読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

今村夏子の『むらさきのスカートの女』

2020年07月28日 | 読書

◇『むらさきのスカートの女

  著者:今村 夏子      2019.6 朝日新聞出版 刊 



第161回芥川賞受賞作品。
 平易な文章で、取り立てて込み入ったストーリでもないのですらすらと読める。
ただ芥川賞候補に二度のぼり、三度目に受賞した作品なのでそれなりに高い評価
を得たと思うのだが、格別の新鮮さは感じられない。ただ語り手と観察対象であ
る「むらさきのスカートの女」と、どちらが主役なのか判然としないほど両者が
密着している構成が面白い。
 
 同じ町内に住む「むらさきのスカートをはいた女」が気になって、友人になり
たいと思う女(わたし=黄色いカーディガンの女)が、ほとんど四六時中、まる
で透明人間か背後霊であるかのように彼女にまとわりついてその日常を観察し、
次第に普通の女に変身(変質)していく姿を報告するのである。

 「むらさきのスカートをはいた女」は本名=日野まゆ子というのであるが、彼
女と友達になりたくて、同じ職場で働けるように求人情報誌に工作をして自分の
働く隣町のホテルに誘導する。
 内気で職場での自己紹介もろくにできなかった「むらさきの…」がトレーニン
グに励み、次第に変身を遂げて、あろうことかホテル清掃スタッフの所長と特別
の関係を結ぶに至る。
 その揚句、痴話げんかの末に所長が彼女のアパートの二階の手すりから転落し
死亡(?)する。・・・

 とにかく終盤の展開が秀抜である。

                         (以上この項終わり)

 

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藤原伊織『テロリストのパラソル』

2020年07月26日 | 読書

◇『テロリストのパラソル

               著者:藤原 伊織    1998.7 講談社 刊(講談社文庫)

  

 第41回江戸川乱歩賞と第114回直木賞の史上初のダブル受賞となったサスペンス
の傑作。
 読み終えての感想といえば、久しぶりに密度の高いハードボイルド、しかも和製
のそれに出会えたという感動である。何しろ主人公はもとより、登場者の人物造形
が見事である。物事の感じ方、しぐさ、会話、身なりなど、まざまざとその人とな
りを想像させるのである。
 そして緻密に構築されたストーリーの展開である。何気なく語られた過去と現在
の事象のピースが最終章でみごとに収まる。まことに憎らしいほどの手口で読者を
翻弄する。

 冒頭のプロローグは新宿中央公園での爆弾事件。死傷者50人以上。そこに居合わ
せたアル中の中年男島村圭介が本書の主人公である。新宿の片隅にある小さなバー
でバーテンダーをしている。彼は偶然爆弾事件に遭遇し、爆発時急ぎ足で駆け去る
不審な男、かつて3か月ほど同棲したことがある女園堂優子、子供連れの中年男性
(新聞で警察庁公安第一課長であったことを知る)、「神と語りませんか」と話し
かけてきた茶髪の若者など、のちに謎解きのピースとなる人物を見る。

 実は島村は本名菊池俊彦。大学紛争時代共に籠城し闘争した3人の仲間がいた。
一人は園堂優子であり、もう一人は桑野誠。桑野は菊池の車に爆発物を乗せたまま
車両事故を起こした。そして身近の警官が死んだ。
 20年前のこの事件では桑野は殺人罪、爆発物取締法違反、菊池は共犯容疑で指名
手配され、桑野はパリに逃げ菊池も身を隠した。
 桑野はすでに時効となっているが、桑野は海外に逃げたことで時効停止になって
いる。

 今回の新宿中央公園爆破事件で桑野の指紋が出た。20年前の車両爆発事件とのか
かわりが注目され、二人に捜査の手が伸びてきた。
 さて菊池こと島村はどうする。
 こののち驚愕の事実が彼の目を奪うことになる。

    テロリストとパラソル。何の脈絡もないように見えるが、本書終盤に差し掛かっ
て、事件解明の重要なキーワードであったことが明らかになる。
 園堂優子が詠んだ短歌。
「殺むるときも かくなさらむかテロリスト 蒼きパラソルくるくる回すよ」
 
 人でなしに変わってしまった桑野、愚直に我が道を守った菊池、秘かな愛を守り
切った園堂、マル暴から本物のやくざとなり、昔ながらの義理を守ろうとする浅井、
父親の復讐を誓いながら1億円に転んでしまった望月等々、多様な立場の人々の人間
模様が事件の複雑さを物語る。
 本書解説者関口苑生は(本書は)精神的外傷を負った人たちのドラマが基盤にな
っているといってよい。と言っている。
                         (以上この項終わり)

 

 
 

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家庭菜園でトマトの栽培日記(その7)

2020年07月21日 | 畑の作物

 今年のトマトはピークアウト

  

  これが我がキッチンガーデンのトマトの現状です。
  木の下葉は黄色く枯れてきました。
  赤く色付いているのは第3果、第5果はピンポン大でこれ以上実は生ら
 ないでしょう。ご近所にお分けした昨年とは大違いです。
  あとは今あるものが赤くなるのを待つだけ。

  今年は木の徒長で着果が間延びしていました。雨が多く、成長に欠かせ
 ない温度より低い気温が続きました。いまだに梅雨が明けず、雨続きの時
 は一時畝間の溝は即成の池状になっていました。

  今年のトマトはこれがピークです。
  来年は頑張りましょう。

                      (以上この項終わり)

 
 

  

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インドリダソンの『声』

2020年07月18日 | 読書

◇ 『』(原題:RODDIN)
   著者:アーナルデュル・インドリダソン(ARNAIXUR INDRIDASON)
           訳者:柳沢 由美子     2018.1 東京創元社刊(創元推理文庫)

  
   
  作者はアイスランド生まれ。作品の舞台もアイスランドである。アイスランドは
 北海道より少し広いくらいの北国。人口は38万人と新宿区ほどの小国である。
  首都レイキャビックの警察署の犯罪捜査官エーレンデュルを主役とするシリーズ
 第3作目『湿地』と大4作目の『緑衣の女』でガラスの鍵賞(北欧ミステリー賞)
 を受賞した。

  メインの犯罪捜査はあるホテルの地下室で起きた殺人事件であるが、並行して家
 庭内虐待が疑われる事件にも取り組んでいる。そして重層低音のように重苦しく流
 れているエーレンデュル自身が抱える少年時代のトラウマ。さらには25年前の離
 婚と子供たちとの交流の遮断。これらが巧妙に織り紡がれて飽きさせない。

  シリーズものだけに、こうした刑事の家庭事情を取り上げることも結構大事だし、
 とりわけ今回は常にいがみ合っている娘のエヴァ=リンドが捜査の一端を担い、お
 かげでいつもは一人っきりのクリスマスなのに娘とX'masを祝おうという気持ちに
 なるきっかけとなった。
  ここでは殺人事件被害者グドロイグルと父と姉、捜査官エーレンデュルの父と弟
 そして娘のエヴァという二つの家族のそれぞれ抱えてきた複雑な過去が重要なテー
 マとなっているようである。

  レイキャヴィックでは知られたホテルのドアマンをしていた男がサンタクロース
 の衣装のままナイフで刺し殺される事件が起きた。性的接触が疑われる状態であり、
 ホテル側がひた隠す高級娼婦の斡旋、麻薬取引の疑いなどを念頭に捜査を進められ
 るが、捜査が進むにつれて被害者グドロイグルの少年時代、ボーイソプラノの名手
 として活躍し、世界の羽ばたこうとした矢先、大事なコンサートで声変わりに見舞
 われ、悲劇のどん底を味わったことが分かった。12歳の時のことである。

  グドロイグルの父は息子を自分の手で創造する芸術作品のような存在としてみて
 いたので声変わりしただの人になった息子にすっかり失望、二人は険悪の関係にな
 っていった。そしてある日グドロイグルは階段から父を突き落とし父親は半身不随
 の体になる。以後長女のステファニアが父を見ることになった。資質に恵まれ大事
 にされる弟と才能もなく脇に追いやられた姉の心境が一つの鍵になる。

  グドロイグルは”天使の声”と呼ばれ、レコードを2枚出した。そのレコードは希
 少な盤として蒐集家の垂涎の的となっている。これも事件の重要な鍵の一つである。
 ホテルには希少SPレコード収集家が泊まっていた。
  エーレンデュルという犯罪捜査官は証拠や犯罪事実よりも被害者やその関係者な
 どの過去を細かく探り出し真因に迫るというタイプのようである。一見伏線のよう
 に見えることが次々と回収され、最終的に意外な犯人指摘に驚く結果になる。
  とりわけグドロイグルが25歳ころ自身がゲイであることに気付いていたことが分
 かったことで事件の様相が変わっていくことになる。
 
  途中エーレンデュルの前ににヴァルゲルデュルという病理学研究所助手の女性が
 現れた。先々親しい間柄になるかもしれない。娘のエヴァが父親が女性と話をして
 いるだけで「あんた誰?」とかみついていくところが面白い。 
                           (以上この項終わり) 
  

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水彩でハイビスカスを描く

2020年07月14日 | 水彩画

2月以来の水彩画教室を再開

  
     clester  F6(中目)

  今年2月下旬以来ほぼ5か月ぶりに水彩画教室を再開しました。メンバーは
 講師の先生をはじめ、ほぼ全員参加でした。
  対象は花。夏ということでハイビスカスとガーベラ。
  私はハイビスカスを選びました。
  一度鉢植えで育てたことがありましたが、結構丈夫でしたたかです。
 華やかな花弁はカサブランカほどではありませんが、結構存在感があります。
 葉は熱帯の植物らしく厚手で濃緑色です。

                       (以上この項終わり)

 

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