見もの・読みもの日記

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勇躍する怪物/絢爛豪華 岩佐又兵衛絵巻・浄瑠璃物語(MOA美術館)

2012-05-01 00:08:57 | 行ったもの(美術館・見仏)
MOA美術館 開館30周年記念所蔵名品展『絢爛豪華 岩佐又兵衛絵巻』(II期)浄瑠璃物語(2012年4月6日~5月9日)

 3月の記憶も新しいうちに、再び熱海へ。第1期の「山中常盤物語」は、映画で全場面を見たことがあったが、「浄瑠璃物語」のストーリーはよく知らない。そこで、まず入口のパネルであらすじを読んで予習する。ふむふむ、わりと単純な悲恋物語なのだな。それにしても、「名場面」として掲げられた、巨大な烏天狗に背負われた姫君の姿に魂を奪われてしまう。何だ、この豪華絢爛たる夢魔の図は!

 わくわくしながら会場へ。第1期の「山中常盤」と同様、壁に簡単なあらすじのパネルが掲げてあったが、あえて詞書の原文翻刻をじっくり読みながら進む。

第1巻。15歳の牛若は、鞍馬山を出て、金売り吉次とその兄弟の供になって奥州へ下る。三河国・矢矧宿に到着。この絵巻は、モブ(その他大勢)を描くのに、実に偏執的なほどの労力をかけている。ひとりひとり異なる表情、華やかで個性的な服装など。矢矧宿では、髪を結い上げ、帯を低く結んだ近世初期の美人が、箒を持って立ち働いている。宿の長者の唐御所では、主の浄瑠璃姫と12人の女房たちが管弦の遊びの最中。「あづまの管弦には笛をふかぬならひかや」と見た牛若は、門外で蝉折の笛を吹いて合奏する。ちなみに笙、篳篥、高麗笛はいて、横笛だけがいないという設定。

第2巻。浄瑠璃姫は外の様子を見に行かせる。最初の女房は馬番が粗末な草笛を吹いていたと答える。二人目の女房は、牛若の出で立ちを詳しく語ってきかせる。小袖や袴の文様にかこつけて、のちの平家の滅亡、源氏の繁栄を予言する詞になっている。

第3巻。牛若と浄瑠璃姫の対面。和歌のやりとり。風で簾がめくり上がり、垣間見た姫君に、牛若は恋に落ちる。その夜、牛若は、女房の手引きで御所に忍び入る。金碧障壁画に囲われた奥座敷には「ひしゆがだるまに たうはがたけに もつけいおしやうのすみゑのかんのん」三幅が掛けられている。当時の美意識が窺えて面白い。牧谿和尚と…「たうは」は蘇東坡か?

第4巻。牛若、浄瑠璃姫の局に入る。最初の場面(たぶん。冒頭が少しカットされていたかも)で、すでに姫君の枕に手をかけているのだが、なかなか床入りにならない。くどきとじらしの応酬が色っぽい。私が以前見たのはこの巻だった(サントリー美術館MOA美術館)。

第5巻。さらに牛若はくどき、姫君は否む。

第6巻。ついに姫君がなびく。そして後朝の別れ。ここの群青色の泉水と梅の木の描写、いいな~。

第7巻。牛若のつらい旅は続く。池田宿。

第8巻。蒲原宿。「きくや」での宴会、厩、水浴、相撲に興じる男たち。唐御所のセレブな世界から一転して、この下世話な描写もよい。牛若は旅の疲れで病みついてしまう。

第9巻。「きくや」の女房は牛若を娘の婿にと願うが、断られて逆恨みする。夫の与一は、牛若を殊勝に思い、快癒のために箱根権現に百日籠りをするが、女房はその隙に男たちに牛若を襲わせる。男たちは牛若を浜の六本松に棄ててくる。すると、源氏の家宝が変化(へんげ)して、牛若を守りに現れる。友切丸と「かんちくのようてう」は大蛇になったとあるが、画面では、黒と白の巨大な龍が牛若に寄り添っている。さらに源氏の氏神である正八幡神も客僧の姿で現れる。

第10巻。客僧は牛若の文をことづかって、矢矧宿の浄瑠璃姫のもとへ。いいのか、正八幡神をパシリにして。浄瑠璃姫と女房の冷泉は、御所を抜け出し、牛若のもとへ向かう。蒲原宿に着くが、雪女と間違えられ、人々に邪慳にされ、浜の辻堂で雷雨をしのぐ。なぜか、ここにも巨大な雷神の姿。そこへ(与一の百日籠りの霊験で)箱根権現が老尼公の姿で現れ、牛若の死を告げる。

第11巻。浄瑠璃姫が駆けつけ、姫君の涙を唇に受けた牛若は蘇生する。牛若、鞍馬から大小の烏天狗(デカい!)を呼び寄せ、姫君と女房冷泉を送り届けさせる。戻ってきた二羽の烏天狗(主の牛若の悲しみに同調し、巨体をちぢめて身もだえする体)を引き連れて、さらに奥州をめざす。いや、こんな超人的な郎党がいるなら、別に金売り吉次の馬引きなんかする必要ないだろう…と思うけど。

さて、時間は一気に飛んで、牛若は平家討伐のため京に上る途中、矢矧宿に立ち寄るが、浄瑠璃姫がいない。なんと母親が牛若との密会を怒って家から追い出し、死に至らしめたことを知る。

第12巻。浄瑠璃姫の墓前での供養。五輪塔が割れて光を放つ。従者が「冷泉寺」の額を掲げ、ここに寺を建立することを告げている。最後は、浄瑠璃姫の母親が、簀巻きにされて矢矧川に沈められる場面。えええ、因果応報とは言いながら、それで万事解決かい!とツッコミたくなる。

 でも面白かった~。私は、この絵巻、牛若と浄瑠璃姫の床入りシーンしか知らなかったけど、大蛇(龍)・雷神・烏天狗など、次々登場する「変化のもの」がすごく気に入ってしまった。自然の猛々しいパワーが、そのまま形になったようだ。

 いまさらだが「山中常盤物語」と「浄瑠璃物語」って、同じく牛若を主人公としているが、相互に何も関係はないのだな。そして、牛若(源義経)という存在が、中世後期の語りもの文芸に、いかに大きな想像と創造の源泉となったかというのは、興味のつきないところだ。

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