マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

「大学ランキング」の感想

2009年05月21日 | タ行
 「大学ランキング」(2010年版。朝日新聞出版)を読んだ感想を箇条書きにまとめます。全体として、久しぶりに読んで、啓発された点も多く、評価していますが、改善してほしい点だけを挙げます。

 ① 学長のリーダーシップが大切だと何人もの人が述べているのに、「学長力ランキング」が1つもないのはおかしいと思います。どうやってそれを判断するのか、難しいですが、ここに出ているランキングがすべて、難しいのに工夫をしていろいろな角度からのランキングでそれを試みているのですから、学長についてそれをしないのは、「避けている」という感じを与えます。画竜点睛を欠いています。

 ② 職員力が本年度の大きなテーマになっているのに、第2部の「大学ガイド」のデータの中に「職員数」がないのはおかしいと思います。88頁で「大学ランキング」編集長が「大学の基本データ」として「学生数」と「教員数」としかあげていない点に職員無視がよく出ています。89頁には「事務職員数」もありますが。

 ③ ついでに、ホームページで公開すべき「基本情報」として、89頁の「大学基礎データ」と「学部データ」を考えているとしたら、間違いだと思います。一番重要な事がおちています。それは、「教員の研究業績、授業、社会活動、学内業務」を公開するということであり、しかもその情報を「トップページから入りやすい所に、あいうえお順に並べるのはもちろん、それ以外の分類法でも多面的に公開する」ということです。この編集長はあまりにも「数字」に目が行き過ぎていると思います。

 ちなみに、大学のホームページは学長の頭の中を公開したものだと思いますが、お粗末なものがほとんどです。東大のホームページには「学生の作ったホームページ」とかいうのもありますが、批判精神ゼロの御用ホームページで、東大の教育とはこんな人間を作るのか、とがっかりしました。

 ④ もうひとつ重要な「基礎情報」としては、「製造物責任」があると思います。加藤寛氏が千葉商科大学の学長になったとき、「大学も製造物責任がある」とか言って、「簿記2級(?)、英検2級(?)」のほかにもう1つ何かあったと思いますが、それを明示しました。そして、企業に対して、「自分の大学の卒業生がこの基準をクリアしていないことが分かったら、送り返してくれ、教育をし直す」と公約したと記憶しています。これも「大学ガイド」に記載するべきです。

 ⑤ 教員について、正教員しか見ていないのも不十分だと思います。最近は非常勤講師の絶対数は減ってきているようですが、非正規教員の割合と(劣悪な)待遇を明らかにすることも大切です。このことは、職員の情報も載せるなら非正規職員についても言えると思います。

 ⑥ 金沢工業大学では学生の代表者が経営にも参加しているとか聞きましたが、その点も取り上げてほしいです。

 ⑦ 「コンテスト入賞ランキング」にはスピーチコンテストも入れてほしいと思います。

 ⑧ 154頁で宮台真司は「春・夏・冬には2泊3日のゼミ合宿もしている」と述べています。ほかにもゼミ合宿をしている人はかなりいるようです。これの統計も面白いでしょうが、「教科通信」を発行している授業数の統計も面白いでしょう。私の知っている限りでは3人です(法政大学の尾木直樹氏、山口大学の村上林造氏、私)が。

 やはり最も感心した点も1つくらいは書いておくべきでしょう。それは、「教育付加価値日本1」を目標にしている(事実、そうなっている)金沢工業大学の学長が、就職支援の項目を書いていることです。題して、進路指導は「教育の一環」。その内容も、学長がここまで知っているのかと感心します。

(これは、出版元の朝日新聞出版の編集部に送ったものとほぼ同じです)