頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

店名にツッコんでください196

2018-08-31 | laugh or let me die
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『一億円のさようなら』白石一文

2018-08-29 | books
加能鉄平は博多の加能産業で、調達本部本部長をしている。本部長とは名ばかりの閑職だ。薬品事業部長だったのに、社長で従兄弟の尚之に左遷されたのだ。部下の青島が工場の爆発事故に巻き込まれた。対応がうまくできない社長・・・鉄平の娘と息子はそれぞれ、鉄平には言えないような恋をしており・・・妻宛に掛かってきたのは東京の弁護士からの電話。信じられないような妻の秘密を知ることになる・・・

うーむ。やっぱり白石一文はいい。とってもいい。

重大な妻の秘密。もし自分だったら思うだろう。悪気があって隠してきたわけじゃないのだから許すのか、むしろラッキーだと思うのか、こんな大事なことを教えてくれないなんて離縁だー、なのか。多分自分だったらこの三つの感情がグジョグジョと心の中で渦を巻くだろう。難しい。

というような妻のことに加えて、子供のややこしいこと。さらには会社内のパワーゲームのようなビジネス方面のこともある。学生時代のいじめのようなこともある。なんでも詰め込まれている。しかし、キチキチになっている感じもしない。

そして色々あって金沢に行くのだが、そこでの出会いがまたいい。要するに全ていいのだ。(惚れた女なら全てがよく見えるとかいうのと同じか?)

大人になると京都と宮本輝がよくなると誰かが言った。さらに大人になると白石一文がよくなってくるのかも知れない。(知らんけどー@博多大吉)

白石一文作品には必ずなにかの薀蓄とか警句が登場する。

人間同士もたれ合って生きているといつの間にかこうやって必要以上に臆病になってしまう。確かに人間は群れをつくることで我が身を守り、分業を発展させ、この世界に君臨するまでになったが、その一方で個体としての生命力を著しく失ったような気がする。動物たちは食物や繁殖という生存の決定的な部分で諍うことはあっても、それ以外では常に超然と生きていける。飢えているわけでもなく、異性を巡って対立しているわけでもないのに同じ種同士で傷つけ合って、果ては自らの生命を投げ出すような愚かな行為に及ぶのはおそらく人間くらいのものだろう。それもこれも"一人では生きられない"という生物としての致命的な不完全さが、人間に無用な恐怖を植え付け、不要な闘争へと駆り立ててしまうためだ・・・。

なるほど、確かに。


一億円のさようなら (文芸書)
白石一文
徳間書店



今日の一曲

Joss Stoneで、"I Put a Spell on You"



では、また。


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『室町繚乱』阿部暁子

2018-08-27 | books
「本の雑誌」の上半期ベスト10を決める過程で、誰かがこの本面白かったと紹介していたので読んでみた。

南北朝時代、南朝の祖、後醍醐院の孫、後村上院の娘である透子は、京都にいた。後醍醐を助けた楠木正成の息子、楠木正儀は南北朝の合併しようとすると穏健派であったが、武闘派が多くなった南朝内で孤立し、京都で北朝の足利義満に仕えることになった。透子は、この正儀を南朝に戻そうとしているのだ。透子が知り合いになるのは、猿楽師の観阿弥と息子の鬼夜叉。そして義満その人であった。やんちゃなお嬢さんが駆け抜ける南北朝時代・・・

こりゃ、面白い。こんな読みやすい歴史小説、初めて読んだ。

少女の目線から描かれているので一見ティーンズ小説風だけれど、中身は(多分)歴史的な事実を踏まえた描写だらけ。

「超読みやすい」南北朝時代を描く小説。時代小説とか歴史小説が苦手な人、読んだことがないです人はぜひこの一冊から始めることをオススメする。


室町繚乱 義満と世阿弥と吉野の姫君 (集英社文庫)
阿部暁子
集英社



今日の一曲

鬼束ちひろで、「ヒナギク」



では、また。
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『雨降る森の犬』馳星周

2018-08-25 | books
中学生の雨音。父に死なれた後、母は若い男を追いかけてアメリカにわたってしまった。蓼科高原に住む伯父の道夫と一緒に暮らしている。道夫はカメラマン、山好き。相棒はバーニーズ・マウンテン・ドッグのワルテル。昔いたマリアと違って気難しい犬だ。隣の別荘に毎年ゴールデンウィークになると、美しい青年正樹がやって来て、付近の女子たちは浮き足立つ・・・ワルテルに最初は馬鹿にされる雨音。高原での暮らしで自分を取り戻していく。父親を憎悪すること正樹は道夫のことを尊敬している。あまり他人に心を開かない正樹が段々と変わっていく・・・

意外なほど面白かった。

基本的には「犬」と「山」の話。意外性とかひねりはない。しかし清々しい風がずっと読みながら吹いていて、酷暑を快適にしてくれた。

動物と人間の違いがわかるか?ある時、道夫がそう言ったのだ。
「人間は過去と未来に囚われて生きている。脳みそが発達しすぎた結果だ。なんでも過去の経験に照らし合わせて、未来を予想しようとするんだ」
最初は道夫が何をいおうとしているのかわからなかった。
「過去はこうこうだったから、未来もこうこうなるはずだ。そう決めつけて、時にはやっても無駄だとか、あまりいい結果が得られそうもないからといって、今やるべきことをやめてしまう。あるいは、未来に起こることを恐れて後ずさりする。まだ起こっててもいないことを恐れるなんて、馬鹿馬鹿しいと思わないか?」
道夫は酔っていた。酔うと口数が多くなるのだ。
「動物は違う。あいつらは、今を生きている。瞬間瞬間をただ、精一杯生きているんだ。過去に囚われることも、未来を恐れることもない」

うーむ。確かに、特に自分は過去やら未来やらに囚われて心が乱れている。だからこそマインドフルネスに助けを求めてみたりする。脳みそが発達したことは、いいことよりも悪いことを多く生んでいるのかも知れない。


雨降る森の犬
馳星周
集英社



今日の一曲

ももいろクローバーZ+布袋寅泰で、「サラバ、愛しき悲しみたちよ」



では、また。
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『ハンティング』カリン・スローター

2018-08-23 | books
「三連の殺意」のウィル・トレントと「開かれた瞳孔」のサラ・リントンのシリーズの合体。痩せた女性ばかりが連続で拉致され殺害される事件を調べるジョージア州の捜査官ウィル。被害者が運ばれた病院でサラと知り合いになる。ウィルのパートナーは妊娠していることを隠しているフェイス。非協力的な地元警察、嘘をつく参考人。果たして真実にたどり着けるか・・・

読み終わってからしばらく時間が経ってしまったので、詳しい内容を忘れてしまった。申し訳ないです。

覚えいるのは、1.非常に読みやすい。以前に読んだどのカリン・スローター作品よりも読みやすい。2.事件のおぞましさにのけぞった。3.邦訳はどんどん進めて欲しいと思った。

邦訳は、出版される順番がめちゃくちゃなのと、翻訳されてない作品が結構まだあるとのこと。世界で3500万部も売れてるそうだけれど、そりゃそうだろうと思う。サイコ・スリラー好きとどんでん返し好きは必読。


ハンティング 上 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン
ハンティング 下 (ハーパーBOOKS)
カリン・スローター
ハーパーコリンズ・ ジャパン



今日の一曲

新しい学校のリーダーズで、「最終人類」



では、また。
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『80's エイティーズ ある80年代の物語』橘玲

2018-08-21 | books
1959年生まれ、「永遠の旅行者」や「マネーロンダリング」で知られる著者による、自伝的80年代振り返り。

大学でロシア文学を専攻し、就職活動はせず、小さな出版社に入る。雑誌の広告取りをさせられたり、海外の宝くじを紹介して大儲けしたり。別の編集プロダクションを作って、ananの広告を作ったり、ギャル向けの雑誌を作ったり。(明記されてないけれど、多分宝島社で)ムック本を担当したり・・・というような仕事の話を軸にして、彼の見た80年代を描く。

バブルや地下鉄サリン事件などをある定点から、独自の解釈で見てゆく。こういう見方が気に入らないという人もいるかもしれないけれど、私は結構好きだ。どういう見方がうまく説明できないけれど、かなりリベラルだと言えば多分当たっているだろうか。

なかなか面白かった。


80's エイティーズ ある80年代の物語
橘玲
太田出版



今日の一曲

本文で登場した、小林麻美で、「雨音はショパンの調べ」



では、また。
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『大人のための社会科』井出英策・宇野重規・坂井豊貴・松沢裕作

2018-08-19 | books
大学の先生が、大人のために、個人主義とかGDPとか多数決とか公正や信頼などについて解説してくれる本。

多数決は何かを決めるときに必ずしもベストな手段ではないとか、なるほど。

利己主義は昔からあるけれど、個人主義は比較的新しいもので、国によって発生過程が異なり、「フランス革命に反対する勢力が、社会を解体する良くないものだと否定する文脈から登場し、19世紀半ば以降の英国では、個人の自由な経済活動が『小さな政府』とセットで強調されるようになり、哲学と文学が盛んだったドイツでは多様な個性を重んじる個人主義が重んじられ、アメリカでは他人の力を借りず一人でやりとげる『セルフ・メイド・マン』の概念と結びついた」という話。

統計的に言えば、一定の社会的属性に入る人たちが例えば失業という共通のピンチに瀕していても、一人ひとりにとっては自分だけの問題のように感じてしまう。このことを、「集団・階層」から「個別の状況や個人史」への「社会学的革命」と呼び、本来は社会的な背景をもっており個人のせいにはできないような事柄までも個人の問題のようになってしまった。なるほどねー。社会問題の個人化ってわけだ。


という具合に興味深い話が多かったのだけれど、特に、第二章の「勤労」が面白かった。

岸信介政権の「国民皆保険」と「国民皆年金」は、日米安保が批判されていたので、アメとムチとして導入された→池田勇人内閣では、社会保障はぜいたくだとされ、働く者たちへ減税で報いた→経済成長とともに増える税収→減税、1947年以降国債発行しなくてもよくなった=「小さな政府」となった→貯蓄が増える、財政投融資も増える→さらに成長=「勤労国家」→バブル崩壊→消費低迷、物価下落、貸し渋り→企業は非正規雇用増やす→政府債務悪化、1995年財政危機宣言→政治家は個別の有権者の利益を提供するようになり(中小企業対策、農家の所得補償、地方向け公共投資など)→特定の誰かのための利益の寄せ集めのような財政→ジニ係数が増え、相対的貧困率も高くなった。福祉国家の実態は、経済成長に依存しており、景気が停滞するとすぐに不安定になっていった。なるほどー。


大人のための社会科 -- 未来を語るために
井出英策
有斐閣



今日の一曲

Jeff Beckで,”She's A Woman”



では、また。
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店名にツッコんでください195

2018-08-17 | laugh or let me die
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『世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる』久賀谷亮

2018-08-15 | books
エリートがどうとか言うタイトルは若干気にくわないけれど、勧められたので読んだ。マインドフルネスの本は色々読んだけれど、新発見もあり。

・DMN(デフォルト・モード・ネットワーク) 意識的な活動をしていない時の脳回路。脳の消費エネルギーの60から80%を使ってる。ぼっとしていても、DMNが過剰に働き続けると、脳は疲れる。(そうなのかっ)

・睡眠時には、脳脊髄液という洗浄液が、アミロイドβタンパク質という脳の疲労物質を流してる。(寝ないとまずいな)

・「モンキーマインド解消法」= 考えと自分を同一視しない。プラットホームに自分がいる。「考え」というサルを乗せた電車が来る。そして電車は去って行く。自分はホームでそのまま。次から次へとサルを乗せた電車は来るが、自分は変わらずホームに立つ。心は、考えというサルが乗った電車が行き交う場所に過ぎないことを知る。(なるほどー)

・幸せの48%は遺伝子で決まる。財産や地位は10%ぐらい。残りの42%はどう生きるかで決まる。(ほんまかいなー)

上記以外にも、マインドフルネスのやり方について説明してくれるので、興味のある人が最初に読む本として最適ではないかと思う。

世界のエリートがやっている 最高の休息法――「脳科学×瞑想」で集中力が高まる
久賀谷亮
ダイヤモンド社


今日の一曲

The Romanticsで、"One In A Million"



では、また。
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『島のエアライン』黒木亮

2018-08-13 | books
熊本県の天草。当時の県知事だった細川護熙と西武の堤義明が、天草へのゴルフ場開発誘致に合意し、空港の開設も決まる。しかし、以降は苦労の連続。用地の買収の困難さ、空港が出来ても、飛行機を飛ばす航空会社がないという事態、滑走路が短すぎる問題などなどなど。県の役所から出向している人達の苦労や、社員たちの果てしない苦労を描く、ドキュメント。

登場人物がなんと全て実名で登場。知事や市長、県議などで、ちょっとこいついけ好かない奴だな、という登場の仕方をする者もいる。

「天草航空」という言葉は聞いたことはあるけれど、実態は全く知らなかった。航空会社を作るのにどんな苦労があるのか、たっぷりと読ませてもらった。かなり面白かったし、驚くことも多かった。

個人的には、パイロットが、運航する予定の飛行機の試験に落ちるところが一番驚いた。

島のエアライン 上
黒木亮
毎日新聞出版


島のエアライン 下
黒木亮
毎日新聞出版


今日の一曲

Everything But The Girlで、"Driving"



では、また。
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『泥濘』黒川博行

2018-08-11 | books
二蝶会の若頭補佐、大阪で最もイケイケのヤクザ桑原と、建設コンサルタントの二宮の凸凹コンビシリーズ。今回は、警察の親睦団体と、老人ホームと、診療報酬不正受給事件を絡めた悪党どもに、凸凹コンビが金の匂いを嗅ぎつけて、鼻を突っ込む・・・

途中まで、またこの展開か、そろそろ飽きてきたな・・・と思いつつ、若干ガマンしつつ読んでいると、このいつもの感覚がむしろ快感になってきて、結局面白んでしまった。

ヤクザのやり口を、やや明るい、笑える方角から読んでみたい人はシリーズ途中の本作から読んでもOK。シリーズをずっと読んでる人には、もちろんオススメ。シリーズ読んでないし、現代ヤクザの生態に全く興味がない人は読んでもしょうがないだろう。

泥濘 疫病神シリーズ
クリエーター情報なし
文藝春秋



今日の一曲

 吉川晃司で、「恋をとめないで」



では、また。
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『極夜行』角幡唯介

2018-08-09 | books
北極に近い所に行くと、一日中太陽が出ない時期がある。白夜の反対で極夜。この極夜の時期のグリーンランドを犬一匹だけ連れて、GPSのようなハイテク機器は持たないようにしていった北上を描くノンフィクション(ドキュメントとどう使い分ければ良いのかワカラン)

冒険そのものはやや地味。なのに、なかなかに面白い。文章がうまくて、読みやすくて、笑える。

月が出ていないと行動できない。そんな月は女性のようで、「規則的・理性的ではなく感情的・情動的」だとし、

太陽の光は美しいというよりただ圧倒的だ。(中略)力強いぶん体育会的なバカっぽさも同居しており、白いランニングを着た筋肉むきむきのゴリラ野郎がひたすらペニスを勃起させて、うおおおおっと咆哮している感がないわけではない。

とか、

周囲にうち広がる荘厳な谷間の風景は相変わらず八戸市議並みに美しいかった。

美しすぎる八戸市議って話題になってたっけ。

月のやり口はまるで夜の店の女と同じだった。さらに具体的にいえば、私が十年前に通った群馬県太田市のクラブOのナンバーワン・キャストAと同じだった。

この後、極地の冒険とは全く関係のないキャバ嬢の話が続く。これがまた面白い。

しかし、肝心の冒険も、様々なトラブルが起こり、こちらも読ませてくれる。ブリザード、食糧不足、その他色々と。冒険をともにする犬の話は涙とドキドキなくしては読めない。

月がすごく複雑な動きをするので、何日後にどの時刻に南中するのか簡単には分からないそうだ。知らなかった。大雑把に言うと、月に支配された極夜世界では、1日が25時間で運行されているのだそうだ。へー。星とか月には疎くて、何も知らなかった。

また、極夜を歩いていくとどういう気分になるか、光にはどういう効能があるのかと、ちょっと哲学っぽいことも考えさせてくれる。読み始めた最初は真面目すぎてどうかと思っていたけれど、意外な収穫だった。


極夜行
角幡唯介
文藝春秋


今日の一曲

極夜とは真逆のホットジャパン。RIP SLYMEで、「熱帯夜」



では、また。
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『瑕疵借り』松岡圭祐

2018-08-07 | books
「事故」があった訳あり物件。直後に住むことで「瑕疵」をなくすことを生業にする男、藤崎の連作短編集。

震災後の作業で白血病になってしまった男性の住んでいた物件の話・・・<土曜日のアパート>

金がないので、偽の保証人になって小遣い稼ぎをしていたら、賃借人が行方不明になってしまって・・・<保証人のスネップ>

息子が自殺した・・・<百尺竿頭にあり>

パティシエになりたいが親に反対され短大に行った娘。母が急死した・・・<転機のテンキー>

以上4本。決して派手などんでん返しがあるわけじゃないけれど、渋い味があって、じわじわと来る。

お金に困っている登場人物が多く、平成のリアルな日本が描かれている。そしてまた救いのある物語だった。


瑕疵借り (講談社文庫)
松岡圭祐
講談社


今日の一曲

Drop'sで、「こわして」



では、また。
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『やっぱり食べに行こう。』原田マハ

2018-08-05 | books
毎日新聞で連載していた食のエッセイ。

とにかく美味いものがこれでもかと紹介されている。

特に食べたくなったのは、

・上高地帝国ホテルのパンケーキ
・七月下旬から八月上旬の間の最高の旬が三日しかない白桃
・蓼科の蕎麦屋の卵焼き
・礼文島のウニの踊り食い
・パリのスフレ(甘くない)
・モスクワの飲み物、クワス
・沖縄のペンションの毎回食べられるとは限らない寿司

腹の減るエッセイ。素晴らしい。

やっぱり食べに行こう
原田マハ
毎日新聞出版


今日の一曲

ハンバート ハンバートで、「横顔しか知らない」



では、また。
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店名にツッコんでください194

2018-08-03 | laugh or let me die
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