指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

坂本長利、88歳

2017年11月19日 | 演劇

今日の東京新聞に、坂本長利さんのことが特集されていた。坂本さんと言えば『土佐源氏』であり、50年、1,000回以上演じているそうだ。

私が見たのは、1980年代、錦糸町の西武の中にあった小劇場で、上演後には故扇田昭彦さんとの対談があった。

『土佐源氏』は、民俗学者の宮本常一の『忘れられた日本人』の中に書かれている話で、高知の譲原で宮本が聞き取った元馬喰で、当時は乞食同然だった男の一代記である。

そこには、まったくの無学で最下層に生まれた男によって、農村での馬の意味と世話、農耕馬の売り買い、そこでの儲け方等が語られ、日本の農村での馬の重要さがまず描かれる。

そこから彼の性的体験が語られ、特に上流の女性の寂しさとそこでの彼による慰め方でクライマックスに至る。

それは、どのような偉人伝も敵わない庶民のドラマがある。

多分、ここから、さらに宮本常一の『忘れられた日本人』から窺がえるのは、現在の日本の常識や道徳が、明治維新までとは全く異なるものだったことである。

例えば、女性の処女性などは、ほとんど問題にされていず、処女と性交すると「当たる」と言われて、忌避する向きもあったとのこと。

だから西日本では、若い未婚の女性は、結婚前には一度は他国に行って働くなどして様々な経験を積み、その後に結婚するのが習慣だったそうだ。

坂本さんは、1970年代は日活ロマンポルノにも多数出ていているが、ひろみ摩耶が伝説のストリッパー、ジプシー・ローズを演じた、西村昭五郎監督の1974年の『実録ジプシー・ローズ』では舞踏家の正邦乙彦を演じたのが代表作だろう。

本当のことを言えば、私は、「一人芝居」は役者の自己満足に過ぎず大嫌いだが、坂本さんのは別である。

それは乞食と言う卑種(貴種)を演じているからだと思う。

坂本長利さんは、「出前芝居」で、100歳まで演じたいとのことだが、本当に頑張ってほしいと私も心から思う。

 

 

 


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