すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

自衛隊員の命は国防より重いか?

2015-05-30 08:50:29 | 政治経済
 衆院・特別委員会での戦争法案をめぐるやり取りや、ネットでの攻防を見て、絶望的な気分にさせられる毎日が続いている。

 いってみればキリスト教を信仰する者たちに対し、キリスト教の欠点を挙げ、自分たちが信仰する仏教の美点を得々と訴え改宗を迫るようなやり取りに終始しているからだ。特定の宗教を固く信仰し、まるで異なる教理経典をもつ相手に「改宗しろ」などと言ってもムダな話だ。

 どういうことか?

 たとえば「国防は血を流してこそ行うものだ」と考える勢力に対し、「自衛隊員の尊い命を危険にさらすのか?」などと相手の心理に何の影響も与えないピントはずれな論理をふりかざす。

「現行憲法はGHQが作り、押しつけたものだ。欠陥が多く、一刻も早く変えるべきだ」と考える勢力に対し、「戦争法案は尊い我らの憲法に違反している」、「命と平和を守る憲法九条を守れ」などと、これまた完全にピントはずれな攻勢をかける。

 まったく議論がかみ合ってないし、有効な攻め方ができてない。
 
 野党・リベラル市民側の主張は、「1人の人間の命は地球より重い」という彼らと同じメンタリティを持つ「人権ムラ」の村民にしか通用しない。

 たとえば相手が「命や人権は何よりも大切だ」と考えていれば、「自衛隊員の戦死は想定しているのか?」と追及すれば相手はひるむ。うつむき、黙る。やり込められる。だが肝心の相手は「命や人権より国防が大事だ」という認識なのだ。「自衛隊は軍隊だからリスクがあるのは当然だ」と切り返されて終わるのは当然だ。

 肝心の説伏すべき「敵」は、「命は国を守るために捧げるべきだ」と考えている勢力である。そんな彼らに対し、「隊員の命をどう考えているのか」などと人権「真理教」的な迫り方をしているのだから、見ているこっちはまったく腰が砕ける。そんなもの、自衛隊は軍隊なんだから戦死を想定してなきゃ成り立たないじゃないか。

 あー、うんざり。

 こんなやり取りは60年安保の昔からさんざん繰り返されてきたし、いいかげん、「その攻め方では何の効果もない」、「世の中を変えられない」と歴史に学ぶべきだ。

 戦略を根本に見直し、攻め方を180度変えなければダメだ。具体的で実現可能な対案がなければ説得力がない。

 たとえば (1) 日米安保条約を破棄し、自衛隊を改組して武装中立・自主独立を訴える。それには米軍がいなくなるぶん差し引き防衛費が年間20兆円かかり、その財源はこれこれこういうふうに捻出します、かつ、この戦略を取った場合に国際世論はこう変わり、日本は対外戦略としてこういう外交を展開する必要があります、と訴えるとか。

 あるいは (2) 尊い人命が失われる可能性のある自衛隊は解体し、非武装中立を訴える。その場合に米中はじめ国際的なパワーバランスはこう変わり、日本の国防リスクはこれくらいに留まる、ゆえに非武装中立はこういうふうに成立します、だとか。

 はたまた、(3) これまで通り日米安保条約を維持しながら、アメリカの核の傘の下で防衛負担を極力抑えながら経済成長を目指す。ただしアメリカは国力が衰え「世界の警察官」はやめて一種のモンロー主義を取り内に籠ろうとしてるから、そのアメリカにこれまで通りの(片務的ではないが)非対称な日米関係を納得させるにはこれこれこういう論理でこのルートを通じて説得するのがベストだ、そうすれば成功確率は○%ある。ただし中国が台頭する中その戦略を取った場合の国際情勢は今後こう変わり、とすれば日本としてはこれこれこういう外交を展開する必要性がある、とか――。

 やり取りを見ている第三者が「なるほどそうか」、「その通りだな」と納得するような、具体性のあるディベートでなければ意味がない。ひたすら「命」や「人権」だけを切り口にし、論理ではなく人の「情動」に訴えかける手法ではダメだ。
 
 単に「戦争反対!」、「命を守れ!」の抽象的な大合唱では、有権者の大多数を占める無党派層を説得できない。世の中に大きなうねりは起こせない。最後は与党の絶対多数で押し切られて終わりだ。

 問題は、安倍政権が出した新安保法制に「賛成か?」、「反対か?」の二択を問う政権側の戦略に絡め取られていることだ。良識ある人々は「第三の選択」を提示し、国民をあげた大議論を巻き起こしてこそ道が開ける。いや安倍首相自身も「隠した本音」を国民に向けて率直に語り、またメディアとすべてのネットワーカーは日本が取りうるオプションを残らず挙げてそれらのメリット、デメリットをまな板に乗せ、喧々諤々議論するべきだ。結論を出すのは、まだ早すぎる。

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南シナ海で日中が開戦する日 ~集団的自衛権で「日中戦争」を目論む安倍首相と戦後レジームの終わり

2015-05-28 19:04:55 | 政治経済
日本の戦争に「アメリカを巻き込み」中国を叩く

 中国と戦争したい安倍首相はマッチポンプだ。自衛隊が「できること」を格段にふやして自分から中国を刺激し、他方、「いざというときはよろしく頼む」と集団的自衛権の行使容認でアメリカにアメを舐めさせる。これでいざ対中国戦が始まれば、安倍首相の思惑通り日米連合軍 vs 中国の構図になる――。

 日本は2000年の第一次アーミテージ・レポートから第三次アーミテージ・レポート(2012年)により、ずっとアメリカから集団的自衛権行使を容認するよう要求を突きつけられてきた。例えば、第一次レポートには以下のようにある。

『日本が集団的自衛権の行使を禁止していることは、同盟への協力を進める上での制約となっている。これを解除することにより、より緊密で効率的な安保協力が可能になるだろう。これは日本国民だけが決断できることである』

 他方、中国は南シナ海はじめ着々と海洋進出の地固めをしている。もちろん尖閣もそのひとつだ。いつか利害が日本と衝突する可能性は高い。かねてから中国を叩きたかった安倍首相は、このアメリカからの集団的自衛権の行使容認要求と、中国の覇権化を同時に利用する手を思いついた。それが今回の新安保法制に隠された裏の狙いだ。つまり日本がアメリカの戦争に巻き込まれるのでなく、日本がアメリカを戦争に巻き込み主導権を握るシナリオである。

日本を南シナ海で中国にけしかけ漁夫の利を狙うアメリカ

 アメリカは国力が衰えて覇権に陰りが見え、彼らによる一極支配は終わろうとしている。もはやアメリカ一国では「世界の警察官」は務まらない。そこで保安官助手を買って出たのが安倍政権だった。アメリカから見れば手足が増え、かさむ戦費も分担してもらえる。いいことづくめだ。

 だがアメリカには密かな狙いがある。戦争の歴史は、エネルギー資源をめぐる列強の闘争の歴史だ。南シナ海も例外ではない。中国がしきりに岩礁の埋め立てを進める南シナ海は「第二のペルシャ湾」ともいわれ、膨大な量のエネルギー資源が埋蔵されている。米エネルギー情報局(EIA)では、石油の埋蔵量が110億バレル、ガスの埋蔵量が190兆立方フィートにも上ると推計している。

 加えて南シナ海は日本の「ノド元」に当たる。日本に供給されるエネルギー資源などの90%近くが南シナ海を経由して運ばれている。シーレーンの要衝だ。この地域での軍事的緊張は、日本の「存立を脅かす事態」である。現に第三次アーミテージ・レポート(2012年)でも、「日本は航行の自由を確保するために、アメリカと協力して南シナ海の監視を強化すべきである」と重要性が強調されている。

 そこでアメリカが描くシナリオでは、まず南シナ海をめぐり日本と中国が戦火を交え(というより好戦的な安倍首相を中国にけしかけて)途中でハシゴをはずし、その後、米軍主導によるPKO(平和維持活動)など戦後処理を含め南シナ海でアメリカがイニシアチブを握る。そして当該地域に眠るエネルギー資源の開発権を手中にする狙いがある。つまりけしかけられた安倍首相は、自分から王手飛車にかかりに行っている。

欧米列強と肩を並べて東京裁判史観を払しょくする

 だが、その安倍首相にも彼なりの「同床異夢」がある。目の上のたんこぶである中国を叩き、アジアでのヘゲモニーを握ることで自虐史観を解消したい歴史修正主義者の安倍首相にとってもメリットは大きい。

 中国と偶発的な接触や小競り合いが起これば、大義名分ができる。膨張主義を取る中国が少しでも仕掛けてくれば、「自衛」の名のもとに安倍首相は喜んでやる気だ。集団的自衛権でアメリカを活用し、危険物を除去するチャンスである。

 加えて中国の首をあげることで「明治の志し」を遂げて欧米列強と肩を並べ、東京裁判史観の払拭につなげたい――。リベラル派が言い募る「命」や「人権」などとは程遠い、これがリアル・ポリティクスである。

 かくて日本とアメリカの奇妙な共犯関係が成立した。事態は刻々と進行している。

南シナ海での中国の埋め立て行為を非難する声明を日米が発表

 すでに第一陣として日本は、南シナ海で中国と揉めるフィリピンと、防衛装備品の移転について6月初旬にも合意する見込みだ。海上自衛隊のP3C哨戒機やレーダー、艦載ミサイルなどをフィリピンへ供与する。中国と対立するフィリピンに日本の装備品が渡れば、すなわち日本が中国に宣戦布告したも同じだ。

 また5月29日にはシンガポールで「アジア安全保障会議」(英国際戦略研究所主催)が開かれたが、これに合わせて日本の中谷元防衛相と米国のカーター国防長官らが会談し、「南シナ海における中国の埋め立て行為に深刻な懸念を表明する」との声明を発表した。

 さらにカーター国防長官は同会議における演説でも中国を重ねて非難し、埋め立てを即時中止するよう要求。演説会場にいた中国軍の趙小卓上級大佐がこれに反論し、2人は激しい応酬を繰り返した。一触即発の展開である。

 事態は急速度でアメリカのシナリオ通りに進んでいる。あとは日中開戦がいつになるか? だけだ。

 日本はアメリカにけしかけられて矢面に立ち、ハシゴをはずされないよう注意しなければならない。あのウクライナのように。

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メディアの情報操作に惑わされない4つのコツ

2015-05-23 22:06:30 | メディア論
まず情報を疑い、できるだけ複数のメディアで真偽を調べてみる。

 ツイッターで面白いのは、平日と土日の落差だ。土日になるととたんに、ソースが不確かなウラの取れていない怪しい情報がめっきり増す。つまりツイッターのユーザは、自分のツイートのもとになる一次情報の多くを既存の大手マスコミに頼っている。

 だから既成メディア(や役所)が休みの土日になると、ツイートの「肌触り」が変わるのだ。

 だがマスコミによる報道も、もとは役所が発表した記者クラブ経由の情報が多い。クラブ詰めの記者は日夜、役所が作り発表した資料をせっせとリライトして記事を作っている。かたやツイッターのツイートも、それらの記事をもとに囁かれている。

 その意味で情報の世界はいまや、川上から川下まで役所や官邸にコントロールされている。

 報道の世界では、そんな問題意識をもつ記者の間で「発表物に頼るな。自分でネタをゼロから掘り起こす『調査報道』が大切だ」といわれる。だがその調査報道でさえ、記者の取材に答えた証言者の細かなニュアンスまで正確に伝えているとは限らない。

 たとえば記者の主観や解釈のちがい、また所属する報道機関のスタンスにより、記事はどうにでも転がって行く。厳密な意味での「客観報道」など存在しない。

 とすればわれわれに必要なのは、まず「疑うこと」。うのみにしないことだ。流れてくる情報を見て「おかしいぞ」と思ったら、できるだけ複数の異なるメディアを当たり、自分でことの真偽を調べてみる。別の角度から眺めてみる。それがメディアの情報操作に惑わされないコツだ。

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日本に軍産複合体が生まれる日 ~日本初の武器見本市が開かれる

2015-05-19 09:37:50 | 政治経済
「危機」を煽る安倍首相が生み出すモンスター・システム

 横浜で先週、日本初の国際的な武器見本市「MAST ASIA 2015」が開催された。約40ヵ国から軍事関連企業が集結し、日本からは三菱重工や川崎重工など約20社が参加した。後援は防衛省、経産省、外務省。日本政府が総がかりだ。安倍政権には防衛産業を成長戦略のひとつにしたい狙いがある。

 またステルス戦闘機を開発・製造している米ロッキード・マーティン社がイベントをスポンサードするなど、アメリカが支援している点も見逃せない。去年4月に閣議決定された「防衛装備移転三原則」で武器輸出が解禁される一方、安倍政権が押し進める「攻め」の安保法制が後押しし、日本に軍産複合体が立ち上がる将来像が見えてきた。

 新しい安保法制により集団的自衛権の行使や地域を限定しない他国への後方支援が行われれば、自衛隊の装備や訓練はかなり様変わりするはずだ。当然、防衛費も伸びるだろう。日本の防衛関連メーカーの製品は武器輸出解禁で海外へ渡るだけでなく、国内市場も沸き上がることになる。市場規模は膨らむはずだ。とすれば防衛費をめぐり、鉄のトライアングルも形成されるだろう。

 政権・役所と企業間でヒト・モノ・カネが行き来するのはどこの業界でも同じだ。防衛品メーカーが関連官庁の天下り先候補になるだけではない。例えばアメリカで軍事基地や兵器メーカーが立地する地元に巨大な就職先を提供する様は、「原発がないと生きられない立地地域」を彷彿とさせる。地元の雇用と議員への票も密接に結びつくだろう。防衛品メーカーの誘致も盛んになるかもしれない。

 このように川上から川下までが利益追求で一致団結し、必ず儲かる軍需というモンスター・システムを回すようになる。 

 例えばアメリカでは軍需産業がシンクタンクへ献金を行い、まず仮想敵国の軍事的脅威を煽る報告書が作られる。(日本でもつい先日の安保法制の記者会見で、「危機だ! 危機だ!」と日本の危機を煽り立てる安倍首相の姿を覚えている人も多いだろう)

 そして軍需産業から報酬を受けたロビイストが国防関係の議員に働きかけ、最後は政府が動いて膨大な軍事費が計上される。例えば9.11同時多発テロをきっかけに、「対テロ戦争」の名目でアメリカの軍事費は前年比326億ドルも増額された。またそれだけでなくアフガニスタンやイラクでは、関連業務を民間軍事会社へ委託する「戦争の民営化」も行われた。

 軍需が成長産業になり、アメリカのように国全体が依存するようになれば「戦争をしないと生きられない国」になる。戦争で兵器を「消費」しては、また兵器を仕入れる魔のサイクルが訪れる。そこに膨大なカネが流れる。「どこかに火ダネはないか? なければうまく火をつけろ。でなきゃ儲からないぞ」という話になる。

 例えば安倍首相は5月18日の参院本会議で、集団的自衛権の行使要件である「存立危機事態」について、「電力が不足して国民生活に死活的な影響が出た場合」をあげた。つまり中東のホルムズ海峡が機雷で封鎖されて日本に原油が入ってこなくなり、電力不足が起これば掃海艇を派遣する、ということだ。

 日本が攻撃されてもいないのに、安倍首相は「電力不足」を理由に自衛隊を出すつもりでいる。要は戦争する理屈など、あとからいくらでもついてくるのだ。

「集団的自衛権の行使要件として『存立危機事態』を設け、歯止めはかけました」などといっても、こんなものは別に客観的な指標があるわけでも何でもない。要は、安倍首相の主観一発で「日本の危機だ。やるぞ」と決めれば自衛隊を出す、ということだ。いったい、これのどこが歯止めになるというのか?

 どうやら日本はこうしてアメリカと肩をならべ、「世界の保安官助手」を買って出るようだ。安保法制の関連法案を見る限り、歯止めに「見せかけた要件」はあっても本物の歯止めはない。今後も私的諮問機関やら閣議決定の連続ワザで、ズルズルとなし崩しに前へ踏み出すのだろう。そんな日本が軍需で国を回すアメリカ化する日はそう遠くない。

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