読書ノート  

主に都市、地域、交通、経済、地理、防災などに関する本を読んでいます。

新しい地政学 北岡伸一・細谷雄一[編]2020

2020年09月18日 | 国際関係・海外事情(外務省、JICA)
 いくつかの章を読んでみたが、地政学は「学」と呼ぶほどのものとも思えない。地政学といっても、体系とか方法論があるわけではない。国家間の力関係や国際関係論を論じるときに地理的要素を無視できないのは当たり前のことではないか。
 しかし、近年地政学は流行している。あとがきによると、戦後長らく日本において「地政学」は、かつて地政学がナチスドイツに悪用されたことから避けて遠ざけられてきた。それが過去10年ほどで状況が変わり、グローバルなパワーバランスが変わり、世界情勢がふようめいになったことから、注目されるようになった。安倍総理の「自由と繁栄の弧」「自由で開かれたインド太平洋」は地政学的な戦略構想であり、地政学は単なる学問的知的関心を越えて重要な意味を持つようになった、ということらしい。
 
序章:今はJICA理事長の北岡先生 アメリカに対して結構冷めた見方をしている。
・1980年代から90年代前半の対日貿易摩擦においては、根拠の乏しい激しい日本非難を繰り返し、極端な要求を突きつけた。安全保障をアメリカに依存していた日本は、屈服せざるを得なかった。
・2020年の同時多発テロにおいては、アメリカは戦争だとして全面勝利を目指した。
9.11は悲惨な事件ではあるが、法的には国際犯罪行為であって、戦争とは言えないのではないか。(アメリカが)本当の脅威に直面したことがないための過剰反応。
 
第3章 新型コロナに関するツイートで名前を知った篠田英朗
 世界の武力紛争は冷戦終焉後増えた後徐々に減少したが2010年代に顕著に増加。90年代において世界の紛争地帯はサブサハラ・アフリカだったが、最近はサヘル地域から中東を通って南アジアまでが武力紛争のベルト地帯。武力紛争犠牲者数のグラフp122。
 ロシアは、ウクライナやジョージアなど旧ソ連邦共和国は緩衝地帯となるべきという不文律。親西欧的な政治運動は看過できない。
 中国の一帯一路に対し、アメリカは「インド太平洋」の概念を多用し、日豪印が中国を包囲する戦略をとる。
 
第5章 感染症の本を書いた政治学者詫間佳代
 保健分野はどの国も「感染症から国を守る」ことが国益に合致し比較的国際協力しやすい。保健協力は19世紀植民地統治が生み出し、1920国際連盟規約には病気の予防と撲滅が規定された。
 アメリカは、(第1次大戦敗戦国)ドイツを保健協力に参加させ、第2次大戦後はWHOをユニバーサルな機関にするべく敗戦国、非自治地域(植民地)など国際連合非加盟国に加盟の道を開くべきという立場。イギリスやソ連は反対。
 アメリカは国際保健協力に圧倒的な影響力を行使し、財政面にも深く関与してきた。冷戦下において、アメリカ主導のマラリア根絶事業、ソ連提唱の天然痘撲滅、米ソ協力によるポリオ根絶などが、パワーポリティックスの影響を受けつつも、専門家たちの協力によって成果をあげてきた。
 トランプ大統領により、アメリカの国際協調主義が後退し、国際保健協力においてもAIDS支援予算削減・・・
 
 

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