦以外は夕食休憩がないから空腹でも指し続けることもある。そして、普段はなじみの道場に稽古にいったり、オンラインで入手したプロ棋士の棋譜で研究。ついつい、酒を飲んだり、ギャンブルにも手を出す。

そして、何と言っても最大の不健康リスク要因は「ストレス」と思われる。プロは勝ち負けで自分の給料もポジションもすべて決まる。普通の社会と違って、完全な二極化で、勝負には勝ちか負けしかない。早い話、弱くなって、1勝もできないと、何年か先にはヒドイことになる。もちろん、30歳あたりをピークとして、徐々に弱くなっていくのが普通だ。人生、右肩下がりの所得曲線(いや直線?)になってしまう。

達六段の最後の一局は、3月6日の順位戦C2組の18年度最終局。実は、この一戦で破れ、3勝7敗で降級点(下位から9番目まで)をとっている。勝てば免れたのである。そして、このC2組の降級点というのは、大きなダメージを意味するのである。

今さら、順位戦リーグの降級ルールでもないが、簡単に書くと、リーグは上から、A、B1、B2、C1、C2と五つのクラスがある。上の2つ「AとB1」は総当たり制なので、成績下位の2名が降級し、昇級者に席を譲ることになる。しかし、その下の「B2、C1、C2」の三クラスは人数も多く、総当りではなく抽選で年間10局だけが組まれるため、「降級点制度」というのがある。成績下位になると、降級点1がつくことになる。「B2、C1」においては、累積降級点が2になると降級、一番下の「C2」は降級点3回で降級ということになるのだが、その下にはリーグはないので、「フリークラス」という二度と出られない別ボックスに入ることになる。そして、順位戦に出られないため、収入が激減する仕組みになっている。さらに、このフリークラス制度だが、もっと上のクラスの棋士が自主的にフリークラス宣言すると、最終退職年齢が65歳なのだが、C2クラスから陥落すると、60歳が定年となる。

もう一つ、この降級点制度の特徴は、一度(ある年)、成績が悪くて降級点を取ったとしても、その後リーグで勝ち越し(6勝4敗以上)するか、指し分け(5勝5敗)2回で帳消しにすることができるわけだ。だから、そう悔やむこともないのだが、問題は達六段が所属していたC2リーグなのである。前述したように、このクラスは降級点3回でフリークラスへ陥落なのだが、1回目の降級点というのは、一度取ってしまうと、帳消しにできないルールなのである。棋士間では「イレズミ」と呼ばれているようだ。そして、このイレズミが一本は入ると、若い棋士でも、非常な精神的ダメージを受けるわけだ。つまり、その後、いくら成績がよくても昇級できない場合は、一度病気とか不調に襲われると、容赦なく2回目の降級点が加えられるわけだ。そして、その段階で直ちにフリークラス宣言をすれば、65歳まで「棋士」の肩書きを得られるものの、翌年のリーグが始まってから負け続けると、定年は60歳ということになってしまうわけだ。

さらに、このC2リーグだが、下の奨励会から生きのいい若手が年間4名加わるのだが、C1に昇格できるのは年間3名。強いのが一人ずつ増えていく仕組みだ。どう考えても毎年レベルが上がっていき、年配者に厳しい計算になるわけだ。

世は「再チャレンジ」の時代。少なくても、C2の最初の降級点のイレズミも帳消しにできるルール改正くらいは必要なのではないだろうか。

ところで、達六段は小学生名人戦と中学生名人戦の二つの大会で優勝している。そういう過去のプライドというのも重荷になるのだろうと思ってしまう。それぞれの大会の優勝者の多く(羽生さんや渡辺明さんなど)はプロになっているのだが、この小・中両方のタイトルホルダーは過去に3名しかいない。

二人目は清水上徹さん。その後、高校・大学・そして現在は田町にシャトル型の本社をもつ電機会社に就職。数々のアマチュアタイトルのコレクターである。同じ系列の瀬川さんはプロになったが、清水上さんはその道は狙わないのではないだろうか。

そして、三人目が島村健一さん。奨励会二段で退会。目標が今ひとつ明確ではないが再チャレンジ中なのだが、そのターゲットの一つは、プロ棋士のようである。彼もストレスの塊のように思える。

それで、これを書いている私だが、特にストレスはないのだが、詰将棋に凝りはじめると、どうしても運動不足になる。たまには、難攻不落の山間の古城跡めぐりとかしなければならないわけだ。


342db9c9.jpgさて、前々週3月17日出題の実戦型問題の解答。

▲3二竜 △同玉 ▲4四桂 △同銀 ▲4三銀 △同香 ▲4二金 △2二玉 ▲4四馬 △同香 ▲3二金打 △1二玉 ▲1三香 △同玉 ▲2二銀 △1二玉 ▲1三香 △同桂 ▲2一銀不成まで19手詰

竜を切った段階では持ち駒があふれる様にあるのだが、景気よく捨てていくと、一見、カナ駒がなくなっていく。手元になぜか香車が二枚残るが、きわめてつまらない用途に使うことになる。それなら香ではなく歩が二枚でもいいではないかと思うが、それが詰将棋というものだ。


342db9c9.jpg今週の問題は、きわめてきわめて教科書的な手筋を繋げて作ったもの。ショートプログラムというところだ。技術点重視。こういう論理的な作は、たいてい同一作や類似作があるもの。やはり詰将棋は入玉、双玉、合駒選択問題というような技が、三つ以上決まらないと、感動を得られないかもしれない。

解けたと思われた方は、最終手と手数、酷評などをコメント欄に記入されれば、正誤判断。


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