白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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封じ手予想

2016年05月23日 20時13分11秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本因坊戦第2局、始まりました!
早速1日目を振り返ってみましょう。




まずは井山本因坊の白16の手から局面が動きました。
プロが100人いれば99人は2間開きを選ぶでしょう。





実戦は白1!
一間ジマリへの外ツケは古来より打たれている手です。
しかし現代では中盤戦でサバキのために打たれるぐらいで、序盤では珍しいです。





実践例としてぱっと思いついた碁が古い碁ばかりなので、少しタイムトラベルして頂きましょう。
右下で見慣れない形が出来ていますね。
1853年、本因坊秀策(黒)対太田雄蔵戦です。
黒△のツメに開かずに・・・





白1とツケていきました。
先手を取って13にも回って忙しく立ち回りました。





今度は100年ほど経過した1960年、岩本薫(黒)対坂田栄男戦です。
ゆっくりした布石ですが、ここから・・・





白1から右辺も上辺も打つ足早な立ち回りです。
このように、シマリへの外ヅケは足早作戦です。





さて、それでは現代に戻って来ましょう。
黒1~白4まで、形からして大体こうなります。
ここで黒5、7が普通ですが、白は先ほどの図のように下辺に回ろうという事でしょう。
白A、黒B、白Cとえぐる手が狙いです。





その図で黒が悪いとは私は思いません。
しかし相手の言いなりになっているのは確かで、高尾挑戦者は不満と考えました。
そこで打った手が黒1の肩ツキ!
これまた凄い手です。
黒Aなど、外側への肩ツキは模様を消す際などに良く使われます。
しかし内側への肩ツキは深々と踏み込む手です。
気軽に打てる手ではありません。
ここから物凄い読み合いが始まりました。





黒の狙いはこんな図です。
下辺に黒が先行する事が出来ました。
白としても黒の言いなりになるわけにはいかないので・・・





白1、3と黒を切断!
ならばこちらもと黒4と反撃!
いよいよ大変な戦いが始まりました。





そして手順が進んでこの場面。
ここが最大のハイライトでした。
白△とハネられたので・・・





黒1と逃げるのは素直ですが、白2以下脱出されて黒さっぱりです。
1子シチョウで取られた所、1線を渡らされた所のつらさだけが残ります。
実戦はこうはならず・・・





黒1の逃げ出し!
しかし白2でシチョウです。
高尾挑戦者、まさかのシチョウ見損じ!?





もちろんそんな事はなく、黒1が狙いでした。
シチョウ逃げ出しのおかげでAの両当たりができています。





よって白1と両当たりを解消、黒は2、4で白7子を捕獲しました。
俗に「シチョウの逃げ出し7目損」などと言いまして、取られているシチョウを逃げてしまうのはとんでもない悪手です。
普通ではありえませんが、しかしこの碁では代償に取った石も大きいです。
この分かれだけを見て判断するなら、黒良しでしょう。
しかしここで話は終わりません。





白1からいきなりのコウ仕掛け!
右下で石を取られている分、コウは白が有利です。
この戦いが白有利になるので、やれるとの判断でしょう。





もしも左上の形が少し違ったら、コウにならないのでこの局面は黒良しです。
こんな所まで判断基準に入れていました。
どれだけ深く読んでいるのでしょうか。





その後コウ争いになり、黒△とコウ立てをした所で封じ手となりました。
ひねった手を出しようがなくて困りますね(笑)
しかし、コウ争いが複雑で悩ましい・・・半分は直感で予想します。
私の予想はAの受けです。当たる自信は5割ぐらいあります。
他に可能性として考えられるのはBのコウ解消、こちらは4割ぐらいかなと感じています。
もう一つがCでのコウ解消、これはむしろ普通の解消方法なのですが、この局面では打ちにくいような・・・。
黒は後で両当たりの石をどちらか引っ張っていく手があり、消しの手掛かりにされるのが嫌です。
ということでCは1割ぐらいという事にしておきます。

少し間違えただけで一気に形勢が離れてしまいそうな戦いです。
死力を尽くした読み合いを制するのはどちらでしょうか?
明日も楽しみです。

なお、この対局の模様は幽玄の間にて、大垣雄作九段の解説付きで中継されます。
皆様、ぜひご覧ください。