マキペディア(発行人・牧野紀之)

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バカンス法(経済再生に価値観の転換を)

2009年05月09日 | ハ行
                  田中一彦(広告制作会社役員)

 不況脱出にと、政府は財政支出15兆円、過去最大の追加経済対策を打ち出した。だがばらまきと疑われる項目や、大半の財源が借金という問題も指摘され、そのツケはいずれ国民が負わねばならない。

 そこで、今こそ日本は欧州流のバカンス法、あるいは国際労働機関(ILO)132号条約の批准を実現すべきではないか。税金を使わずに景気回復を図ることができ、しかも失業を減らすと同時に、労働者に自由な時間を楽しむ機会を与える絶好の方法ではないかと思えるのだ。

 フランスでバカンス(年間有給休暇)法が導入されたのは1936年、第2次大戦前のヒトラー台頭の時代、それは、まさに不況脱出、雇用回復を目的に制定された。世界恐慌の後遺症を脱せず、厳しい不況下にあって、ブルム内閣は年2週間の有給休暇を制度化した。ワークシェアリングで失業を防ぎ、観光によって消費増大を図る。バカンス法が経済回復に一定の役割を果たしたとされている。

 当時の米国は、ルーズベルト大統領の、公共事業を軸としたニューディール政策。フランスの景気回復策と好対照だ。時代背景の違い、政策の成否には両論あろうが、ここは一つ、オバマ大統領の「緑のニューディール」の向こうを張って日本版バカンス法を実現してはどうだろう。

 国土交通省などで構成する委員会が2002年にまとめた報告書がある。「年次有給休暇を完全消化したら」を前提に試算すると、経済波及効果は合計11兆8000億円、雇用創出効果は148万人という結果が出たのだ。当時の有給休暇の平均付与日数は約18日で、取得日数は約9日。この傾向は現在もほぼ変わりない。これを正規雇用者総数に掛けると、年間約4億日に相当するという。4億日という自由時間の一部が消費に回り、地域活動などに投資されることで、大きな経済効果が発生するというわけである。

 例えば欧州では、連続休暇を利用して農山漁村に民泊し、自然や文化交流を楽しむグリーンツーリズムが盛んだ。先進地のドイツ、フランスを10年以上にわたって研修
のために訪問している大分県宇佐市のNPO法人安心院(あじむ)町グリーンツーリズム研究会の宮田静一会長は「日本の農業を支え、グリーンツーリズムを本物にするためにも、ぜひバカンス法を実現して欲しい」と訴えている。

 不況、貧困拡大、将来不安の時代に突拍子もない、との批判も聞こえてきそうだ。だが、バカンス法はただ単に経済的な効果だけのためではない。国民が等しく享受できる時間的な豊かさこそ求められているのではないか。そうした価値観の転換こそ現代日本の閉塞感を打破する喫緊のテーマではないだろうか。

 (朝日、2009年04月26日)

     感想

 日本の大きな課題の1つが「労働時間の短縮」であることは間違いないと思います。それは経済的にも成り立つということでしょう。
コメント
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