マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

募金

2006年10月11日 | ハ行
 1、「金を募(つの)る」ということであり、この場合の「募る」とは「何かの目的のために物資や人員を集めること」だから、要するに「寄付金を集める」ということである。

 2、このように分解すれば、「募金を集める」という今日多く見られる表現が重複表現であり、不適切であることが明らかになる。「募金を行う」くらいである。しかし、「募金を集める」が平気で使われている所を見ると、今では「募金」とは寄付金そのものの意味に理解されていることが分かる。

 3、似たような表現として、「受注を集める」とか「(マラソンランナーが途中で)給水を取る」とか「注目を集める」といった表現が当たり前に使われるようになってきている。「募金」が「寄付金」そのもの、「受注」が注文そのもの、「給水」が水そのもの、「注目」が目そのものと理解されるようになっているのである。

 4、この言い方の特徴は、本来は動作名詞である名詞を、その動作の対象たる物象(水、寄付金)や事柄(耳目、注文)そのもの意で使うということです。

 しかし、こういう風に次々と同じタイプの言い方がほとんど意識されずに使われるようになってきているということは、この言い方が定着し、市民権を得たということだと思います。もはや「間違い」と決め付けることは出来なくなりつつあるようです。

 5、しかし、今では寄付金を出すという意味で「募金する」が使われている。つまり「醵金する」と言うべき所を「募金する」と言う例まで散見されるようになった。これは余りにひどい混乱だと思います。どうしても賛成できません。

 ★ 「寄付金」という意味で使われた募金の用例

 01、元従軍慰安婦への償いを報じた文の冒頭に、「募金を集め」(1994,8,19,朝日)
 02、募金が寄せられ(1994,8,26,朝日)
 03、募金を募って(2001,7,11,NHK)

 04、(オウム教団の信徒の経営する工場が住民との話し合いで撤退することになった)信徒側は1200万円の立ち退き料を求めたが、一般からの募金で支払うめどがついた。(朝日、2002年06月30日)

 ★ 「醵金」という意味で使われた募金の用例

 01、一方で、画面のクリック数に応じて、企業からNGOに募金されるしくみを導入し   (朝日、2001年05月06日)

 02、10月1日、都内で「赤い羽根共同募金」の街頭募金に3人の力士が参加。安馬は声を出して呼びかけたが、募金をする人が立ち止まるのは、石原さんのところばかり。(2006年10月2日、朝日)

 03、年末の季語に「社会鍋」があります。三脚に大きな鍋を吊るし、行く人に募金を呼び掛ける……(雑誌「ラジオ深夜便」2010年12月号、鷹羽狩行)
 感想・言葉を練る俳人でもこういう使い方をする所まで来たのです。

★ 「醵金」「拠出」の用例

 01、エイズ基金。先進国、相次ぎ拠出表明(2001,6,27,朝日)
 02、基金に集い、基金に醵金した人々(2002,9,7, 朝日。大沼保昭)

 03、このまま行ったら破綻するという意見が声高である時、若者が掛け金を拠出するわけがないのである。(2003,11,17, 朝日)

 04、この大きな災害によって失われた教育の犠牲者たち~の霊をなぐさめんがために、全国の教師その他から32万円の醵金を得て、~教育塔を建設し~。(石川達三「人間の壁」、1956~58年)