かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録14春

2014-06-01 14:07:52 | 本と雑誌

 今回紹介したい本は米国の役割をオバマ大統領とそのスタッフが抱える問題(経験不足・交渉下手・驕り)を描いた「政治の代償」(Bウッドワード)である。現在の世界情勢・政治環境を理解しようとする時、米国の影響力低下とオバマ大統領の世界秩序を守るリーダーとしては力不足であることが生々しく描かれている。米国の責任ではないが、シリアやウクライナ騒乱が何故こうなったのか重要な要因となっているのが分かった気になる。

 次に紹介するのが日本の得意とする製造業を組織と商品特性の二視点で分析してあるべき姿を提案する「日本のもの造り哲学」(藤本隆宏)だ。この分野の第一人者である著者の現場発のモノづくり論は明晰な論理で説得力がある。モノづくりをIT事業やサービス業まで広げて、やや無理があるが商品特性とビジネスの関わりを、立ち止まって一度見直すのに参考になる。リーマンショック後の電機等日本メーカーの苦境をどう見ていたのか著者の考えを聞いてみたい。

 もう一つ読んで成程と思ったのが、リーマンショック前に元FRB議長の感度が悪く住宅バブルを見逃したと糾弾する「グリースパンの正体」(WAフレッケンシュタイン他)だ。サブプライム危機を早くから鋭く指摘している。バーナンキ前議長もバブルに対して鈍感だと予測している様に感じる。グリーンスパンが神のようにあがめられていた時、このような厳しい指摘をした著者の慧眼は今更ながら新鮮に感じる。

 (2.0+)?投資の科学 MJモーブッシン 2007 日経BP 統計・確率論から心理学や生物学、競争戦略、複雑系など30の分野に分けて多角的・科学的に投資活動を分析して教訓を解説したもの。夫々にもっともらしいのだが結局何が言いたいの?というのが読後感。余りにも情報多寡で私には消化できなかった。本書を入門書として捉え気に入った領域に進むといいかもしれない。

 (2.0+)グリーンスパンの正体 WAフレッケンシュタイン・Fシーハン 2008 エクスナレッジ 米資産運用会社長でもある著者が、グリーンスパン元FRB議長はバブルを見逃し効果的な対処が出来ないと鋭く指摘する。特に90年代のITと生産効率の改善の見誤りと、リーマンショック前にサブプライム危機を早くから的確に予測しているのは印象的。出だしは私が知識不足のせいか根拠不明の主張に感じたが、後半のITバブル対応頃から実体験した記憶が甦った。

 (2.5+)日本のもの造り哲学 藤本隆宏 2004 日本経済新聞 著者が高度10mという生産現場発の経営論。もの造りを組織能力とアーキテクチャ(商品特性)の視点から分析し、日本の強味である統合型もの造りシステムと擦り合わせ型の組み合わせを基に、裏の競争力から表に最終的に収益を高める戦略に向かうべきと提案するもの。現状を「すり合わせ過剰」傾向に警告しているが、本書の構成は著者の得意な現場論に重点を置いた印象がある。佳作である。

 (2.0+)ガラパゴス化する日本の製造業 宮崎智彦 2008 東洋経済 日本のエレクトロニクス産業が伸びが止まった国内でしか売れないハイエンド商品を作り、急成長する新興国で存在感を失ったガラパゴス現象が続いている。本書は競争する台湾・韓国の代表的企業の取り組みを紹介し、日本の製造業の進むべき道を提案する。提案内容はすり合わせ・電気と機械組合せ・制約条件のある分野・製造ノウハウ囲い込み等従来から議論された内容。提案には日本的経営スタイルの問題と米国の最新動向を無視した内容で私には物足りなく感じる。

 (1.5)スマート革命 柏木孝夫 2010 日経BP 東日本大震災後に一時熱心に議論されたエネルギー(電力)のスマート・ネットワーク化、脱化石燃料と新技術開発を説いたもの。あらゆる要素技術を漏れなく羅列したという感じで、メリハリがなく何の印象も残らなかった。読み物としてつまらない、訴える力のない文章だ。

 (1.5)約束の日 安倍晋三試論 小川榮太郎 2012 幻冬舎 安倍晋三が首相に返り咲く数か月前に書かれた安倍晋三礼賛書で、第2次安倍内閣の政策を理解する上で大変参考になる。メディア特に朝日の攻撃は理解できるところがあり、現内閣の姿勢にも反映されていると思うが、「戦後レジームをからの脱却」に心酔する件が頻発するのはいささかうんざりする。

 (2.5)?政治の代償 Bウッドワード 2013 日本経済新聞 2011年の夏の次年度予算管理法の債務上限引き上げを巡るオバマ大統領スタッフと議会幹部の攻防を、著者独自のスタイル(インタビューを通じて関係者の発言を丹念に追跡して、結果としてオバマ大統領およびスタッフの経験不足・交渉下手・驕りなどを浮き彫りにしたもの。重複が多く550ページの大作は読み疲れる。

 (1.5+)検察vs.小沢一郎 産経新聞司法クラブ 2009 新潮社 自民党のキングメーカーだった金丸信の懐刀時代から、西松建設の政治献金で秘書が逮捕される民主党代表までの、小沢一郎の金権的権力維持手法と「政治と金」を摘発した検察の戦いの30年を描いたもの。その後の石川議員逮捕、小沢不起訴、検察審査会の異議、小沢無罪判決と道は長く物足りない。

 (1.5)官邸敗北 長谷川幸洋 2010 講談社 期待されて生まれた鳩山民主党政権が、経験不足で未熟なばかりに政治主導は口ばかりでやすやすと官僚に取り込まれ8か月の短命政権に追い込まれる様を描いたもの。民主党政治家と官僚の描き方が表面的で的を得て無いように感じる。実はこの本は一度(200/11)読んでおり高評価(2.5-)だったが、今回は低い点を付けた。どうせ、私の書評はこの程度ということでご理解いただきたい。

(2.5-)政治主導を掲げて発足した鳩山首相の無能振りと、財務官僚と亀井・小沢氏にマスメディアが加わって政局に振り回され迷走する様子を生々しく描いたもの。我国政治の本音と残念な実態が垣間見えてくる。著者は東京新聞の論説委員であり、記者クラブ報道のあり方にも一石を投じている。

 昨秋、田舎から東京に帰る時忘れた5冊の本の読書録を合わせて紹介します。
 
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 2.5自壊する帝国 佐藤優 2006 新潮社 ソ連解体の経緯を著者の驚くべき豊富な反体制派・体制派人脈との付き合いの中から実体験を描いたノンフィクション。小泉時代の鈴木宗男と外務省の対立に巻き込まれ刑事訴訟されたという印象を払拭する内容で、この手の本に多い一方的な立場から見た読み物とは異なる一級の著書。

 2.0+)なぜ高くても買ってしまうのか Mシルバースタイン・Nフィスク 2004 ダイヤモンド社 安価な日常商品を買う消費者が、拘りのある高級商品だけは惜しまず購入する消費者像と商品コンセプトを調査分析した興味ある佳作。バブル時代の一転豪華主義とは異なる知的な中産階級の消費が主役だ。世界経済危機後のこのニューラグジュアリー現象は続いている。

 2.0資本主義はなぜ自壊したのか 中谷巌 2008 集英社 リーマンショックの最中に新自由主義の旗手だと思われていた著者が転向したと話題になった反グローバリゼーションの書。その根拠が古代史から宗教に至るまでいわば専門外の情報に基づいた、私に言わせれば付け焼刃の月並みの論理のように感じる。グローバリゼーションからは逃げられない現実から始めるべきだ。最後の締めが我々は「欲望の抑制」をまず学べというのは私も全くその通りだと思う。

 2.0-世論調査で社会が読めるか 平松貞実 1998 新曜社 世論調査は社会調査の一つで、サンプリングによる誤差、聞き方で調査結果が大きく変わる、等々大学生向けの一般教養程度の講義の為の副読本レベルの内容で、我々のような素人にも入門書としてマスコミが伝える世論調査なるものがどういうものか教えてくれて面白い。

 2.0+コンサルタントの危ない流儀 Dクレイグ 2007 日経BP ‘90-2000年代にコンサルタント業界の最前線で働いた著者が見た業界の強欲な体質の暴露本。BPRから始まって選択と集中・人件費削減といった売り込み手法は、私も経験したお馴染みの道具立てで会社勤め時代を思い出した。実態を描いたもので受けを狙った際物ではないと感じる。

 凡例:本の評価
 
 (0):読む価値なし (1):読んで益は無い (2):読んで損は無い
 
 (3):お勧め、得るもの多  (4):名著です  (5):人生観が変わった 
 
 0.5:中間の評価、例えば1.5は<暇なら読んだら良い>と<読んで損はない>の中間
 
 -/+:数値で表した評価より「やや低い」、又は「やや高い」評価です。

無印: 「古本屋で入手した本
?: 図書館で借りた本
?: 「定価」で買った本 

 今日も暑い、春から梅雨をすっ飛ばして一気に夏が来たようだ。今回4月後半からの田舎生活の為に宅急便6箱分の本を送ったが、中々本を読みたいという気分になれなかった。遅ればせながらそれから1か月後暖かくなって読書欲が湧いてきた。面白そうな本を持って来たので次回をご期待願いたい。■

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