読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

『訴追』

2019年07月28日 | 読書

◇ 『訴追』(原題:the prosecution)

    著者:D・W・バッファ (D・W・Buffa)  2001.7 文芸春秋社 刊
 

  

    アメリカの法廷もの(リリーガル・サスペンス)が好きでよく読む。だがD・W・バッファは
初めてだった。法廷での検察側・弁護側の対決と裁判官の法廷指揮などのやり取りが楽しい。論
理的で明快で、法的妥当性を巡る彼らの応酬が魅力だからである。

 シリーズ物ということであるが、本作は第2作目(第1作目は『弁護』)、第三作目は『審判』。
本作は法廷場面の魅力はもちろん、対象の審判事件そのものも魅力的である。
 主人公はジョゼフ・アントネッリ。ほとんどの被告の無罪を勝ち取る辣腕の刑事弁護士として
名を馳せたが、昨年法曹の師を仰ぐ判事リフキンの裁判で無罪を勝ち取るため、証人に偽証をさ
せるという禁じ手を選択し、その結果被告無罪となったものの判事が自殺するという悲痛な代価
を払う結果となった。結婚を望んでいた秘書のアレグザンドラも去っていった。
 アントネッリは、それを最後に弁護士の仕事から足を洗い法廷から遠ざかっていた。

 それから1年ほどして、友人の判事ホラス・ウルナーから特別検察官としてある事件を扱ってみ
ないかと誘われる。1年ほど前次期地方検事と目されている主席地方検事補グッドウィンの妻が惨
殺された。夫が容疑者として疑われたが証拠がなく未解決事件のままとなっている。ところがこの
ほどロスで殺人の罪で捕まった男が「グッドウィンに妻殺しを頼まれた」と証言し、俄然真相究明
が急務となった。
 立場を変えて被告の有罪を勝ち取る検事になる話に戸惑ったものの、殺人を依頼されたという男
クエンティンから事情聴取をした結果、グッドウィン有罪の可能性が高いと確信、裁判を引き受け
ることにする。なにしろクエンティンからは妻を亡くしたグッドウィンが半年後に結婚した相手地
検の美人検事補クリスティンから、殺しのターゲットの写真と宿泊先の地図を受け取ったという付
録までついていたのだから。

 大陪審で起訴妥当を勝ち取った。いよいよ公判開始。何しろ殺人依頼の書類は「破いて捨てた」
というので、物的証拠がない。また最重要証人のクリスティンは証言を二転三転する。アントネ
ッリは巧みな弁論術で被告の殺人を陪審員に確信させることに成功する。一抹の不安を抱きながら。
(何が不安の因かは本文をご一読ください)。


 不安を残しながらも有罪を勝ち取ったアントネッリに新たな事態が持ち上がる。友人の判事ホリ
スの妻アルマが、自身が所属するバレエ協会の理事長グレイを射殺した容疑で逮捕されたという。
アルマの指紋だけが付いた拳銃が現場に残されていたという。アントネッリは弁護を買って出る。
 アルマはグレイと不倫関係にあったという。アルマは否定するが周辺の関係者間では衆知のこ
とで、夫のホリスもそれを否定しない。アントネッリは頭を抱える。
 しかし事はそんな簡単ではなかった。夫のホリスの証人尋問で「君の犯行ではないのか」と追
求したアントネッリは、激高するホリスの演技で、まんまと策略に引っかかる。(実はホリスに
は厳然としたアリバイがあったことが後で分かった)

 検察側はホリスが自白したとばかりに控訴棄却を申し立て、アルマは自由の身になった。

 アントネッリの弁護士としての仕事はアルマの釈放で終わった。しかしホリス・アルマ夫婦との
友情は戻らなかった。二人は住まいを売り払いニューヨークへ去った。 

 二つの事件の背景には、資産か家柄(金と権力)がある上流階級グループが、事に臨み互いに庇
い合い、嘘をついたり、本当のことを言わなかったりするという、隠然とした階級差別社会の存在
が横たわっている
。                             
                                   (以上この項終わり)

  

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待ちに待った梅干し「土用干し」

2019年07月26日 | ものづくり

梅雨明けはまだなのに「梅干しの土用干し」着手

 今日待ちに待った好天の一日。雲一つない夏空がひろがっています。
 古くからのお客さん(要するに我が娘どものこと)からの強い要望があって、老骨
に鞭打って(慣用句)今年も10キロの梅干しづくりをしました。
 梅は恒例のみなべの南高梅。樹熟ものを注文しようとしたら昨年より2・3千円高く
なっているような気がしました。そこで行きつけの八百屋さんで同種の普通の梅を入
手(8,000円)。箱を開いてみると7割方青梅。3日ほど追い熟させたらころ合いの
熟し加減になりました。

 3人の孫たちにへた取りを手伝ってもらって焼酎で消毒した樽に付け込んだのが6
月23日。 
 梅干しの最も重要なのが塩加減と梅酢の上がり具合。あまり減塩しようとすると
カビなどが生じる。重しが足りないと梅酢が上がらない。
 ということで昨年は15%にした塩分を標準の20%にしました。昔の梅干しは大抵
こんなしょっぱさでした。
 結果としては3日ほどできれいな梅酢が上がってきました。カビも生えませんでし
た。大成功です。

 そして今日、晴れて土用干し。(昨年は7月22日に第1回目の土用干しを行って
います)
 3時ころにまた梅酢の樽に戻して2度目の土用干しを行います。3回はやるつもり
です。(明日あさっては台風来襲とか。次回はいつになるか)


 
 梅干しA組
 
 梅干しB組
 結構良い色合いになっています。今年はしそ葉から作るのはやめて市販の
 梅干し用紫蘇玉を使いました。
                       (以上この項終わり)
 

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小杉健治の『生還』

2019年07月23日 | 読書

◇ 『生還』 
        著者:小杉 健治  2019.4  集英社 刊(集英社文庫)


  

 死んだはずはない。きっと生きている。
 24年前、妻の美沙と二人で訪ねた郡上八幡への途次、気分が悪いとちょっと車から降りた
妻が、Uターンして戻ってきた時には姿がなかった。夫の悠木良二は妻は川に転落したので
はとか誰かに連れ去られたのかとか、警察とともに探し回ったが杳として行方が知れない。
 そのうち警察はあろうことか悠木が妻を殺し、どこかに埋めたのではないかと疑い始め、
執拗に問い詰めるが結局証拠不十分で起訴には至らなかった。

 それから24年。郡上八幡の踊りに憧れていた美沙は生きていればきっと郡上八幡の踊りに
現れるに違いないと毎年ここに通い詰めた。これが物語の発端である。妻はなぜ消えたのか。
 事故にあったのか、自分の意志で夫の元を去ったのか。

 ここに年若い弁護士鶴見京介が登場。悠木のために真実を追い求め奔走する。
悠木は鶴見に述懐する「私はこの24年間死んだように生きてきたのです」
  悠木は昨年郡上踊りで美沙に酷似した智美という若い女性に出会う。顎にほくろがある。
悠木は問う「あなたの母親にもほくろはないでしょうか?」

 鶴見は智美の友人を介し智美の母親を訪ねる。清須市の老舗和菓子店の女主人は佐知子と名乗っ
た。鶴見は悠木に「密かに」ときつく言い聞かせて確認させるのだが…悠木は夫と親しげ
に振舞う佐知子の姿を見て「違います」と断言する(苦し気に)。
 鶴見は悠木反応を見て、佐知子は失踪した美沙でろうと確信する。
 しかし幸せな夫婦だったのになぜ消えたのだろうか。

 そのうち智美に同じような質問をしていたフリーライターの辰巳という男の存在が明らか
になるが、辰巳が刺殺された。犯人は?事態は混沌として来る。

 終段では美沙の失踪に隠された驚愕の真相が明らかになる。だがそれは癌に侵され余命い
くばくもない悠木にとっても美沙や智美にとっても決して悲惨なものではなかった。
 不可解な失踪の真相がなかなか明らかにならずに読者はいらいらするが、なるほどうまく
仕立てたものだと最後は感心する。作者の勝ちである。

                              (以上この項終わり)
 

 

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梓 林太郎の『信州・善光寺殺人事件』

2019年07月18日 | 読書

◇ 『信州・善光寺殺人事件』 

     著者:梓 林太郎  2019.3光文社 刊(カッパノベルズ)

 

 この秋に元ボランティア仲間と信州・善光寺や小布施などに旅行することになっている。
 市の図書館の新刊紹介で『信州・善光寺殺人事件』を見つけ早速リクエストし、読んだ。
 山岳スリラーの第一人者とされる著者梓林太郎の作品を読むのは初めて。

 目次の次のページに長野市善光寺周辺の地図が載っている。まだ10代の頃住んでいた桜
枝町、箱清水などの地名を見つけ懐かしくなった。いずれも事件関係者が住んでいたこと
になっている。作品中箱清水にはマンションが建っていることになっているが、あそこは
そんな地形ではない。

 それはさておき、善光寺殺人事件とあるが、善光寺では人は死んでいない。むしろいく
つかの殺人事件の発端となるのは、35年前にあった不可解なある事件があった新潟県三条
市である。そこでは信越線東光寺駅近くで列車事故があり、線路には夥しい血痕がありな
がら何故か怪我人が見つからなかった。

 新潟県三条市の水田で松本在住の戸板紀之の刺殺体が発見され松本署の二人の刑事道原
伝吉と吉村夕輔が派遣される。遺体は確認したのは息子の輝治と弟の力造。その秋に娘の
久留美の恋人青沼が北穂高本谷で転落死したことが分かった。殺人事件の疑いが強い。

 青沼が所属しているコーラスグループの女性若林さやか。その夫竹中正友が愛人の浜本
緑の部屋から帰る途中轢き逃げされて重傷を負った。竹中は浜本緑から聞いた三条市の列
車事故に興味を示し、何度も現場に出かけ怪我人の聞き込みをしていた。

 時の首相が善光寺を参詣する際、警備に当たった機動隊員の警官有本静男がトイレに拳
銃を置き忘れ紛失した。
 実は有本は上田市の不良グループに巧みに取り込まれ、わざと拳銃を忘れるように指示
されのだ。有本は警察を辞め行方をくらます。 

 浜本緑は竹中と別れた後、木工所に努める石曾根正一と結婚し石曾根緑となり女児を
産んだ。
 ある日善光寺参道を歩いていた浜本緑は背後から拳銃で撃たれる。一命はとりとめた。
現場に残された拳銃は置き引きされた拳銃だった。

 浜本緑の夫石曾根も妻の緑から聞いた三条・東光寺の列車事故に興味を示し、3・4回
現場に出かけている。

  一方捜査で訪れた上田市では米国の宝くじで巨万の富を得た家で女児が誘拐された事件
があったことを知り、そこにも不良グループが関与し、有本も彼らに囚われているはず
と確信する。

 このように松本署の刑事は戸板紀之の殺人事件捜査の過程で浮かび上がった関係者を
愚直に手繰っていくうちに、いくつもの不審な出来事に出会い結局深層に横たわる事件
の真相にたどり着くという筋書きである。

  結末は読んでのお楽しみであるが、話を広げすぎて複雑な組み立てになってしまい読
者はやや疲れる。竹中や石曾根は関係もない三条市の列車事故になぜこんなに入れ込ん
だのか、また線路にそんなことで夥しい血痕が飛び散るのかなど不自然なことも多い。
                              (以上この項終わり)





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水彩画「お台場からのレインボーブリッジ」手直し

2019年07月17日 | 水彩画

◇『お台場からのレインボーブリッジ』に手を入れる

   
  
    clester F10

  
    clester F10  (修正前)


  先日描いたお台場からのレインボーブリッジの絵がどうにも締まらないと、気になって
 仕方がなかったので手を入れた。
  ブリッジを浮き上がらせるために背景となっている建物群の色をきつくした。そして背
 景にある東京タワーに薄い赤色を入れた。また島の木立にメリハリをつけた。
   海面と船の映り込みを若干修正した。
  少し完成度が高まったと思う。

(                              以上この項終わり)

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