マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

バイオエタノール(01、竹から作る)

2009年02月24日 | ハ行
 静岡大工学部の研究チームが、竹から効率良くバイオエタノールをつくる技術を開発した。竹の硬さが難題だったが、浜松市の刃物工場が100分の1㍉単位の粉末にできる円盤ノコギリ装置を開発。従業員4人の町工場の技術が、荒れ放題の放置竹林をバイオ燃料の「油田」に変える夢の突破口となった。

 里山で管理の行き届かない竹林が増殖し、周囲の林や農地を侵食する「放置竹林」問題は全国で発生。伐採に乗り出す自治体も多いが、竹の成長の早さに追いつかないのが実情だ。

 静大工学部(浜松市)の中崎清彦教授(51)は生ごみを分解して肥料にする微生物の研究などに取り組み、廃棄物を残さず資源を循環させる「ゼロエミッション」を目指していた。

 放置竹林の利用法に思いをめぐらしていた2005年、浜松市の特産品を載せたパンフレットが目に留まった。竹を細かい粉末にして、カレーやハンバーグに入れようという食品。中崎教授は「これは竹をエタノールにできるぞ」とひらめいた。

 従業員4人の刃物工場「丸大鉄工」(同)が開発した商品だった。同じく放置竹林対策を練っていた大石誠一社長(57)が「タケノコが食べられるんだから、成長した竹も細かくして食べればいい」と発想したものだ。

 竹をエタノールにするには、繊維質を糖に変える必要がある。そのためには、竹を細かい粉末にしなければならないが、竹の硬さに阻まれていた。丸大鉄工は従来の10分の1ほどの0.05㍉の粉末を実現していた。

 秘訣は円盤ノコギリ。大石さんは竹の繊維方向と直角に歯をあてる「横引き」だと繊維が残って粉末が細かくならないことに着目し、竹筒の断面をそぎ取る「縦引き」で削るノコギリ装置を考案。むしゃむしゃ竹を食べるような姿から「パンダ」と名付けていた。

 中崎教授は大石さんを研究チームに迎え入れ、2007年度からの農林水産省の委託事業に応募。大石さんのパンダに吸い込まれた竹は、煙のような粉末に変わり、糖化処理に使うレーザー光線がよく浸透した。通常の大きさの粉末だと2%の糖化効率が、処理過程で使う微生物選びの工夫なども加わり75%に跳ね上がった。

 最終的に糖化効率は80%に上げられる見込み。この場合、10㌔の竹から1.1㍍のエタノールができ、コストは1㍑100円を目指している。中崎教授は「ガソリンに代わる燃料として使える上、放置竹林対策にもなる。サトウキビやトウモロコシなどとは違って、食糧とも競合せずバイオ燃料としては有望な資源だ」と話す。

 大石さんの工場には、放置竹林に悩む全国の白治体職員が「パンダ」を見にやってくる。

 「やっかいものの竹を何とかしてやろうと利用法をいろいろと考えてきた。エタノールになるなんてうれしい」と喜ぶ。

  (朝日、2009年02月19日。渡辺周)
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