読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

凪良ゆうの『流浪の月』

2022年04月29日 | 読書

◇ 『流浪の月』 

  著者:凪良 ゆう     2019.8 東京創元社 刊  



大好きだった父を病で亡くし、奔放な母は男と出奔した。叔母の家で「厄介者」として
窮屈な生活を送っていた家内更紗は、公園で子供らから「ロリコン」と噂されていた大
学生佐伯文に「うちに来る?」と誘われ「いく」と言ってついていった。夜になると勝手
に部屋を開ける中2の叔母の息子孝明から逃れたい気持ちでいっぱいだった。
このとき文は19歳。更紗は9歳。

 突然消えた更紗は叔母に家出捜索願を出されTVに顔写真が出た。ネットであること
ないことが氾濫する。
 何か月か経って、更紗がパンダが見たいと言って、物園に行った。そこで二人を見た
人たちに警察に通報され文は逮捕され、更沙は児童保護施設に保護された。

 これからは主として更沙の話である。
それから15年後。施設を出た更沙は仕事も得て独り暮らしをしているが、15年前の事
件はほぼ皆知っており、誘拐犯の文と被害少女の更紗という図式で語られており、文
は単にやさしい人であって、いやらしい孝明から逃れて
自分の居場所を求めていた更紗が自分の意思で文に着いていっただけというの事実を、世間の誰も理解してくれないことにいつもじれったい思いで暮らしている。

 そんなある日職場の友人に連れていかれたオープンカフェでマスターの文に出会う。
それ以降更沙の文への執着はどんどん度合いを強め、付き合っていた亮という彼氏との関係も歪んでいく。嫉妬のあげく暴力をふるう亮は警察沙汰に、文の彼女である谷という女性も更紗と文の関係を疑い、ストーカーとして警察に訴える騒ぎまで起こす。

ここで文の話が入る。
 出来のいい兄と比べ男子として生育が順調でなかった文。第二次性徴が来ないまま大きくなった男の子だった。事件後家族から一段と疎外された扱いを受ける中で、与えられた資金でカフェを営んだ。
そこにまた更紗が現れた。そんな二人の姿を写真に撮りネットに載せて拡散させる事件追跡マニアの執拗な攻撃がくりかえされる。

 女児誘拐犯とその被害者という世間が理解しやすい図式でしか分かろうとしない人々。お互いつらい家族関係の末に、自然の成り行きで一緒にいると安らぐので傍にいたいという気持ちを共有した文と更紗という二人の男女。二人の間には普通の男女間の恋愛感情はない。もちろん性交渉への期待や結婚願望もない。世間のパターンとは違う世界で生きようとしているだけである。それがなぜ許されないのかという不条理を問う物語である。
                               (以上この項終わり)

 

 
 

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春の野菜タケノコなどを描く

2022年04月27日 | 水彩画

◇ 春野菜・タケノコなど

  

      clester   F4
  先週の水彩画教室では春の野菜を描こうということで、ほぼ定番の筍と山ウド、アスパラガス、フキ
などを描きました。エリンギやシメジなどは工場栽培なので春以外の季節でも出回っています。
 タケノコは切り口が新鮮でなく、根っこの予備軍ともいうべき紫色のいぼいぼが切り取られているの
が難点でした。
 フキの葉は描いていううちにしおれてきて、葉脈も定かでなくなってきました。もっと丁寧に描かない
とリアルさに欠けると反省しました。
  シメジの下にある葉は山椒の若葉です。
                                           (以上この項終わり)

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伊岡 瞬の『悪寒』

2022年04月21日 | 読書

◇『悪寒

   著者:伊岡 瞬   2019.8 集英社 刊 (集英社文庫)

 

 山形の系列子会社営業所に飛ばされて、初めての営業仕事に悪戦苦闘して
いる男が現れて、東京に残した妻子の今を思っているシーンで、ありきたり
のサラリーマン小説かと思ったが、違った。

 大手製薬会社の社内権力抗争に巻き込まれた藤井賢一。組織上専務派と目
されていたのに対立する常務から贈賄事件の実行者として責任を問われ、系
列会社の営業所に出向という形で左遷された。

 田舎町での配置薬販売の営業仕事に嫌気がさしていた藤井は突然非日常の
世界に放り込まれる。
 ある夜妻の倫子から脈絡のない不審なメールを受ける。心配になって練馬
区の自宅に帰るが、バスの中で倫子の妹優子から妻倫子が自宅で殺人を犯し
たという話を聞かされる。しかもその被害者が常務の南田隆司だという。一
体何が起こったのか。しかも常務がなぜ妻と一緒にいたのか。

 警察の執拗な取り調べが続く。警察の疑念は賢一の殺人教唆である。山形
の営業所に飛ばしたが南田隆司だから。
 ところが娘の香純が意外なことを口にする。
 「母は南田隆司に妊娠させれれていた」
 賢一にとっては測り知れないショックである。
   妻が起こした殺人事件。しかも妻の不倫・妊娠・堕胎…。

 裁判が始まった。そこから
次々と意外な事実が明らかになる。
さて真相は。

 これではサリーマン小説どころか完璧にサスペンスである。実際ありそう
な状況設定なので「中年男の鈍感さ」を含め結構リアリティがあって読者を
惹きつけてやまない筋書きである。                    
                       (以上この項終わり)
 

 

 
 
 

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新川 帆立の『元彼の遺言状』

2022年04月11日 | 読書

◇『元彼の遺言状

  著者:新川 帆立   2021.1 宝島社 刊

   

  このミステリーがすごい大賞受賞作「三つ前の彼」を加筆・集正した作品。
強烈にキャラが立つ女性弁護士が主役で、しぶとさあり、あざとさあり、やや
攻撃タイプだが結構優しいところもあってハードボイルド女性版と言ってよい。
企業法務弁護士らしいアイディアで複雑な社内関係、人間関係を捌いていくと
ころが見もの。

    著名な渉外系弁護士事務所で弁護士をしている剣持麗子28歳。事務所創設者
に「ボーナスが少ない!」と啖呵を切って、辞めてやると息巻いて休んでいる
ところに仕事が舞い込んできた。
 元彼の森川栄治が亡くなった。大会社の御曹司で巨額の遺産について変わっ
た遺言状を書いていたということで、栄治と交友があった篠田から相談を持ち
掛けられた。
 ちょっと調べてみると栄治の資産は300億円、その半分を成功報酬としても
らうとなると150億円の仕事。俄然意欲がわいてくる。
 
 ところがこの遺言状が変わっていた。
第一の遺言状。
 僕の財産は、僕を殺した犯人に譲る。犯人の特定は別途定める3人の審判員
の合意による。3か月以内に犯人を特定できない場合は、遺産は全て国庫に帰属
させる。僕が何者かの作為によらず死に至った場合も、遺産は全て国庫に帰属
させる。

そして第二の遺言状。
 それは「僕を支えてくれた人たち」と栄治が思っている人たちへの遺贈であ
る。森川一族のおじさんなど。そして小・中・高・大学の先生や、ゼミ、クラ
ブの人たち、僕の元カノたち(わずか3か月であったが、付き合いがあった麗
子もこの元彼女のリストに上がっていた)美容師、愛犬の主治医、ブリーダー
などにそれぞれ特定の土地・別荘などを遺贈する。

 栄治の死因がインフルエンザであることを死亡診断書で確認した麗子は篠田
の代理人として森川家に乗り込み、インフルエンザにかかっているにもかかわ
らず栄治誕生パーティで彼と会食し感染・死亡させた篠田は殺人実行犯である
と主張し、まんまと犯人候補者筆頭に収まった。
  しかし事はそうすんなりとはいかない。
 森川製薬の開発課長である栄治のいとこが新薬開発のために組んだベンチャ
ー企業と共同で創薬したマッスルマスターゼットというシニア向け筋肉補助薬
の行方を巡って暴力団が関与していることが明らかになったり、村山という栄
治の顧問弁護士が殺されたり、事態は混迷の度を強めていくのであるが、警官
相手に大立ち回りをやったあげく結局警察の拘束される事態を迎えることに。

 一度は対立関係に陥った所属事務所大御所に弁護を依頼し、無事娑婆に出て
事案をうまく収めることができた。弁護料は一銭も入らなかったけれども。

 女性弁護士剣持麗子のキャラは貴重なのでぜひシリーズ化して欲しい。

                        (以上この項終わり)
 
 


 

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今野敏の『キンモクセイ』

2022年04月07日 | 読書

◇ 『キンモクセイ

   著者:今野 敏   2018.12      朝日新聞出版 刊

   

    今野敏のお得意分野警察小説である。本の帯には本格的「警察インテリジェンス小説」
とする。
 警察インテリジェンスとしたのは、主人公である警察庁キャリアの隼瀬順平がある事件
の処理と推移に不審を抱いたことに端を発した日米の情報機関連携の闇を扱っているから
である。

 法務省の官僚が射殺され、犯人は白人の外国人と目されたが、アメリカ人かロシア人か。
警察庁警備企画室の課長補佐である隼瀬は上司からチームを組んで対応しろと命じられる。
公安の元締めを任じる警備企画室としては警視庁公安部外事1課、同3課から情報入手し
ようと待ち構えていた矢先、警視庁の捜査本部縮小、外事1と3課が事件から降りたこと
を知り、この事件はただ事ではないと直感する。同じ課の課長補佐水木も同じ感触を示し
た。

 隼瀬はキャリアではあるが主流の東大法学部と異なり私学出身のため、出世にはあまり
関心はない。同時期に国家公務員第1種試験に合格し各国家機関に採用された私学出身者
が寄り集まって情報交換などする「土曜会」で自身の不審感を持ち出すが、メンバーの5
人それぞれが関心を示し、互いに情報収集を約す。警察庁隼瀬のほか外務省、防衛省、厚
労省、経産省のそれぞれ課長補佐クラスである。   
 法務省幹部は死の前に「キンモクセイ」という言葉を口にしていた。何かのコードネー
ムか。

 そうこうするうちに隼瀬が情報入手を依頼した2年後輩の警視庁刑事局刑事企画課の岸
本警視が自殺した。他殺の疑いがある。「土曜会」メンバーらの情報などから「キンモク
セイ」というコードネームが広汎な盗聴・傍受システムの構築を意味し、事は日米安保条
約、日米合同委員会、国家安全保障会議、特定秘密保護法、改正組織犯罪処罰法、アメリ
カ国家安全保障局(NSA)などに及ぶきなくさい背景が浮かんできた。
 業務外の事件に深く関わっていくことに罪悪感を持ちながらも「国家公務員の職務は国
家ではなく国民のために」を胸に新聞記者、政治家などの手を借りながら真相に迫る。
 全般はスピードはのろいが、次第にTV の「逃亡者」のようなシーンが展開されて面白み
が出てくる。終盤でちょっとドラマチックな場面もある。

 なお余計なことではあるが、この小説の構成上必要があってのことと思うものの、国家
公務員試験は採用資格試験であって、同時期に採用されたキャリアを各省庁毎に私学出身
という属性で調べ出さない限り、「私学出身の同期会」といった密接な関係は生まれる余
地はないと思う。

                          (以上この項終わり)
 
 
  

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