指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『東京ラプソディ』

2007年01月21日 | 東京
古賀政男作曲、藤山一郎が歌った大ヒット曲『東京ラプソディ』の映画化であり、大変しゃれた音楽喜劇になっている。
ここに出てくる銀座、九段等の東京は、「モダン都市」東京である。有名なカフェ美松の内部が出てくるのも大変貴重な映像。
昭和10年代にすでに日本の大都市では、今日のような大衆消費社会ができていたことは常識だが、この作品を見ると本当に良く分かる。
戦争と敗戦が大変悲惨だったので、普通戦前は極めて暗く陰惨な時代と捉えがちだが、本当は違う。特に昭和10年頃は、満州事変以後の「軍事景気」の好景気で、様々な文化が花開いた「古き良き時代」だったのである。
現在あるものはすでにほとんどあり、ないのは民間ラジオやテレビ、それにパソコンくらいだろう。

話は、銀座のクリーニング屋の息子藤山が(彼はオートバイで洗濯物をダンスホールに届ける)、アコーディオンと歌が上手いのを女性ジャーナリストに見込まれ、歌手になる。
恋人のタバコ屋の娘・椿澄枝は、彼が自分を見捨てたと思い込むが、最後は誤解と分かり、仲間のダンサー、スキソフォン吹きら4人の友情を取り戻すという青春音楽劇。
この女性ジャーナリストが打ち合わせをする場所は、今話題の銀座の「不二アイス」であり、藤山のデビューを祝い友人らが用意するのがシャンパンであり、椿らは九段の西欧風アパートに住んでいる。
最後、『東京ラプソディ』をPCLの役者たちが、ワンコーラスづつ歌う。
主演の藤山、椿、伊達里子、井深四郎、星玲子らの他、千葉早智子、堤真佐子、御橋公、さらには歌手としても有名だった岸井明は当然としても、なんと藤原鎌足までの総出演。

先日、見た中川三郎とベティ稲田の音楽映画『舗道の囁き』も、当時のモダン都市東京を描いたものだったが、これも同じである。
この時期の幸福感は、戦後も長く記憶され、演劇で言えば加藤道夫の名作『思い出を売る男』に出てくる、恋人たちのフランス映画と音楽への幸福な時の追憶になる。

大変幸福な後味の作品であり、監督の伏水修は自然な演出とモダンなセンスの持ち主だったようだ。
後に、長谷川一夫と李香蘭の大ヒット作『支那の夜』を監督する。いずれ見ることにしよう。

最初のタイトル前に「国民精神総動員」が出るので、この版は昭和11年の公開後の戦中期あたりに再編集し公開されたものに違いない。
なぜなら、「国民精神総動員」は、昭和12年8月第一次近衛内閣で制定された標語だからだ。
フィルム・センター

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