頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『夜が明ける』西加奈子

2021-11-30 | books
15歳、フィンランドの俳優に似てると言われた巨体のアキこと、深沢暁。母親から虐待され吃音で苦労し、しかし職につくが・・・アキの友達は俺。普通の家庭に育ったと思っていた。父が死に、金銭的に苦しくなりながらも何とか大学を出て、テレビ番組の制作会社に入る。ここは地獄の一丁目・・・

凄まじい話だった。ヒエラルキーの中で上から下に下ろすハラスメント(テレビ局から制作会社へ、ディレクターからADヘ、富める者から貧しい者へ)や、貧困、虐待のオンパレード。

そして、文体もストーリーも西加奈子流の癖が今まで以上に強い。エンターテイメントとしてはただ読者が苦しいだけではダメなわけで、どこかで癒やされたり救われたりするわけだけれども、そのやり方も独特で、そしてその独特さが私はお気に入りなわけです。

某サイトで、西加奈子はテヘラン生まれカイロ育ちだから金銭的に困ったことがないはずだからどうのこうの、という記述を見かけた。そういう見方もあるのだろうけれど、そういった見方はあまり好きではない。作品はそれ単体で面白いかどうか判断すべきであって、その人のバックグラウンドがどうかなんて本来は関係ないはずである。しかし、そういう見方は、○○やらかした俳優だから観たくないとか、本人の演技力と関係ない所で判断する「ワイドショー的世界観」に支配されてる気がする。ただそういう人が尋常じゃないほど沢山いるということに驚く。

 

今日の一曲

Michael Jacksonのカバー。ウッドベースを弾きながら歌うという離れ業。石川紅奈で、"Off The Wall"



では、また。



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『らんたん』柚木麻子

2021-11-28 | books
大正の終わり、一色はゆりにプロポーズする。すると、シスターフッドの道さんと同居でないとと条件を付けられる。後に恵泉女学園を創立する河井道と渡辺ゆりは一体どんな人生を歩んできたのか描く、ドキュメント風小説。

津田梅子、新渡戸稲造、平塚らいてう、有島武郎らが実名で登場。当時の日本人のアメリカ留学やキリスト教観やフェミニズムの発展がよく分かる。長いし小難しいけれど、我慢して読む意味はある。

新渡戸稲造は「愛国者とは憂国者である」と言ったそうだ。確かに。本当にその人を愛していれば、その人を心配し、そして間違っていれば注意、非難するのが当然。そういうことだろう。

 

今日の一曲

Stingで、"Shape Of My Heart"



では、また。



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店名にツッコんでください275

2021-11-26 | laugh or let me die
店名にツッコんでください275
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『闇祓』辻村深月

2021-11-24 | books
澪のクラスに来た転校生白石要は変な男子だった。ストーカーのような振る舞いをするので、憧れの先輩神原一太に助けを求めたら、一緒に帰ってくれるようになった。しかしそれは地獄の一丁目で・・・<転校生>

オシャレな団地に越してきた元女子アナの梨津は夫と息子と一緒。リーダー格の母親が仕切る、ママ友たちとの触れ合いで感じる強烈な違和感・・・<隣人>

まだ他に続く連作短篇集。

「闇ハラ」とは、自分の心の闇を相手に押し付け、不快にさせるハラスメント。それを最大限、人が死ぬレベルにまで昇華させ、ホラーに仕立て上げた。そしてそれを解決する正義の味方までも。

ホラーはあまり好きではないと思っていたけれど、辻村深月だから読んでしまった。そしたら、面白かった。

一応、ネタバレを避けてたら、隔靴掻痒レビューになってしもうた。

 

今日の一曲

Jon Batisteで、"What A Wonderful World"



では、また。



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『ブルースRed』桜木紫乃

2021-11-22 | books
死んだ父親を継いで釧路の裏フィクサーの座についた影山莉菜。政財界をコントロールしている。しかし思わぬ事態が生じ・・・

傑作が多く大好きな桜木紫乃作品の中では、凡作以下だった。

莉菜をカッコいい女として描こう描こうとし過ぎるので、筆が先滑りしてる感じ。あちこちで現実味がなく頁をめくってもめくっても全く楽しい読書時間にはならなかった。

 

今日の一曲

Madison Beerで、"Blue"



では、また。


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『アフター・サイレンス』本多孝好

2021-11-20 | books
犯罪被害者のカウセリングを担当する高階唯子を主役にした連作短篇集。不倫相手を刺し殺す事件やひき逃げ、娘を殺害された父親が余命間近になる話、女子高生が行方不明、姉を撲殺された弟が犯人が出所した後復讐する話。

うーん。面白い部分とそうでない部分が斑になってる感じ。ストーリー展開は悪くないんだけど、リアリティがやや欠けているように感じる。ラストの「ほとりを離れる」では、まさかカウンセラーがそこまでやるか?と思わざるを得なかった。



 今日の一曲

Maggie Lindemannで、"Knife Under My Pillow"



では、また。
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『狼たちの城』アレックス・ベール

2021-11-18 | books
1942年ニュルンベルク。ユダヤ人イザークは家族6人全員が収容所に送られる直前。レジスタンスと関係のある元彼女のクララに何とか出来ないかと頼むと・・・ナチス親衛隊中佐の家で著名な女優が殺害された。守衛がいて、人の出入りは厳密にチェックされていた。事件解決のためにベルリンから敏腕捜査官のアドルフ・ヴァイスマンが送られてきた。クララがイザークのために用意してくれたのはヴァイスマンのパスポートだった。イザークはヴァイスマンになりすまして事件を解決しなくてはならなくなった。

めっちゃくちゃ面白かった。ユダヤ人がどういう目に会うのかの臨場感、事件解決のプレッシャーが凄い。私は必ずしも主人公に自分を投影して読まないのだけれど、本作はなぜかイザーク=ジ自分で読んでしまった。

 

今日の一曲

藤井風で、「燃えよ」



では、また。




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『ヴァイタル・サイン』南杏子

2021-11-16 | books
看護師堤素野子、31歳。二子玉川の総合病院で死にものぐるいの日々。日勤、夜勤の安定した睡眠を得られない。クレーマーな患者、患者の娘、文句ばかりの後輩。そして患者の死。

超リアルな看護師の生活。患者の肛門にまで指を突っ込まなければならない。

長期入院の経験のある身からすると、こんなに患者はクレーマーじゃないだろうとは思うけれど、看護師の最悪の日々はきっとこうなのだろうと思うと、頭が下がる。

看護師になりたい人必読なのか、それとも決して読んではいけない発禁の書なのか。それ以外の外野にいる野次馬は読めばいいさ。ぶっ飛ぶ。

 
今日の一曲

にしなで、「夜になって」



では、また。
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『ミカエルの鼓動』柚月裕子

2021-11-14 | books
北海道中央大学病院で医療用ロボットミカエルを駆使して難しい心臓手術に成功し尊敬を集める西條。院長がドイツから西條のライバルとなる医師真木を招聘した。幼くして心臓手術を受け、再読手術が必要になった少年に対する手術法で二人が対立する・・・

すごく面白かった。病院経営という負の部分、命を救うという正の部分のコントラスト、西條という深くモノを考える主人公、真木という謎の医者の過去、ストーリー展開、全てがうまく纏められていた。


今日の一曲

David Bowieで、"Thursday's Child"



では、また。


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店名にツッコんでください274

2021-11-12 | laugh or let me die
店名にツッコんでください274
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『倒産続きの彼女』新川帆立

2021-11-10 | books
顧問先のゴーラム商会は倒産寸前。経理課、近藤まりあが勤めた会社が立て続けに潰れてるという内部告発を受けた。弁護士美馬玉子は調査を始める。不相応に贅沢品を身に着ける近藤。しかし、人が死んだりして・・・

すごく軽く読める企業ミステリー。面白いことは面白い。そして、後に何も残らない。それこそがエンターテイメントだと言えばそうなのだろう。

複雑な仕掛けがあちこちにあるけれど、娯楽としてはOK、BUT現実にはありそうもない。

 

今日の一曲

新ボーカルを迎えた、水曜日のカンパネラで、「バッキンガム」



では、また。
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『灼熱』葉真中顕

2021-11-08 | books
戦前から戦後直後までのブラジルに移民として渡った人たちの苦労を描く前半。後半は、日本が戦争に負けたと知る人たちの、負けてないと主張する人たちの強烈な抗争を描く、ドキュメント風小説。

分厚いのに一気読み。面白すぎる。参考文献を見ると、どうやら抗争は事実あったことらしい。情報を捻じ曲げ曲解したり、自分の都合の良い方に解釈するのは、洋の東西を問わず、またいつの時代でもやってしまうことなのだろう。

残念ながら、対立、意見の相違は常に起こってしまう。そこでまず必要なのは本音を話し合うことだろう。しかし、もし自分が間違ったことをしたと認識したならば、どうすれば良いのだろう。謝るとは相手の赦しを求めることだけれど、謝って赦されてそれで二度と同じことが起こらないなら問題ない。しかし同じような事が何度も繰り返されてしまうのなら、謝っても何も解決しないだろう。なぜ自分がそうしてしまったのか、原因を徹底的に考え、そしてさらに再発防止策を考えて、それらを抽象的でなく具体的な言葉にしていく。そして自分の言葉に責任を持つ。面倒でもそういうことが出来るのが「大人」であり、そういう「大人」がある程度数以上いる場所は居心地のいい場所になり、そして「大人」の国になってゆくのかも、なんて思った。なかなか「大人」になれないお前がよく言うよ〜って話だけど。

歴史的に何があったか知る知識小説でもあり、また親友だったトキオと勇がなぜ対立するようになり、それがどうなっていくかを読むエンターテインメントでもあった。


今日の一曲

BREAKERZで、「灼熱」


では、また。



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映画「DUNE/デューン 砂の惑星」

2021-11-06 | film, drama and TV
西暦10160年、主人公はアトレイディス家の後継者ポール。父である公爵は皇帝から惑星アラキスを統治するよう命じられる。アラキスは、砂漠に覆われた過酷な環境の惑星であるが、貴重なスパイスが採れるため、ハルコンネン家は莫大な富を築いてきた。ハルコネン家はアトレイディス家に牙を剥いてきた・・・

IMAXレーザーで観たのだけれど、まさに映画館で観る作品、IMAXで観るべき作品だった。

原作は読んでないのでストーリーはよく分からないまま観たけど問題なし。そんなに複雑ではなかった。

未来を読む力や、巨大な砂虫、トンボのように翼を震わせる飛行機、保水スーツなどいいネタ多数。そして、何より映像と音。映画というエンターテインメントは、映画館に支払うコストに見合うものなのかという話があるが、本作は充分に見合うものだった。

まだ公開されたのはパート1だけ。続編が出来るまでに原作を読もうかと思ってる。

 
 
 

↓予告編



では、また。


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『ガラスの海を渡る舟』寺地はるな

2021-11-04 | books
ADHDっぽい兄の道と、ちょっと敏感な妹の羽衣子は死んだ祖父の営むガラス工房を引き継ぐことになった。気の合わない兄妹。骨壷を作る、いや作らない。離婚しようとしない母、ずっと前に家を出た父・・・

すっごく優しい小説だった。読めば読むほど、この間からずっと物凄く淀んでた心がやっと清々しくなった。

骨壷を依頼する人がいるなら作ればいいじゃんと言う兄は他人の気持ちが分からないが才能がある。骨壷なんてこわいやんと思う妹は気持ちの機微がわかる。というようなお仕事だけじゃなくて、ややこしい親子や恋人関係まで網羅する、何気なく凄い小説だった。

 

今日の一曲

MIKAで、"Grace Kelly"



では、また。


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『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー2』ブレイディみかこ

2021-11-02 | books
英国ブライトンに暮らす著者、アイルランド系の夫、ハーフの息子。特に中学生の息子の生活を描写するエッセイの第二弾。

夫の断捨離に絡めて鉄くずを集める移民の話や、肌の色の違い、LGBTQ、図書館が閉鎖されホームレスのシェルターになる話、学年委員になれるかなれないかの話等など。

ブレイディみかこというフィルターで、英国労働者社会を見てるわけだけれど、そのフィルターがいい。バイアスなくフラットに自分の息子を、社会を見ることのできるその見方がすごくいい。こういう人ならぜひ結婚したい(とか言うとセクハラとか言われるのだろう)

 

今日の一曲

Vaundyで、「泣き地蔵」



では、また。


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