昨日ここに「『西の売り』対『東の買い』ということで、まさに東西対決の様相を呈している」とETFを中心とした欧米の売りと新興国の買いについて触れた。それに関連するお面白いデータがあって、ユーロスタット(欧州委員会統計局)によると上半期の英国からの金輸出は前年同期の83トンに対し798トンにも上っている。約10倍だが、ヘッジファンドを中心に売った金は海を越えて他国に渡ったが、そのまま渡ったわけではない。
その主な行先はスイスだった。ここからは筆者の推測だが、スイスはメタロー(Metalor)やパンプ(Pamp)、ヘラウス(Heraeus)など金精錬会社が何社かある。筆頭銘柄のSPDRゴールド・シェアはロンドンのHSBCの地下金庫に保有する地金が眠っている。いずれにしてもロンドンが保管場所だが、金ETFにより保有されている金は業務用の400オンス(約12キロ)の地金となっている。ファンドが手放した大型地金は一旦スイスへ輸出され1キロや500グラムその他小型の地金や金製品に再鋳造されて中東(ドバイ)やインド、香港経由中国に流れて行ったと見られる。その具体的な流れを示すのが、この通関統計ということになる。しかし前年の10倍の規模とはね。
考えてみれば新興国の一般人は金の現物が欲しいから買っているのであって、欧米のファンドのようにFRBの金融政策の動向など関係ないのだ。ヘッジファンドにとって“同じ土俵に立たない” 、“金を見る視点の異なる”買い方が大挙して表れた現状は、彼らにとって誤算以外の何物でもなかろう。ファンドの下げを見込んだ戦略はいま修正を迫られ、修正している。それが足元の金の上げということか。
なおバンク・オブ・アメリカ(メリルリンチ)は10-12月期の金価格の見通しを平均1495ドルとしている。総弱気の市場にも変化ありということ。下がれば下方修正し、上がれば上方修正するので、振り回されない方がいいけど。