読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

平野啓一郎の『ある男』

2022年01月26日 | 読書

◇『ある男

   著者: 平野 啓一郎   2018.9 文藝春秋社 刊

  
    
  

 壮大な虚構の中に、言わんとすることを巧みに織り込み、登場人物を縦横に行き来させながら読者を翻
弄し最後にあっと言わせる結末に導く。これぞ作家のだいご味と言えよ う。
 弱冠24歳で『日蝕』で芥川賞を受賞した作家であるが、先日友人のY氏から『ある男』を奨められて読み、
感銘を受けた。
 物語の中心人物は城戸章良という弁護士である。あるバーで城戸と知り合った私(小説家)は、話してい
るうちに彼の真面目な性格に感じ入り親しい関係になる。彼のの告白めいた話を聞き、小説に書くことにな
る。これは戸籍交換で新しい自分を手に入れて4年足らずながら幸せな人生を味わった「ある男」の物語で
ある。

 話は城戸さんが中心ではあるが、谷口里枝という女性がもう一人の重要な登場人物である。
理枝は前夫との間に男子2人を設けたが長男の難病の治療をどうするかで仲違いをして、城戸の手を借りて
離婚した。のちに谷口と出会い結婚したがその夫は山で事故死した。わずか3年9か月後のことだった。
 ところが谷口が実家だといった伊香保の旅館に連絡したところ、jやってきた兄は「これは弟ではない」と言
った。つまり谷口は他人を騙っていたのである。仮にXと呼ぶこの男と谷口はどんな関係があるのか。一体誰
なのか。理枝は城戸に調査を依頼する。
 
 城戸は昔谷口大祐の友人だったという美樹に会って谷口大祐の人となりを知ろうとしたが、Xとの関係性は
判然としない。色々調べるうちにXは「原誠」か「美野原義夫」という二人の男に絞られた。
 作品中段では城戸が自分の在日韓国3世という出自に捉われていることや谷口の友人だったという美沙に
いつしか惹かれていくく様子が綴られるが、これが伏線なのかと思って思って読み進んでも一向にその気配
がなく落ち着かない。
 

  城戸は里枝への同情心からX
探しに奔走しているのだが、実は城戸自身自分の過去を捨て去って、全く
違う人生を生きたXにそこはかとない憧れを抱いている。そこには在日3世という自身の出自への
こだわりが
あるためかもしれない。

 SNSを通じて城戸は谷口に会うことができた。原誠は田代昭蔵と言って殺人者を父に持つという過酷なj半
生を送ってきた。そして過去に決別しようと戸籍ブローカーから美野原の戸籍を買い、さらに谷口の戸籍と交
換したのだという

 旧姓に戻った谷口里枝は城戸からr報告書を貰い、Xと呼んだ夫の正体を知ったものの、見知らぬ谷口大
祐よりも、やさしくて誠実だった「谷口大祐」を
想う。愛には過去はいらないのだ。 
                                                (以上この項終わり)

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やって来たメジロくん 

2022年01月23日 | 水彩画

◇ メジロくんは甘党

  いつも我が家を訪れるメジロくんが今年もやってきた。例によって番(つがい)と
 思われる二羽である。
  ミカンがない時は砂糖水を与えていたが、今年はミカンがたくさん生ったので半分に
 切って針金で吊るした。
  こんな雑な仕掛けでも脚で器用につかまって実を突っつく。一羽は自分の番が来るま
 でほかの枝で待っている。かわいそうなので今年は2個
  時折ムクドリのような大きな鳥がやってきて逃げだす。彼らはホバリングしながらミ
 カンを突っつくのだ。強敵である。

  

  

  

  
                 
                  (以上この項終わり)

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川上弘美の『センセイの鞄』

2022年01月11日 | 読書

◇ 『センセイの鞄

            著者:川上弘美  2004.9 文藝春秋社 刊

     

 友人のY氏から勧められて初めてお目にかかる作家川上弘美さん。芥川賞作家という
ことは存じ上げていたが、作品に触れるのは初めて。読書家のY氏の推薦だけあって、
なかなか面白い作品である。文章が素直な所為かすらすら読める。主人公はほぼ二人
に絞られるせいか、この二人の感情の流れがすんなりと頭に理解できて、心地よい。
作中人物と同世代のせいかもしれない。
 主人公の一人大町月子さんは40歳直前の独り者。一方もう一人の主人公センセイは
大町さんの出た高校の国語の先生。御歳は80直前かもしれない。二人は行きつけの飲
み屋で再会し、頻繁に顔をあわせ、酒の肴も好みが似ているなどして気が合って、ぽ
つぽつ話をかわす間柄になる。
 飲み屋の大将に誘われてキノコ狩りに行ったり、酔いつぶれて先制の部屋に押しか
けたりするが、ツキコさん(センセイはそう呼ぶ)は「私センセイが好きなんです」
などと口走ったりするのに、なぜか男と女の関係には至らない。それはセンセイが15
年前先生の下から出奔し5年前に死んだ妻のことが忘れられないからかもしれない。
 ツキコさんはそう思うと「このくそじじい」などと悪態をつきたくなるがやはり先
生が好きなのだ。
 1・2カ月会わないこともあるが、根が酒好きでほかに行きつけの店もないのでまた
会うことになる。お互いにきっかけをつかめず、目が合いそうになるとわざとそらし
たりするところが子供っぽくて作者もうまく表現するなと思う。
 先生が風邪をひいて月子さんが訪ねて行くシーンがある。センセイは「こんな夜中
にご婦人が男性を訪ねたりするものじゃありません」などと言ったりしながら二人で
お茶を飲んで別れる。淡い交わり。そんな交際もあるのだ。

    そうした中、ツキコさんはデートに誘われる。公園の薄暗がりのベンチで「ワタク
シと恋愛を前提としたおつきあいをして、いただけませんか」といわれる。

 その後二人はいろんなところでデートし、無事身体を重ねることもできた。

 読み終わっていい本だと思った。哲学者の木田元さんの「川上弘美さんの小説世界
では、西欧近代のヒューマニズムによって決定された一切の隔壁が崩れ落ちる。
生物と無生物、人間と動物、男と女、成人と子供、健常者と病者、知性と感性、自然
と人間社会、さらには生者と死者とを分かってきた隔壁がすべて崩れ去り、それによ
って隔てられてきたものたちが自在に往き来しはじめるのだ。」という難解で適切な
解説がまたいい。                   (以上この項終わり)

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守護神社に参拝

2022年01月06日 | 水彩画

◇ 新年おめでとうございます

 昨年の暮れからPCアプリの不具合からブログ更新ができず、定期的にご覧いただいてい
る皆さまに暮れのご挨拶もできず申し訳なく、お詫び申し上げます。
 悪戦苦闘の末ようやく中途半端ながら何とか再開の運びになりました。再び稚拙ながら
水彩画の制作結果と読んだ本の感想など綴ってまいりますので折に触れてご覧ください。

 1月2日に我が家の守護神社「廣幡八幡宮」をお参りしました。昔は男女とも和服姿が多
くみられましたが、今回は一人も見かけませんでした。境内で巫女さんが舞う「浦安の舞」
もコロナ関連か残念ながら無しでした。
 コロナと言えば初詣も3密対象なので行列でも前の人と1m間隔を取っていたのに後ろ
の人が押してきて閉口しました。最近はスーパーなどでもアルコール消毒はしない。間隔
などお構いなしの人が増えました。若い人、年配者に多い気がします。これでは終息など
相当先になりそうです。

 神社の梅はまだ蕾が固い感じでしたが、蝋梅が満開でした。神社での様子をアップしよ
うとしましたが、アプリの不具合でできませんでした。まだ不安が残りますが引き続きよ
ろしくお願いします。

                              (以上この項終わり)

 


 

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