ネブラスカ 二つの心をつなぐ旅/アレクサンダー・ペイン監督
100万ドル当選したという手紙をもらった爺さんが、その当選金をもらいにモンタナからネブラスカの1500キロを息子共に移動する話。もちろんそんなに虫のよい話は無いと息子は分かっているが、父親は少しボケているのか、聞き入れてくれない。酔狂は分かっているが父親は免許証も返上しているらしく、自分が車の運転をして連れて行くのである。
道中父親の生まれ故郷にも立ち寄るのだが、そこであばずれの母親が出てきたり、昔の友人や親戚たちが出てきて、その外れくじであるはずの懸賞金を巡って、さまざまなトラブルに展開していく。架空のお金の所為で、改めて人間関係が浮き彫りにされていくわけだ。
ストレートなコメディ映画という訳では無いが、基本的にはコメディである。いくらボケていて言うことを聞かないとはいえ、こういう酔狂に暇をかけてやる人は無いだろう(金もかかるし危険もある)。しかしこれが、ある意味で父親の過去にさかのぼる旅にもなっていて、息子は、知らなかった父親の姿を、改めて深く知ることになるのである。
あえてモノクロで撮影されていて、妙な味わいはあるものの、ちょっと狙い過ぎて成功しているのかどうかわからない。面白い話だし、よくできた展開だと思うが、ここに出てくるアメリカ人は、どうにも皆馬鹿みたいだ。息子だけが辛うじて少しまともで、その視点で世界が描かれているので、何とか世界が成り立っているということだろうか。
しかしながら、やはりアメリカというのは本当に巨大な田舎らしくて、そういう田舎にも人がちゃんと住んでいる。そうしてちゃんとさびれた貧しさというのがあるのだろうと思われ、これは日本の田舎も将来的にはそうなる(今は既にそういう感じではあるけど)ということの予言的見方もできるかもしれない。こういうアメリカはいずれ滅びていくのかもしれないが、辛うじて今もアメリカらしく存在している事実があるのだろう。よく分からないまでもそういう背景がなんとなく呑み込めて、味わいのある作品になっている。特にばあさんになっている母親は、なかなか強烈なキャラクターで、この人を見るだけでもこの映画は、とてもいいのではなかろうか。若いあばずれは痛いが、ばあさんになるとなかなか強くてよろしい。そういう生き方の出来る女性というのは、確かにアメリカにしか居ないかもしれない。