読書・水彩画

明け暮れる読書と水彩画の日々

アレクサンドル・デュマ『モンテ・クリスト伯(六)』

2021年10月25日 | 読書

◇『モンテ・クリスト伯(六)』(MONTE DE CRISTO)

 著者:アレクサンドル・デュマ(Alexandre Duma)

 訳者:山内 義雄  1956.8 岩波書店 刊


 モンテ・クリスト伯の復讐譚も佳境に入ってきました。
 誣告の告発状を書いてエドモン・ダンテスを牢獄に送り込んだ元凶フェルナンは仏陸軍で
昇進しモルセール伯という爵位まで得て、今は貴族院議員に名を連ねています。
 そのフェルナンを奈落の底に陥れる場面が盛り上がりを見せます。

 ある日某新聞に「モルセール伯はマケドニアの王アルパシャを裏切り、死に至らしめた士
官が、今や堂々と貴族院に列している」と糾弾する記事が出た。モルセール伯の長男アルベ
ールの友人新聞記者のポーシャは、記事の信頼性を確かめに現地ジャニナに飛ぶ。記事は信
頼できることが明らかだった。ポーシャは貴族院議会で事の真相を本人に釈明させる会議が
開かれる議場に入り込む。
 そこに「陸軍中将モルセール伯爵のギリシャ及びマケドニアにおける行動に関し確実な情
報を提出したい」という書面が届いた。「現場にいたものとして証言したいと言うのは今は
クリスト伯の庇護を
受けているエデである。
 議場の許しを得たエデは自分はモルセールが裏切ったジャニナ総督アリ・テプランの娘で
あること、総督配下のフランス士官フェルナン・モンデゴ(つまりモルセール)によって奴
隷としてと売られ、その後モンテ・クリスト伯に買い取られたのが私であると証言し、モル
セール伯爵の極悪非道を声高に糾弾した。また出生証明書も証拠として提出された。
 貴族院議長がモルセール伯に事の真相を糺す段にいたり、モルセール伯は顔面蒼白となり、
ついに反論することなく傲然と会議場を後にした。
 
 ポーシャから事の真相を聴いたアルベールは、息子として父の恥辱を晴らさなければなら
ない。そのためには決闘をも辞さないと心に決める。
 アルベールは初め新聞に情報を伝えたのは、事ある毎に父と敵対していたダングラールだ
と思いこんでいたが、犯人はどうやら日頃から心酔しているクリスト伯らしいと知り、苦悶
しながらもオペラ座の満座注視の中で決闘の印、手袋を投げつけようとする。だが友人たち
に止められ、クリスト伯に決闘を受けようと言われて家に帰り母に決心を告げる。

‎    明日ヴァンサンの森で8時に決闘と決まった。 その夜アルベールの母メルセデスがダ‎ンテ
スに息子の命乞いに訪れる。 しかしダンテスはフェルナン・モンデゴのせいで14‎年間地獄の
苦しみを味わった経緯を聞かせ、復讐の必然性を語る。 初めて本人の口から‎真相を知った

ルセデスは涙するが、何の咎もない息子の命は助けてほしいと涙ながらに訴える。 ‎
‎    かつて愛し、今も愛するメルセデスの真摯な願いを耳にしたダンテスは、神の仕打ちを恨
みながらも決闘で自分が死ぬ
ことを受け入れようと決心する。あなたが死ぬことはないとメ
ルセデスは言うが「あなたには満座の中で決闘を受け入れた男
が相手を生かした以上死を免
れることはできないということは到底理解できないだろう」と告げる。
 14年にわたる絶望と10年にわたる復讐への手立てが、たった一粒の涙の為に霧散してしま
おうとは。クリスト伯は部屋の暗がりで独り涙する。
 
 一方アルベールは母からすべて父の卑劣な行いが因だったと教えられ決闘を思いとどまる。
あなたには父に復讐する権利があるとクリスト伯に謝罪したアルベールは、母と共に父のも
たらした財産はすべて残し家を出ようと決意する。
 そこにクリスト伯から手紙が届く。「私の昔の家の庭にあるイチジクの木の下に鉄の箱が
ある。私が生まれたときに父が植えた木だが、その箱には私が許嫁のために蓄えた150ルイ
のお金がある。かつて自分が熱愛した人との生活のために役立つはずだった金だが、私の父
親はそれに手も付けずに飢えて亡くなった。その金をあなたにあげる。敢えて母親を不幸に
させるなかれ」これを読んだアルベールは凝然とするがメルセデスはこの金は受けよう、私
は修道院に入ると言った。
 二人は家に帰ってきたモルセールを振り向きもせず家を出て行った。
 モルセール伯爵は妻と息子に見限られてしまったショックでピストル自殺をする。

 さてお次はダングラール。かつてダンテスの同僚ファラオン号の会計士で、ダンテスの失
脚を狙ってフェルナンにダンテスを政治犯として告発させた原本作成者である。
 ダングラールは財政的に破綻に瀕していたが、娘のユージェニーをアンドレア・カヴァル
カンティ侯爵と結婚させ、彼の300万フランの持参金を起死回生の原資として当てにしてい
た。芸術家志望の彼女は首を縦に振らなかったのであるが、父の破産回避のために婚姻契約
書への署名にはしぶしぶ応じることになった。
 ところが結婚披露宴にクリスト伯が登場。アンドレアはかつて刑務所で一緒だったカドル
ッスという徒刑囚(かつてのフェルナンの友人)とクリスト伯邸に強盗に入ることを企み、
発見されたカドルッスを刺殺した犯人であることを指摘する。折からパリ警視庁の警吏が披
露宴会場にアンドレア逮捕に押し入ってきたが、彼はすでにクリスト伯を見た途端に姿をく
らましていた。
 しかしアンドレアはまもなく逃走先で逮捕された。しかも家出したユージェニーの目の前
で。かくてダングラールの破産回避の策は破綻した。
                             (以上この項終わり)

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鬼怒川に架かる滝見橋(吊り橋)を描く

2021年10月18日 | 水彩画

◇ 鬼怒川温泉を散策し吊り橋(滝見橋)を描いた


        vifArt    F0   Natural S20VA
 コロナの緊急事態宣言の期間も終わり、東京の新規感染者も100人台で推移してきたし、ワクチンもとっく
に2回接種したことでもあり、先週ほぼ一年ぶりに鬼怒川温泉に行ってきました。
 初日も二日目も天候に恵まれ、気温も20度程度で過ごし易い天気でした。二日目に鬼怒川沿いに歩いて遡行
し、滝見橋とい
う吊り橋を渡りました。深い谷に架かる橋が珍しく、10分ほどで素描し、少し下流にある「鬼怒子の
湯」という足湯場に足を浸けながら絵に彩色しました。それがこの絵です。
 10月半ばで木々はまだ緑濃く、紅葉は先のことです。橋で行き交った女性が「お二人の写真を撮りましょうか」などと声
をかけて下さって、むげに断るのもなんだし、と思ってマスク姿の妙なカップルを撮ってもらいました。
 宿の11階の窓から川を隔てて小高い山が迫り、幾分色づいた樹々の下を時折野岩線の電車が通ります。その構図も絵
の対象としては捨てがたいと、とりあえず写真に撮りました。
                                                      (以上この項終わり)
 
 


 

 

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辻村 深月他『神様の罠』

2021年10月17日 | 読書

☆ 『神様の罠

 著者: 辻村深月 乾くるみ 米沢穂信 芹沢 央 大山誠一郎 有栖川有栖
     2021.6 文芸春秋 刊(文春文庫)

   
   
   文春文庫罠シリーズ第3弾(既刊『甘い罠』、『時の罠』)表題辻村深月の
「2020年のロマンス詐欺」のほか乾くるみの「夫の余命」、米澤穂信の
「崖の下」、芹沢央の「投了図」、大山誠一郎の「孤独な容疑者」、有栖川有栖の
「推理研VSパズル研」を集録したアンソロジー。

  「投了図」が面白かった。ちょうどコロナ感染拡大防止で葬儀も身近な近親者
たちしか呼べなかった時期をとらえ動機にしているところ、将棋好きの少年に対す
る思いやり、妻の夫に対する眼差しなどが温かく感じられて、好感が持てる小説に
なった。
「崖の下」はトリックがいささか凝りすぎていて白けた。
「推理研VSパズル研」はこの作家らしい本格推理っぽい内容である。
「2020年のロマンス詐欺」は山形の田舎から大学生となって東京に出てきたも
のの、コロナで入学式もなく、友人も出来ず、バイト先もなく、仕送りも窮屈にな
る矢先、先に東京に出てきていた幼馴染からバイトを紹介されたが、気が付けば新
手の特殊詐欺の掛け子だった。成果を上げられず、抜けようとしてもかなわず、か
えって元通訳という主婦から夫殺害の相談を持ち掛けられる羽目にまでなる。真に
受けてその家に向かい夫と小競り合いになって怪我を負わせるが、電話の主はイメ
ージとかけ離れたくたびれた主婦だった。実はその娘が母のアカウントを使ってメ
ールやり取りをしていた事情が明らかになる。現代の世相をうまく切り取った掌篇
だった。
                         (以上この項終わり)

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パリのテルトル広場のスナップショットから

2021年10月13日 | 水彩画

モンマルトルの丘”テルトル広場”の光景

     
     clester   F6(中目)

  パリ8区の、モンマルトルの丘には、サクレクール寺院の前にパリ市内を一望できる草地
 があってにぎわっているがその反対側に芸術広場ともいわれる「テルトル広場」がある。
 そう広くない広場に絵描きさんが人物画・風景画を並べ、似顔絵を描かないかと観光客を奪
 い合っている。
  もう15年近く昔になるが、テルトル広場を訪れた際に、そんな光景を写真に撮ってあった
 ので、暇があるので懐かしくなって描いてみた。黒い仔犬が良いアクセントになった。
                              (以上この項終わり)

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宇佐美 りん『推し、燃ゆ』

2021年10月11日 | 読書

◇『推し、燃ゆ

著者:宇佐美 りん 2020.9 河出書房新社 刊

  

 現代若者文化にある程度通暁していないとずんずんとは読んでいけない。
 「推しが燃えた。」冒頭の文言でガツンと来る。
 「推し」が燃えたではない。もはや推しが市民権を得ている。推しだけで
わかるでしょう?というわけだ。

 ゆかりが推しの上野真幸を知ったのは4歳の時で、真幸は12歳でピーター
パンの役をしていた。だが本当に真幸を推しと決めたのは高校生になってか
らだった。彼はまざま座というアイドルグループの中心人物で活躍していた。
しぐさも眼差しも、ニヒルっぽい笑いも何もかも自分にしっくり来て、とに
かく夢中になった。
 バイトで稼いで推しのグループ内での立ち位置を上げようとCDを買い込
む。グッズも、ポスターも、ライブのチケットもすべて推し一筋の一途であ
る。学業にも差し支える。両親や姉からもいい加減にせえと圧力がかかる。
 彼の参加するイベントや動画、TV出演など逐一動向と受けた感じをブロ
グやSNSで報告し、結構な支持を得ていた。

 そんな彼がある日ファンを殴ったとかで謝り方もぞんざいだなどとSNSな
どで炎上したのである。殴られたファンとはいったいどんな存在なのか。彼
のほとんどすべてを知り抜いている筈のあかりは悩む。グループのトップだ
った真幸はファン投票で最下位に落ちた。
 
 正直まったく疎いSNS の世界の習わしに戸惑いながらなんとかついていく
と、不思議と真幸というアイドルグループの男子に入れあげているあかりと
いう高校生の気持ちが伝わってくるし、次第にアイドルグループのファン流
儀にも通じてきて、これってまじで推しグループの一員になってしまったの
かいと戸惑ってしまう。推しへの共鳴ぶりがもろに伝わってきていじらしい
ほどである。

 真幸の事件の後あかりはすっかり体調を崩し、勉強も手につかない。留年
話になってついに退学を決意する。家族内ではとっくに疎外されていて、父
母にも姉にも見放されて、働かないなら金は出さないなどと恐ろしいことを
言われた。結局最近亡くなった祖母の家で一人暮らしをさせられる。

    推しのグループが解散するのだという。記者会見で真幸が左の薬指に指輪
をしていることが分かった。お別れのライブでもそれがはっき り分かった。
推しは大人だったんだと観念する。しかし推しが推しでなくなった今推しが
生活の根幹だったあかりの毎日は崩れてしまった。
この後あかりは一体どうなるのだろう。

 芥川賞の受賞作品にはえてしてこういう現代の世相・風俗を鮮やかに切り
取って独特の表現力で活写する新鮮さが評価されることが多いが、時代感覚
の反映それだけで入賞はむつかしいので質が問われるだろう。この作品では
一人のアイドルに特異な執着を見せる十代の少女の世界が鮮やかに描かれた。             
          
                       (以上この項終わり)

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