◇『むらさきのスカートの女』
著者:今村 夏子 2019.6 朝日新聞出版 刊
第161回芥川賞受賞作品。
平易な文章で、取り立てて込み入ったストーリでもないのですらすらと読める。
ただ芥川賞候補に二度のぼり、三度目に受賞した作品なのでそれなりに高い評価
を得たと思うのだが、格別の新鮮さは感じられない。ただ語り手と観察対象であ
る「むらさきのスカートの女」と、どちらが主役なのか判然としないほど両者が
密着している構成が面白い。
同じ町内に住む「むらさきのスカートをはいた女」が気になって、友人になり
たいと思う女(わたし=黄色いカーディガンの女)が、ほとんど四六時中、まる
で透明人間か背後霊であるかのように彼女にまとわりついてその日常を観察し、
次第に普通の女に変身(変質)していく姿を報告するのである。
「むらさきのスカートをはいた女」は本名=日野まゆ子というのであるが、彼
女と友達になりたくて、同じ職場で働けるように求人情報誌に工作をして自分の
働く隣町のホテルに誘導する。
内気で職場での自己紹介もろくにできなかった「むらさきの…」がトレーニン
グに励み、次第に変身を遂げて、あろうことかホテル清掃スタッフの所長と特別
の関係を結ぶに至る。
その揚句、痴話げんかの末に所長が彼女のアパートの二階の手すりから転落し
死亡(?)する。・・・
とにかく終盤の展開が秀抜である。
(以上この項終わり)