Noosphere<精神圏>

進化の途上にある人間、これからどう発展するのか。

言葉と精神の関係の考察

2023-02-21 02:12:06 | 言葉と精神の関係

言葉と精神の関係の考察

 

<はじめに>

私たちは毎日の暮らしで、誰に言うわけでもなく不満や妄想を頭に浮かべ、あれこれと考えることが多いものです。言葉をしゃべって音声にしないまでも、頭のなかで言葉やイメージを思い浮かべます。朝起きてから夜寝るまで、頭のなかを言葉で埋めつくしながら、それに気づかず毎日生活を続けています。しかし、これは一朝一夕にそうなったわけではありません。生命を持つ最初の細胞が生命として地球上に現れてから、長い時間に徐々に進化をかさねて人類となったといわれます。考古学による化石研究の成果によると、生命種の形質が徐々に変化してより高度な身体機能を獲得してきた経過があることがわかります。そして人類とその直前に位置する類人猿の大きな違いは、直立二足歩行の確立と大脳の発達であり、喉で声を発生させる細かい制御を可能にして言葉を得たということです。その言葉は単に意志を伝達する道具というだけではなく、頭の中で思考するための媒体となっています。私たちは言語は違っても全地球レベルで言葉による意志の疎通ができ、様々な発明や発見を協働で行い様々な道具を発展させています。人類は現時点で地球を覆い尽して繁栄していると言えるでしょう。しかし、最近のニュースでも地域紛争や貧困・飢餓は絶えることなく、まだまだ未発達の段階にあるのではないかと思わせることも多い状況です。生物における進化という現象が過去何十億年も続いているので、現在の人類すなわち私たちのような人間の段階で終わりということはあり得ません。そこで、私たち人類はこの先どうなるのかという考察も含めて、人類によって獲得された言葉と精神の関係について少し考えて見ようと思います。

 

<言葉とは信号の寄せ集めを脳が解釈している>

私たちは目や耳で文字や声に気づくとき、それは言葉であるとすぐにわかります。そして言葉であると認識すると、脳によって音や記号の連続を言葉とみなして記憶との連携からその意味を解釈します。この所をもう少し詳しく見ていきます。

まず私たちが目の前にある言語対象に気づいているとき、目の網膜への光の刺激や耳の鼓膜で捉えた音波が神経細胞を通して脳細胞で認識されます。脳で受け取る情報はカメラや録音機でのような電磁波や音波そのものではありません。私たちの脳や感覚器官は生体構造としての制限があって、現実の世界そのままではなく、神経経路や脳で扱うことができる信号情報として受け取っています。私たちが目に見えているイメージや耳に聞こえる音は、神経細胞の信号に翻訳されています。つまり音波や電磁波の信号の寄せ集めを、意味のある言葉として脳が解釈しています。私たちが会話を聞いて内容がわかるということは、感覚器官から入った音波を言葉として捉えて神経経路の信号に変換され、その言葉の意味を信号の情報から脳で認識するということです。そこでは、脳細胞に記憶された情報との一致によって、特定の音の連続に意味が持たされています。

 

<人には個性があるので言葉の認識にも違いがあるはず>

音や文字の連続を言葉として解釈するならば、感覚器官から脳を経由して認識することは同じでも人によって理解の程度が違うはずです。つまり言葉の理解についての個人差やその内容に偏見が混じる程度で違っているはずです。確かに、結果的には脳内で言語を解釈しているので、人類という解剖学的な話では同じ機構になっているはずです。しかし言語そのものは多彩であり、多様な言語においてそれぞれの言葉は各個人の理解の程度の差が多少なりともあるということは考えられます。そして重要なことは、言葉の理解とは自己とのかかわりにおいて、自分が納得する方に解釈しているということです。つまり、自己の記憶に当てはめて理解するという経過に基づいて、見ていることや聞いていることを解釈しています。そこで、私たちは自分の頭で言葉を正当に理解していると、いちいち確認しているわけではありません。そのうえ、神経線維の経路において条件反射的に固定観念や偏見によって反応をしている可能性もあります。言葉の理解の違いに気づかず、「あれってそうだよね、わかっている」と納得してしまう場合もあります。あれやこれや考えているけれども、実際に私たちはそれが正しい解釈なのかどうかの判断はできないまま記憶のなかに積み重ねていきます。そこで、もし自分の記憶にある解釈と何か違うと意識するとき、言葉の理解の違いや自己の偏見などに気づくことになります。そのような違いを意識するとき、連携する言葉における解釈が以前より多様になり理解の幅が広がることになります。

 

<言葉の働き>

言葉としての働きを考えるとき、自分の思いや感情を相手に伝え社会と連携する外側への道具としての働きと、頭のなかで思考を支える内側の道具としての働きがあります。外側との交流ということでは、私たちは言葉を介して自分の状況を伝え、相手からも情報を得ることができます。私たちは言葉を交流の道具として、詳細な情報を交換できる社会的な基盤生活を作りあげています。そして、生活をより豊かにするための共同作業を可能にしています。人類が地球上に広範囲に散らばるに伴い、言語も多様に枝分かれしたけれども、言語間での翻訳は可能であり意味を伝え合うことはできます。そこで、多少の個性の違いはあっても、人類共通である生理学的な脳という土台での理解ということは同じです。そこに「知識欲」というものが芽生えていて、人間の内面を豊かにしています。私たちは生きる欲求だけに囚われず、興味をもってまわりを観察して、その対象に名前を付けて言葉として区別してきました。物質ではない概念のようなものまで言葉として考えることができます。そして、その新しい欲を支える知性と良識に期待できる位置にいます。確かに人間には知覚における生理的限界や心理的限界があります。しかし、様々な道具の発達によってその限界を超える補整をしながら数々の疑問へ気づくようになりました。それによって、対象を認識する意識が上昇しています。そうして、常識への疑問を提起できることで、知覚あるいは認識において知識欲の幅が広がり、思考し内省する精神をより深くするはずです。

 

<言葉から精神へ、そして限界>

一方、言葉は能動的な働きとしての面があり、言葉そのものが行動へ影響を及ぼすすこともあります。私たちは何らの行動に困難な状況に直面したとき、頭のなかで対策を考えて行動へのやる気を鼓舞します。つまり自分の行動を言葉で正当化して反抗する気持ちを抑え実行に移します。それは行動の動機となる精神というようなものです。それは人類が大脳の発達において言語を操って内省することで発現したものです。生きるための自動的な欲求だけでなく、能動的に言葉で考え、未来の充実を欲して行動をします。つまり、この精神によって自分で考えて自分の意志で行動するという充実感を持つことができます。そういった高尚な精神があるにもかかわらず、自己の欲にまみれながら不満のなかで足掻いていることも多いものです。私たちは生命という存在の一部であり、その流れにあっては個々の死を避けることはできません。一生のうちにやりたいと思ったことがあったとしても、そのすべてをできるわけではありません。そうなると、大きな流れの中で私たち一人ひとりはどういう位置にあって生命の流れとどのように関係しているのでしょうか。ただ生殖に励んで子孫を残せばそれでよいのでしょうか。そこで、私たちを強制する様々な「しがらみ」はどんな働きをしているのでしょうか。その強制から逃れることはできるのでしょうか。しかし、そこで精神という不思議な作用で、言葉を組み合わせて発奮する動機にして、自己を充実させる行動に移すことができます。この自分の意志による精神ということであれば、結果はどうであれ自分の行動に納得することができます。

私たちは考えるときは頭の中に言葉やイメージを思い浮かべています。そこでは脳の神経細胞の3次元構造での信号の連携があります。その信号のやり取りで言語が理解されて、言葉を介してまわりのものをより理解しようと内省するまでになっています。そして、そこには精神のエネルギーが芽生えています。言い換えると、精神的に深く複雑になるということは、内省における言葉の連想の深さの程度と関係があると思われます。そこで、より詳しく説明できる言葉に置き換えたり具体的な例に当てはめたりするなど、思考し内省している言葉の多様な結びつきが精神としての深さと対応しているはずです。しかし、対象を名前で特定するという言葉の持つ意味を考えるとき、単に対象を言葉に置き換えて納得してしまうことが多くあるので注意が必要です。私たちは名称のついた対象に対して、その名称を知ることで、その対象が分かったと納得することがよくあります。しかし単に言葉で置き換えたことに惑わされるのではなく、言葉の意味する対象自体の本質を理解することに「知る」という意味があります。知識欲の精神として、「何故どうして」という疑問は、そこに言葉を超えた因果が内包するがゆえに重要であると考えます。当初、自己の自覚から生じた意識が自分以外の他を自覚する広がりのなかに、自己の自覚する仕組みが内包されているはずです。そこにある仕組みを内省して深めることで、言語や思考を超えたつながりが生じるきっかけとなっていくと予想されます。

Written by Ichiro, 02/20/2023, 

言葉と精神についての話は長くなりそうなので次回に続けようと思います。

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