白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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プロの駆け引き

2016年05月07日 23時59分59秒 | 対局
皆様こんばんは。
本日は以前にご紹介した林海峰名誉天元との1局、その序盤を振り返ってみたいと思います。



白△と下がって黒の根拠を奪った場面です。
黒はどうしますか?




黒としても上辺は石数が多いので、強気に行きたい所です。
真っ先に浮かぶのは黒1のボウシです。
しかしそれに対して白はまともに戦う気はありませんでした。
白2、4と利かして白6で左辺を確保します。
そして黒7と上辺を確定させようとした所で白8に入ります。
白がうまく立ち回っている印象です。
黒としては上辺に1、3、5、7と4手もかかっている事が不満です。




そこで、実戦は黒1と激しくツケてきました。
私としては予想外の手で、流石林先生という所です。
ここで白2とかわすようでは、黒3と2手で目一杯の形になります。
黒5となった形は黒良しです。




連打されまいと白1とノビるのは、黒2以下どんどん押し切ってきます。
隅からの2間の石との相性が良く、黒11となって完封されてしまいます。
右辺が巨大な地になりそうで、黒良しです。




かといって白1のハネは、黒2と切られて困ります。
以下黒17までとなって、白地が数目しか増えていないのに対して黒模様は巨大です。
この図も黒良しです。




「ツケにはハネよ(ノビよ)」というのが格言ですが、どちらもうまくいきません。
そこで白1と変化球を投じてみました。
我々の業界では「困ったときは手を抜け」などと言います。




三々に対して黒1、3の対応はまず順当な所です。
これを想定して白4のハネを決行する作戦でした。
あくまでも右上は陽動であり、本当に大事なのはここの競り合いです。




先述したように黒1のハネが心配ですが、ここで白2と打つのが読み筋でした。
黒3と打ってくれば白4、6で連絡してしまいます。
隅を大きく生きては白十分サバいています。




黒3と渡りを止めれば、白4です。
白6となるとAとBが見合いで黒困ります。




実戦は黒切るのは無理と見て1と自重しました。
黒は9と隅を大きく地にして満足ですし、白は上辺の封鎖を回避する事が出来ました。
最初の局面から大きく変化しましたが、双方言い分のある良い分かれになったのではないかと思います。


アマには予想もつかない展開を創り出してこそプロだと思います。
この対局がアマの皆様にお楽しみ頂けたのであれば幸いです。