白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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書評・第9回 黎明秀甫

2017年09月28日 23時59分59秒 | 書評
皆様こんばんは。
本日はこの本をご紹介します。



以前玄妙道策をご紹介しましたが、同じシリーズです。
本書は幕末~明治にかけて活躍した、村瀬秀甫が主人公の打碁解説です。

皆様は家元制時代の棋士というキーワードで、誰を思い浮かべますか?
恐らく、本因坊道策または本因坊秀策を挙げる方が多いと思います。
次点は本因坊丈和、本因坊秀和、本因坊秀栄あたりの争いでしょうか。
いずれも素晴らしい大棋士であり、彼らの残した棋譜には現代の棋士も大いに影響を受けています。

本書の主人公である秀甫も、彼らに劣らぬ大棋士です(道策は別格かもしれませんが・・・)。
ただ、残念ながら知名度には大きな差があります。
碁も強ければ人物も魅力的だと思うのですが、生まれた時代の問題でしょうか・・・。
家元制の崩壊により御城碁(将軍御前での対局)を打つ機会に恵まれず、さらに本因坊就位後僅か4か月で没するという不運もありました。

さて、知名度はさておき、秀甫の残した碁は素晴らしいです。
江戸時代の名棋士たちから受け継いだ技術をベースにしつつも、先進的な考え方を取り入れて新しい境地を切り開きました。
著書「方円新法」の解説はレベルが高いうえに分かりやすく、現代でも通用します。
高校生の頃の私は、学校の図書館で現代語訳版を読んで感動した記憶があります。
また、入段試験に向けて修行していた時期は、秀甫の打碁集を自分で作って並べたものです。

本書ではそんな秀甫の碁を、石田章九段が解説しています。
秀甫の碁の本質に迫り、その魅力を無駄無く伝えているのは流石ですね。
レベルはかなり高い筈ですが、何となく眺めるだけでも楽しめるのではないでしょうか。

現代から見ても水準の高い棋士が江戸時代から数多く存在していたのは日本だけです。
昨今の世界戦では中国や韓国が台頭していますが、それでも囲碁は日本の国技と言って良いでしょう。
情報の多い現代ですが、過去の名棋士達のことをもっと知って頂けたら嬉しいですね。