小池知事には東京五輪・パラリンピックや築地・豊洲問題だけでなく、公約通り、東京都政の「大改革」に邁進してもらいたいが、都議選が終わって、気になるのは、小池知事の次の一手だ。
本人は否定しているが、この選挙で大勝すれば、国政に進出し、さらには総理の座を狙うのではないかという見方がある。だからこそ、マスコミは、いつも小池氏を超大物政治家扱いで報じているのだ。
都議選で大勝して国政に出るだけでなく、さらに首相の座を奪うというシナリオは決して絵空事ではない。日本新党の細川護熙政権誕生のような前例もある。最近では、大阪維新の会が、大阪の選挙で自民党を破り、その後、国政進出を果たした。さらに橋下氏自身の国政進出や安倍内閣での重要閣僚としての起用などの臆測が絶えない。彼もまた、ポスト安倍の潜在的な首相候補である。
■小池国政政党「国民ファースト」は衆院選でも議席獲得
小池百合子都知事について「過去の彼女の国政における実績を見ると、決して改革派というイメ…
小池首相が実現するかどうかはさておき、都議選後に都民ファーストないし小池氏を支持するグループが国政政党を立ち上げる可能性は十分にある。
東京でこれだけの人気があるのだから、小池新党が国政に進出すれば、ある程度の議席を獲得するのは間違いないだろう。党名は「国民ファーストの会」になるのだろうか。
無名の新人でも、都民ファーストの今の勢いが続けば、来年に予想される衆議院選挙の東京や関東の選挙区で議席を獲得する可能性は十分だ。19年の参議院選挙でも全国区と複数定数の選挙区などで議席を得るだろう。そうなれば、立派な国政政党の誕生である。
また、現職国会議員の中には、すでに小池支持を鮮明に打ち出して、小池新党の先駆け的な動きをする者も出ている。日本維新の会を除名された渡辺喜美参議院議員、民進党を除名された長島昭久衆議院議員、無所属の松沢成文参議院議員などだ。都議選圧勝を受けて、次の衆院選や参院選の前に、現職議員が小池新党に鞍替えする動きも出てくるだろう。彼らが5名集まれば国政政党を作れる。
中でも今回の都議選で深手を負って党勢回復の見込みが立たない民進党議員の一部が小池詣でを始めている。自民党でも、小池新党に対立候補を立てられるくらいなら自分が鞍替えしてしまおうと考える議員が出るかもしれない。これは、陰りの見える安倍人気がどれくらい落ちるかにかかっている。
いずれにしても、小池新党は、維新や共産党を上回る勢力になる可能性は十分にある。しかし、小池氏自身が立候補しない限り、そう簡単に野党第一党まで躍進するのは難しい。橋下徹氏の人気がどんなに高くても、やはり、本人が出て、首相を狙うと言わなければ、盛り上がりに限界があったのと同じである。
■真の改革政党を望む有権者
都民ファースト躍進の原動力はもちろん小池人気だ。では、その小池人気を支えているのは何かと言うと、「改革」を望む有権者の強い期待である。
しかし、「改革」という言葉は、ほとんどの政党が使っている。自民党も古くから「改革」を標榜しているし、民主党も09年の政権奪取時には「改革政党」をアピールした。しかし、その民主党もあっという間に利権政党に堕し、今や、民進党を改革政党だと信じる有権者は激減している。
一方、2大政党への不信と改革への熱望は、09年以降、みんなの党と大阪維新の会への支持として受け継がれてきた。しかし、みんなは内部崩壊し、維新は、石原慎太郎氏や守旧派とみられる片山虎之助氏らとの合流、議員や首長の品のなさ、橋下氏らの慰安婦発言などの超タカ派的言動で、改革政党としてよりも、反動保守の政党だという認識の方が広まってしまった。
こうして、「改革」を求める有権者の期待を担える政党がほぼ壊滅したところで現れたのが小池百合子氏だったというわけだ。小池氏が、昨年の都知事選で無党派層の票を右から左まで満遍なく集めて大勝利したのは、安保や原発という国政のテーマを避けて、「改革」だけを訴えたからだ。
■小池都知事は本当に改革派か
では、小池都知事は、有権者が望む真の改革派なのだろうか。その真価が問われるのはこれからだ。
ただ、過去の彼女の国政における実績を見ると、決して改革派というイメージは湧いてこない。
私が霞が関で規制改革や公務員改革などに携わってきた経験では、小池氏を「改革派」として認めている官僚は極めて少ないというのが実情だ。改革派と言われる官僚たちは、改革のために体を張って頑張ってくれる数少ない自民党議員をよく知っている。彼らの元へ、密かに大胆な改革案を持参して、その活動を支援するのだが、私は小池氏の元へこうした意味での「ご説明」に行った記憶がほとんどない。
では、霞が関「改革派」官僚の間で彼女はどう見られていたかと言うと、ほとんど存在感がなかったが、パフォーマンスがうまい政治家という評価ではないかと思う。そして、彼女の最大の特色は、バリバリの「右翼」というイメージだ。この点はほぼ異論が出ないと思う。第1次安倍内閣で防衛相に抜擢されたりしたが、どちらかと言えば、その右翼的思想で安倍氏と結びつき、時に人寄せパンダとして使われたという印象だ。
雑誌の対談で、核武装も選択肢として議論すべきという趣旨の発言をしたことでも有名だったから、そういうイメージになったのかもしれない。
一方、過去にそういう人だったから小池氏が改革をできないということにはならない。特に、これだけ「改革」の旗を大きく掲げた以上、小池氏は、「改革」の実績を出さない訳にはいかない立場に立たされている。改革しなければ自殺行為にもなりかねない。その意味で、今の小池氏に「改革」を期待することは、あながち間違いではないだろう。
ただし、これから小池氏が改革を実行しているかどうかを見る場合、注意すべき点が一つある。それは、小池氏のパフォーマンスに惑わされないということだ。
特に、小池氏は、これまで、「自民党叩き=改革」という先入観を都民に植え付けることに成功している。したがって、具体的成果が出なくても、自民党が嫌がることをして、それに自民党が抵抗しているさまを見せるだけで、都民は小池氏が「改革」のために戦っていると勘違いする可能性があるし、おそらく、小池氏は、常にその手法を取ると思われる。小池都政のパフォーマンスを見るうえで、この点には注意が必要だ。
■小池国政新党の正体とは
小池氏が、他に「改革政党」がないため、今後の衆院選、参院選で「改革政党」として大きな力を得るとどうなるのか。国民は、真の改革政党として、小池新党を熱狂的に支援するかもしれないが、前述した通り、小池氏は改革派というよりもタカ派である。東京都政では、自治体だからその部分は封印されるが、国政になれば、改革vs.守旧という対立軸だけではなく、タカ派vs.ハト派という対立軸が現れる。政党の立ち位置をどこに置くかをこの2軸で切れば、4つの位置に分かれる。(1)改革タカ派、(2)守旧タカ派、(3)守旧ハト派、(4)改革ハト派である。(図参照)
自民は(3)守旧タカ派、維新は(1)改革タカ派に(2)守旧タカ派が混ざっている。民進は(1)(2)(3)が多く、ごく少数ながら(4)もいる。俗に言われるとおり「バラバラ」だ。小池新党はどの立ち位置を取るか予想すれば、(1)改革タカ派だろう。つまり、維新と大差ない立ち位置になる。
この分布をみれば、自民党の支持率が急落した時でも、他の野党の支持率が上がらず、無党派層が拡大したのは、実は(4)の改革ハト派の政党が存在しないことが最大の理由であるということに気づく。
今後、今回の都議選のように、国政でも自民の支持率が下がって選挙で大きく議席を減らす場合、既存の野党ではなく、小池新党が「改革政党」として、議席を伸ばすことになるだろう。それは、一般有権者には、今のところ、小池新党の立ち位置が(1)改革タカ派なのか(4)改革ハト派なのかがわからないからだ。
おそらく、小池新党が国政での活動を始めてしばらく経ってから、有権者は、小池新党が(1)改革タカ派であることを知り、(4)改革ハト派の有権者が落胆するということが起きるのではないか。
つまり、改革派勢力は増えても過半には届かず、一方、タカ派勢力は、自民減少分を小池新党が補うことで引き続き衆参両院で3分の2を維持するという状況を見て、愕然とするわけである。
憲法改正がその前に実現しているかもしれないが、いずれにしても、今の超タカ派路線が安倍一強終焉後も続くということだ。そのことを今のうちから、有権者が気付くかどうか。逆に言えば、小池氏がいかにそれを気づかせないで(例えば、あえてハト派的な言動をとる)、国政進出までの政治活動を行うか。その点が要注目点になる。
■小池首相誕生の障壁は年齢とオリンピック直前の都知事選
ちなみに、小池氏自身の国政進出はいつになるのか気になる方のために、頭の体操をしてみたい。
来年と目される衆議院選に小池氏が出馬する可能性はほとんどゼロだと誰もが考えているだろう。オリンピック・パラリンピック(オリパラ)の準備を投げ出しての国政進出となれば、都民も国民も「無責任だ」と強く批判するのは目に見えている。
では、2020年のオリパラ実施後はどうだろうか。オリパラは7~9月開催だが、不運なことに、7月が小池知事の任期末で、オリパラ直前に都知事選がある。再選は難しくないだろうが、逆に再選されると、それからしばらくは辞任しにくくなる。オリンピックの開会式に出るために知事再選を果たし、五輪が終わったら投げ出すのは無責任という批判が出るからだ。
問題は、そのまま24年まで知事を務めると、小池知事は72歳になってしまうこと。その年に衆議院選があるという保証はなく、1年以上待たなければならないかもしれない。72という年齢でももちろん、総理を務めることは可能だろうが、エネルギッシュな小池氏のイメージがその時まで維持できているかはかなり疑問である。
■五輪前の小泉進次郎氏へのバトンタッチというシナリオも
年齢のことを考えれば、国政復帰は早い方が良い。しかし、「無責任批判」を封じるのは難しい。このパラドックスを解くのは至難の業だ。
そこで、やや荒唐無稽だと思われるかもしれないが、それを可能にする方法を提案したい。
それは、オリパラ直前の小泉進次郎氏へのバトンタッチだ。20年7月には、オリパラの準備はほぼ終わっていなければならない。逆に言えば、小池知事がいなくてもオリパラは実施できるはずだ。
もちろん、開会式に主催都市の代表として出席する権利は棒に振ることになる。また、オリパラ前に都知事選辞退と言えば、一瞬強い批判が起きるだろう。しかし、オリパラ直前の都知事選で、サプライズ候補として小泉進次郎氏が立候補すれば、そんな批判は吹き飛び、都民も国民も若き都知事誕生へと熱狂的な支持を示すだろう。選挙戦中は、常に小池・小泉ツーショットで自身の宣伝に利用する。開会式の日には、「次代を担う若い人の手で東京五輪・パラリンピックが開催されることを嬉しく思う」と言えば、国民は、小池氏に温かい拍手を送るだろう。日本人はそういう演出には弱いし、小池氏のパフォーマンス能力なら、これを演じ切るのはたやすいだろう。
もちろん、進次郎氏がこれを受ける可能性は低いと思う方が常識的だろう。
しかし、私は、進次郎氏から見ても、これは、悪い選択肢ではないと思う。
彼は、現在36歳、20年には39歳だ。その時点でポスト安倍の争いに名乗りを上げても、自民党総裁に選ばれるのは至難の業だ。やる気のない安倍政権の下で中途半端な農業改革を担がされ、閣僚ポストを一つ、二つ経験することも総理への道ではあるが、東京都知事という要職を経験し、「東京五輪を開催した」という実績を作ることの方が国民へのインパクトは大きい。欧州の小国を上回る財政規模を持つ東京都の行政経験を積むことは、実質的な意味で政治家として大きな財産にもなる。進次郎氏の父小泉純一郎元首相は、小池知事を環境相に抜擢した支援者。今も良好な関係が続いているという。そうした縁も積極的な要素として働くかもしれない。
小泉進次郎氏以外に、このシナリオに登場できる人材がいるかというと今は思いつかない。20年の都知事選に小池氏が出て首相への道を歩み始めるのか、それとも、逡巡しているうちに、維新と同じく、自民補完勢力になり下がる道をたどるのか。
ちょっと早すぎる話題だが、今から気になるくらい、小池パワーのインパクトが大きいということなのである。