○MOA美術館 開館30周年記念所蔵名品展『絢爛豪華 岩佐又兵衛絵巻』(I期)山中常盤物語(2012年3月3日~4月4日)
今月初め、出光美術館で三大古筆手鑑のうち『見努世友』と『藻塩草』を見たあと、MOA美術館所蔵の『翰墨城』が出る展覧会はないかなーと思って、同館のサイトを見に行き、このニュースを見つけた。岩佐又兵衛の『山中常盤物語絵巻』12巻、『浄瑠璃物語絵巻』12巻、『堀江物語絵巻』12巻を三期に分けて展示するという。これはすごい!!
しかし、本当に全巻展示なんだろうか? 私は、かつて同館の『所蔵名品展』(2007年)で3つの絵巻が全部見られる!と期待して行ったら、それぞれ1場面しか開いていなくて、ガッカリしたトラウマがあるので、今回は、室ごとの展示品リスト(併設展示作品)のページをしつこくチェック。確か、月初めは、展示室3、4が「模様替え中」だったので、もしかして前半の巻しか展示しないの?とあやしんでいたが、ご覧のとおり、全巻展示されることを確認して、東京から熱海まで小旅行に出かけた。
いやー面白かった。ほぼ全場面展示と思っていいと思う。スペースの関係で、冒頭の詞書が見せられなかったり、1場面くらい省略していたかもしれないけど。初めて見ることのできた全12巻の内容をメモしておこう。
第1巻。冒頭は、白の着物に赤い袴の主人公・牛若の登場。能楽の舞台みたいだ。牛若は奥州平泉の秀衡館へ。都にあって、牛若の行方を案じていた常盤は、そのことを仄聞する。
第2巻。常盤と侍女、奥州へ旅立つ。袴の下に「はばき」(スパッツみたい)をつけ、足袋を穿いた装束は、時代錯誤だろうが、面白い。
第3巻。京都~近江の道行。名所を折り込んだ短い詞書。人物を小さく描く名所絵ふうの場面が続く。常盤は山中宿で病みついてしまう。
第4巻。いきなり、夜盗の襲撃。夜盗の姿を異様に大きく描いている。衣を剥がれ、肌も露わに斬り殺される常盤と侍女。小学生くらいの女の子と見ていたお母さんが、殺害場面の直前で、慌てて展示ケースから離れさせていたけど、この絵巻は、子どもと見に来ないほうがいいと思う。
第5巻。息絶える常盤。宿の夫婦によって埋葬される(塚が版築みたいだ)。その頃、牛若も都を目指していた。
第6巻。山中宿で母の死を知り、仇討を誓う牛若。助力を求められた宿の主人は、はじめ尻込みするが、妻の女房が力づける。この女房は髪を結っている。
第7巻。牛若(このへん本文では「みなもと」と呼んでいる)は変装して町に出て、大名が来たことを触れまわり、夜盗をおびき寄せる。トリックスターだなあ。
第8巻。再び宿を襲う六人組の夜盗。牛若(が変装した小冠者)は夜具にくるまり、枕を抱いて震えている。
第9巻。一転、牛若の怒りとパワー炸裂。六人の屈強な大男の肉体を、斬鉄剣さながらに斬りまくり、斬り刻む。血みどろの巻。しかし、当然ながら牛若の華麗な装束には、血の一滴も付かない。
第10巻。殺戮の後始末。宿の夫婦たちが、夜盗の死骸をむしろに包み、淵に沈める。さすが又兵衛は、戦国のリアリズムを知っている画家だなーと思った。
第11巻。牛若は秀衡館に帰還。ほとんど詞書がなく、華やかな秀衡館の光景(檜皮葺?)、孔雀のいる浄土庭園(毛越寺か)、そして御曹司上洛のために馳せ参じた大軍勢が、長大な画面に描き込まれている。
第12巻。大軍の将として上洛の途中、再び母の墓前に回向する牛若(虎の皮を敷いている)。
この作品は、2004年の千葉市美術館『伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛』で部分的に見たあと、2005年に羽田澄子さんの映画『山中常盤』で、全体を見たといえば、見ている。でも、やっぱり映画のカメラを通して見るのと、自分の眼で見るのは違う気がする。第9巻の「血風録」ぶりは、これまでも印象鮮烈だったが、今回は、大団円の第11、12巻の迫力に圧倒された。
各巻には簡単なあらすじのパネルが付いていたが、むしろ開いた場面の詞書に、全て原文翻刻(現代語訳はなし)が添えてあったのが、とてもよかった。歌舞伎や文楽に慣れている人なら、だいたい意味が取れる程度の古語なので、原文のリズムを味わいながら絵を眺めると、いっそう物語に引き込まれると思う。
第II期『浄瑠璃物語絵巻』も、第III期『堀江物語絵巻』も行かざるを得ないだろう。忙しいけど。
今月初め、出光美術館で三大古筆手鑑のうち『見努世友』と『藻塩草』を見たあと、MOA美術館所蔵の『翰墨城』が出る展覧会はないかなーと思って、同館のサイトを見に行き、このニュースを見つけた。岩佐又兵衛の『山中常盤物語絵巻』12巻、『浄瑠璃物語絵巻』12巻、『堀江物語絵巻』12巻を三期に分けて展示するという。これはすごい!!
しかし、本当に全巻展示なんだろうか? 私は、かつて同館の『所蔵名品展』(2007年)で3つの絵巻が全部見られる!と期待して行ったら、それぞれ1場面しか開いていなくて、ガッカリしたトラウマがあるので、今回は、室ごとの展示品リスト(併設展示作品)のページをしつこくチェック。確か、月初めは、展示室3、4が「模様替え中」だったので、もしかして前半の巻しか展示しないの?とあやしんでいたが、ご覧のとおり、全巻展示されることを確認して、東京から熱海まで小旅行に出かけた。
いやー面白かった。ほぼ全場面展示と思っていいと思う。スペースの関係で、冒頭の詞書が見せられなかったり、1場面くらい省略していたかもしれないけど。初めて見ることのできた全12巻の内容をメモしておこう。
第1巻。冒頭は、白の着物に赤い袴の主人公・牛若の登場。能楽の舞台みたいだ。牛若は奥州平泉の秀衡館へ。都にあって、牛若の行方を案じていた常盤は、そのことを仄聞する。
第2巻。常盤と侍女、奥州へ旅立つ。袴の下に「はばき」(スパッツみたい)をつけ、足袋を穿いた装束は、時代錯誤だろうが、面白い。
第3巻。京都~近江の道行。名所を折り込んだ短い詞書。人物を小さく描く名所絵ふうの場面が続く。常盤は山中宿で病みついてしまう。
第4巻。いきなり、夜盗の襲撃。夜盗の姿を異様に大きく描いている。衣を剥がれ、肌も露わに斬り殺される常盤と侍女。小学生くらいの女の子と見ていたお母さんが、殺害場面の直前で、慌てて展示ケースから離れさせていたけど、この絵巻は、子どもと見に来ないほうがいいと思う。
第5巻。息絶える常盤。宿の夫婦によって埋葬される(塚が版築みたいだ)。その頃、牛若も都を目指していた。
第6巻。山中宿で母の死を知り、仇討を誓う牛若。助力を求められた宿の主人は、はじめ尻込みするが、妻の女房が力づける。この女房は髪を結っている。
第7巻。牛若(このへん本文では「みなもと」と呼んでいる)は変装して町に出て、大名が来たことを触れまわり、夜盗をおびき寄せる。トリックスターだなあ。
第8巻。再び宿を襲う六人組の夜盗。牛若(が変装した小冠者)は夜具にくるまり、枕を抱いて震えている。
第9巻。一転、牛若の怒りとパワー炸裂。六人の屈強な大男の肉体を、斬鉄剣さながらに斬りまくり、斬り刻む。血みどろの巻。しかし、当然ながら牛若の華麗な装束には、血の一滴も付かない。
第10巻。殺戮の後始末。宿の夫婦たちが、夜盗の死骸をむしろに包み、淵に沈める。さすが又兵衛は、戦国のリアリズムを知っている画家だなーと思った。
第11巻。牛若は秀衡館に帰還。ほとんど詞書がなく、華やかな秀衡館の光景(檜皮葺?)、孔雀のいる浄土庭園(毛越寺か)、そして御曹司上洛のために馳せ参じた大軍勢が、長大な画面に描き込まれている。
第12巻。大軍の将として上洛の途中、再び母の墓前に回向する牛若(虎の皮を敷いている)。
この作品は、2004年の千葉市美術館『伝説の浮世絵開祖 岩佐又兵衛』で部分的に見たあと、2005年に羽田澄子さんの映画『山中常盤』で、全体を見たといえば、見ている。でも、やっぱり映画のカメラを通して見るのと、自分の眼で見るのは違う気がする。第9巻の「血風録」ぶりは、これまでも印象鮮烈だったが、今回は、大団円の第11、12巻の迫力に圧倒された。
各巻には簡単なあらすじのパネルが付いていたが、むしろ開いた場面の詞書に、全て原文翻刻(現代語訳はなし)が添えてあったのが、とてもよかった。歌舞伎や文楽に慣れている人なら、だいたい意味が取れる程度の古語なので、原文のリズムを味わいながら絵を眺めると、いっそう物語に引き込まれると思う。
第II期『浄瑠璃物語絵巻』も、第III期『堀江物語絵巻』も行かざるを得ないだろう。忙しいけど。