頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『バルス』楡周平

2018-05-31 | books
就職活動中の百瀬陽一は、一つも内定がとれず、就職浪人することにした。バイトのために始めたのが、世界最大のネット通販会社「スロット・ジャパン」の物流センター。機械に指示された通りの集荷作業をこなす。作業効率が下がればすぐに叱責される。徹底的に管理された職場だった。するとセンター長のから正社員にならないかという誘いが。キツイ物流ではなく、マーケティング担当だと言う。しかし・・・スロットを狙ったテロが発生する。物流を止めるのはさほど難しくない。大混乱した日本・・・

ネット通販の、労働者に対する仕打ちと、テロ行為。「デッド・オア・アライブ」が、よく知らなかった電気自動車の世界を教えてくれたのと比べると、未知の情報は少なめ。

テロは充分に起こり得るし、リアリティがすごくある。その辺が一番の読みどころだろうか。

バルス

今日の一曲

ベーソンズfeat.向井秀徳で、「カッコいいダンス」



では、また。
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『じっと手を見る』窪美澄

2018-05-29 | books
日奈は介護の学校を出て、富士山の見えるところで介護をしている。同じく介護士をしている海斗とは、付き合っているようないないような状態だった。そして出会った年上の宮澤は、東京で編集プロダクションを経営している。すぐに深い関係になった。しかし宮澤は結婚している・・・日奈から見た話、海斗から見た話、宮澤から見た話、別の介護士の女性から見た話から織りなされる連作短編集。

すごく面白いというわけでもないなーと半分くらいまで読んでいた。男と女がくっついたり離れたり、別の人とくっついたりする話と介護の仕事の大変さがメインテーマなんだろうと。

しかし、畑中という、巨乳、バツイチ、子供はダンナにとられたという介護士の女性がストーリーに入って来てから、少し違う風が吹いて来た感じがする。うまく言えないけれど、話に厚みが増した感じ。

ものすごくオススメという程ではないけれど、そんなに悪くなかった。こういう小説に対してどういう風に言えばいいのか、いまだに巧い言葉が思い浮かばない。

じっと手を見る

今日の一曲

Thompson Twinsで、"Hold Me Now"



では、また。
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『三連の殺意』カリン・スローター

2018-05-27 | books
ジョンは、15歳の時にドラッグを摂取し同級生の女性を殺害した罪で刑務所へ。20年後やっと外に出て来た。二度ともどりたくない・・・ジョージア州で、若い女性が連続して殺される事件が起こった。舌が切り取られていた。ウィル・トレントが、派遣されて来た。難読症で善良だが優秀な捜査官。幼馴染のアンジーは風俗課にいる・・・ジョンは金がない。安いテレビを買おうとすると、店員にあなたの信用度は高いので、もっと高級なテレビが買えますと言われる。何者かが、自分の名義でクレジットカードを作り、ちゃんも返済をして信用度を上げているのだ。なぜだ?ジョンの過去、現在、が追いかける事件が交差すると・・・

書評家北上次郎氏が、あちこちで絶賛していたカリン・スローター。気づいたらシリーズ4作目が出ていたり、しかも翻訳のされた順番がめちゃくちゃだったりして、何となく手を出していなかった。

しかし、しかし、面白かった。

単にサイコスリラー的などんでん返しもあるし、それも楽しいのだけれど、ドラッグに溺れてしまう若者、入った刑務所の過酷さ、出た後の生活困窮。しょっちゅう保護観察官がやって来て、部屋の中をチェックされる。ナイフでも見つかろうものなら、刑務所へ逆戻り。

トレントのキャラクターもなかなか。何となく、冷たい出来る男というイメージでいたけれど、全然違った。難読症の苦労やアンジーとの関係など、人物造形が深い。

個人的にはジョンの苦悩が最大の読みどころだった。好物な作家だとよく分かった。(しかし今更だけれど、こういう「頭がかなりおかしい人物が引き起こす+おぞましい殺人事件+どんでん返し」が大好物な奴ってどういう奴なんだろう。いわゆる、ヤバイ奴なんだろうか)

三連の殺意 (マグノリアブックス)

今日の一曲

崎山蒼志で、「samidare~五月雨~」



では、また。
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店名にツッコんでください189

2018-05-25 | laugh or let me die
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『デートクレンジング』柚木麻子

2018-05-23 | books
佐知子35歳は義母を手伝って、喫茶店で働いている。夫も義母も大らかでいい人たち。学生時代からの親友、すごく美人な実花はアイドルグループ「デートクレンジング」のマネージャーをしていたが、グループは解散してしまった。すると、実花は最近急に結婚に焦り始めた。佐知子からすると、実花の結婚に対する見方はなんだか変な感じがするし、こんな風で彼女が幸せになれるだろうかと心配になる。そしてそれに拍車をかける実花の知り合いのライター、芝田。結婚できない者=負け犬、既婚者=勝ち組みたいなステレオタイプな見方をする人。佐知子とは違う考えの持ち主の、芝田にに実花は洗脳されているような気がする。アイドル業界、佐知子の妊活などもストーリーに絡みつつ・・・

中谷美紀、玉木宏、ユースケサンタマリア、木村多江出演のドラマ「あなたには帰る家がある」に共通している。すごく面白いというわけではないのに、なぜか観てしまう、読んでしまうということ。

デートクレンジングとは、デートをしなければならないという呪いをぶっ飛ばせという意味で使っているそう。デート(恋愛、結婚)をしなくてはいけないという考えは極端だけれど、デートなんてどうでもいいという考えもやはり極端なものだと思う。その中間にあるのではないだろうか。何が?

「今時、『マッドマックス』もザッハトルテも知らない上に、面倒な性格の男の人にそこまでして、好かれなきゃいけないの?」

はっはっは。そんな必要はないだろう。

たぶん、あの日、彼女は身をもって教えてくれたのだ。感情に従って何かに心ゆくまでのめりこむことが、理不尽な世の中に対抗する唯一の方法なのだ、と。

ふーむ。

スクラップブックにはまる佐知子。

ぬかるみに引っ張られそうになったら、切り抜いて貼る、それが佐知子のルールになった。

これってわかるぅー。(なぜ20代前半女性風?) 何かの作業をすることがざらついた心を滑らかにするというか、癒されるというか。自分の場合、洗濯して干して、取り込んでが割とこれに当たる。あとは、包丁を研ぐこと。サッサッサとリズムを刻みながら何も考えずに、寝かせた包丁を砥石に走らせる。なんて癒されるのだろうか。まあ、先週、何年かぶりに研いだんだけれど。

本に戻ると、一応、デート(結婚)はしなくてはいけないものなのかというテーマとアイドルの行く末みたいなものが混在した話。前者はもっと深掘りして欲しかったような気がしなくもない。

デートクレンジング

今日の一曲

何週か前にラジオで、ノーナリーブスの西寺郷太が、ブルーノ・マーズがさいたまスーパーアリーナを何日もいっぱいにできるなら、こっちも聴けと紹介していた、New Edidionで"Cool It Now"



では、また。
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『ボクシング日和』角田光代

2018-05-21 | books
自身もボクシングをしている著者が、2014年から2017年まで観たボクシングの試合の記録。

軽いエッセイとしてとても読みやすい。技術的に蘊蓄があるとか、深い哲学的な考察があるというわけではないけれど、そういうものが読みたい気分でないときには、なかなかいい。重厚なものを読んだ後とか、日常生活で重たい思いをしてるときとか。

ボクシング日和

今日の一曲

Zeebraで、"Street Dreams"



では、また。
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『大人ための国語ゼミ』野矢茂樹

2018-05-19 | books
ねえねえ、あの人ってさー、雑談のときはいいけどさー、肝心の話になると、何が言いたいのかよく分からないわよねー、なんて陰で言われているあなた。陰で言われてるなら自分で分かるわけないだろーとツッコマないで。そんなあなたにオススメの本を読んだわよ。

以上、性別変更終了。生活や仕事で必要な国語を、豊富な例題とともに学ぶ。

例えば、高校生に以下のような説明をした場合、何がいけないか?

ふつうの飯盒は4合炊きだから、標準的には4人分が炊けます。まず米をとぎます。もちろん無洗米なら、とぐ必要はありません。それに米と同量の水を加えてしばらくそのままおきます。それからかまどにかけて炊き始めます。だいじなのは火加減で、昔から言われている「はじめチョロチョロ中パッパ」がコツです。25分ほどして炊けてきたら、火からおろしてしばらく蒸らして、できあがりです。

無洗米じゃなくて、どうしてコシヒカリを使わないのだということが問題なのだ、ということではなく。あるいはこんな問題。

日本語はかなりできるが日本のことはあまり知らない外国人について「お祭り」について尋ねられた場合の回答。何が説明不足だろうか?

「お祭り」とひと口に言ってもいろいろなものがありますが、私の町のお祭りは秋に神社で行われるものです。たぶん、秋の収穫に感謝するという意味があるのだと思います。参道や境内には多くの屋台が並び、大勢の人が集まってとてもにぎやかになります。そして一番盛り上がるのはなんといってもお神輿です。お神輿をかついで、勇ましく声を掛け合いながら町中を歩くんです。これは、日本の各地で行われている、ごくふつうのお祭りの形です。

どこがいけないのか、詳しく考えさせて、教えてくれるなかなかない本。(自分のことは棚に上げさせてもらうと)大人でも、怪しい日本語を駆使したり、何が言いたいのか分からないことを言ったり買いたいする人は少なくない。

著者は、国語力=「相手のことを考える」だと言う。なるほど。

卑近な例で恐縮だが、ある知り合いは、話がつまらなく、抽象的だ。他の人にとっては面白いのかも知れないけれど、私にとっては退屈。話の流れに迎合するのは得意だけれど、自分で話を能動的に作り出すことができない。また、さらに質問力にも欠けている。先日、ある質問をされたので答えた。その回答に対して何か尋ねて来るのかと思ったら来ない。ならば納得したのだと思ったら、後でまた同じ質問をされ、結局1日で同じ質問を3回もされて呆れた。表面的に納得しているようでいて実は納得していないのだ。しかしその先の質問ができない。話がつまらないことと質問できないことの関係は特に感じなかったのだけれど、

ただ受け身で読んでいるだけでは質問は思いつかない。文章を読みながら、自分を活性化させること。想像力と論理力をフルに働かせて、いきいきとした頭で文章に向かう。そうすると聞きたいことがあれこれ出てくるはずである。逆に、質問を考えようとすることによって読み方が能動的になり、活性化してくる。ここに、質問の練習をすることの第一のポイントがある。質問の練習をすることで、文章を読むときの(あるいは話を聞くときの)想像力と論理力が鍛えられるのである。

なるほど。なるほど。上記の輩は、自称読書家だそうだけれど、受動的な読書を(自分の事棚上げアゲイン)しているのかも知れない。いや、自分のことを棚に上げるとなんでも言えてしまう。

以上、想定以上に(必要以上に?)辛口になってしまった。失礼。普段、やっつけ仕事のおざなりなレビューばかりなので、たまにはと思い冗長な文を書いてしまった。「国語力」を向上させたい人、論理的な文章を書きたい人、ちゃんと反論したい人などにすごくオススメの本だった。(これ読んで国語力が上がったのなら、なんでこんな駄文を書くのだとは言わないで)

大人のための国語ゼミ

今日の一曲

Estas Tonneで、"The Song of the Golden Dragon"



では、また。
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『ペインレス』天童荒太

2018-05-17 | books
痛みについて並々ならぬ興味を抱く、ペイン内科クリニックの医師野宮万浬。大学病院の麻酔科にいたが、直接外来で患者を診たくなり、小さなクリニックに移って来た。冷たいが腕は確かだと評判になった。前々から興味を持っていた無痛症の患者を紹介してもらうことになった・・・他人の気持ちを理解することの難しい医師。患者と寝ることに罪悪感はない。事故で無痛症となった男性。過去とは。

うーん。あまり楽しめなかった。上巻を苦痛とともに読んだので、下巻はザザッと流した感じ。ちゃんと熟読すれば何かあるのかも知れないけれど。

全体的にリアリティが感じられなかった。意外性はあるけれど、天童荒太作品にある、グイグイとこちらの神経に迫って来る感じがしなかった。私のせいかも知れないし、そうではないかも知れない。よくワカラン。

ペインレス 上巻ペインレス 下巻

今日の一曲

GENTLE FOREST JAZZ BANDで、「月見るドール」



では、また。
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『十五の夏』佐藤優

2018-05-15 | books
1975年、高校一年の夏、東欧からソ連を一人旅で訪れた佐藤少年のドキュメント。

表現が具体的すぎるぐらい具体的で驚く。日記でもつけていたのだろうか。物の値段や、人々と交わした会話など。

15歳の少年(青年?)の好奇心、知識、質問力にも驚く。トラブルはもちろん起こるのだけれど、それを受け止めつつ解決していく。

ふと、思った。人には「運のいい人」と「運の悪い人」がいる。どういうわけか、いつも運がいい人っているし、何をやらせても運の悪い人っている。どうしてだろうと昔から思っていた。

佐藤少年は、運がいい。日本の旅行社で、舟津さんという女性と知り合い、普通では教えてもらえない、安く東欧に行く方法を教えて貰えることになる。また、機内で知り合った日本人の社長からも旅の情報をたくさん教えて貰えた。なぜ、こんなにラッキーなのか。飛行機で話した社長が、別れ際に「君と話せて面白かった」と言われる。大人から見て、話して面白いと思える15歳はそんなに多くないだろう。相手を面白くさせるぐらいの会話が出来る少年。なぜそんな会話が出来るかと言えば、好奇心や相手が訊いてくれて嬉しいと思うような質問をする「質問力」があるからだと思う。

言い方を換えると、「勇気」と「工夫」があれば、「運」がついてくる。そういうものなのだと思う。努力という言葉はあまり使いたくない。「勇気」と「工夫」があれば大概の事は何とかなるような気がする。そしてそうしていれば、自然と運が向いてくるのだと思う。

話を本に戻すと、彼が在学中の県立浦和高校の話。数学は問題集の解法を100問暗記すればよい「暗記科目」だそうだ。そういうテストはつまらないかと思うけれど、佐藤少年も同じように思ったそうだ。また、中学時代の塾の先生の台詞。

印象に残っているのは、その教師が人生で逃げなくてはならないことがある。そのときは自分は逃げたという認識をきちんと持つことだ。逃げていないと強弁や合理化をしてはならない」と言ったことだ。

逃げたくないけれど、どうしても逃げなくてはいけないときがある。危険なものという意味ではなく(危険なら逃げるのは当然)、何かを辞めしまうこと、何かから降りてしまうこと。どうしても仕方のない時には、仕方がないけれど、そうした事は忘れてはならない。うーむ。深い。政治家の失言然り。ネット上の発言然り。ツイートも、出しておいて、都合が悪くなったらすぐに消してしまう不埒な輩も然り。自分が「降りたこと」も「削除したこと」も忘れないようにしたいものだ。いや、そういう卑近な意味ではないのか。

平成の「深夜特急」として旅行記を楽しむのも良し、自分の打破を願う人が読むのも良し、当時の東欧事情を感じたい人が読むのも良し。読むのに時間がかかったけれど、面白かった。

十五の夏 上十五の夏 下

今日の一曲

George Bensonで、"Give Me The Night"



では、また。

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『乗客ナンバー23の消失』セバスチャン・フィツェック

2018-05-13 | books
豪華客船内で妻子が行方不明になり、自暴自棄になった囮警察官マルティン。息子のテディベアが出て来たとのことで、件の船に乗り込む。船内では、怪しい小説家、窃盗、自殺志望の少女などの怪しい面々が揃っていた。バラバラなピースが結びついていくと・・・

うーん。凄いと言えば、確かに凄い。事件が解決しだと思ったら違う真実が出てくる。あとがきの後にさらに、エピローグがある。(そんな小説、初めて読んだ)

しかし、話はグロテスクなぐらいややこしく、グロテスクなぐらい人間関係が複雑で、テクニックがグロテスクなほどに先走っている。

書評七福神の三月度のベストでは、激賞されていたけれど、それほどは楽しめなかった。

乗客ナンバー23の消失

今日の一曲

ももいろクローバーZで、「笑一笑 ~シャオイーシャオ!~」



では、また。
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店名にツッコんでください188

2018-05-11 | laugh or let me die
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『異邦人(いりびと)』原田マハ

2018-05-09 | books

銀座の画廊の社長の息子は専務、篁一輝。妻は金持ちの祖父が作った有吉美術館の副館長、菜穂。菜穂は妊娠した。しかし震災が起こった。京都に退避した菜穂。わがままに育った菜穂が、書道の先生の家で暮らすことになり、京都の作法を学ぶ・・・震災以降、画廊の経営が悪化する。父である社長からの依頼とは、一輝の苦悩とは・・・ 菜穂が出会った新しい才能とは・・・

これは面白かった。すごく面白かった。

京都と絵画だけでもネタとして好物なのに、ストーリーが面白い。色々などんでん返しがある。

絵画が人生の全てである菜穂と、比較的常識人の一輝。京都の美術界の重鎮と、彼の弟子である若い女性の画家。この辺りの対比も巧い。

原田マハの他の作品とはテイストが違うけれど、読んでよかった。

異邦人(いりびと) (PHP文芸文庫)

今日の一曲

Tom Jonesで、"She's A Lady"



では、また。
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『明治の男子は星の数ほど夢を見た。オスマン帝国のアート・ディレクター山田寅次郎』和多利月子

2018-05-07 | books
著者の祖父、山田寅次郎は、トルコ(オスマン帝国)のエルトゥールル号遭難事件の際、日本で集められた義捐金をトルコに持っていき、以降トルコと日本の懸け橋となり、また実業家として活躍した。そんな寅次郎の伝記。

伝記の堅苦しい感じはまったくなく、かなり読みやすい。確か、北上次郎氏がどこかの書評で紹介してた。

簡単にまとめてしまうと、1866年生まれ、東京薬学校(今の東京薬科大)を出て、外国語を学び、潜水技術を学び、「東京百事便」(タウンページのようなもの)を出版し、オスマン帝国で皇帝に謁見し、トルコと商売をし、日本で製紙会社をつくる、ってな感じ。

途中、日露戦争の際のロシアの動きを探るよう命じられたりするのだけれど、この時代がすごく近くに感じられる。

友人で、建築史家でもあり建築家(築地本願寺や一橋大学の兼松講堂の設計)でもある伊東宙太から寅次郎に届いた絵ハガキが多数紹介されているのだけれど、文字やイラストに、とっても味がある。

明治の男子は、星の数ほど夢を見た。-オスマン帝国皇帝のアートディレクター山田寅次郎

今日の一曲

Bananaramaで、"Venus"



では、また。
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『死の島』小池真理子

2018-05-05 | books
澤登志夫は、出版社で編集に携わった後、カルチャースクールで小説講座の講師をしていた。69歳。しかし、3年前に体調が悪くなった。腎臓がんになってしまった。仕事を続けられなくなったので、講師の仕事は辞めてしまった。家族はいない。離婚し、娘がいるが、全く行き来がない。孤独に死んでいくしかないか・・・小説講座を辞める日に、若い女性の生徒、宮島樹里から、話があると言われた。自分を崇拝してくれる生徒から打ち明けられた話。との関わり。登志夫の凍りついた心は、柔らかく溶けてゆくのか・・・

何の期待も予想もしないでただ読んだ。これが意外と面白かった。

登志夫の内面と、樹里の内面が交互に描かれる。病を得た69歳の男。少し人生に対してやる気を失ってしまっているのが彼女との出会いでどう変わるのか。女性に対してどういう気持ちで(過去に)接してきたのか、(現在)接しているのか。女性作家がこんなにも、おじさんの内面を抉るように描いてくれるとは。

そうだよ、人生は常に、祭りのあとなんだよ、と彼は思う。祭りの華やぎは花火のように消え失せて、そのあとにはいつも、さびしいような、いたたまれない虚しさのようなものが押し寄せてくる。その繰り返しが死ぬまで続けられる。

別れた妻について。

結婚し、娘が生まれ、妻が母親の顔をするようになったころ、彼は自分が大きな失敗をしでかしたことに気づいた。典子の頭のよさは女性週刊誌やワイドショー的な通俗の枠内でしか発揮できず、感受性の強さは猜疑心にしか通じない、ということを認めざるを得なくなったからだ。

そして樹里。あまり気の合わない友人の美香が彼氏の話ばかりする。

「ああ、煙草が吸いたい。でもやめとく。今から喫煙室に行ったりしたら、ばんばん、吸っちゃいそう。私、今、ストレスの固まりだからね」
そうこうするうちに、やがて話題は、再び美香自身の話に戻っていった。公園の噴水が、吹き上がってはまた循環して集められ、再び吹き上がることを飽きず繰り返すように、美香の話はそこにしか戻っていかない。自分と、そして、自分を悩ませている男。美香の世界は、その対立構造だけで出来上がっている。


巧い。樹里のことを直接描かずに、友人のことを描写する。自分本位で、狭量な女。そういう女性を描くことで、その逆のタイプの樹里を浮かび上がらせる。

小池真理子らしいというより、宮本輝や白石一文っぽいと思いながら読んだ。もうちょっとねちっこくラストを描いて欲しかったけれど、この辺は彼女らしいのか。

タイトルとなっているのはベックリンの絵。内容とも大いに関係があった。

死の島

今日の一曲

小袋成彬で、"Selfish"



では、また。
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『青空と逃げる』辻村深月

2018-05-03 | books
本条力は、逃亡している。俳優をしている父が起こした不倫事件のせいで。共演していた有名女優が運転する車で事故を起こし、その車に父も乗っていたというのだ。そしてその父が行方不明になってしまった・・・マスコミの攻撃が激しくなってきたので、母と逃亡することになった。

うーむ。今ひとつ盛り上がりに欠けていた。悪くないけれど、すごく面白いというほどではなかった。

青空と逃げる (単行本)

今日の一曲

なかなかカッコいい、70年代っぽくて、でも新しい曲を。SOIL&"PIMP"SESSIONSで、"comrade feat. 三浦大知"



では、また。
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