すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【セリエA 18/19 第2節】アンチェロッティの魔術 〜ナポリ 3-2 ミラン

2018-08-30 07:13:29 | その他の欧州サッカー
ハイプレスが生んだ奇跡の逆転劇

 アンチェロッティが指揮するナポリは、激しいハイプレスで試合に入った。ミランのビルドアップに対し、ナポリは7人が高い位置でプレスをかけるシーンが頻出する。それでもミランはこの第1プレッシャーラインを突破しながら先制し、リードを保つ展開が続く。だが最後に試合を決めたのは、アンチェロッティの機敏なシステム変更と選手交代だったーー。

 ナポリのフォーメーションは4-3-3。スタメンはGKがオスピナ。最終ラインは右からヒサイ、アルビオル、クリバリ、マリオ・ルイ。中盤はアラン、ハムシク、ジエリンスキ。3トップはカジェホン、ミリク、インシーニェだ。

 試合が動いたのは前半15分。ミランが右からの大きいサイドチェンジのボールをボリーニが落とし、ジャコモ・ボナヴェントゥーラがダイレクトでゴールに沈めた。

 意気上がるミランに対し、ナポリは相変わらずの全域プレッシングだ。彼らはボールを失ってもリトリートせず、その場でプレスをかけてあくまで即時奪回をめざす。リードはされたが、ナポリはハイプレスでボールを保持したミランを自陣に押し込めるシーンが多発している。そしてボールを奪うとショートカウンターを狙う。だがフィニッシュに失敗し、ミランがリードのまま追いつけない。

ミランが2点目を奪う

 ナポリのプレスをかいくぐり、ミランが2点目を取ったのは後半4分だった。ミランは低い位置から右前にいたスソへの長い縦パスが通り、スソが落としたボールをカラブリアがダイレクトで左スミに決めた。これで0-2。

 だがその4分後の後半8分に、ナポリ待望のゴールが生まれる。ナポリがミランのビルドアップの1本目のパスにプレスをかけて高い位置でボールを奪い、中への折り返しをジエリンスキが右スミに叩き込んだ。

 そして続く後半18分には、ナポリはアンカーのハムシクに代わり、ベルギー代表のメルテンスをトップ下に投入。同時にシステムを、アランとジエリンスキがセントラルMFを務める4-2-3-1に変えた。

 これが奏功し、後半22分。ナポリは右CKからのクリアボールをまたもジエリンスキがゴール右スミに突き刺し、2-2の同点とした。

開幕から2連勝、今季もナポリは強い

 追いつかれたミランは自陣に4-4-2のゾーンを敷き、引きっぱなしになる。だがそれをナポリが攻めて押し込み続ける展開が続き、ついに逆転した。決勝点を決めたのは、途中投入したメルテンスだ。

 後半35分。ナポリは途中出場した中盤のディアワラから右サイドに開いたアランに縦パスが通り、そのアランの右からの折り返しをファーサイドにいたメルテンスがゴールに押し込んだ。

 終わってみれば、戦術家サッリからナポリを引き継いだアンチェロッティ監督の選手起用とシステム変更が光った。これで開幕から2連勝。今季のナポリは積極采配がちがう。ユベントスのリーグ8連覇を止める一番手として、アンチェロッティのナポリが雄々しく名乗りを上げた。

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【プレミアリーグ 18/19 第3節】リバプール、首位に躍り出る 〜リバプール 1-0 ブライトン

2018-08-29 07:42:05 | イングランド・プレミアリーグ
不動のスタメンで3連勝

 リバプールは開幕から無失点の2連勝でブライトン戦に臨んだ。この試合もリバプールは高いポゼッション率で敵を自陣に釘付けにする。ブライトンを押し込み、またも無失点による3連勝だ。これでリバプールは堂々、首位に躍り出た。

 リバプールのフォーメーションはいつもの通り4-1-2-3。スタメンも不動だ。GKがローマから新加入のブラジル代表アリソン・ベッカー。最終ラインは右からアーノルド、ゴメス、ファン・ダイク、ロバートソン。中盤はアンカーにワイナルドゥム、右インサイドMFはミルナー、左インサイドMFはRBライプツィヒから新加入のギニア代表ケイタ。3トップは昨季得点王のサラーと偽9番のフィルミーノ、セネガル代表のマネである。

 リバプールのビルドアップはいつものように両SBが高く張り出し、2-3-2(ワイド)-3や2-1-4-3の形になる。またアンカーが両CBの間に下りたり、左右どちらかのMFがCBとSBの間に落ちて3バックを形成する3-1-3-3などのバリエーションもある。またセントラルMF経由のルートもあり、ビルドアップは2ルートだ。

 一方のブライトンは4-5-1で、中盤に5人をフラットに並べる。これで相手ボールになれば自陣にリトリートし4-5-1の守備ブロックを作る。ブライトンが攻撃してアタッキングサードまで到達する頻度は高くないが、それでも強固な守備から鋭いカウンターを狙っている。やるべきことが明確なサッカーだ。

ポジショナルプレー全開の完璧なゴール

 さて、この試合唯一のスペクタクルな得点は前半23分に訪れた。中盤でのブライトンのFKからのボールにリバプールのミルナーが激しくプレスをかけ、ロストさせる。

 このセカンドボールを拾ったマネはダイレクトで右にいたフィルミーノに斜めのパス。そしてフィルミーノが右のサラーにダイアゴナルなボールを出し、最後は3人目の動きをしたサラーがゴール左スミにダイレクトで突き刺した。ポジショナルプレー全開の完璧なゴールだった。

 ブライトンがFKを蹴った時点でまずフィルミーノがプレスのスイッチを入れ、同時にミルナーはプレスからのボール奪取を明らかに最初から狙っていた。リバプールはプレッシングからのボール奪取とショートカウンターを有機的に連動させている。

 加えてボール奪取時、サラーとフィルミーノ、マネはフィルミーノを頂点とする逆三角形のポジショニングをしていた。トランジェント志向とポジショナルプレーを融合させたパーフェクトなオーガナイズである。

 失点後、ブライトンはブロックの位置を高くしてやや攻撃的なプランBに変えたが、時すでに遅し。リバプールに行った流れは取り戻せなかった。

 この試合のリバプールの3トップはいつもなら攻め残るサラーも含め、相手ボールになれば下がって守備もしていた。その意味では全員サッカーで奪った貴重なゴールだ。得点は1ゴールだけだったが、非常に密度の濃いゲームだった。

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【ラ・リーガ 18/19 第2節】乾はスタメンに定着できるか? 〜アラベス 0-0 ベティス

2018-08-27 08:22:30 | その他の欧州サッカー
スタメン出場も途中交代

 乾は左のシャドーでついにスタメン出場したが、デキはよかったものの後半16分に途中交代させられた。惜しむらくは前半29分にきたチャンスだ。

 右シャドーのカナーレスから乾に斜めのパスが出る。乾はダイアゴナルランしながらダイレクトでグラウンダーのシュートを打ったが、わずかにワクをそれた。もしあれが入ってそれで試合に勝っていれば、おそらく今ごろ乾に対する評価はいい意味で大炎上していただろう。なかなか厳しい世界である。

 ベティスのフォーメーションは3-4-2-1。1トップ2シャドーで、乾は左のシャドーでプレイした。前節とは打って変わって、周りの選手が乾を使っている。対戦したアラベスに攻撃力がないせいか、ベティスの守備は前節より改善しているように見える。

 ベティスのビルドアップは、特に左ウイングバックのジュニオル・フィルポから乾のラインを使う。またセントラルMF経由のパターンもあり2ルートだ。

 それに対しアラベスは、前後半の立ち上がりに関しては、前の3枚が高い位置からベティスの3バックにプレスをかけてビルドアップを制限していた。

 それ以外の時間帯では、アラベスは相手ボールになれば自陣までリトリートし、4-4-2のブロック守備をする。で、ボールを奪うと少ない人数でカウンター攻撃を仕掛ける。つまり守備的なチームだ。このやり方で前節はバルセロナを前半0点に抑え、てこずらせていた。

 かたやベティスは、守備に関してはアラベスのような凝った仕掛けはない。相手ボールの時に求められるタスクが少ない。

 例えばアラベスのビルドアップに対し、前から組織的にプレスをかけるわけでもない。かといってリトリートして自陣に5-4のブロックを作るわけでもなし。なんだか中途半端で、自分たちがボールを持ってない時のオーガナイズができてない感じだ。

 まあ攻撃的なチームなわけだが、それならもっと組織的なフィニッシュがほしい。現にこの日もベティスが攻撃にちょっと時間を使うと、すぐアラベスに4-4-2の自陣ブロックを作られてしまい、手を焼いていた。「なんとなく攻めている」というチームなのだ。せめて敵のビルドアップを制限する前からのプレッシングと、フィニッシュをもっと整備したい。

 そんなわけで乾のスタメン定着は「いつ点を取るか?」にかかっているかもしれない。彼はロシアW杯でクリーンシュートを決めた印象が強いのでハードルは高いが、がんばってほしい。

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【プレミアリーグ 18/19 第2節】リバプール、苦しみながらも完封勝利 〜クリスタル・パレス 0-2 リバプール

2018-08-23 08:54:14 | イングランド・プレミアリーグ
老将ホジソンが繰り出す2つの策

 クリスタル・パレスのロイ・ホジソン監督は、このホーム戦にあたり2つの策を講じてきた。前からのプレッシングと敵のビルドアップ封じである。実際、リバプールは立ち上がりから前での圧力に悩まされた。また4-4-2でワイドに開くパレスのSHにフタをされ、リバプールの両SBはいつもの高く張り出すビルドアップを実行できない。

 それでも苦しめられたリバプールは2つのカウンターからキッチリ2点を取り、完封で勝ち切るあたりはさすが。内容が悪いながらも勝つ。それがプレミアのトップ6と下位との違いなのだろう。

 リバプールのフォーメーションはおなじみの4-1-2-3。スタメンも前節の開幕戦とまったく同じだ。GKがローマから新加入のブラジル代表アリソン・ベッカー。最終ラインは右からアーノルド、ゴメス、ファン・ダイク、ロバートソン。

 中盤3センターはアンカーにワイナルドゥム、右インサイドMFはミルナー、左インサイドMFはRBライプツィヒから新加入のギニア代表ケイタ。3トップは昨季得点王のサラーと偽9番のフィルミーノ、セネガル代表のマネである。

 さてホジソン監督が取ったプランAにより、この試合は攻守がめまぐるしく入れ替わるテンポの速い立ち上がりになった。

 パレスが前からプレッシングしてくるため、ゲーゲンプレッシングが売り物のはずのリバプールはボールを失うとリトリートし、ミドルサードに4-4-2のブロックを作った。クロップ監督がひねり出したプランBだ。左WGのマネが1列下がり4-4のゾーン設定に加わっている。以後、リバプールはこのブロック守備とハイプレスを併用することになった。

 それを見たパレスはすかさず相手ボールになれば、自陣にリトリートして4-4-2のブロックを作るようになる。プランCである。こんなふうにこの試合は、ホジソンとクロップによる狸と狐の化かし合いが刺激的だった。

ビルドアップを封じられたリバプール

 前半15分以降、自陣に引いたパレスがリバプールにボールを持たせ、カウンターを狙う展開になる。ボールを保持するリバプールは右インサイドハーフのミルナーがポジションチェンジしたり、CBとSBの間に下りてきたりするが、SBの上がりを封じられてビルドアップがうまく行かない。

 次第にリバプールは、パレスの守備ブロックの外側をUの字型にボールを回すだけになる。どうしてもブロックの中に入って行けない。悪い兆候だ。

 前半24分にはケイタのバックパスのミスから、パレスにシュートまで持って行かれる。あのバーを叩いた一発がもし入っていれば、試合はどうなっていたかわからなかった。

 だが結局、先制したのはリバプールだった。前半45分だ。ゴール前でDFを背負いボールキープしたサラーが足を引っ掛けられてPK。決めたのはミルナーだ。リバプールは苦しめられているだけに、このPKはまさに天の助けだ。

 続く後半48分には、マネが決めた。パレスのCK崩れから、カウンターでサラーがマネにパス。するとパレス陣内には無人の広大なスペースが広がっている。完全にスペースに抜け出したマネがドリブルで追いすがるマーカーの軌道にうまく入って走るコースを遮り、最後はボールをゴールに沈めた。

 リバプールはいつものスペクタクルな「自分たちのサッカー」はできなかったが、強引にパワーで押し切った。強者の証だ。ただしパレスが見せたリバプールのSB封じは他チームの参考にもなるだろう。シーズンはまだ長い。リバプールは今後、どんな対抗措置を取ってくるのだろうか。

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【ラ・リーガ 18/19 第1節】バルサ、メッシの2発で余裕の完勝 〜バルセロナ 3-0 アラベス

2018-08-22 07:31:50 | その他の欧州サッカー
遅攻から速攻まで多彩な攻め

 圧倒的にボールを支配したバルセロナが、メッシのFKを含む2ゴール、途中出場したコウチーニョの1ゴールでアラベスを一蹴した。戦力の違いを見せつける完全なワンサイドゲームだった。

 バルセロナのフォーメーションは4-3-3。スタメンはGKがテア・シュテーゲン。4バックは右からネルソン・セメド、ジェラール・ピケ、サムエル・ウムティティ、ジョルディ・アルバ。中盤はセルジ・ロベルト、ブスケッツ、ラキティッチ。3トップは右からメッシ、スアレス、デンベレだ。

 バルセロナのビルドアップは両SBを高く上げ、2-1-4-3の形を取る。特に左SBのジョルディ・アルバは非常に攻撃的で、SBというよりもはやWGだ。時おりアンカーのブスケッツが両CBの間に下り、3バックを形成するが、アラベスは前からプレスをかけてこないのでビルドアップ時の3バック対応はほぼ不要だった。

 バルサはお家芸であるグラウンダーのショートパスだけでなく、ロングパスでサイドチェンジしたり、敵DFの頭上を越す浮き球のパスなど、多彩なボールさばきをする。だがやはり中央でのワンツーからダイレクトプレーを混ぜてフィニッシュに行くなど、真ん中からの攻めになったときのほうが「らしい」感じはする。

 バルサのボールになるとアラベスは自陣に引き、ブロック守備をするため完全なハーフコートマッチになる。そのためバルサは必然的に遅攻になるが、それが有効な局面ではタテに速い攻めもしている。ポゼッション一辺倒でなく、速攻も決して否定してはいない。

途中出場の選手も活躍する万全の勝利

 4-3-3のアラベスは、バルサボールになればリトリートして自陣に4-5-1のブロックを作る。逆にボールを奪えば速いショートカウンターをかけ、前の2〜3人だけで攻め切ろうとする。ゆえに基本的には自陣が彼らの住処だ。

 この守備的な戦い方で、バルサという巨人を前にとにかく失点を避けることが彼らの狙いだ。試合はそんなアラベスのゲームプラン通り、前半を0-0で折り返した。

 メッシは右サイドをのんびり歩いているが、無論チャンスになれば鋭い動きをする。前半38分にはデンベレに決定的なスルーパスを出すなど、立派に仕事はしている。また彼は時おりCB付近まで下りてビルドアップにも参加する。

 試合を動かしたのは、そのメッシだった。後半19分、ペナルティエリア外からのFKを、なんと彼はグラウンダーのボールできっちり決めた。もちろんメッシの前に壁はいたが、彼らがジャンプしたその足の下をメッシのすばらしい抑えたシュートがゴールに突き刺さった。バルサ先制、1-0だ。

 続いて後半38分にはコウチーニョが、これまた途中出場のアルトゥールからのダイアゴナルなパスを受け、中央を軽くドリブルしてから右足でシュート。最初はプラス方向にドリブルし、途中からマイナス方向に軌道を変えた頭脳的なドリブルだった。これで2-0である。

 そして3点目は後半47分。メッシがスアレスから斜めの浮き球のパスを受け、DFを背負いながら胸トラップし振り向いてゴール左スミに決めて見せた。決定的な3点目だった。

 バルサは途中出場のコウチーニョとアルトゥール、ビダルもそれぞれ活躍し、これ以上はない万全の完勝。昨季に続くリーグ2連覇へと静かに走り出した。

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【プレミアリーグ 18/19 第2節】チェルシーのパスワークが冴え渡る 〜チェルシー 3-2 アーセナル

2018-08-21 09:08:46 | イングランド・プレミアリーグ
サッリ監督のチーム作りが着々と進む

 ギクシャクした前節とはまるで別人のようだった。ビッグ・ロンドンダービーを迎え、立ち上がりからチェルシーはパスがよく噛み合いスムーズに冴え渡る。マンCばりにパスワークが速い。特に前半は1タッチ、2タッチのボール運びでアーセナルを圧倒、完全に試合を支配した。

 だがバイタルが空くのをアーセナルが見逃さず、前半終了間際に立て続けに2本のクリーンシュートを放ち同点に。これでアーセナルはすっかりパスワークが復活し、試合は均衡したが、意地のシーソーゲームを最後に制したのは、やはりチェルシーの一発だったーー。

 チェルシーのフォーメーションは4-1-2-3。スタメンは前節とまったく同じ不動のメンバーだ。GKがケパ。最終ラインは右からアスピリクエタ、リュディガー、ダヴィド・ルイス、アロンソ。中盤はアンカーにナポリから新加入のジョルジーニョ。右インサイドMFはフランス代表のカンテ。左インサイドMFにバークリー。3トップは右からペドロ、モラタ、ウィリアンだ。

 試合が動いたのは立ち上がりの前半9分。チェルシーが先制した。左SBのアロンソが同サイドのウィリアンにボールをあずけ、左のタッチライン際を直進。その間にボールはウィリアンからセンターのジョルジーニョへとリズミカルに移動し、サイドのアロンソにまた戻ってくる。最後はそのアロンソがボールをゴール前に入れ、あとはペドロがダイレクトでシュートを決めるだけだった。

 一方のアーセナルはボールを持ってもそのたびに立ち止まり、パスの出し所をいちいち探すありさま。各駅停車だ。かたやチェルシーにはそんなシーンはまるでなく、滑らかに特急クラスのボールが繋がって行く。すべてのパスが有機的だ。リズムが悪かった開幕戦から、たった1週間でここまで仕上げてくるとはサッリ監督はやはり名将だ。

 特にチェルシーは左SBのアロンソと左WGウィリアンのコンビネーションが抜群で、左サイドを完全に蹂躙している。

 続く前半20分。右SBのアスピリクエタからCFのモラタにライン裏を狙う長い縦パスが入り、モラタがマーカーと競り合いながら最後は独走し完璧なゴール。チェルシーが2-0と突き放し、これで早くも勝負あったかと思われた。

アーセナルが意地の反撃、試合は混沌

 ところが前半37分、アーセナルはムヒタリアンがチェルシーのバイタルエリアがぽっかり空くのを見逃さず、ゴール正面からフリーでシュート。続く前半41分にはムヒタリアンの右からのクロスに合わせ、同じくゴール正面でアレックス・イウォビがクリーンなゴール。アーセナルがたちまち2-2と同点に追いついた。

 チェルシーはゴール前にスペースが空くところを狙われている。アーセナルはこの2点の追撃でメンタルがすっかり上がり、きれいにパスが繋がるようになる。攻守の切り替えの遅さも見違えるように改善された。

 後半に入り、チェルシーのボールになると、それまでと違いアーセナルはリトリートして自陣にがっちりブロックを組むようになった。アウェイで同点だし、固く行く狙いなのか?

 だがそんなアーセナルのシナリオに敢然とダメ出ししたのが、途中出場したベルギー代表のエース、チェルシーの10番エデン・アザールだった。

 後半36分、左サイドをそのアザールがドリブルし、タメを作って精度の高いマイナスのセンタリングを入れる。受けたアロンソはダイレクトで見事に仕上げた。これで3-2。チェルシーのリードだ。

 追い詰められたアーセナルはそれまでのブロック守備から積極的なハイライン・ハイプレスに切り替えたが、時すでに遅し。試合はそのままチェルシーが押し切った。

 たった1週間でチーム作りを追い込むサッリ監督の手腕はさすが。途中追いつかれたものの、最後は突き放すチェルシーの勝負強さが光った一戦だった。

 かたやアーセナルは猛然と追い上げたあたりに強豪の片鱗が見えた。結果はなかなか出ないが、若いフランス人セントラルMF、マッテオ・グエンドウジが頭角をあらわすなど徐々にチームは上向きになっている。新任のエメリ監督は焦らず1歩1歩進んでほしい。幸運を祈りたい。

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【ラ・リーガ 18/19 第1節】乾はイメージのギャップをどう埋めるのか? 〜ベティス 0-3 レバンテ

2018-08-20 07:58:48 | その他の欧州サッカー
乾を生かすウラへのスルーパスを

 今季から古巣エイバルと同じスペインのベティスへ移籍した乾にとって、左インサイドMFで途中出場した開幕戦は苦いものになった。ダイアゴナルランを繰り返し、裏抜けを狙うがボールが来ない。かと思えばライン間にポジショニングして間受けを意図しても味方からのプレゼントはなし。乾のプレイ自体は可能性にあふれていたが、同僚とのイメージのギャップをいかに埋めるかが今後のテーマだろう。

 ベティスは2トップで、左右のインサイドMFの下にアンカーを置く攻撃的な3-1-4-2だ。両ワイドを有効に使い、遠目からでも積極的にシュートを放つ。ただしポゼッション率は高いものの、ボックス外から何本もシュートを打つだけでクリアーなフィニッシュがない。彼らのミドルは抑えが利いておりきっちりワクへ行くのだが、惜しいかなGKの正面ばかりを突く。

 もちろん遠目から意欲的にシュートを打つのはいいことである。だが「どうボックス内に入っていくか?」という発想に乏しい感じだ。日本人のようにバイタルエリアからペナルティエリアにかけての崩しこそが「本題」だ、みたいな感覚がない。その手前でボカーンと遠くからシュートを放ってしまう。

 そもそも乾のようにドリブルで守備者をはがすタイプのプレイヤーがいないし、また乾が狙っているような間受けをしたり、ライン裏へのスルーパスを出すような選手もいない。だから「ここ」というタイミングで乾にボールが来ない。また逆に乾がドリブルからラストパスを出しても味方が動かない。

 乾は間受けできる態勢にあるし、パスが来れば十分に処理できる。だが乾がライン間にポジショニングしても、おそらく周囲の味方は「乾は狭い場所にいる。フリーじゃない。だから彼にパスは出せない」という感覚なのだろう。現に乾にボールが回ってくるのはスペースがたっぷりあり、だれが見てもどフリーな局面ばかりだ。

 つまり問題は「どうすればイメージを共有できるか?」である。

 これは今後トレーニングですり合わせるしかない。遠目からフィニッシュに行くだけでなく、彼らがやらないウラを狙うスルーパスや、バイタルエリアでのワンツー等の細かい崩しをパターン練習する。で、こうした感覚がチーム全体に植え付けられれば、乾を活かせる環境になるはずだ。また同時にそれはフィニッシュがアバウトなこのチームにとってもプラスになるだろう。

乾はインサイドMFで機能するか?

 一方、乾がチームと噛み合わない問題は、左インサイドMFというポジション自体にもありそうだ。おそらく4-2-3-1の「3」のワイドのようなポジションであれば、たっぷりサイドのスペースを持った乾にパスは出てくるのだろう。だが位置取りが中央寄りになるインサイドMF(インテリオール)では乾には狭いスペースしかなく、それを見た味方は「フリーじゃないから」とパスを出さない。

 これも上に書いた繰り返しになるが、チームメイトとの意識のすり合わせをどうするのか? だろう。「乾は狭いスペースでボールを受けても失わずにプレイできる」という味方の暗黙の了解がいる。そういうイメージを共有することだ。

 もう一点、インサイドMFはポジショニングがセンター寄りになるため、ドリブルで大外からカットインし「ハーフスペースをぶち抜いて左45度からシュートを放つ」という乾の得意形になりにくい。あのロシアW杯での彼のゴールを左インサイドMFで再現するためには、いったん外側にふくらんでボールをもらうなどの工夫も必要になるかもしれない。

ネガティブ・トランジションに高い意識を

 最後に、乾ではなくチーム全体の問題点にもふれておこう。ベティスは前にかかって攻撃的なぶん、この日の試合のように引いた格下のチームにカウンター攻撃されるとDFがあっさり置き去りにされて守備に粘りがない。ここも大きな修正点のひとつだ。

 例えば自分たちのコーナーキックのとき、最後尾が前にポジションを取りすぎてそのカバーがおらず、相手ボールになったとたんにカウンターを食らったりする。守備のためのポジショニング自体が甘く、ネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)も悪い。ここも高い意識をもってプレイするしかない。

 このチームが逆に格上で攻撃力のあるレアル・マドリードやバルセロナと試合すると一体どうなるのかわからないが(おそらくある程度守備的にやるのだろうが)、もう一度守備の原点に立ち帰って基本を確認してほしい。

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【セリエA 18/19 第1節】王者ユーべ、薄氷の逃げ切り 〜キエーボ 2-3 ユベントス

2018-08-19 13:44:43 | その他の欧州サッカー
キエーボが攻撃サッカーで立ち向かう

 クリスティアーノ・ロナウドを迎えて8連覇を狙うユベントスが、昨季13位に終わったキエーボの追撃を辛くも振り切った。ユベントスは前半3分にFKから早くも先制。あわやゴールショーか? と思われたが、まさかのシーソーゲームに。最後はアディショナルタイムに途中出場のベルナルデスキがアレックス・サンドロからのセンタリングを右足で合わせ、一時はキエーボにリードされる展開にやっと幕を下ろした。

 ユベントスのフォーメーションは4-2-3-1。スタメンはGKがシュチェスニー。右からカンセロ、ボヌッチ、キエッリーニ、サンドロの4バックに、セントラルMFはケディラとピャニッチのコンビ。攻撃的な2列目は右からクアドラード、ディバラ、ドウグラス・コスタ。ワントップはクリスティアーノ・ロナウドだ。

 ユベントスは特にスペクタクルなサッカーではないものの、サイドをうまく使いながら押し上げて行く。ビルドアップでは両SBを高く上げ、2CBの間にMFピャニッチが時おり下りる。特に左SBのアレックス・サンドロはかなり攻撃的だ。そして逆に押し込まれるとデイフェンディングサードに丁寧に4-4のブロックを作る。

 ロナウドは前に張りっ放しではなく、左右両サイドの中盤に下りるなど幅広く動く。またアンカー的なピャニッチは非常によく利いており、多くのボールが彼を経由する。ビルドアップからボールの散らしまで、精力的に営業するユベントスの心臓部だ。

 一方、格下のキエーボはずっと引いているわけでも何でもなく、積極的にラインを高くして攻撃的に押し込んで行く。マイボールになればビルドアップしながら前の5人がプッシュアップして敵陣になだれ込み、たいてい3人がボックス内まで侵入する。逆にネガティブ・トランジション(攻→守の切り替え)も速く、なかなかいいチームだ。

ロナウドのシュートはすべて枠へ行くがノーゴール

 試合はいきなり前半3分に動いた。ユベントスだ。右からのFKをファーでキエッリーニが頭で落とし、ケディラがダイレクトで決めて先制した。ところがキエーボが前半38分に、左サイドからのプラスのクロスをステピンスキがきれいに頭で左スミに沈めて同点に追いつく。1-1で折り返しだ。

 後半に入ると、11分に今度はキエーボのジャッケリーニがもらったPKを自分で決めてついに1点リードする。2-1としたキエーボは、ボールを失った局面でリトリートするタイミングを次第に速くする。逃げ切りを見たうまい試合運びだ。これで自陣にきれいな4-4-2のブロックを作り敵を待ち受ける作戦である。

 ところがそんなキエーボの野望は木っ端微塵に打ち砕かれた。後半30分、ユベントスが右CKで発生した中央での混戦からキエーボのオウンゴールで2-2に追いついたのだ。息詰まる攻防である。

 主役のロナウドはといえば、抑えたシュートがことごとくきれいにワクへ行くがキエーボの好守に阻まれる。

 引き分けかと思われた後半48分。貴重なアディショナルタイムにユベントスのサンドロが左サイドでのドリブルから速い折り返しを入れ、中央でベルナルデスキが右足を一閃。すんでのところで王者ユーべが突き放した。どちらが勝っていてもおかしくはない好ゲームだった。

 もつれても勝ち切るユベントスはさすが。8連覇に向け静かにエンジンが動き始めた。一方のキエーボも好守の切り替えが速い攻撃サッカーで今後の健闘を誓う。ロナウドのユーべ移籍で嵐を呼んだ今シーズンのセリエAは熱くなりそうだ。

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【プレミアリーグ 18/19 第1節】マンCがハイプレスと速いパスワークで圧倒 〜アーセナル0-2マンチェスター・シティ

2018-08-18 12:26:59 | イングランド・プレミアリーグ
連携と機動性が完ペキだ

 ペップのマンチェスター・シティは立ち上がりから、相手ボールになればハイプレス、ボールを奪えば速いパスワークでアーセナルにまったくサッカーをさせなかった。完勝だ。高いポゼッション率でほぼ90分間、アーセナルを自陣に押し込めた。いやはや、ペップの魔術は恐ろしい。

 マンCのスタメンはGKがエデルソン。最終ラインは右からウォーカー、ストーンズ、ラポルト、メンディ。中盤はベルナルド・シウバにフェルナンジーニョ、ギュンドアン。最前線はレスターから新加入したリヤド・マレズ、アグエロ、スターリングだ。

 シティはビルドアップ時、左SBのメンディを高く上げて3バックの形を取る。これでアーセナルの2トップによるプレスをかわし、中盤の底ではフェルナンジーニョがバランスを取る。前ではマレズを右サイドに張り出させるのが基本形だ。

 左SBのメンディは非常に攻撃的で、ビルドアップ時だけでなくマイボール時はほとんど高い位置にいる。実際、彼が多くのチャンスを作り出していた。

精巧な高速パスワークが光る

 シティの選手はみんな体のキレが非常によく、フィジカルがトップモードで仕上がっている。それだけでなくパスワークが「光速」と言っていいほど強くて速い。選手間の連携がガッチリ噛み合い、全員が動くべきところに素早く移動する。とんでもなく機動的なサッカーだ。

 そんなメカニカルな機動力でアーセナルをかき回すと、早くも前半14分。マレズのクロスのこぼれ球をメンディが拾い、パスを受けたスターリングがバイタルエリアを左から右にスルスルとドリブルして右足を一閃、先制点を奪う。そして後半19分には、メンデイからの折り返しをベルナルド・シウバがダイレクトで見事シュートし試合を決めてしまった。

 相手が悪かったとはいえ、それでも強豪のはずのアーセナルはほとんどいいところなし。今季、ベンゲルの長期政権を継いだばかりのウナイ・エメリ監督の苦悩はしばらく続くのだろうか。

 それにしてもこの試合、シティの精巧でスピーディなパスワークには思わず唸ってしまった。ライバルのチェルシーは名将サッリが就任したてでチーム作りが出遅れているだけに、今シーズンの走りは緻密なシティをパワーのリバプールが追う展開になりそうだ。

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【プレミアリーグ 18/19 第1節】未完のチェルシー 〜ハダースフィールド 0-3 チェルシー

2018-08-16 13:55:03 | イングランド・プレミアリーグ
点差ほどの差はなかった

 ナポリからサッリ監督が就任して間もないチェルシーは苦しみながらも勝ち切った。ハダースフィールドの激しいハイプレスの前にビルドアップを寸断され、前半は苦しい展開に。それでも3点を取る地力はさすがだが、彼らはチーム作りにもう少し時間がかかりそうだ。

 チェルシーのフォーメーションは4-3-3。GKは移籍したクルトワの後釜にビルバオから新加入したスペイン代表のケパ。最終ラインは右からアスピリクエタ、リュディガー、ルイス、アロンソ。中盤はアンカーにナポリから新加入のジョルジーニョ。右インサイドMFはフランス代表のカンテ。左インサイドMFにバークリー。3トップは右からペドロ、モラタ、ウィリアンだ。

 チェルシーのビルドアップはCBやSBからセントラルMF経由が多い。中央重視だ。時おり左インサイドMFのバークリーがCBとSBの間に下りてくる。サイドに低い位置で基点は作っても、SBを高く上げるようなサイド攻撃はあまりしない。むしろビルドアップ時には両WGがサイドに開き、パスの受け皿を作っている。

 ただこのゲームでは、チェルシーのビルドアップの局面でハダースフィールドが猛烈なハイプレスをかけてきたため組み立てが混沌とした。スペースがないのでパスを受ける際には繊細なファーストタッチが要求されるが、そこでチェルシーの選手たちは前を向かせてもらえず四苦八苦した。

 かたやハダースフィールドを指揮するワグナー監督は、ドルトムントでクロップのアシスタントをしていただけあって智将の雰囲気が漂う。ハイプレスをあやつり前から圧力をかけるゲームプランが奏功し、特に前半は33分に失点するまで完全にハダースフィールドのゲームだった。

 彼らは3バック(5バック)でウイングバックを有効に使い、ハイプレスをかけたかと思えば自陣に押し込まれるとディフェンディングサードにコンパクトなローブロックを作る守備をする。

アクシデントに近い1点目で試合は決まった

 均衡が破れたのは一種の事故だった。前半33分、チェルシーのペドロが真ん中のフリースペースをドリブルで攻め上がり、左のウィリアンにパス。ウィリアンが左サイドで1人かわしてマイナスのクロスを入れ、ファーサイドでカンテがダイレクトでゴールした。

 ハダースフィールドはペドロのドリブルの直前にプレッシングの関係で陣形が(彼らから見て)左寄りになってしまい、中央にスペースを空けてしまったためそのスペースをペドロにドリブルでうまく使われた。続く前半44分にはジョルジーニョがPKを沈め、チェルシーが2点リードし前半を折り返す。あとから見れば試合の趨勢は、アクシデントに近い1点目で決まってしまったようだ。

 後半、ハダースフィールドはハイプレスをやめ、相手ボールになるとリトリートしてディフェンディングサードにブロックを作ることが多くなる。こうなればチェルシーは喉から手が出るほど欲しかったスペースが得られ、高い位置でラクにボールを回せるようになった。これでチェルシーのペースに変わった。ただチェルシーはポゼッション率が高く点も取れたが、内容的には点差ほどの開きはなかった。彼らは組織の構築にまだ時間が必要だろう。

 一方、ハダースフィールドの課題はフィニッシュだ。ハイプレスでせっかくボールを奪っても攻撃の枚数が足りず点が取れない。初失点の直後にポストを叩いた惜しいシュートがあったが、もしあれが決まり同点になっていれば試合はどうなっていたかわからない。フィニッシュさえ変われば彼らは台風の目になるかもしれない。さて両チームは今後、修正点をどう克服するのだろうか。目が離せない。

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【プレミアリーグ 18/19 第1節】リバプールのスペクタクル劇に唖然 〜リバプール 4-0 ウェストハム

2018-08-15 11:53:44 | イングランド・プレミアリーグ
超絶3トップが大爆発

 マネが2得点、サラーが1得点とリバプールが誇る強力3トップが威力を見せつけた。リバプールは高いボールポゼッションとゲーゲンプレッシングでウェストハムを終始圧倒。ペジェグリーニの野望を自陣に押し込み続けた。「昨季王者のマンチェスター・シティを倒すのは俺たちだ」とクロップが堂々名乗りを上げた一戦だった。

 リバプールのフォーメーションは4-3-3。スタメンはまずGKがローマから7250万ユーロで新加入のブラジル代表アリソン・ベッカー。彼の昨シーズンのセーブ率はセリエAトップのなんと79.3%だ。

 以下、最終ラインは右からアーノルド、ゴメス、ファン・ダイク、ロバートソン。中盤3センターはアンカーにワイナルドゥム、右インサイドMFはミルナー、左インサイドMFはRBライプツィヒから新加入のギニア代表ケイタ。目玉の3トップは昨季の得点王で年間MVPのサラーと、偽9番のフィルミーノ、セネガルの暴虐王マネである。

ゲーゲンプレッシングでボールを即時奪回

 リバプールは前半から主導権を握り、ウェストハムを自陣に縛り付けた。速いパスワークからいち早くアタッキングサードにボールを送り込み、あとは3トップによるスペクタクル劇場が始まる。

 フィニッシュは個による突破や中央でのワンツーのほか、サイドからのクロスが特に多い。前でボールを失えば素早く攻守を切り替え、ゲーゲンプレッシングでボールの即時奪回を狙う。

 相手の攻撃になると、リバプールの3トップは前に攻め残り気味で次のカウンター攻撃に備える。基点を作る狙いだ。そのため自陣で守備しているときの全体のゾーンはそうコンパクトではない。

 リバプールのビルドアップはオーソドックスに2CBから高い位置取りをしたSBへのサイド経由と、セントラルMF経由の2ルートがある。両SBとも攻撃参加するが、特に右SBのアーノルドはポジショニングが高く攻撃的だ。またSBから逆サイドに張ったWGへの大きく正確な斜めのサイドチェンジも効いていた。

 中盤ではケイタが幅広く動いてボールを引き出す。チームの潤滑油になる非常にいい選手だ。周囲との連携がなめらかに取れており、とても新加入とは思えない。またアンカーのワイナルドゥムは真ん中低めで全体のバランスを取り、右インサイドMFのミルナーはウイング的に右サイドへ張り出して前進する。

 一方のウェストハムはゾーンをコンパクトに保った低い位置でのブロック守備から、ひたすらカウンターを狙う。ただビルドアップ時に中盤まではボールを引き出すものの、そこでボールロストしてしまいなかなかフィニッシュに行けない。前でもうひとひねり欲しい感じだ。

ダイレクトプレーが続いた劇的な2点目

 試合が動いたのは早かった。前半19分のリバプールの1点目は、ケイタのうまい動きから生まれた。フリーでバイタルエリアに侵入した真ん中の彼に、右SBのアーノルドからダイアゴナルな素晴らしいパスが通る。

 すかさずケイタは左サイドを上がったSBロバートソンにパス。最後はサイドからそのロバートソンがGKと最終ラインの間に強くて速いグラウンダーのラストパスを送る。シュートしたサラーはダイレクトで触るだけだった。ウェストハムはアンカーがボールウォッチャーになり、ケイタにフリーでバイタルエリアに入られたのが致命傷になった。

 そしてリバプールが取った4得点のうち、最も印象的だったのは前半47分にマネが奪った2点目だった。

 左サイドからロバートソンが入れたクロスを、右にいたミルナーが倒れながらダイレクトで真ん中へ折り返し。それを中央のマネがダイレクトで決めて見せた。ダイレクトプレーが2つ続いたダイナミックで劇的な、まさにリバプールのチームカラーを象徴するかのようなゴールだった。

 ザ・スペクタクル。それがリバプールである。

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【プレミアリーグ 18/19 第1節】FW武藤嘉紀は新天地で輝けるか? 〜ニューカッスル 1-2 トッテナム

2018-08-12 12:04:50 | イングランド・プレミアリーグ
開幕戦はセカンドトップで途中出場

 今夏、プレミアリーグのニューカッスルに移籍したFW武藤嘉紀は、11日の開幕戦で途中出場ながらデビューを飾った。1点リードされた状態でセカンドトップに入った武藤は、トッテナムのビルドアップの局面でボールを保持する敵CBにスプリントでプレッシングするなどチームを鼓舞し、試合の雰囲気を一変させた。果たして武藤は新天地で輝けるのか? ゲーム内容を見ながら考察して行こう。

 ラファエル・ベニテス監督が指揮を取るニューカッスルは、あえてカテゴライズすれば堅守速攻カウンターのチームだ。ゾーンをコンパクトにしてボールを奪うと、縦に長いクサビのボールを入れたり、サイドからのクロスでフィニッシュへ行く。

 とはいえロングボール一辺倒では決してなく、ショートパスでビルドアップも試みるが、そこでイージーミスして簡単にボールを失うシーンが散見された。おそらく本来は直接前線を狙うダイレクト攻撃のチームだが、ベニテス監督が緻密なビルドアップを仕込んでいる最中なのかもしれない。

 とすればビルドアップ時のパスの精度を上げ、まずミスをなくすことが重要だ。そうすればボールをもっと保持できるため、ミスによるボールロストから守備に追われることもなくなる。必要な時にはポゼッションもでき、攻めのバリエーションが増すだろう。

 またこの日の開幕戦では慎重な試合の入りをしたのだろうが、今後はもっとインテンシティを高め、さらにプレースピードを上げる必要性も感じられた。これで攻守の切り替えを速くし、持ち前の鋭いカウンターを繰り出したい。

武藤はどう機能するか?

 では武藤はこのチームで何をやるべきか? 彼はどう機能するのだろうか?

 この日、ニューカッスルのFWホセルは前半11分、右サイドからのクロスをヘッドで合わせてゴールに叩き込んだ。チームのフィニッシュはああいう速いクロスに合わせる形が多いことが予想される。とすれば武藤はまずクロスが入ってくればこれを取りこぼさないこと。高い確率で決めることが求められる。彼はクロスには強いのでできるはずだ。

 また縦に入ってくる長いクサビのボールをしっかり収め、いったん周囲にはたいてスプリントしゴール前に詰めて行くような動きも必要だろう。開幕戦を見る限り、ニューカッスルはこの縦パスをロストするケースが多いだけに重要である。敵DFにプレスを受ける中、強くて速いクサビを処理できるか? ここは勝負だ。

 ポジション的にはベネズエラ代表FWの重戦車サロモン・ロンドンが最前線で張り、その下に武藤が入るような形が予想されるが、武藤はサイドもできるのでベニテス監督にとっては選択肢は多いだろう。長身スペイン人FWのホセルもライバルだが、武藤のように俊敏でスピードのある献身的なタイプはいないのでアピール度は高い。今シーズンの武藤に期待しよう。

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【サッカー戦術論】プレー原則をハッキリさせろ

2018-08-08 08:01:46 | サッカー戦術論
カギはトランジションにある

 サッカーでは、ボールの専有権がAチームからBチームへ移った瞬間の状況判断がすべてを決める。カギはトランジション(攻守の切り替え)にある。そのとき例えば以下のような原則をチームがもっていればわかりやすい。

1. ボールを奪ったとき、相手の守備陣形が崩れているなら速く攻める。

2. ボールを奪ったとき、相手がしっかりブロックを作っていれば、まずポゼッションを確立させる。

 1の場合は初めから相手にほころびがあるから、敵が立て直す前にそこを速く攻める。一方、2の場合は、じっくりポゼッションしながら相手にゆさぶりをかけることでほころびを作る。

 例えば選手が中央に集まりショートパスを交換することで敵の守備者をピッチの真ん中に引きつけ、サイドにスペースを作る。で、そこを使う。あるいは同じ要領で敵を片サイドに寄せておいて、サイドチェンジを入れて一気に崩す。

 つまり最初から穴があったら、敵がそこをふさぐ前に攻める。穴がなければ、ボールと人を動かしてゆさぶることで穴を作る。合理的に考えればそういうことだ。実にカンタンである。

 相手の陣形が崩れてもいないのに強引に速く攻めるのはカウンター原理教だし、相手の守備隊形がせっかく崩れているのにムダに時間をかけてポゼッションするのは単なるポゼッション原理教だ。要は状況を読み、状況に合わせたサッカーをすることが大事なのだ。

そのときプランBを出されたら?

 と、ここまではわかりやすい。だがサッカーには相手がいる。だからややこしい。実は上記の論理は、ボールを奪ったチームの側の視点でしか見ていないからだ。

 例えば逆にボールを失ったチームの側に立って考えてみよう。自分たちは敵陣に攻め込み、高い位置でボールを失った。まさにネガティブトランジション(攻→守の切り替え)の時だ。

 ならばこのまま高いゾーンで怒涛のように激しくプレスをかけ、一気にボールを奪い返してしまえば相変わらず敵のゴールに近い位置で攻め続けられるーー。ゲーゲンプレッシングによる即時奪回を狙うのだ。つまりプランAで攻め、ボールを失えば即時プランBに切り替えるわけである。

 こうなるとボールを保持する側はむずかしくなる。なにしろボールロストした側が瞬時に攻勢をかけてくるのだ。冒頭にあげたプレー原則1、原則2を外される。今度はプランCが必要だ。

 ならばゲーゲンプレッシングをかわすためにいったんロングボールを入れるのか? それとも敵の第一プレッシャーラインをうまく逃れて攻め続けるのか? そのときプレスをどう外すのか?

 とまあ、タヌキとキツネの化かし合いが続く。そうカンタンに一方だけが有利にならない。これだからサッカーはおもしろいのである。

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【サッカー日本代表】日本人はモドリッチをめざせ

2018-08-07 07:38:55 | サッカー日本代表
フィジカル恐怖症からの脱出

 ロシアW杯を振り返れば、「日本人はフィジカルが弱いよなぁ」などと感じさせるシーンはハッキリ言ってなかった。これが何に起因するのか精緻に分析してみないとわからないが、いずれにせよ、ならば日本人の弱点からフィジカルはもう外してもいいのではないか?

 もちろん長友みたいに自主的に体幹鍛えて当たり負けしないカラダを作ろう、というのは大歓迎だし、デカくて強い選手がいれば率先して起用すべきだ。1対1のデュエル、インテンシティの高さが重要なのは当然変わりない。ただし「日本人の欠点はフィジカルだ」と、ことさら卑屈になりネガティブに考えるのはもうやめたほうがいいんじゃないか? というお話だ。

 例えばクロアチアのエースでレアルの主力であるルカ・モドリッチを見よ。なんと身長172cm、体重66kgしかない。で、あのハイレベルな技術とチームのために走りまくる献身性で欧州フットボール界のトップに君臨している。

 彼のようなテクニックと犠牲心なら日本人にもめざせる。むしろ国民性にも合うしストロングポイントにもなる。山椒は小粒でピリリと辛い。この方向性なら日本人は勝負できるのではないか? 

 あと欲しいのは、日本人に決定的に欠けている平凡な枠組みや常識をぶち破るアタッキングサードでの爆発力だ。現状で近い存在をあげるとすれば中島翔哉だろうか。

「日本人の長所は組織性です」などとは口が裂けても言わないような人物。絶対に忖度しない強いメンタリティの持ち主。日本人的な右へならえ主義でなく、長いものには巻かれろ、でもない。出まくる釘のように、「俺は俺だ」「俺が決めるんだ」という精神的にも強い個をもつキャラクターの選手を育てる。これで日本は世界に伍せるようになるはずだ。

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【森保ジャパン】まず選手の個性ありきのシステムであるべきだ

2018-08-04 06:58:34 | サッカー戦術論
3-4-2-1は既定路線なのか?

 森保ジャパンではあたかも3-4-2-1が既定路線であるかのように言われている。また日本人は「選手をシステムに当てはめる」失敗を繰り返すのだろうか?

 いったいハリルジャパンで日本人は何を学んだのか? 監督が考える戦術やシステムという鋳型にハメ込むように、選手の個性と異なるプレイスタイルを強いるゲームモデル作りの限界を我々はハリルに見たのではなかったか?

 例えばヨーロッパの最前線では、相手チームのビルドアップをいかに制限するか? が焦点になっている。とすればロシアW杯で香川がやっていたような中間ポジションを取りながらの前からのプレッシングが不可欠になる。

 では3-4-2-1でそれをどう実現するのか? なんだか順番が逆になっているような感じがする。前からのプレッシングが前提ならどんなシステムがいいのか? と考えるのが正しい順番だろう。

代表監督はセレクター型が望ましい

 監督という生き物は2種類いる。フィロソフィ型とセレクター型だ。

 前者は監督の頭の中にあるフィロソフィ(サッカー哲学)を体現する戦術やシステムがまず先にあり、それに合う選手をあとから選んで行く(または育てる)。

 他方、後者は上から順に能力の優れた選手をまずセレクトし(選び)、集めた彼らに合う戦術やシステムは何か? をあとから考えるタイプだ。

 そもそも代表チームはクラブチームと違い、選手を育てる場ではない。監督の頭の中に存在するフィロソフィに合う選手をじっくり育てる、などということはできない。

 同時に代表チームで監督のフィロソフィに当てはまる選手ばかりを選んでしまうと、「この選手の能力は日本でトップだが監督の戦術に合わないから選ばない」などという矛盾が起きる。

 せっかく日本人という広い範囲から自由に選手を選べるのに、監督のフィロソフィに合わないから選ばないなどというのは大きな機会損失だ。

 となれば代表チームはすでに完成されているベストな選手をセレクトし、あくまで彼らを組み合わせる場だということになる。

 ならば代表監督は自分が理想とする戦術やシステムに選手を無理やり当てはめるフィロソフィ型でなく、優れた選手をまず選び、じゃあ彼らを生かす戦術やシステムは何なのか? を考えるセレクター型の監督が望ましいのではないか?

 とはいえ監督はすでに決まっている以上、いま在任する監督にセレクター型のチーム作りをしてもらう以外にない。

 そんなわけで森保ジャパンでは3-4-2-1がすでに決まったことであるかのような今の世論は、議論が逆立ちしていると言わざるを得ない。また日本は同じあやまちを繰り返すのか? という感じがしてならない。

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