読書ノート  

主に都市、地域、交通、経済、地理、防災などに関する本を読んでいます。

災害対応ガバナンス―被災者支援の混乱を止める 菅野拓2021

2021年08月02日 | 防災・復興(内閣府防災、復興庁、気象庁)

菅野拓君2冊目の著書。

第3章
 1947災害救助法は明確に弱者保護、生存権保障の法律だった。その後、災害対策は1961災害対策基本法や1962激甚災害法により災害対応組織や計画、ハード復旧に重きが置かれるようになった。その反動のように個人救済を求める声が上がり、議員立法として1973災害弔慰金法、1998被災者生活再建支援法ができた。
 社会保障は救貧的なものから誰もが利用する介護保険のように普遍的なものに変容したが、被災者支援は社会保障から孤立して制度展開していった。自治体の災害対応にとって被災者支援は、メインではなく経験も少なく、よって災害が起きるたびにそれぞれの地域で混乱が生じる。
 災害法制は、構造的に災害対応に慣れようがない自治体に災害対応、被災者支援の責任の大部分を押し付けることによって混乱を生み出した。

第4章
 被災者支援と平時の社会保障とを連続させる取り組み。仙台市の災害ケースマネジメント。被災者世帯を4類型に分類し、必要な生活支援、住まい再建支援をする。

第5章
 基本的な災害対応ガバナンスを、政府が直接供給する階層組織によるガバナンスから、様々なアクターが参画するネットワークガバナンスに変更することを提言する。生活用品の供給は物流・小売企業が、避難所サポートはサードセクター組織が、住宅や家財被害に対する金銭給付は損害保険に一元化し建築物被害調査は民間保険調査がする。それによって地方自治体の人手の問題は相当に改善される。

(感想)
 災害対応で地方自治体が不慣れで普段扱わない各種の膨大な被災者支援を押し付けられるから混乱が生じる。餅は餅屋を利用すべきだ。という提言には100%賛成する。しかし、階層組織からネットワークガバナンスへという提言は、それだけでは不十分だろう。トップダウンの強化ではうまくいかないのはわかる。全能のトップなんぞ存在しないからだ。だが階層組織といっても、トップダウンもあればボトムアップもある。ネットワークといっても全体像が俯瞰できなければ安心して任せることはできない。p145「調整と協働」がキーワードになると思うが、それがうまく機能するための条件:各アクターの役割、組織の動かし方、備えるべき能力と平時の訓練などについて、菅野さんにはもっと深く掘り下げて論じることを期待する。

 

 


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