マイ・バック・ページ(2011年 映画)

2017-04-04 00:00:35 | 映画・演劇・Video
原作は、川本三郎氏の自伝的ドキュメンタリー『マイ・バック・ページ』。1971年に無名の過激派組織「赤衛軍」に所属する人物が中心になり決行した自衛隊朝霞基地襲撃事件(自衛官1名死亡)に巻き込まれていった朝日新聞記者の記録である。記者は川本氏自身である。

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実は、相当以前に本は読んでいた。読みにくい本である。構成は、一冊の前半部は事件とは直接関係ない朝日新聞社内部のジャーナルと社会部の対立とか、自分の取材で、色々な記事を書いたこと、週刊朝日の表紙を1年以上連続でカバーしていた女子高生モデルの話などで、なんとなく、ワシントンポストとかNYタイムズの「正統派ジャーナリスト」とは違う人物像が描かれ、危なっかしい感じが漂っている。

そして、後半だが、新左翼に好意的だった朝日新聞が徐々に距離を置き始めた結果、川本氏が取り残されるように過激派からとりこまれていき、結果は殺人犯を隠したり、証拠を預かり隠滅したりして逮捕され、結局、多くの同僚にも迷惑をかけた結果、クビになるわけだ。氏は逮捕された人物が、殺人犯ではなく思想犯と主張するのだが、そもそも勘違いだろうとしか思えない。その当時でも、少なくとも過激思想だけでは逮捕されず、一歩踏み出して、銃を強奪するために自衛隊を襲撃したのだから犯罪者となり、人が死んだから殺人者となったわけだし、たとえ1丁の銃を強奪しても革命には程遠い。(別に私が右翼主義者というわけではまったくないが)

人が死んだ事件を、襲撃した側の仲間が他人事みたいに書くことがしっくりしないわけだ。

で、その問題の書が映画化されるのだが、映画の中には川本氏(劇中名は沢田)の役を妻夫木聡が演じるのだが、よく考えると、原作は川本氏の視点(主観)で書かれているのだが、映画の脚本では、妻夫木聡は役の一人であるにすぎない。客観的に時代を映したということのように見える。したがって、妻夫木聡は、その煮え切れなく優柔不断で、ジャーナリストになりきれない男を巧みに演じるわけだ。

原作は、前半と後半と別々になっているのだが、映画では時間の流れに合わせて、その二つが結合されていて、女子高生と映画を観に行ったりアジトに潜入したりするわけで、そういう構成であるのも、全体を柔らかくする効果があったのだろう。

結果として、視点が異なるからか、原作ほど気持ちがざわつくことはない。といって、悲劇でもなく喜劇でもなく、不思議な映画と言える。そういえば、現実の1970年代の初めといえば、色々な闘争が激化し、何も結論が出ないうちに時代が変わっていくことになる。