体は全部知っている(吉本ばなな著)

2020-12-28 00:00:03 | 書評
13編の短編集。著者以外には書けない短編。題材がいかにもユニークで、文体が軽いわりにディープなことが書かれる。



その多くが長編にした方がいいのではないだろうかという思いにさせられる。

会社の生き地蔵のようなおっちゃんのことを書いた『田所さん』。アロエを栽培しているうちに立派になりすぎて、切るに切れなくなり、何か霊的なものを感じてしまう『みどりのゆび』がいい。

何といっても『いいかげん』。喫茶店に行って預金通帳を開いて、女性店員に巨額の残高を見えるようにする、通称「通帳おじさん」のこと。深い理由があるわけでもなさそうだ。もしかした紀州のドンファン的?

著者は少しだけ風変わりな人物を造形するのが得意だが、ごく最近の日本や世界の状況は、そういう風変わりな人間が、小説の中と同じようにたくさん実在していることなのだろう。

何か小説書きにくい時代になってきたのかなと思っている。