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ノーベル化学賞を有機分子触媒が受賞

2021-10-10 10:15:04 | 化学
このところノーベル賞の話題が多くなっており、医学生理学賞と物理学賞について書きましたがここは化学賞の話です。

物理学賞は日本人が受賞しましたので、マスコミも大きく取り上げ色々な情報が入ってきました。化学賞はドイツのマックス・プランク研究所のリスト氏とアメリカのプリンストン大学のマクミラン氏の2名が受賞しました。

この業績である「有機触媒」の研究は一般的にはまるで面白みもありませんので、ほとんど報道されていませんが、私にとっては大変なじみのある人たちです。

もちろん名前しか知りませんが、私の研究生活の最後のころに有機物質を用いた不斉触媒という画期的な研究が報告されました。これを説明するにはかなり難しい立体異性体のことを書く必要があります。

炭素には4本の結合手が立体的にありますので、これに異なった物質が結合すると、平面的には同じになりますが立体的には重ね合わすことができない2種類が存在します。これを立体異性体とよび、例として右手と左手のような関係となります。

この2種は同じものがついていますので、物性としては完全に同じなのですが、旋光度というものを測定すると、光の曲がり方が逆となります。そこで立体異性体の片方だけを光学活性体と呼んでいます。

天然の物質はほとんどが光学活性体で、例えばアミノ酸はL型が大部分でD型は存在しません。通常の化学反応は、立体を区別することができませんので、立体異性体が1:1となったラセミ体またはDL体と呼ぶものしか合成できません。

しかし医薬品の場合は結合するのがタンパク質ですので、DとLを区別し通常どちらか一方しか活性はありません。そこで化学反応でもDかLだけを合成するための触媒(不斉触媒)の開発が活発になりました。

その先駆けとして2000年にマクミランが二級アミンを用いた触媒により不斉ディールス・アルダー反応を行えることを発表しました。これはマクミラン触媒と呼ばれ、その後この触媒をベースに多くの不斉触媒が開発されています。

またほぼ同じ時期にリストがアミノ酸であるプロリンを用いて、不斉アルドール反応が進行することを報告しました。これはリストのプロリンとしていろいろ応用されています。

それまで金属触媒が用いられていましたが、有機化合物でも触媒作用があり、しかも光学活性体を作ることができるというのは、当時は衝撃的な発明と言えます。この2000年に入ってから、この2人の発見をもとに多くの不斉有機触媒が開発されてきました。

このように近年必要性が高まってきた不整合成の先駆けと言える2人が、ノーベル賞を受賞されたことは当然のような気がしますが、うれしいことと喜んでいます。