マキペディア(発行人・牧野紀之)

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川勝知事へのメール、一条堤について

2013年03月02日 | ハ行
川勝知事に以下の文面のメールを送りました。

01、森林保全課の青島課長宛てのメール

 NHKテレビの夕方のニュースで、「例の一条堤は盛り土の前後の法面にクロマツを植えて防潮堤とする案が決定され、準備が進んでいる」と報道されました。本当ですか。

 なぜクロマツなのですか。

 世界的植物生態学者の宮脇昭さんはこう言っています。

──このように、マツはどんな場所でも育つが、長持ちするためにはそれを支える構造が必要で、広葉樹に支えられていない場所でほ決して長持ちはしない。植物社会学的に見ると、マツが自生している海岸沿いの多層群落の森には、必ず塩水を止めてマツを支えるトベラ、シャリンバイ、ウバメガシ、ハマヒサカキなど中、低木の常緑広葉樹が生えている。

 したがって、新たに海岸沿いに植物社会学的なシステムをつくる場合には、クロマツだけの単植林は適切ではない。マサキやトベラ群集などの常緑広葉樹の中に、その下位単位として、量的には多くても質的には小さいマツを植える必要がある。

 針葉樹の根は浅く、防災に適していない

 さらに、マツの単植林が防潮、防災に適さない理由として、一般的に広葉樹に比べて根が浅いという点があげられる。

 マツなどの針葉樹は、根が横に伸びる傾向があるため、地震や津波などには弱い。しかも、土壌が悪化して根がダメになると、身を守るために蒸散作用で上部の枝から水分を蒸発させて枯らしていく。

一方広葉樹は、主根が縦に長く伸びる特徴がある。長くしっかりと根を張ることで水脈をつかむと共に、枯葉が年々蓄積され、それが豊かな表土を形成して降水を浄化・保水する緑のダムの役目を果たし、土壌環境がより豊かになる。豊かな土壌環境は地力を高め、他の植物の生育を促すという好循環を生む。

 このように、樹木にとっての土台である根群の特性や土壌環境は、その樹木や森全体が長持ちするかどうかの決め手になる。

 実際に、比較的根が浅いマツだけの林は自然災害などには脆く、防潮、防災には適さない。特に、海岸の砂浜の見通しをよくするために、下草刈りをくり返し、低木層、亜高木層を排除してマツと外来の雑草だけにしてある状態では、見かけ上は風情のあるりっぱなマツ林と思われるかもしれないが、いったん津波などが押し寄せた場合はあっという間になぎ倒されてしまう。(宮脇昭著『瓦礫を活かす「森の防潮堤」が命を守る』、学研新書、167-9頁)

 あなた方は、これまでのクロマツは植え方が悪かったから根が下に伸びなかったなどとシロウト談義をしていますが、なぜ実証されている理論を採用しないのですか。これが川勝知事の歴史学ですか。

 誠意ある回答を1週間以内にお願いします。

2013年2月21日、牧野 紀之

02、返事

牧野 紀之 様

日頃、県の森林・林業行政について御理解、御協力頂き、お礼申し上げます。先日、いただいたメールについて、担当する森林保全課からお返事いたします。

(クロマツ植栽理由)

 浜松市沿岸域の防潮堤の建設は、海岸線に近接した海岸防災林内にも予定されています。この海岸防災林は、防風、潮害防備、飛砂防備などの防災機能を持った重要な保安林に指定されており、内陸側の住宅や農地等を守っています。

 遠州灘の海岸地域は、砂地で乾燥しやすく、潮風や飛砂、強風にさらされるなど、厳しい自然環境であるため、そうした環境に最適な樹種として、古くから地域の人々の努力によりクロマツが植えられ、又、地元の要望を受け、県や市もクロマツを主体に植栽し、地域の皆様と一緒になって大切に育ててきました。

 防潮堤の建設に伴う海岸防災林の再生につきましては、まずは、防災機能を確実に回復させることが、地元の強い要望です。このため、海岸地域の自然環境に適合していること、古くからの植栽実績があることなどから確実に成林するクロマツの植栽が有効であると考えています。

 なお、深根性の樹木であるクロマツは、国の東日本大震災に係る調査結果や過去の多くの植物研究成果においても、海岸の最前線に適した樹種として挙げられています。

(植生基盤確保の必要性)

 学識経験者等が構成員となった検討会による調査結果によりますと、東日本大震災による津波で根返りや流木化するなどの被害を受けた箇所は、地盤高が低く、逆に地下水位が高い箇所で、クロマツ等の根が地中深くに伸びることができず、根による樹体の保持力が弱かったことが原因であるとしています。

 また、外見では同様なマツ林でも、津波による被害がなかったクロマツ等は、地下水位より上に、根が十分に深く伸びる土層厚がある箇所であったことも確認されています。こうしたことから、「クロマツという樹木が津波に弱い」ということではなく、しっかりと根が張るよう十分に植生基盤を確保することが重要であると考えられます。

(植栽樹種の考え方)

 地域の皆様方にとって大切な保安林の機能を担う海岸防災林を再生する場合には、景観や生物多様性の確保、病虫害に対するリスク分散など、様々な要因を考えることも必要であると思っています。このため、NHKの放送では紹介されませんでしたが、現在、クロマツに加えて、自生種であり潮風に強く遠州灘の厳しい環境でも育つ広葉樹の植栽も検討しているところです。

 なお、東北地域の海岸防災林の再生にあたっては、全国からの応援を受け、抵抗性クロマツの植栽を中心に検討していると聞いております。

 また、地元の皆様の要望を受け、防犯上の理由等でクロマツ林内の下層木の除去など適正な維持管理も進めているところです。

 今後とも、引き続き、県行政への御理解と御協力をお願いいたします。

平成25年2月27日

静岡県交通基盤部森林保全課長 青島 正明

03、電話でのやり取り、2月28日

 牧野・学識経験者等が構成員となった検討会の有識者とは何か。
 青島・国の検討会である。

 牧野・そこに宮脇昭さんは入っているか。
 青島・入っていない。

 牧野・検討中の広葉樹とは何か。どの位の割合で広葉樹を植えるのか。
 青島・調査中で、何も決まっていない。

 牧野・宮脇さんの「日本植生誌」を図書館で見たことがあるか。
 青島・ない。

04、川勝知事への質問

 担当者がこういう状態で好いのですか。準備がこのように遅れていて好いのですか。知事のリーダーシップが足りないのではありませんか。

 一応申し上げておきますが、宮脇方式では「潜在自然植生」を「基本にする」だけで、クロマツを植えることは否定していません。

 又、宮脇方式を採用すれば、いつでも準備が出来ているようですから、何年も待たないで始められます。現に、東北地方では既に3か所で実行されています。

 速やかな誠意ある回答を求めます。

3月1日、牧野 紀之