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拡張型並列マイクロ水力発電

2011年06月11日 | サ行
                       浦野哲夫(産業能率大学客員教授)

 福島第一原子力発電所の事故を機に脱原発にかじを切るにしても、電力不足に計画停電や節電だけで対応するのでは生活も経済も停滞する。低コストで安全で安定的かつクリーンな電力供給が望まれるが、新しい発想に基づく水力発電を提案したい。「拡張型並列マイクロ水力発電」だ。

 手を感知して自動的に水を出すトイレの手洗いを思い浮かべてほしい。蛇口に超小型のマイクロ水力発電機が収納されており、流れる水で発電する一方、発電した電気で手を感知するセンサーも動作させ、蛇口も開閉する。日本得意のマイクロ技術である。

 手洗い用は数ワットの出力だが、日立製作所などが9㌔ワットの発電能力を持つ小型機を開発した。この発電機を拡張的に(スケーラブル)、並列的に(パラレル)、大量に(マッシブ)使って発電させる。何万個もの中央演算処理装置(CPU)をネットワークで並列的に動作させる「マッシブパラレル」の技術で、性能向上と価格低下を実現している最近のスーパーコンピューターと同様の発想だ。

 マイクロ水力発電機なら場所に応じて様々な規模の発電施設を造ることができる。例えば、9㌔ワットのマイクロ水力発電機1024台を並列的に束ねて発電すれば9000㌔ワット超の出力になる。風力発電所と遜色ない。

 課題は季節変動を含めた水量の安定供給だ。マイクロ水力発電機の出力電気の一部を揚水用モーターの電源に使って水を循環させると、常に一定水量が確保でき、夢の連続発電が可能になる。

 また、マイクロ水力発電の設置候補地は既存のダムである。日本には約3000のダムが存在するが、発電に使われるのは一部で、多くは治水・利水が目的だ。管轄も発電用は経済産業省、治水・利水用は国土交通省、農林水産省と異なる。国家的危機に直面するいま、政治主導で「省益」優先の縦割り行政を抑え、「国益」重視でエネルギー行政全般を主導すべきだ。

 既存のダムの規模に応じたマイクロ水力発電機を装着する。さらに、河川でも上下水道でも、農業用水路でもビルの空調還流水でも、水量に応じたマイクロ発電機を設置する。送電ロスが少ない電力の「地産地消」「自給自電」が推進されることになる。そのために大幅な規制緩和が必要だ。政治の出番である。
(朝日、2011年06月08日)

感想・素晴らしい技術と発想だと思います。
コメント
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