すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【カラバオカップ 分析】遠藤航は環境に適応したか? ~リヴァプール 3-1 レスター・シティ

2023-09-30 05:00:00 | イングランド・プレミアリーグ
「3つのスピード」に慣れる必要がある

 カラバオカップで「レッズの遠藤航が凄かった」と絶賛する声が上がっている。で、試しにその試合を観てみることにした。

 結論から先に言えば、遠藤はまずプレミアリーグのプレースピードとボールスピード、判断のスピードという「3つのスピード」に慣れる必要がある、という印象をもった。それには一定の時間がかかる。しばらく実戦をこなし続ける必要がある。

 この感想は、彼がプレミア・デビューした試合を観たときとまったく同じだ。なにしろプレミアリーグはこれら3つのスピードがとてつもなく速い。

 で、実際にゲームを観てみると、遠藤の周りの空間だけがぽっかりと「異空間」になっている感じがする。つまり周りの選手たちとどこか次元が違う。

 その違いとはいったい何か? を分析すると、おそらく上記した3つのスピードだろうと考えられるわけだ。

オン・ザ・ボールの評価をひっくり返せ

 ただし3つのうち「ボールスピード」というのは彼自身のパスのことではない。彼の縦パスは十分に強くて速い。そうじゃなく、彼の周囲を飛び交う回りのボールスピードに慣れるという意味だ。

 それと同じで、周りの選手はとてつもなく速い判断をし速いプレイをしている。そんな環境に遠藤は適応する必要があるということだ。

 また遠藤という選手はボールタッチ時のフォームがあまりスムーズじゃない。ハッキリ言えばモーションがぎこちない。ゆえにオン・ザ・ボールになると見劣りして損だ。

 いや彼はやることはやっているので、単に見栄えの問題なのだが。ゆえにその分は差し引いて観る必要がある。

 そのオン・ザ・ボール時のギクシャク感ゆえ、おそらく初めて彼を観たヨーロッパの記者や評論家はそのぶん辛く採点するだろう。想像はつく。だが繰り返しになるが、その分は差し引いて観る必要がある。

 現地のジャーナリストにすれば、ところが観ているうちにそんな選手がいいパスを出し、いいアシストを続けて行く。で、「なんだ、彼はいい選手じゃないか」に変わり、評価が180度覆る。そういうものだ。

前半は試合に入れてなかった

 さてカラバオカップの3回戦、リヴァプール対レスター・シティ(2部)戦は現地時間9月27日にレッズのホームであるアンフィールドで行われた。アンカーの遠藤はスタメンで90分間フル出場した。

 彼は前半、あまり試合に入れてなかった。その証拠に開始1分、いきなり遠藤は背後からボールを奪われる。だが5分には右サイドに初めてのパスをつけ、リターンをもらってシュートしている。

 試合は早くも3分にレスターのマカティアーが裏抜けから先制点を取った。ゲームは立ち上がりからオープンな展開だ。ボールが一方のボックスから、もう一方のボックスまで直通で移動している。

 遠藤は2本ほど、浮き球のパスを出した。だが彼のキックモーションを見ると、強度やバネは明らかに周りの選手のほうがありそうに見える。

 そのため彼がボールをもつと今にも奪われそうに感じるーー。これが冒頭に書いた「差し引いて観るべきポイント」だ。実は奪われそうでも何でもないのだが、おそらく彼を見て酷評したという欧州のジャーナリストたちはそう感じたのだろう。

スペースを埋めて時空の支配者になる

 ゲームは後半に入った。遠藤は相変わらず最終ラインの前にあるスペースを埋め、敵のチャンスを封じるポジショニングをしている。真ん中にどっしり構え、空間を殺している。もちろん時にはサイドへも出張するが、基本はセンターである。

 リーグで不安定な試合を繰り返す今のリバプールには、こういう安定的なポジショニングをする生粋の6番の選手がいないのだ。遠藤はどちらかといえば明らかにマクアリスターよりソボスライに近いが、彼とも違う一層の守備へのこだわりがある。

 また一方で遠藤はユルゲン・クロップ監督から、より前に関わるパス出しを求められてもいる。そのため彼はボールをもらうと、この試合では右前のサイドへダイアゴナルな浮き球のパスをよく出していた。さて問題のそんな48分、リバプールの同点弾の場面だ。

 このときレッズの面々はいったん敵ボックス内へ攻め込み、そこから相手ボールに変わった局面だった。で、(敵の)右サイドから出た(クリアのような)長い縦パスを遠藤が胸トラップでカットし、寄せて来たフラーフェンベルフにボールを預ける。

 そのフラーフェンベルフはボックス手前でガクポにラストパス。ガクポは左足でトラップし、右足でゴール右に叩き込んだ。このゴールの起点になったのは、遠藤によるボール奪取からのパス出しだ。つまり彼がカウンター攻撃の指揮者になったのである。

 その後、遠藤は(前半と違い)ゲームに入れたようだった。彼はボールを後ろ向きで受けて急反転し、数回の強い縦パスを出した。ボールスピードは十分だ。またワンタッチでも自在に鋭い縦パスをつけている。

 遠藤といえばデュエルばかりが取り沙汰されるが、彼は攻めの起点になるカナメのパス出しに優れていることがわかる。しかも日本人選手が大好きな横パスやバックパスじゃない。速いカウンターを生み出す強い縦パスを武器にしているわけだ。

遠藤の初アシストはこぼれ球の回収から

 さて本日の大団円、70分の逆転弾だ。

 遠藤はこぼれ球を拾い、右斜め前のボックス手前にいたソボスライに速いパスを出す。受けたソボスライは右足でワントラップするや、瞬時に強烈なゴラッソをゴール左上に突き刺した。ボールは唸るようにスッ飛んで行った。

 これでリバプールは2-1とリードし、89分にもディオゴ・ジョッタがとどめの一発を決める。3-1でレッズの勝利である。

 遠藤は全3ゴールのうち2点に関与した。1回目はボール奪取から、組み立ての出発点になるパス出し。2回目はこぼれ球を回収し、決定打に繋がるボールを入れた。初アシストだ。

 重要なのは、どちらも自分たちの最終ラインからビルドアップされてきた安全なボールを受け渡したわけじゃない点だ。遠藤はイーブンまたは相手ボールを奪い、ゼロから自分の力で中盤に杭を打ち立てた。「ここから攻めるぞ」というスタート地点になった。

 そんな彼は速いカウンター攻撃の申し子だといえる。まさにレッズにぴったりだ。

 だが彼はまだまだこんなもんじゃない。ゴールに関与したのは2回だったが、現にこの試合でも何度も縦パスを通していた。試合に出れば、もっと継続的で決定的な活躍ができるはずだ。

 遠藤がプレミアリーグの「3つのスピード」に慣れ、自分の感覚を完全にリフォームしたとき。おそらくヨーロッパのジャーナリストたちは、とんでもない怪物を目の当たりにすることになるだろう。

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【プレミアリーグ 23/24 第6節】ヌニェスの超絶ボレー弾でレッズが激勝する 〜リバプール 3-1 ウエストハム・ユナイテッド

2023-09-29 05:00:45 | イングランド・プレミアリーグ
ヌニェスをレギュラーへ押し上げる一発

 プレミアリーグ第6節が9月24日に行われ、リバプールがホーム・アンフィールドでウエストハムと対戦した。試合はCFダルウィン・ヌニェスの超絶弾などでリバプールが3対1で勝利した。彼らは前節に引き続き冒頭から不安定だったが、次第にゲームをリードし持ち前の得点力で押し切った。

 試合のハイライトは後半に来た。60分だ。

 レッズのアンカー、マクアリスターが敵陣中央から絶妙な浮き球の長い縦パスを入れた。前線にいるダルウィン・ヌニェスは、頭上を飛ぶボールを見上げながら着地点に回り込む。そして自分の前に落ちてくるボールをうまく右足の甲に乗せ、ワンタッチで豪快なボレーシュートを放つ。ボールは凄まじい勢いでゴール左に飛び込んだ。

 チームを2-1とリードさせる決定的なゴラッソだった。非常にむずかしいシュートだ。しかもヌニェスはひとつ前で惜しいチャンスを逃しており、レギュラーに生き残れるかどうかの分かれ目だったーー。

 試合を決めたこのアクロバチックな美技を見て、クロップはさぞほくそ笑んでいたに違いない。おそらくヌニェスはこれでレギュラーへの切符を取っただろう。

マクアリスターがまたミスをする

 試合の滑り出し、リバプールは前節を思わせる不安定さだった。開始早々の6分にマクアリスターがボールを奪われ、カウンターを食らう。ウエストハムにシュートまで行かれた。GKアリソンが奇跡的なセーブをしたからいいようなものの、完全な1点ものだった。彼はどう考えてももっと前のポジションがいい。

 続けて8分にも(レッズの)左サイドからアーリークロスを入れられ決定機を作られる。それだけじゃない。ボールを保持した右SBのジョー・ゴメスが、自陣で足裏を使ったトリッキーな技で敵を交わそうとしてボールを取られる。DFなのにあまりに軽すぎるプレイだ。次々に起こるピンチの連続。まるで前節の再現ビデオを見ているみたいだった。

 そんな流れを吹き飛ばそうとするかのように、レッズが前4枚でウエストハムの最終ラインにハイプレスをかける。ハイプレスはいまやプレミアリーグの風物詩だ。

 さてピンチのあとにはチャンスあり。前線のヌニェスが自分へのパスをヒールでそらし、右WGのサラーにパスした。そのサラーがボックス内で足をかけられ、PKになる。まだ前半の16分だ。サラーがPKを蹴りゴールやや左に決める。先制点が取れた。立ち上がりのミスで先に失点するのとでは天と地の違いだ。やれやれである。

 リバプールのフォーメーションはいつもの4-1-2-3だ。スタメンはGKがアリソン。最終ラインは右からゴメス、マティプ、ファン・ダイク、ロバートソンが構える。アンカーをマクアリスターが務め、右IHはソボスライ。左IHがカーティス・ジョーンズ。3トップは右からサラー、ヌニェス、ルイス・ディアスである。

 対するウエストハムは4-2-3-1だ。

ハマーズがダイビングヘッドで同点に追いつく

 左IHのカーティス・ジョーンズは、本当にあちこちよく動く。というか「チョロチョロうろつく」。バランスを何も考えず、右サイドにしばらく行ったりしている。チーム全体が不安定なだけに気になってしようがない。せめて試合が落ち着くまで持ち場を守ってはどうなのか。

 またマクアリスターも前節に引き続き、トラップひとつ取っても四苦八苦している感じだ。一方、右SBのゴメスは一列上がって中へ絞り、また偽SBをやっている。

 CBのマティプはドリブルで持ち上がるプレイも見せる。さすがにポゼッションではリバプールが上だ。それに対しハマーズがカウンターをかける流れで試合は進行した。

 そんなこんなで40分だ。ウエストハムに4〜5人で攻められ決定機を作られる。それが終わると今度は彼らの右CKだ。試合はまだどっちに転ぶかわからない。

 続く42分。ハマーズのパケタが長い縦パスを入れて前線でMFボーウェンが落とす。受け手のFWアントニオがワンタッチで右サイドへ展開。オーバーラップしたSBコーファルが右からクロスを入れ、ボーウェンがダイビングヘッドで凄いゴールを決めた。1-1。同点だ。

 だがリバプールもチャンスを作る。

 45分、ソボスライが左ボックス外から山なりのボールを入れ、ジョーンズがゴールするがオフサイドだった。47分にもレッズは好機を作る。サラーから右足でパスを受け、ヌニェスがフィニッシュしたが入らない。きわどかった。

 前半が終わった。ポゼッション率はレッズが65%、ウエストハム35%だ。ハマーズはこれで1-1の同点なのだから効率がいい。

途中出場のジョッタが止めの3点目を取る

 試合は後半に入った。

 レッズの攻撃だ。まずソボスライが縦にボールを入れてサラーに送る。彼が折り返し、ヌニェスがシュートを打つが外れる。彼はこういうところをしっかり決めて行かないとレギュラーは取れない。と、思った次のプレイで、なんと冒頭に紹介したすごいボレーシュートをヌニェスが叩き込んだ。どうやら聞こえたらしい。2-1だ。

 それにしてもソボスライのポジショニングすばらしい。動きはするが、基本どっしり中央に構えて安定感がある。頼もしい。

 73分、ウエストハムのアーリークロスはきわどかった。シュートはできなかったが、局面的にはハマっていた。

 続く77分。1点リードしたリバプールは左IHのジョーンズを下げた。代わりにバイエルンからやってきた期待の新顔、ライアン・グラフェンベルフを投入する。そして81分にはCFヌニェスに代えてコーディ・ガクポを、左WGルイス・ディアスに代えてディオゴ・ジョッタを入れた。

 85分。レッズは左CKをファン・ダイクが頭で落とし、入ったばかりのジョッタが右足でゴールした。3-1のリードだ。その2分後、クロップはマクアリスターに代えて遠藤航を投入。「締め役」というよりプレミアリーグに慣らせるためだろう。

 かくてゲームセット。リバプールはベストではないながらもプレミア5連勝だ。デキはともかく確実に勝って行く。これがでかい。6試合を終えて5勝1分け、勝ち点16の2位である。首位シティとは勝ち点2差だ。このままついて行こう。

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【プレミアリーグ 23/24 第6節】息もつかせぬトランジションの激闘 ~アーセナル 2-2 トッテナム・ホットスパー

2023-09-28 05:08:57 | イングランド・プレミアリーグ
切り替えの速さを競う差し手争い

 プレミアリーグ第6節で現地時間24日、アーセナルとトッテナムが対戦した。アーセナルのホーム、エミレーツ・スタジアムで行われるノースロンドン・ダービーだ。ともに今節まで負けなしで快進撃を続けるチーム同士の好カードになった。

 この日、展開されたのはボールをもつチームがゆったりとビルドアップし、他方、敵は自陣に引いて待ち構える、などというのんびりしたサッカーではない。

 互いにボール保持側の敵陣深くに侵入してハイプレスを掛け合い、奪った、奪われたの殴り合いから、切り替えが速かった方がスピーディーにゴールを陥れるスタイルだ。

 このトランジションの戦いを仕掛けているのはアーセナルだが、スパーズも堂々と受けて立ち、差し手争いをしている。そのため展開が目まぐるしく、息もつけない。

 いわゆるジェットコースタームービーのような壮絶な世界が展開された。

 盛んにプレスをかけたのはアーセナルだったが、彼らの得点はオウンゴールとハンドによるPKの2点だ。これに対しトッテナムは新加入の10番、MFジェームズ・マディソンとFWソン・フンミンが重要な場面で決定的な仕事をした。ソンはこの日2ゴールである。同じ2点でもインパクトと価値がちがう。

 ミケル・アルテタ監督のアーセナルは2度もリードしながら、その優位を生かせなかった。恩師であるペップのチームに逆転優勝された、昨季の惨劇が思い出される。果たしてアルテタは「持ってない」のか。選手交代の当否も含め、疑問が残る一戦だった。

26分に先制し攻勢を強めるアーセナル

 立ち上がりからアーセナルは、相手最終ラインに激しくハイプレスをかける。マンツーマンでハメに行く。敵GKにも脅しをかけた。さすがにスパーズはやりにくそうだ。だが赤いシャツのチームがボールを握ると、今度はトッテナムがハイプレスを食らわす。

 ガナーズは敵陣の高い位置でボールロストすると、リトリートせずにその場でカウンタープレスをかける。キックオフから17分まで、彼らはたっぷりトッテナム陣で過ごした。かと思うと19分には、またハイプレスを敢行する。

 そんな彼らの努力が実ったのは26分だった。右WGのサカがボックス右からファーを狙い、シュートを放つ。反応したDFクリスティアン・ロメロのオウンゴールを誘った。アーセナルが先制だ。この日、サカは非常に攻めに効いていた。

 また29分には、彼らは自陣でボールを奪い返して遠路、フィニッシュまでたどり着いた。さらに32分にはスパーズのGKグリエルモ・ビカリオがビルドアップしかけた所を、ジェズスがボックス内でボールを奪いシュートまで行った。

 37分にもサカがボールを持ちこみ、MFウーデゴールがフィニッシュしたがこれはGKの正面を突く。もうイケイケだ。彼らは自陣でのボール保持時、左SBのジンチェンコが一列上がって中へ絞り偽SB化する。ビルドアップへの参加と、被カウンター時のカバーリングのためだ。

 そして4-3-3のフォーメーションから3-2-5に変化してビルドアップする。守備時4-4-2だ。一方、4-2-3-1のトッテナムは2-3-5でビルドアップする。こちらは守備時4-5-1である。

ソン・フンミンが同点弾を決める

 潮目が変わったのは前半の終盤だった。

 ソンからパスが出て、ブレナン・ジョンソンがシュートを放つ。アーセナルGKダビド・ラヤがすんでのところでセーブした。これが予兆だった。

 かくて42分。スパーズのマディソンがボールを保持しながら鋭くターン。そのまま敵ボックス内へ切り込みマイナスのクロスを入れる。ソンがワンタッチでゴールした。1-1。同点だ。

 一方、ガナーズは前半のアディショナルタイムになってもハイプレスを続けた。立ち上がりだけハイプレス、というのはよく見かけるが、こんなに長いのは初めて見た。

 それに対しトッテナムは意に介さず、あくまでグラウンダーのボールで丁寧にビルドアップしようとする。

 ここまで5試合。今季、スコットランドから転勤してきたアンジェ・ポステコグルー監督が見せるサッカーは、最終ラインからショートパスを素早く繋いで組み上げるスタイルだ。ハイプレスが来ようと自分を曲げない。敵の圧を器用によけて隊列の完成をめざす。

 逆にいえばアルテタのチームがここまでハイプレスにこだわるのは、おそらくスパーズがバックラインから立ち上げるグラウンダーのボールによるビルドアップを根こそぎ寸断するのが狙いなのだろう。

 タヌキと狐の化かし合いである。

ガナーズが再びリードもソンの2G目でまた同点に

 後半の立ち上がりと同時に、アルテタはMFデクラン・ライスに代えてジョルジーニョ、またMFファビオ・ビエイラを下げてカイ・ハフェルツを投入した。

 すると49分にスパーズのゴール前で混戦になり、ボールがロメロの手に当たったとしてVARの結果、PKになる。キッカーのサカが冷静にど真ん中に決めた。GKビカリオは(サカから見て)左に飛んで空振りした。2—1。これでアーセナルがまた1点リードだ。

 だがその数分後にはたちまちトッテナムが追いつく。ジョルジーニョが自陣でマディソンにボールを奪われ、カウンター発動。ラストパスを受けたソンがワンタッチでゴール左へ流し込んだ。2-2だ。

 アーセナルは60分になってもハイプレスを続けている。一方、64分に今度はトッテナムがハイプレスで敵を追いかけ回すーー。いたちごっこは終わらない。

マディソンとソンのコンビがガナーズを追い詰めた

 試合はこの調子で異様なテンションのまま引き分けに終わった。スパーズはアタッキングサードで威力を発揮した2アシストのマディソンとソンのコンビが、ガナーズを苦しめた。バイエルンへ去った元エースのケイン不在を感じさせないチーム・パフォーマンスだった。

 一方、ハイプレスで主導権を握ったアーセナルは、2度リードしながら試合を決めることができなかった。特にジョルジーニョのミスから失点したのが痛かった。このブラジル生まれのイタリア代表には受難の日だった。

 またアルテタ監督は77分早々にジェズスを下げた一方で、コンディションに変調が見られ足を引きずるサカを後半アディショナルタイムまで引っ張った。疑問の残る采配だ。ガナーズはどうも若くてモロい印象がぬぐえない。

 さて、これで両者は奇しくも6試合を終えて4勝2分けの勝ち点14同士だ。得失点差でスパーズが4位、ガナーズが5位に鎮座している。

 負けなしの2チームの上にまだ3チーム(シティ、レッズ、ブライトン)が君臨しているのがいかにもプレミアリーグらしい。この拮抗した上位争いにはまったくゾクゾクさせられる。

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【セリエA 23/24 第5節】ノーガードの壮絶な殴り合い 〜ラツィオ 1-1 モンツァ

2023-09-27 05:16:49 | その他の欧州サッカー
ラツィオが早々に先制するが簡単じゃない

 セリエAでは現地時間9月23日に、スタディオ・オリンピコで第5節が行われた。ホームのラツィオがモンツァと1対1で引き分けた。モンツァは21/22シーズンにセリエAへ初昇格し、昨季は11位で終えている。今季も中位にいるチームだ。

 サッリ大将は鎌田大地の代わりにマテオ・ゲンドゥージをスタメン起用してきた。彼らは試合開始12分にPKをもらい、きっちり決めて1点リード。この時点では楽勝かと思われた。だがハイプレスをかけては陣内になだれ込んでくる敵の攻撃に手を焼き、30分台から早くもノーガードの殴り合いになった。

 36分にモンツァが虎の子の1点を取る。たがいに中盤のプレスが消失し、ボールは一方のボックスから他方のボックスへと速達で往復する。後半も目が離せないそんな展開が続き、かくてタイムアップ。あの試合内容でよく1対1で終わったなぁ、というゲームだった。

 ラツィオのフォーメーションは今日も4-1-2-3だ。守備時4-1-4-1に可変する。立ち上がりから彼らはハイプレスで前への圧をかける。5人でガンガン行く。外切りのプレッシングをしている。対するモンツァは3-4-2-1だ。

 ラツィオのスタメンは、まずGKが先日チャンピオンズリーグで奇跡のヘッドを決めた英雄イバン・プロベデル。最終ラインは右からアダム・マルシッチ、パトリック、アレッシオ・ロマニョーリ、エルセイド・ヒサイが構える。

 中盤はアンカーをダニーロ・カタルディが務め、右IHはマテオ・ゲンドゥージ、左IHにルイス・アルベルトが入った。3トップは右からグスタフ・イサクセン、チーロ・インモービレ、マッティア・ザッカーニが並ぶ。

ガリアルディーニのゴールでモンツァが同点に追いつく

 まず12分。ラツィオはザッカーニがボックス内で倒されてPKをもらう。これをキッカーのチーロ・インモービレが落ち着いて決めた。先制だ。だがこのときローマのチームは今日が「大変な日になる」とは想像もしなかっただろう。

 彼らの先制点に対しモンツァも黙っちゃいない。ハイプレスで攻勢をかける。彼らはきっちりビルドアップして3-2-5で敵陣へ嵐のように飛び込んで行く。前半はむしろラツィオよりボールを保持している。そして攻撃に出ると常に4〜5人が敵ボックス内に侵入する。激しいチームだ。

 ラツィオは高い位置でボールを失うと、局面によってはリトリートせずにカウンタープレスをかけている。それ以外はミドルサードで4-1-4-1の組織守備だ。さらに押し込まれるとディフェンディングサードまで下がり、最後はボックス内まで降りて守備をする。かつてのサッリ・ボールなる優雅なパスワークは見られない。今日も単なるフィジカルなサッカーだ。

 36分、モンツァが7人で敵ボックス内へ殺到した。右サイドからクロスを入れ、CMFロベルト・ガリアルディーニが左でゴールした。同点だ。さあおもしろくなってきた。

 追いつかれたラツィオは自陣に2バックを残し、敵陣へ押し込む。そしてボールを失うと、今度はモンツァがロングカウンターをかける。めまぐるしい展開だ。攻撃時、ゲンドゥージは積極的に敵ボックス内まで入り込んでいる。

 いまや両軍、中盤のプレスが消失し、一方のゴールから片方のゴールへとボールが盛んに行き来する状態だ。すっかり台所に火がついている。忙しいことになってきた。そんな47分、モンツァが一気に押し込みダイビングヘッドも決まらず。

インモービレの一発がポストに当たる

 後半に入っても、両者の中盤のプレスは消えたままだ。モンツァはサイドチェンジも交えてパスを繋いで攻め込んで行く。お次はラツィオが完全に敵陣を占領した。ハーフウェイラインの敵陣側に2人の最終ラインを置き、ハーフコートマッチ化して攻め立てている。

 そして逆にボールを失うと、相変わらずハイプレスをかけまくる。これを嫌ってモンツァがボックス内からロングボールでクリアした。

 55分。サッリ親分はゲンドゥージに代えてマティアス・ベシーノ、グスタフ・イサクセンに代えてフェリペ・アンデルソンを投入する。続く57分には、ピッチにボールを叩きつけたCFインモービレのシュートがポストに当たる。惜しい。

 かたやモンツァは押し込まれると、もはや5〜6人がボックスに入って守備している。かと思うとチャンスになれば最前線に5人、中盤に2人の計7人を敵陣へ送迎する。壮絶なサッカーだ。60分頃から彼らは前線でボールを失うと、ディフェンディングサードまでリトリートして組織的守備をするようになった。

 71分、モンツァは敵陣に7人を送り込み、強烈なシュートを放つがGKプロベデルが辛うじてセーブする。さらにオープンな展開になってきた。

モンツァの攻撃は暴力的だ

 74分。モンツァは自陣に3人の守備者だけを残し、全員が敵陣へ殺到する。フィニッシュしたが得点ならず。その1分後にも、彼らは敵ボックス内になんと7人を送り込んでシュートを放つがオフサイドに終わる。

 モンツァの攻撃が暴力的なパワーを持つのに対し、ラツィオの攻めはお上品だ。迫力がない。パスを繋ごうとするが思うように前進できない。80分、サッリの配下たちは8人を敵陣に送り込んで攻めたが、効果をあげられなかった。むしろモンツァのカウンターを誘発していた。

 82分以降、ラツィオはハーフウェイラインの敵陣側に2バックを置いて全員が敵陣へ詰めかけた。だが相手チームはボックス内に人垣を作って押し戻す。続く第2波も防がれ、今度はモンツァの攻撃になる。息もつかせない。

 後半アディショナルタイムに入った。ラツィオは完全に敵陣を包み込みあとはゴールするだけなのに、なんと敵陣内で2度もバックパスしている。なんだか状況を把握してない。もはやモンツァは「引き分けでよし」な感じで跳ね返す。かくてタイムアップ。息詰まるせめぎ合いは勝者なしに終わった。

 これでラツィオは5試合を終え、1勝1分け3敗の勝ち点4。なんと16位だ。なかなかラツィオは地獄の底から抜け出せない。

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【ラ・リーガ 23/24 第6節】久保が止まらない、開始2分に先制弾 〜レアル・ソシエダ 4-3 ヘタフェ

2023-09-26 05:03:33 | その他の欧州サッカー
今季4ゴール1アシストの実力

 ラ・リーガでは9月24日に第6節が行われ、ホームのレアル・ソシエダとヘタフェが対戦した。試合は二転三転の末、ラ・レアル(ソシエダの愛称)が4点を取り勝利した。

 驚いたのは、この日も4-3-3の右WGで先発した久保建英だ。なんと試合開始2分だった。

 ドリブルする同僚の右IHブライス・メンデスの右側に久保が併走し、右から回り込みスルーパスを受けた。そして瞬時にワンタッチで左足を一閃する。ボールは弾けるように跳び、ゴール左のサイドネットに突き刺さった。敵GKはまったくのノーチャンス。先制ゴールである。

 たった開始2分で、この日ヘタフェのボルダラス監督が仕込んできたシナリオは見事に吹っ飛ばされた。これで久保は今季のラ・リーガ6試合で4ゴール1アシストだ。開幕から6試合連続でスタメン出場しており、チームの信頼も厚い。

 ただし後半に入ると時間の経過とともに、例によってバテて試合から消えるのは大きな課題だ。久保は以前に書いた「4つの欠点」をせっかくクリアしたのだから、スタミナ(運動量の維持)という新たなテーマに取り組んでほしい。

今日も2人がかりのマークがつく

 久保にはこの日も2枚のマークがついた。今日もダブルチームの御一行様がお出迎えだ。

 9月19日(日本時間20日)に行われた第5節のレアル・マドリー戦、そして20日の欧州チャンピオンズリーグ第1節のインテル・ミラノ戦でもそうだった。試合のたびに、屈強なマーカーが2人がかりで久保をつぶしに来る。

 それでも平気で力を発揮するのが彼の凄さだ。マドリー戦では開始5分に先制点に関与した。続くインテル戦でも、久保はチャンスを作り続けた。だがこの日のヘタフェ戦では先制ゴールを獲ったあと、前半に2点を取られて逆転された。

 そこで先発メンバーをローテーションしていたラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督は、後半13分に主力を3人出してきた。FWオヤルサバル、左IHメリーノ、そしてアンカーのスビメンディだ。

 すると後半16分にブライス・メンデスが、ミトロビッチに足を引っ掛けられるファウルを受けてPKになる。キッカーはオヤルサバルだ。落ち着いて冷静に右スミへきっちり決めた。2-2。同点だ。

メンデスの逆転弾、オヤルサバルのチーム4G目で止めを差す

 このあと後半21分には逆転弾が生まれる。ボックス内にロングスローを投げ込み、敵GKソリアが中途半端に飛び出して空っぽのゴールにブライス・メンデスがヘディングシュートを見舞った。3-2、逆転弾だ。カラのゴールにボールが吸い込まれるあの光景。痛快だった。

 ヘタフェはあんまりパスが繋がらない。ヘンにボールを浮かしてはヘディングしたりしている。そしてファウルを連発して時間を使う。お得意の、のらりくらり戦法だ。おかげで試合は始終ストップし、ラ・レアルの面々はイライラさせられた。試合を観ているこっちがイラつくのだから無理もない。

 だが後半43分。試合を決める美しいゴールが生まれる。スルーパスに抜け出した途中出場のメリーノがワンタッチでオヤルサバルにパスする。受けたオヤルサバルはこの日のチーム4ゴール目を叩き込む。

 このあと後半47分に、ヘタフェが左からのアーリークロスに途中出場のFWラタサがヘディングシュートを決めて1点取ったが、追い上げもそこまで。ソシエダは4-3で逃げ切った。久保はフル出場した。

 これで彼らは、2勝3分け1敗の勝ち点9で8位に上がった。久保の次節の活躍が待たれる。

課題を残した今節の戦いーーインテル戦で見えた選手層の薄さ

 さて「勝っためでたし」では進歩がない。目についた課題にも触れよう。今節はラ・レアルが抱える重大なアキレス腱が露呈したゲームでもあった。

 アルグアシル監督は、今季戦っている欧州チャンピオンズリーグ(CL)との兼ね合いも考え、この日のスタメンを大幅に入れ替えていた。

 例えば彼らが9月20日に戦ったCL第1節のインテル・ミラノ戦では、インテルのシモーネ・インザーギ監督は大幅なターンオーバーを行なっていた。16日にACミランとのミラノダービーで大勝したメンバーから、スタメンを5人も変えてきたのだ。しかも、そのうちFWマルコ・アルナウトビッチや左WBカルロス・アウグストら4人はなんと初スタメンだった。

 だが一方、そのインテルと戦ったソシエダは、17日に行われたラ・リーガ第5節のレアル・マドリー戦とまったく同じメンバーで臨んだ。つまりラ・レアルの選手層の薄さがアリアリと見えてしまったのだ。

 おそらくアルグアシル監督は「これではマズい」と考えたのだろう。で、ラ・リーガの今節はローテーションした。主力のオヤルサバルやメリーノ、スビメンディらをベンチに置いたのだ。

 だが、結果は散々だった。

主力と控えの力が大きくちがう

 久保のナイスゴールで試合の滑り出しはよかったが、ゲームが進むとともにいつものレギュラー陣に代えて起用された面々の力不足が明らかになった。

 最前線のウマル・サディクは、敵を背負ってポストプレイしようとするのだがハマらない。ボールを弾いてしまい、展開することができない。味方と連係した守備もダメで、「網」に穴を開けてしまう。

 またアンカーのウルコ・ゴンサレスは最終ラインからうまくボールを引き出せず、四苦八苦していた。加えてボールを保持した際、タッチ数が多すぎる。で、敵に寄せられ詰まってしまう。いつも途中から出て来るモハメド・アリ・チョも、トリッキーな動きはいいが確実性に欠ける。

 そんなわけで主力が欠けたソシエダは、いったんは久保の個人技でリードしたもののチーム力で劣った。あのヘタフェに前半で早くも2点を取られて逆転された。それを見たアルグアシル監督は、後半13分に温存していたオヤルサバルやメリーノ、スビメンディらを投入せざるを得なかった。

 するとメリーノによって左サイドが生き返り、スビメンディ、ブライス・メンデスとともに中盤の構成力が完全に蘇った。結局、途中から起用された彼らレギュラー陣の力が大きく、同点、また逆転を可能にしたのだ。今節はこれで勝ったからいいようなものの、ラ・レアルの選手層の薄さという問題は今後もつきまとう。

 さて、この問題をいったいどう解決するのか? 長いシーズンだ。ラ・リーガとチャンピオンズリーグを今後もまったく同じメンツで戦うわけには行かない。いつかは「売り切れ」になる。

 ではローテーションした場合、選手に合わせて戦術を変えるのか? それとも何かほかの方法があるのか? ここはアルグアシル監督の手腕が問われるところだろう。

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【J1 2023 第28節】首位・神戸への挑戦権を得るのは? 〜鹿島 1-2 横浜FM

2023-09-25 07:31:21 | Jリーグ
横浜FMが首位と勝ち点1差に迫る

 スペイン帰りの柴崎岳が、スタメンで出るというので久しぶりにJ1を観た。鹿島アントラーズのホームがすごい雰囲気だ。首位戦線が混迷し、なんでも1位のヴィッセル神戸から5位の浦和レッズまで優勝の可能性があるなどと言われている。これは観なきゃ。

 そんなわけで9月24日の第28節、4位の鹿島と2位の横浜F・マリノスが対戦した。鹿島は前半15分に鈴木優磨のヘッドで先制点をあげるが、続く34分には横浜FMのFWアンデルソン・ロペスが同点にする。

 さて次の1点をどちらが取るか? の争いになった。それは横浜FMだった。後半5分にまたしてもロペスが2点目を取り、彼らが逆転勝ちした。

 これで2位の横浜FMが勝ち点3を得て、首位・神戸への挑戦権を得た。神戸の勝ち点55に対し、横浜FMは54。わずか「1」の違いだ。9月29日の第29節で、ホームの横浜FMと神戸が直接対決する。必見だ。

ロペスが2ゴールを上げ逆転だ

 試合開始から鹿島が前の3〜4枚でプレスをかけ、いかに横浜FMにビルドアップさせないか? の戦いを仕掛けている。で、横浜FMは立ち上がりからギクシャクした。かくて前半15分に狙い通り、鹿島が鈴木優磨のヘッドで先制点を取る。

 その流れの中で22分に横浜FMが敵のプレス網を初めて突破し、フィニッシュ寸前まで行く。やっぱりアンデルソン・ロペスだった。次いで30分頃から徐々に横浜FMが敵を押し込み始めた。34分にヤン・マテウスが右サイドからクロスを入れる。これをロペスが左足で押し込んだ。同点だ。

 後半に入ると早々の5分にパスを受けた横浜FMのFWヤン・マテウスが、ボックス内右でシュートを放った。GK早川友基が弾いたところ、その真ん前にいたロペスが右足で詰めた。本日2ゴール目だ。横浜FMがついに逆転した。

 これで完全に横浜FMが息を吹き返した。おかげで鹿島はブロック守備を続けるハメになる。そのブロックの外周でパスを回されている。岩政監督は流れを変えようと後半12分に仲間と垣田を下げ、MFアルトゥール・カイキとMF土居聖真を投入した。

 だが流れはまったく変わらない。逆にだんだん形勢が不利になって行く。同16分、ヤン・マテウスがボックス右から浮き球のパスをゴール前へ入れる。これにナム・テヒが頭で合わせる。だがGK早川が足1本でわずかに防いだ。

鈴木優磨のラストチャンスは潰える

 そして18分。こぼれ球に反応した鈴木優磨がきれいなシュートを放つが、惜しくもゴール右に逸れる。ボールに対する出足と反応がハッキリ横浜FMの方がいい。鹿島は細かい競り合いで負けている。

 29分。横浜FMの低い位置の右サイドから、ライン裏のスペースにダイアゴナルなロングボールが出る。アンデルソン・ロペスが走り、ゴールラインのギリギリでボールを残した。

 そしてロペスがマイナスのパスを出す。場所はゴールの真ん前。これを宮市がワンタッチで打ったが右に外した。日本人だなぁ、というワンシーンだった。

 48分、最後の攻撃だ。鹿島の土居が右サイドの敵陣中央から、相手GKと最終ラインの間を狙ったクロスを入れる。ファーへ流れた鈴木がこれに左足で合わせるが、左のポストを叩いた。万事休す、だ。

 かくて横浜FMは首位・神戸と勝ち点1差に詰め寄った。

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【国際親善試合】なでしこジャパンが格下相手に8G圧勝 〜日本女子 8-0 アルゼンチン女子

2023-09-24 05:00:23 | なでしこジャパン(ほか女子サッカー)
これでは「守備の練習」にならない

 なでしこジャパンが9月23日、アルゼンチン女子代表と親善試合を戦った。試合は日本が8対0で圧勝した。アルゼンチンはFIFAランキング31位、日本は8位と大きく力が違い、そのため大差の結果になった。

 日本は今年7〜8月に行われた女子W杯を3-4-2-1のフォーメーションで戦いベスト8入りしたが、この試合では新たに4-1-2-3にトライした。彼女たちは今年10月のパリ五輪アジア2次予選を控えている。

 相手のアルゼンチンは守備がゆるく日本のSBは上がり放題。特に左SBの遠藤純はMFのようなポジショニングでプレイしていた。攻撃時には両SBを高く構えて幅を取る、ということだろうが、「ああ、これでは肝心の守備の練習にならないな」と感じた(なでしこのアキレス腱は守備だ)。

 実際、日本は相手を押し込み、ほとんど敵陣でプレイしていた。

 アジアの予選では日本が圧倒するから守備の練習はいらない、ということだろうか? だがそんな近視眼的な考え方には賛同しかねる。常に世界のトップ・オブ・トップを視野に入れて強化すべきだ。ならば日本はすでに攻撃面では十分いいのだから、まず手つかずの守備にもっと手を入れトータルでレベルアップしたいのだが……。

世界基準とアジア仕様のちがい

 もちろんアジア仕様の戦いがあることは承知している。そのための攻撃的な4-1-2-3採用なのだろうな、という想像もつく。特にこの日、アンカーに起用された熊谷紗希のワイドな機能の仕方を考えれば、「なるほどな」とは思う。

 アルゼンチンは4-4-2でキックオフを迎えたが、今日の攻撃的な日本とその新フォーメーションを見て途中で4-3-2-1に変えてきた。いわゆるクリスマスツリーだ。ボランチ3枚で守備が堅い。

 アジアでも日本の対戦相手は守備を固めてくるはずなので、その点ではいいシミュレーションになった。だがこの試合は本当に意味があったといえるのだろうか?

 今日は対戦相手との力関係でいくらでもゴールは取れるだろう。だが相手は関係なく自分に厳しくやる必要がある。自らの課題を見つけ、そこを修正しながら自分たちの細部を詰めて行かなければ始まらない。その意味では疑問の残る試合だった。

 日本のスタメンはGKが平尾知佳。最終ラインは右から清水梨紗、高橋はな、南萌華、遠藤純。中盤では熊谷がアンカーを務め、右IHは長谷川唯、左IHは長野風花。3トップには右から猶本光、田中美南、宮澤ひなたが入った。

強くて速いインサイドキックのボールがほしい

 例えばこの試合を観ただけでも、課題は山とある。

 序盤で右に開いたFW田中美南がサイドチェンジしようとしたが、ボールが逆サイドまで届かない。思わず目をこすった。遠藤はトラップが大きくなりボールロストする。まるで20年前の男子代表を見ているかのようだった。

 その当時、「日本人選手は一発でサイドを換えられない。いったん中央の選手を経由しないとサイドチェンジできない」などと問題になっていたが、久しぶりにそんな昔話をなつかしく思い出した。

 いちばん気になるのはボールスピードだ。

 まず、これは彼女たちのインテンシティ(プレー強度)が高くないこととも関係しているが、全体になでしこジャパンはボールスピードが決定的に足りない。インサイドキックのボールが「てん、てん、てん」とゆるく弾みながら転がるのではダメだ。あれでは密集地帯を通せない。スパン! と瞬時に味方の足元に届く速いボールを出したい。

 例えば女子W杯ではイングランドやスウェーデン、オーストラリアなど上位に入った各国女子代表は、例外なくインサイドキックで目にも止まらぬ強いボールを出していた。まずそこから始める必要がある。

左SB遠藤純はサイドのレジスタだ

 ただ選手個々を見れば非常にいいものを持っている。だからこそチームとしての改善点が気になるのだ。

 例えば選手別では、遠藤は攻撃面は非常にいい。高い技術を持っている。正確無比でゲームを動かすキーパスが出せる。最終ラインのレジスタだ。オーバーラップしてのプレーが特によかった。

 レジスタ的な機能は時代とともにかつてのピルロのようなアンカーに降り、今では最終ラインにまで降りて来ている。それだけサッカーは攻撃的になったのだ。

 また熊谷のアンカーもハマっていた。ボールを左右中央に振り分け、全体のコンダクターの役割をする。彼女がいままでセンターバックでやっていた組み立ての仕事を、一列上がってやっているような感じだ。彼女のアンカー機能により、いっそうチームが攻撃的になった。

 一方、猶本は第二の全盛期を謳歌しているようなプレーぶり。またこの日2ゴールの長谷川はドリブルも織り交ぜ、いつもより攻撃的なプレイを見せた。敵を欺くここぞのボールコントロールなど、ひとクラス違うさすがのプレーを披露した。

 女子W杯で得点王になり、マンチェスター・ユナイテッドWFCへ移籍の宮澤ひなたはどんなプレイをするのかな? と思って観たが、この試合ではいまいち冴えが見られなかった。前半45分の弱いシュート、あれはない。後半3分にもチャンスを迎えたが、なぜあそこでワンタッチで打たなかったのだろうか。

途中出場で2GのFW清家貴子がすごい

 さて得点シーンは書き切れないが、4つのゴールが印象に残った。まず前半2分の1点目だ。田中美南が前線の右サイドで敵DFが犯したボールコントロールのミスを見逃さず、ボールを奪いボックス内からシュートを決めた。抜け目のないゴールハンターという感じだ。

 次は同25分の3点目だ。左の遠藤がクロスを入れ、CB高橋が飛び込んで倒れながらヘッドで押し込んだ。なぜCBの高橋があそこにいるの? という意表を突くゴールだった。彼女の機敏な動きはすばらしい。

 続いて後半16分の5点目である。アンカー熊谷からの縦パスを受けて途中出場のFW植木理子がポストプレイ。複数の守備者に寄せられボールがこぼれるが、途中出場のFW清家貴子がすかさず拾って右足で詰めた。彼女は一部のスキもなく、ピッチを見張っているようだ。

 植木の堂に入ったポストワークと、清家の鋭い動きが目を引いた。清家は同47分にも、ボックス手前で敵GKの頭上を抜く山なりのシュートを放ち8点目を獲った。ナイスアイディアだ。

事情はわかるがマッチメイクに疑問が残る

 なお先日、MF長谷川唯がメディアにコメントを求められた映像を観たが、彼女は「今回の試合は女子W杯で出た課題を修正するというようなゲームではない。徹底的にボールを保持して攻撃する試合だ」という意味のことを発言していた。でもそれって意味あるの? と感じる。まあ彼女は組まれた試合をこなすだけなのだから仕方ないが。

 これを言い始めると、そもそもアルゼンチン女子代表とのマッチメイク自体の問題になってしまうが……4日に行われた記者会見で、佐々木則夫女子委員長は「女子W杯で8強入りしたが、別の国から対戦オファーはなかった」と明かした。

 各大陸で五輪予選が開催されているため試合が組みにくい、という事情もあるのだろうが、何か解せない疑問が残るスッキリしない試合だった。

 なお、なでしこジャパンはパリ五輪・アジア2次予選でグループCに入っている。ベトナム、ウズベキスタン、インドと同組だ。今年10月26日から11月1日にかけ、ウズベキスタンで集中開催される。さらに来年2月には最終予選がある。アジアの出場枠「2」を争う戦いだ。

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【攻撃は最大の防御なり】久保が巻き起こす珍現象 ~マドリー戦とインテル戦で起こったこと

2023-09-23 05:04:17 | CL/EL/EURO(世界規模のサッカーリーグ)
久保という存在が相手の力を奪い取る

 レアル・ソシエダがラ・リーガ第5節で経験したレアル・マドリード戦(1-2の逆転負け)、またチャンピオンズリーグ第1節のインテル・ミラノ戦(追いつかれて1-1の引き分け)においては、とても興味深い現象が見られた。

 試合に先発で出ていた久保建英がバテて試合から消える、もしくは途中交代でいなくなると、たちまち相手チームに勢いが出てソシエダは劣勢になった。

 つまり久保という名の「攻撃こそが最大の防御なり」が実証されたのだ。

久保によって敵は自陣に張り付けにされる

 これら2試合とも、ソシエダの対戦相手は久保に2人のマークを付けてきた。その久保が消えるということは、敵の守備の負担が軽くなることを意味する。そのぶん攻撃に力を割ける。

 それだけじゃない。いままでは久保にさんざん攻められ、自分たちは全軍が自陣に張り付けにされていたのだ。そのイヤな相手がいなくなれば、「これからオレたちは攻撃に出られるぞ」ということになる。

 さらには久保が敵に与えていた心理的脅威からも彼らは解放される。すなわち対戦相手は、心身ともに伸び伸びと攻撃に専念できるようになるわけだ。

 ひるがえって味方はどうか? 久保という頼みの綱がなくなり、実質的にチーム力が激しく落ちる。またメンタル的にも「もう彼はいないぞ」と思うと気持ちが下がる。

 何もいいことがない。

久保への警戒が相手の攻撃力を削ぎ落す

 久保がスタメン出場したマドリー戦とインテル戦はどちらも、ソシエダが先制点をあげてリードしていた。だがマドリー戦では後半に逆転負けを食らい、インテル戦でも後半に巻き返されて引き分けに持ち込まれた。

 すなわち久保が消耗して運動量が落ち試合からいなくなる(前者)、もしくは途中交代で試合から退場すると(後者)、とたんに対戦相手が有利になっている。

 これは決して偶然の一致じゃない。

 いま絶好調の久保が途中で消えるということは、将棋でいえば飛車を落とすようなものだ。将棋の対局中にいきなり飛車落ちになれば、相手が有利になるに決まっている。

 それだけ久保という大きな攻撃の駒が敵を守備に注力させ、相手の攻撃力を削ぎ落しているのだ。久保という存在そのものが、黙っていても相手の力をトータルで弱らせる。

 非常におもしろい現象である。

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【CL 23/24 D組 第1節】久保建英がCLデビューする 〜レアル・ソシエダ 1-1 インテル・ミラノ

2023-09-22 05:00:40 | CL/EL/EURO(世界規模のサッカーリーグ)
完全に試合を殺し切れ

 欧州チャンピオンズリーグ2023/24のグループD、第1節が9月20日に行われた。ホームのレアル・ソシエダは前回準優勝したインテル・ミラノと対戦し、激闘の末、1対1の引き分けに終わった。この試合で右WGの久保建英が先発CLデビューした。

 試合開始4分、ソシエダは相手ボールを奪い、カウンターからMFブライス・メンデスが先制点を上げる。以後しばらくインテルにボールを握られたが、その後は彼らに何もさせずに終盤へもつれ込んだ。

 一方、ゴールがほしいインテルは、FWアレクシス・サンチェスらを途中投入し必死の反撃。どん詰まりの87分にFWラウタロ・マルティネスが同点弾を放ち、辛くも引き分けに持ち込んだ。ソシエダが幾度かあった決定機をモノにして試合を殺し切っていれば、まったく違った結果が出るはずだったが。

 彼らは現地時間17日に行われたラ・リーガ第5節のマドリー戦と同じメンバーで臨んだ。一方のインテルは、16日のACミランとのミラノダービーで大勝したメンバーからスタメンを5人も変えてきた。しかも、うちFWマルコ・アルナウトビッチや左WBカルロス・アウグストら4人は初スタメンだ。対照的である。

 マドリー戦と打って変わって、非常に緊張感のある締まった試合だった。ソシエダはマドリー戦とは一転し、大人のサッカーをした。開けっ広げに撃ち合うのではなく、相手の良さをうまく消しながら自分たちだけがおいしいところを取ろうとしている。まるでイタリアのチームみたいだった。またマドリー戦では久保への依存度が非常に高かったが、この試合における久保は11分の1の機能を果たした。

インテルは久保を消しに来た

 ソシエダはラ・リーガでも好調な左ウイングのバレネチェアが利いている。彼らのフォーメーションは4-3-3だ。一方のインテルは3-5-2で、守備時5-3-2に変化する。

 開始4分。中央でボールを保持するインテルのDFバストーニを、ブライス・メンデスとFWオヤルサバルで挟撃した。そしてボールを奪い取り、メンデスが左足でゴールする。早くも先制弾だ。

 だがその得点後は14分までずっとインテルがボールを握り、スペイン人たちがプレスをかける展開が続く。彼らは献身的にボールに圧をかけている。だがいざソシエダが自陣でボールを持つと、今度はイタリアの軍団がすごい勢いでプレッシャーをかけてくる。

 ソシエダは勝つために非常に辛い試合運びをしている。インテルに何もさせてない。今日の彼らはいままで観たことがないほど強度が高い。プレスがよく利いている。

 一方、インテルは久保に細心の注意を払っている。久保がいる右サイドには豪勢な人垣ができ、彼にボールが入るとMFムヒタリアンとDFカルロス・アウグストがダブルチームで守備対応してくる。

オヤルサバルに絶対的な決定機が

 37分、ソシエダの左SBティアニーが超ファインプレーをする。彼らは前線でボールを奪われ、同時に上がっていた数人の選手が置き去りにされたのだ。自陣には広大な無人のスペースがある。完全なインテルのカウンターになりかけた。

 だが、そのときティアニーが弾けるように前へ飛び出しボールを強奪した。すばらしい守備だ。しかも失点を未然に防いだだけでなく、彼はなんとシュートまで行った。

 インテルはラ・レアルにゴール前まで迫られると、自ゴール前に7〜8人の城砦を築いて守備をする。いかにもイタリアのチームらしく、こういうところは徹底している。

 そんな44分、どフリーだったオヤルサバルのシュートがバーを叩く。あれは絶対に決めなきゃいけない。試合後に判明するわけだが、あれさえ決めていれば…………勝ち越し弾になっていた。

 続く45分、久保が抜け出し、スルーパスを受けてワンタッチで左足を振るがGKゾマーに防がれる。前半が終わった。シュート本数はソシエダ8本、インテル1本。ポゼッション率は双方50%づつ。前半、彼らはインテルにほとんどサッカーをさせなかった。

ミケル・メリーノのヘッドがバーを叩く

 試合は後半に入り46分だった。ブライス・メンデスの中央でのFKは実に惜しかった。インテル・ゴールの左を狙ったが、GKゾマーが横っ飛びで辛くもセーブした。48分のチャンスもそうだ。左コーナーキックを久保が蹴る。ミケル・メリーノが頭で流し、後ろのオヤルサバルがヘッドでジャストミートしたが、GKゾマーが倒れながらセーブした。

 また51分には久保にも際どいチャンスが来る。彼が右サイドでボールをもらい、マーカーと1対1になったのだ。久保は左から巻くシュートを狙ったが、軌道は惜しくもゴール上方に外れた。

 54分、インテルはアルナウトビッチに代えてテュラム、アンカーのクリスチャン・アスラニに代えてダヴィデ・フラッテージ、またバストーニを下げてディマルコを投入してきた。メンバー交代後の彼らは、ムヒタリアンがアンカーを務めて中央でボールの配給役をしている。

 続く69分には、久保の左CKからミケル・メリーノのヘッドがバーを叩いた。これもギリギリだった。一方、インテルはムヒタリアンに代えて攻撃的なアレクシス・サンチェスを中盤に投入してきた。ソシエダも活発に選手交代する。オヤルサバルに代えてウマル・サディク、また72分には久保を下げてアルバロ・オドリオソラを入れた。

「攻撃こそ最大の防御なり」を実現していた久保がいなくなり、これでシモーネ・インザーギは攻撃のことだけ考えて指揮すればよくなった。久保のマーカーだった2人も解放され、最大限、攻撃に専念できる。守備の負担が減った。インテルが後半に巻き返し反撃できたのは、こんなふうに久保が消えたことにも一因がある。

ソシエダは試合を殺し切るべきだった

 インテルの79分の一発は際どかった。アレクシス・サンチェスが裏のスペースにスルーパスを出し、受けたカルロス・アウグストが左サイドをドリブルで独走して折り返しを入れる。テュラムが右足のワンタッチでゴールへ叩き込んだ。だがこれはオフサイドだった。

 幾度かの攻撃的な交代の後、明らかにインテルに流れが来ている。それがはっきりしたのは87分だった。右サイドの遠目からフラッテージが打ったシュートがゴール前を抜けてラッキーなスルーパスになる。これを受けたラウタロ・マルティネスが、逆サイドから倒れながら左足ワンタッチで流し込んだ。同点弾だ。

 このあと6分のアディショナルタイムを経て試合は終わった。前半は完全にソシエダのゲームだったが、後半にインテルが選手交代で盛り返しチャンスを作った。彼らは後半アディショナルタイムにも攻めっ気マンマンで盛り上がっていた。その流れからいえば、逆にソシエダは引き分けで済んで幸運だったのかもしれない。

 だが何度もあった絶対的な決定機を確実にモノにしていれば、彼らが快哉を叫ぶ運命にあったことは確かだ。好機にしっかり決め切り試合を殺してさえいれば、インテルがゾンビのように蘇ることはなかっただろう。その意味ではバスクのチームには、いいクスリになったゲームだといえる。

 さて今大会は、果たして世界が久保建英を「発見する大会」になるのだろうか? マークが厳しいなか、それでも久保には輝く義務が課せられている。

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【セリエA 23/24 第4節】ブラホビッチ&キエーザの2トップが3Gで仕上げる 〜ユベントス 3-1 ラツィオ

2023-09-21 09:43:28 | その他の欧州サッカー
鎌田がセリエA初アシストを決めた

 セリエAは9月16日に第4節を行ない、ユベントスがホームのアリアンツ・スタジアムでラツィオと対戦した。ユーベが先に点を取って常に試合をリードし、守っては鉄壁の城塞をゴール前に築いた。

 ユベントスはブラホビッチとキエーザの強力2トップが豪快に計3点取り、あとは5-3-2で手堅く守って一丁上がり。これがイタリアのサッカーだ、と言わんばかりだ。絵に描いたような試合運びだった。

 ラツィオの鎌田大地はスタメン出場して1アシスト。サッリ監督はこの試合で5人を交代させたが、鎌田をいちばん長く引っ張った。期待の現れだろう。だがチームがサッリの描く精密機械のような戦術を実現するには、まだ時間がかかりそうだ。

 ラツィオのフォーメーションは4-3-3だ。GKはイバン・プロベデル。最終ラインは右からアダム・マルシッチ、ニコロ・カサーレ、アレッシオ・ロマニョーリ、エルセイド・ヒサイが構える。

 中盤は右から鎌田大地、ダニーロ・カタルディ、ルイス・アルベルト。3トップは右からフェリペ・アンデルソン、チーロ・インモービレ、マッティア・ザッカーニだ。

キエーザが今季3ゴール目を叩き込む

 ラツィオのフォーメーションは4-3-3。一方。ユベントスは3-5-2だ。サッリのチームは例えばサイドにある相手ボール時、そのボールに対し横方向を極端に絞る。逆サイドの選手がピッチの中央くらいまでボールサイドに寄せている。

 試合開始からほんの10分だった。ユベントスは右サイドからプラスのクロスが入り、ブラホビッチがワンタッチで決めて見せた。早くも先制だ。また14分のユーベの右方からのデザインされたFKは、受け手が完全にフリーになっていた。

 ラツィオは「可能ならワンタッチ縛り」みたいなサッカーだ。少ないタッチ数でパスを繋ごうとするが、ユーベの守備が堅くなかなかうまく行かない。そして24分。ゴール前で鎌田がワンタッチで左足のボレーシュートを見せるが、わずかにボールはバーの上へ。あれを決めていれば、また称賛の嵐だったが…………。

 そして26分だ。ユーベのキエーザが今季3ゴール目を叩き込む。右サイドから流れてきたボールを、左足アウトサイドでゴール左スミぎりぎりにワンタッチで決めた。ボールは唸りを上げながらスッ飛んで行った。すごいシュートだ。2-0になる。

サッリのチームは思案投首だ

 ラツィオはペナルティアーク辺りで縦にクサビのボールを入れるが、パスは繋がっても2本まで。落としたボールが連鎖して行かない。あの落としたボールを受けるとき「あそこで3人目の動きを入れたいんだろうな」などと、やりたいことはよくわかるが…………という感じだ。

 要はパスの受け手に動きが足りない。複数の選手による連動性がなく、なんだか壊れた時計のようだ。サッリの考えるサッカーを実現するには、かなり高度な技術と運動量が必要になる。時間もかかる。

 一方、ユーベはラツィオがゴール前で超ショートパスをワンタッチでパン、パン、パン、と繋いでくるのを読んでおり、ゴール正面のペナルティアーク辺りに密集した頑強な人垣を作ってはね返す。確かにあのゾーンを固めておけば失点しないだろう。彼らの守備はロジカルだ。何しろ2点の先行は大きい。

 かたやラツィオはサッリに与えられた教科書と局面とを照らし合わせながら、思案投首でボールを繋いでいる感じだ。スムーズさがない。それに横パスやバックパスでなく、縦方向への有効なパスが少ない。なんだか「ポゼッションサッカーの成れの果て」という印象だ。

 ラツィオの前半のポゼッション率は66%ある。だが有効なパスが決定的に足りない。

ルイス・アルベルトのゴールでラツィオが追撃

 後半の立ち上がりからラツィオはダニーロ・カタルディを外し、アンカーをニコロ・ロベラに代えた。一方のユーベは金持ちケンカせず。相変わらず守備時5-3-2で手堅い。

 それにしても鎌田はサッリに本当に認められている。この試合でサッリは5人の選手を代えたが、鎌田をいちばん長く引っ張り残り10分まで使っている。

 確かにゴールへ直結する際どい動きをしているのは彼なのだ。その証拠に51分、鎌田が敵ゴール脇のハーフスペースでドリブルを使ってチームを動かした。見応えのある際どいシーンだった。

 ユベントスは相手ボール時、人への寄せ方に強い圧迫感がある。ギリギリまでボールホルダーとの距離を詰める。で、行けると踏んだら、相手のカラダを突き抜けて敵を通り過ぎるような勢いでデュエルを挑む。こんな強度の高い密着守備をされたら、蛇に睨まれたカエルのようになってしまいそうだ。

 そんな64分だった。ラツィオが1点を奪う。ペナルティアークの手前で、鎌田がカンビアーゾに強く寄せてボールを奪った。そのこぼれ球をひろった10番のルイス・アルベルトが、右足インステップでゴール右上スミへ豪快に決めた。鎌田はセリエA初アシストだ。

ブラホビッチがドッピエッタを達成する

 だが続く67分にユーベがとどめを差す。マッケニーが右サイドのハーフウェイライン辺りからブラホビッチのいるゴール前に向け、「ここしかない」という素晴らしいピンポイントのアーリークロスを入れる。

 かたやブラホビッチはゴール前で3対1と不利だったが、胸トラップから左足でひとつ触って余裕をもって右足で決めた。まるで精密機械のような2人の凄まじいゴールだった。ブラホビッチはドッピエッタ(1人で2ゴール)達成だ。そして試合終了である。

 ユベントスは、ブラホビッチとキエーザの2トップが実に素晴らしかった。また残り15分くらいで、途中から入ってきたティモシー・ウェアの守備も見応えがあった。彼はあのジョージ・ウェアの息子。まだ23才だし、伸びそうだ。

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【CL・インテル戦】明日は世界が久保建英を「発見する日」になるか?

2023-09-20 19:18:23 | CL/EL/EURO(世界規模のサッカーリーグ)
チャルハノールが忘れられないように

 いまいちばん気になることは、あのトルコ代表のハカン・チャルハノールは明日の朝に行われるチャンピオンズリーグ・インテル対ソシエダ戦に出るのかどうか? だ。

 彼は日本対トルコ戦後、「小柄で左利きの選手がいたよね。名前は難しいけど」と言ったらしいが、もし明日試合に出るなら「久保建英」という名前をイヤでも覚えて、一生忘れられないようにしてやれよ久保! と思う。

 死ぬまで忘れられないようにしてやれ、と。

 さて明日は、世界が久保を発見する日になるのだろうか?

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【CL 23/24 E組 第1節】奇跡のゴールで崖から落ちずにすんだ 〜ラツィオ 1-1 アトレチコ・マドリー

2023-09-20 09:25:14 | CL/EL/EURO(世界規模のサッカーリーグ)
後半アディショナルタイムの劇的な幕切れ

 欧州チャンピオンズリーグ2023/24が開幕し、9月19日(日本時間20日)にグループEの第1節が行われた。日本代表MF鎌田大地が所属するホームのラツィオ(イタリア)と、アトレティコ・マドリード(スペイン)が対戦した。

 アトレチコが前半29分に先制し、かたや、無得点のラツィオは崖に追い詰められていた後半アディショナルタイムだった。直前に行われた最後のコーナーキックに上がって参加していたラツィオのGKイバン・プロベデルが、なんとクロスに合わせた点取り屋さながらの豪快なヘッドを叩き込む。ラツィオは劇的な幕切れで引き分けに持ち込んだ。彼らは崖から飛び降りずにすんだ。

 グループEは彼らのほかにフェイエノールト、セルティックが同居する。ラツィオは第1節で負けず、勝ち点1を取れたのは限りなくデカい。なお彼らのポゼッション率は51%だった。

 スタメンは鎌田がいつもの右インサイドMFだ。ほかにマティアス・ベシーノがアンカー、10番のルイス・アルベルトが左インサイドMFを務める。

 3トップはフェリペ・アンデルソン、チーロ・インモービレ、マッティア・ザッカーニが先発。最終ラインは右からアダム・マルシッチ、パトリック・ガバロン、アレッシオ・ロマニョーリ、ルカ・ペレグリーニだ。

前半12分に鎌田が初シュートを放つ

 ゲームの立ち上がり。戦術家・サッリ監督が指揮を執るラツィオはうまくボールを運んでいるが、なかなか前線に槍の切っ先が入らない。彼らのフォーメーションは4-3-3。一方のアトレティコは5-3-2だが、彼らは3-1-4-2でビルドアップする。また2-3-4-1のような形からも組み上げる。

 まずラツィオが攻勢を強める。前半12分、ルイス・アルベルトからのダイアゴナルなパスを鎌田がフリックし、インモービレとのワンツーからミドルシュートを放つ。だがGKオブラクが止める。鎌田の初シュートだ。

 この流れで15分頃、いったんアトレチコは完全に自陣に引いた。28分にはラツィオのマルシッチからのアーリークロスに、ルイス・アルベルトがワンタッチで痛烈なシュートを打つ。これはゴール右に外れた。

 続く29分だった。スペインの軍団に思わぬ幸運が訪れる。アトレチコが敵ボックスの左外からボールを落とす。呼応したパブロ・バリオスが強烈なシュートを放つと、鎌田が出した足にボールが当たってゴールに入ってしまった。シメオネのチームが先陣を切って勝ち名乗りを上げた。

 しかしその後も相変わらずサッリの配下がボールを握り、39分頃にはアトレチコを押し込んだがゴールは取れず。パスミスが多くうまく行かない。かたやアトレチコは攻撃が終わるといったん帰陣し陣形を整える。こまめにその作業を繰り返す。かくて前半が終わった。ラツィオの前半のポゼッション率は60%だった。

サッリの辞書にはプレスがない?

 後半に入ってまず47分だ。ラツィオのボールになると、アトレチコはまた完全に自陣に引いた。そしてボールを奪うと遠路、攻め上がってくる。これはこの日のイタリアチーム対策なのか? それとも彼らのゲームモデルなのだろうか?

 ならばラツィオは逆に敵を引きつけている時の自陣でボールを奪い、すぐ速いカウンターをかけたい。なぜならこのとき敵陣はお留守だからだ。だが、なかなかうまく行かない。というよりおそらく彼らにはそういうカウンターのノウハウがないのだ。ああ、また敵に完全に引かれてしまった。

 サッリが考えるサッカーは基本的にはポゼッションスタイルだが、攻めが個人による単発でなかなか形にならない。連動した二の矢、三の矢のメカニズムがなく、チームがどうも機能してない。セリエAのときと同じだ。敵を崩す劇的で有効な動きがない。集団としての機能がまだ未完成なのだろう。

 52分、セットプレー崩れから、ボックス外で鎌田が左足からミドルシュートを放つが入らず。こぼれ球をボックス右のチーロ・インモービレが保持し、一連の流れでパトリシオ・ガバロンが右足を振った。だが右外側のサイドネットに当たって入らない。

 アトレチコ陣でラツィオの選手が複数人数でボールへプレスに行くと、ポーンと一発でサイドチェンジされた。彼らはプレッシングのいなし方に慣れているようだ。続く55分には敵GKのボールをアンデルソンがカットし、ボックス内からインモービレが至近距離でシュートするもGKにセーブされた。

 ラツィオの選手は、敵ボールホルダーの足元へもっとプレスに行けばいいのに行かない。なぜかプレスがゆるい。そして62分にサッリ監督は鎌田に代えて、同じポジションのマテオ・ゲンドゥージを投入した。

カウンターが身についてない遅攻のラツィオ

 66分には、アトレチコのセットプレーから得点機を作られる。グリーズマンが左足で浮き球のクロスを入れたが、ボールは跳ね返された。だがそのこぼれ球を回収したモラタが至近距離でシュートを放つ。しかしディフレクションしたボールはポストを叩いた。

 ラツィオが一度攻められてからのカウンターの場面だ。ボールを奪った。速く攻めたい。だが前にボールを出すところがあるのに出さない。なぜか敵がすっかり帰陣するのを待ってからパスを出している。これがサッリの教えなのだろうか? というよりその教えがまだ未消化で、迷いながらプレイしているのだろう。

 また彼らはアトレチコがディフェンディングサードに組んだ守備ブロックの外周を、「コ」の字型にボールを回している。いちばんダメな攻撃のパターンだ。攻めが停滞している証拠である。そもそもブロックを作られる前に攻めたいし、もっとゴールに向かってワンツーをかますなどして直線的に崩したいのだが…………。

 ラツィオは攻めが遅いので、常に引いた敵のブロックの外側から攻めることになる。もっと速い攻めが欲しい。前からプレスをかけるなど、工夫したい感じだ(それともサッリの辞書にはないのだろうか?)。

ポジティブトランジションが致命的に鈍い

 アトレチコは1-0で勝つつもりだから帰陣が速い。これに対しラツィオは遅攻オンリーなので、いつも敵が全員引いてから作ったブロックを相手にすることになる。これでは不利だ。ハマっている。

 また彼らは撤退守備しかしない。前から行かない。前からハメられる局面はたくさんあるのに、そのすべを知らないのだろうか。彼らは単純なブロック守備しかしない。

 そして84分頃からオープンな展開になり、ラツィオが攻めた。だが可能性のないボックス外からのシュートで終わった。

 彼らは負けているのだから、ボールを奪ったら爆発的なスプリントをして押し上げないとダメだ。ポジティブトランジションが鈍い。遅攻に偏っている。そのため敵ブロックの外周でボールを回すか、遠目から効力のないシュートを打つだけに終わっている。この点は改善しないとダメだ。

 かくて後半アディショナルタイムだ。ついにサッリのチームがゴールを攻略する。劇的な幕切れだった。最後のコーナーキックははじき返されたが、ルイス・アルベルトがゴール前にダイアゴナルなクロスを入れる。ラストプレイのコーナーキックのために上がっていたラツィオのGKイバン・プロベデルが、前に飛び込みヘッドで豪快にゴールへ突き刺した。

 まるで奇跡のような引き分けだった。おそらく鎌田は「持っている」のだろう。続く第2節は10月4日(日本時間5日)に行われ、ラツィオは古橋亨梧ら5人の日本人選手がいるセルティックと対戦する。

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【ラ・リーガ 23/24 第5節】マドリーが「久保劇場」を止めるにはファウルしかなかった 〜レアル・マドリー 2-1 レアル・ソシエダ

2023-09-19 05:00:00 | その他の欧州サッカー
時空を歪めた久保のチャンスメイク

 ラ・リーガ第5節が9月17日(日本時間18日)に行われ、レアル・マドリードとレアル・ソシエダが対戦した。ソシエダが開始早々の前半5分に先制したが、後半にマドリーが2点を取って辛くも逆転勝ちした。特に前半は、4-3-3の右ウィングでスタメン出場した久保建英の「ワザのデパート」が鋭意開店した。

 もはや久保を止めるには通常の手段ではムリなようだ。マドリーの例に習えば、わざわざマーカーを2人つけるか、あとはファウルくらいしかない。どちらも正々堂々なる日本人的な価値観とは縁遠いが。

 だが白い巨人はそのすべを知っていた。いい見本を、久保に股抜きされて辱めを受けた元ドイツ代表MFトニ・クロースが見せた。抜かれて肘ブロックしたクロースのファウルには黄色いカードが出た。久保とマッチアップしていた彼はさんざんやられてイラ立っていたのだ。

 前半終了間際。このとき久保はたったワンモーションで、左足の裏でボールを一度引き、すぐ前に押し出す必殺ワザを繰り出して簡単に股抜きした。当該シーンが象徴的だが、それだけこの日の久保は危険な香りを漂わせていた。

ソシエダの先制ゴールを演出した

 久保のショーは試合開始5分にすぐ開演した。このときボールはソシエダの最終ラインを右から左へと経由していた。そして左サイドの中盤からアンデル・バレネチェアが横方向に持ち出す。で、右にいたブライス・メンデスにボールを渡す。

 右サイドに開いた久保に彼から斜めのボールが出た。久保はまず右足でトラップし、動きながら1つ、2つ、ボールを小突いて中の状況を観察する。で、ゴールに向けてカットイン。そして力まずほんの軽い感じで、左足を小さく後ろに振り上げ鋭く前へ振った。

 インフロントで瞬時に低いクロスが入る。強くて速いボールがゴール方向へ飛んだ。これにバレネチェアがワンタッチで合わせたが、GKケパ・アリサバラガがストップした。

 だがボールはこぼれ、バレネチェアが2〜3度プッシュしてゴールへ押し込んだ。マドリーの出鼻を挫く先制弾だ。彼は今シーズン3点目。2試合連続である。

取り消された幻のゴラッソ

 続く11分。世界は衝撃的なシーンを目の当たりにする。

 中盤の中央でブライス・メンデスから交差する形でボールを受けたミケル・オヤルサバルが、右サイドへボールを振る。これを敵ボックス右角で受けた久保は右足でトラップし、ドリブルでカットインする。

 いったんわずかにエリア内へ入った。だが敵DFが寄せてきたため、細かい複数のボールタッチでゴールから小さく遠ざかる。で、マーカーをかわす。その一瞬後だ。ゴールから逃げ、まさかシュートするなんて周囲に認知させない絶妙なタイミングだった。ペナルティアーク右手前から強く左足を振り抜いたのだ。

 ダイアゴナルな美しい軌道を描く弾丸シュートが、ゴール左スミのサイドネットに突き刺さった。凄まじいゴールだった。と、だがオフサイドの位置にいたオヤルサバルの背中に、なんとシュートしたボールがわずかにかすっていたというのだ。

 なんてことだろう。さっきのあのゴラッソはオフサイドで取り消されてしまった。幻のミドル弾。ありえない損失だ。これは文化財保護法に違反しているのではないか?

ボックスからボックスへと長駆ドリブル

 29分のプレイも鳥肌モノだった。マドリーの攻撃を弾き返したあと、右サイドの低い位置でSBトラオレが保持したボールを右前にいた久保が受けたシーンだ。

 このとき久保は一度ボールをもらいに下がる動きでマーカーとの距離を空け、一瞬で前方へ急ターン。今度はサイドに開いてトラオレからの角度を作って球出しを誘う。危険を察知したマーカーが久保との距離を詰めようとしたその瞬間だった。

 久保はトラオレから引き出した縦パスに左足でワンタッチして前へと角度をつけ、マーカーが絶対に触れない前方のコースにボールを弾いて転がした。ボールは勢いよく無人の前方スペースへ抜けて行く。そのあとを走る久保は、2人のマーカーを完璧に振り切ってボールを支配下に置いた。

 そして60メートル近くをドリブルしてカットイン。敵ボックス内へ侵入し、左に切り返して左足を強振した。このシュートはGKケパが倒れながら辛うじて弾いたが、もし決まっていたら歴史に残るだろう。

最初のワンタッチでマーカー2人を置き去りに

 それにしてもすごい攻撃だった。このときボールは自陣のボックス近くから、敵陣のボックス内までえんえん動いた。久保ひとりでこのカウンターを実現したのだ。

 しかもSBトラオレからパスを受けたときの久保は、たった一度しかボールに触ってない。なのにそのワンモーションでマーカー2人を完全に置き去りにした。あのワンタッチ・コントロールだけで、ご飯がおいしく3杯食べられる。

 そして直後の31分には敵陣でまたトラオレからパスを受け、彼は右からボックス内へ侵入した。敵DFと正対し、左足で低い浮き球のピンポイントなクロスを入れる。マーカーなんていないも同然だ。

 そこへジャストのタイミングでゴール前に飛び込んできたミケル・メリーノが、倒れながら痛烈なヘディングシュートを見舞った。GKケパが横っ飛びでセーブしたが、これも決定的なシーンだった。

久保の前に立ちはだかる新たな課題とは?

 ただし久保は後半になるとガス欠で運動量が落ち、残念ながら消えてしまった。先日スタメン出場した日本代表のトルコ戦と同じ展開だ。

 守備もするようになった日本のメッシは、そのぶん新たなテーマとしてスタミナ(運動量の維持)が課題になる。挑んでほしい。

 後半は久保の運動量が低下するにつれ、相対的にマドリーのポゼッションする力が増して行った。攻撃こそ最大の防御なり。つまり彼の攻撃力が敵を自陣に張り付けにし、裏を返せばそのままソシエダの防御力にもなっているわけだ。

 かくて後半、アンチェロッティのチームが2点を取って逆転勝ちした。ただし本題はそこではなく、あくまで久保という「文化財保護」の観点から記憶に残るゲームだった。

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【第2次森保ジャパン】久保建英を「偽9番」でスタメン起用せよ

2023-09-18 05:00:11 | サッカー日本代表
彼は4つの大きな欠点を解消した

 まず結論から先にいえば、4つの大きな欠点を克服した久保建英をスタメンで使わないテなんてない。

 もともと久保は高い技術はあっても、オフ・ザ・ボールと守備、トランジション、献身性が大きな駄目ポイントだった(これは自ブログで過去に詳しく書いたのでここでは繰り返さない)。

 だからいくら技術はあっても、その程度の選手で終わるのだろうと考えていた。「子供のお遊戯」で終わるのだろう、と。ゆえに個人的には見切っていた。

 そもそも彼はボールを触るのが大好きな選手であり、逆にいえばボールを握ってこそ初めて輝く選手。典型的な、悪い意味での「ボールプレーヤー」だったからだ。

 もうひとつはフィリップ・トルシエがかつて言及していたが、例えば久保や三笘薫をベタ褒めする記事を作ってスターに祭り上げ、商業的利益を得ようとするメディア等を先兵として企画される「スターシステム」にホトホト嫌気がさした、というのもある。

 で、久保に関してはそんなふうに結論づけ、やがてスペインでの彼のゲームもいつしか観ることはなくなって行った。

9月シリーズの久保は「完全」だった

 だが久しぶりに第2次森保ジャパンの9月シリーズで久保のプレイを見てみると、驚いたことにその4つの大きな欠点がきれいに修正されているではないか。

 これで彼はすべてにおいてパーフェクトな選手になった。ならば、彼を使わないテなんてない。

 あのドイツ戦で2アシストして彼の独壇場になった最後の15分間と、トルコ戦で彼が見せた攻守におけるすべてのプレイ。特にトルコ戦では、かつての彼が決してやらなかった献身的なプレッシングが光っていた。またボールプレイはもちろんのことだ。

(ただしトルコ戦では消えている時間帯があった。だがそれもあのゲーム、彼は守備でかなり走っていたのでバテたのだろうと推察している)

 久保にはもう欠点らしき欠点はない。4つのウィークポイントを克服したために、9月シリーズでは持ち前の超絶的なテクニックをひときわ光らせていた。完全無欠だ。

パズルのピースが合わない代表チーム

 ただし第2次森保ジャパンの攻撃的なポジションを見ると、どこをどういじっても久保は余って漏れ出してしまう。右サイドで伊東純也を出さないのはありえないし、4-2-3-1のトップ下には鎌田大地がいる。

 もし鎌田をボランチに下げて遠藤航と組ませたとしても、今度は守田英正が余ってしまう。どうしても必ずパズルのピースが1つだけ合わないのだ。実にもったいない話である。

 ただし日本代表の攻撃的なポジションで、唯一、既存の戦力を「削ってもOK」な場所がある。それはフォワードだ。

(年齢を度外視した場合の)大迫勇也を除き、日本には真の意味で決定力のあるフォワードが1人もいない。「たった1人も」だ。その点、久保はゴールも取れる。シュートがうまい。ただし彼はフォワードじゃない。ならば久保を「偽9番」で使えばいい。

三笘や伊東も生きる久保の偽9番

 必要なときには、偽9番の久保が中盤に降りてきて組み立てにも絡む。中盤に下がる久保に合わせて敵の守備陣が最終ラインを上げてきたら、そのぶん三笘と伊東が前に飛び込むスペースができる。

 偽9番戦術は、三笘を左であえて孤立させて1対1をさせるアイソレーションとも相性がいい。

 これで攻撃的なポジションはすべてドンピシャ、帳尻が合う。

 おそらく戦術的・知能指数が高い久保なら、パッと偽9番に放り込んでもすぐにできるのではないか?(いやもちろん代表でのトレーニングもあるし)。彼の攻守に渡る特徴を考えれば考えるほど、いまや偽9番に必要な要素をすべて兼ね備えているように見える。

 久保は第二の「メッシ」になれる。しかも守備をするメッシだ。

 いや彼の年齢を考えれば、上回ることも可能かもしれない。森保監督が「日本はW杯で優勝を狙う」と言うのだから、「久保建英はメッシ超えを狙う」と言っても別にいいではないか。

 おまけにプレッシングという、以前はもってなかった要素を新たに備えた彼を使えば、ボールを保持する敵の最終ラインを前からハメて、ボールを前線で絡め取ることも可能になる。

 これでフォワードという日本の大きな「穴」は埋まる。久保という偽9番にぴったりのピースを当てはめれば、完全なパズルが完成するだろう。

 どこからでも点が取れる代表チームの出来上がりだ。

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【プレミアリーグ 23/24 第5節】「壊れたレッズ」が辛くも逆転勝ちで4連勝 ~ウルブズ 1-3 リヴァプール

2023-09-17 12:46:56 | イングランド・プレミアリーグ
5~6点取られてもおかしくなかった

 プレミアリーグは9月16日の第5節で、ウルヴァーハンプトンとリヴァプールが対戦した。リヴァプールが3-1で敵地の試合をなんとかモノにした。中身はともかく、彼らはこれで開幕から4戦全勝だ。遠藤航の出番はなかった。

 それにしてもリヴァプールはひどいデキだった。アンカーのマクアリスターがミスを連発。つられて相方のソボスライまで変調を起こし、マクアリスターの「病気」が11人全員に伝染して行った。5~6点取られていてもおかしくなかった。

 その流れでウルブズに先制され、レッズはメンバー交代を繰り返しやっと後半に逆転した。マクアリスターがあれだけ散々な惨状をさらしているのに、遠藤は交代で出て来ない。ということはクロップによほど信頼されてないか、コンディションの問題かのどちらかだろう。

 リヴァプールのフォーメーションは4-1-2-3だ。最終ラインは右からジョー・ゴメス、 ジョエル・マティプ、ジャレル・クアンサ、アンドリュー・ロバートソンという布陣。

 中盤はアレクシス・マクアリスターがアンカーを務め、右インサイドハーフがドミニク・ソボスライ、左インサイドハーフがカーティス・ジョーンズだ。3トップは右からモハメド・サラー、コーディ・ガクポ、ディオゴ・ジョッタが構える。

ゴメスの偽SBは空振りした

 リヴァプールはビルドアップ時、ときに右SBのゴメスが一列上がって中へ絞り偽SB化する。その代わりに左IHのジョーンズが上がり、3-3-4になる。または3-2-5もある。ゴメスは縦にオーバーラップもする。

 あるいは4バックのままジョーンズが左WGのように上がり、マクアリスターとソボスライがフラットに並び4-2-4。というふうに流動的に組み上げる。ジョーンズは時にはゴール前まで出張する。攻撃好きだ。

 かたや4-5-1から4-3-3に変化するウルブズはきわめて正確にビルドアップし、攻め上がってくる。彼らのフィニッシュはボディブローのようにレッズに効いた。特にサイド攻撃が強烈で、(ウルブズ側の)左サイドからどフリーでクロスをガンガン入れてくる。レッズの右サイドの守備が噛み合ってない。

 特に35分、左サイドからWGネトが入れたクロスは完全に1点モノだった。ゴール前でフィニッシャーになった、CFマテウス・クーニャのミスに助けられた。

 クーニャはヘディングシュートしようとジャンプしたが、飛び上がるタイミングが早すぎて腰にボールが当たってしまった。それにしてもWGネトにはさんざん左サイドを食い破られた。

マクアリスターのミスで流れを失う

 前半20分までにマクアリスターは致命的な縦パスカットを食らい、27分にはなんと単独で最後尾にいる際、ボールを奪われた。このとき自陣はスカスカ。ボールを奪った敵アタッカーはゴールを目ざし、無人のレッズ陣をドリブルするーー。目も当てられない。

 かたやソボスライも21分と28分にやらかした。これだけミスすれば流れは向こうへ行く。前半7分の1失点だけで済んだのは僥倖だった。

 リヴァプールは38分に、右サイドのクロスからやっとフィニッシュの形を作った。続く46分には敵ゴール前へ波状攻撃をかけたが、シュートは2度止められた。ウルブズが2点目、3点目を取らないうちに追いつかなければならないーー。

 そんなメンタリティはわかるのだが、レッズはチームが完全崩壊し押し込まれているのに、大きくクリアしない。押し込まれて敵だらけの自陣で短くパスを繋ごうとする。まるでアルビレックス新潟みたいだ。もうヒヤヒヤして心臓が止まりそうだった。

 これで1失点に抑えているうちにレッズが逆転し、遠藤が交代で出てきて試合をビシッと締めたら痛快だろうな、などと夢想した。だがそれはまったくの身内びいきにすぎないことがすぐにわかった。

マクアリスターを下げ4-2-3-1に

 後半開始と同時に「患部」のマクアリスターをやっと下げ、クロップはFWのルイス・ディアスを入れた。攻撃的な交代である。そしてフォーメーションを4-2-3-1に変えた。ソボスライとジョーンズのダブルボランチだ。

 これで右SBゴメス、左SBのロバートソンが両翼として高く前に張り出し、そのぶんサラーは中に絞ってディアスやジョッタらと相手ゴールの鍵を開ける作業に専念する。ときにソボスライ、またはジョーンズは一列降り、両CBとともに3バックを形成した。

 クロップの修正はテキメンに効いた。ウルブズを押し下げることに成功したのだ。

 リバプールの初ゴールは55分だった。真ん中での細かいパス交換を経て、ジョッタが股抜きの縦パスを繰り出す。受けたサラーは、右ポケットからワンタッチでダイアゴナルなパス。これにガクポが左足で一度だけ触ってゴールした。やっと同点だ。

 56分にはCFガクポに代えてダルウィン・ヌニェス、左WGのジョッタに代えてハーベイ・エリオットを投入する。攻撃力を補強するイケイケの交代策だ。この1-1の時間帯は果てしなく長く感じる。

サラーは全ゴールに関与し3アシストだ

 かくてリバプールは85分に、ロバートソンが待望の2点目を取った。右のボックスちょい外から、サラーが左足アウトサイドでゴール前のロバートソンに斜めのパスを入れる。ロバートソンは左足インサイドのワンタッチで、いともカンタンにゴールへ流し込んで見せた。2-1だ。

 仕上げはレッズの3点目。91分だ。右ポケットからサラーがマイナスのラストパスを入れ、エリオットが決定打になるゴールを上げた(ただし敵DFの足に当たっていたためオウンゴール)。

 サラーは全ゴールに関与し、3アシストだ。彼をサウジアラビアに出すなんて、とうてい考えられない。

 これでリバプールは開幕から無傷の4連勝だ。内容を見ればエンジンがガタピシ鳴いているが、第3節といい今節といい、悪い試合をクロップの采配で見事に形勢逆転した。なるほどドイツ代表チームが「ウチに来ないか?」と熱く誘うのも無理はない。

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