白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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王冠戦

2017年11月14日 21時45分40秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
昨日は第58期王冠戦挑戦手合も行われていました。
日本棋院中部総本部の成立以前からある、伝統ある棋戦ですね。
今年は伊田篤史王冠(23)に六浦雄太七段(18)が挑戦する形になりました。

囲碁界全体を見てもそうですが、中部総本部でも世代交代の波が押し寄せています。
王冠戦は人数が少ないこともあり、一部の人が勝ち続ける印象が強かったですが、昨年ついに伊田八段がタイトルを奪取して風穴をあけました。
そして、今回はさらに若い人が出てきました。
本戦トーナメント表を見ても、30代以上の勝ち星は0です。
決勝進出した2人のような存在も、これからどんどん出てくるのでしょうね。

本局は幽玄の間で中継されました。
ここでは序盤の印象的な場面をご紹介しましょう。



1図(実戦)
六浦七段の黒番です。
ここで伊田八段、白1の肩ツキから白3、5と、黒石をだぶらせにいきました。
AIの台頭以降、この手の打ち方は本当に増えましたね。
ただ、意図はともかく、具体的にこの打ち方を選ぶとなると引っかかる部分もあります。





2図(実戦)
その後黒△までと進みました。
白△の間を黒に突き抜かれており、見事な裂かれ形です(笑)。
この形を見た瞬間、黒が良さそうに感じてしまいますね。
ただ、人間は結構錯覚の多い生き物なので、見た目だけで正しい判断ができるとは限りません。





3図(参考図)
このような手順を考えてみましょう。
本図と実戦(2図)の出来上がり図、似ていると感じませんか?

1図の進行の代わりに、白1、3と右辺への打ち込みを防ぐのは自然な手順です。
しかし、ここで黒4は何の狙いも無いのでかなりの緩着です。
また、白5と黒6の交換は悪手ではなく、むしろ少し白得でしょう。

この図は明らかに白有利です。
先手で右辺を守れたことが重要であり、実は実戦もその点ではほぼ同じなのです。
黒の強さが違うので本図の評価とイコールとは言えませんが、実戦も白は決して悪くないと言えます。


形の良し悪しは重要ですが、配置の効率もまた重要です。
そして、伊田八段は棋士の中でも部分的な形へのこだわりが低く、相当思い切った打ち方をするタイプだと思います。
この進行は私でも理解できるものですが、びっくりするような打ち方をすることもしばしばあります。
時には「それ、本当に棋士が打った手?」と思うことも・・・(笑)。
しかし、それが大抵は良い手なのですね。
きっと伊田八段にしか見えない世界があるのでしょう。