内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

フランス人の眼で明治日本を散策してみよう(二) ― フェリックス・レガメ『明治日本写生帖』

2019-08-30 00:00:00 | 読游摘録

 二番目にご紹介するのは、昨日の記事で紹介したエミール・ギメの日本旅行に同行した画家フェリックス・レガメが1905年に出版した『明治日本写真帖』(原題は Le Japon en images)です。フェリックス・レガメについては、今年の1月16日の記事ですでに取り上げていますので、そちらも参照していただければ幸いです(原書へのリンクもそちらに貼ってあります)。
 本書の著者フェリックス・レガメ(1844-1907)は、明治時代に二度来日したフランス人画家です。一度目は、明治九年(1876)、エミール・ギメの宗教調査旅行に挿絵画家として同行しました。二度目の来日は、その二十三年後の明治三十二年(1899)、図画教育視学官として、東京での学校視察を主な目的として二ヶ月半ほど滞在しました。この二回目の来日のときの記録と収集した資料と自らのスケッチを基にして、『東京の学校におけるデッサンとその教育』『日本』という二つの著作を刊行しました。
 本書『明治日本写生帖』は、この二著の図像を中心として再編集されており、よりわかりやすい形で日本の風俗や文化を紹介したレガメ最後の著作です。その図像資料は、「私たちの目の前に、明治時代の日本の姿を生き生きと浮かび上がらせてくれる。とりわけ、レガメの手になる素描は、写真や映像の持つ正確さにはかなわないものの、それゆえに彼の眼差しや視点をより色濃く反映し、趣深い味わいをもたらしている。」(訳者林久美子による「まえがき」より)
 レガメは、フランスのジャポニスムブームの火付け役の一人であったにもかかわらず、本国フランスにおいても、「今日では忘れ去られた人物となっている」こともあり、訳者は、解説でその生涯を詳しく紹介しています。レガメの文章(その日本人・日本文化へのあまりの称賛ぶりはこちらが恥ずかしくなってしまうほどですが)と245点の図版からなる本訳書の本体そのものがきわめて魅力的で興味深いものである上に、懇切丁寧な訳者解説があるだけでなく、国際日本文化研究センター・総合研究大学院大学教授の稲賀繁美さんによる「日仏文化交流史のなかのギメとレガメ」と題された、当時の日仏文化交流史の中にギメとレガメの足跡を位置づけたとても情報量の多い解説も巻末に収められており、令和最初の月であるこの五月に刊行された本書は、文庫としては破格の贅沢な構成になっています。