『夢違』恩田陸

2012-05-27 | books

「夢違」恩田陸 角川書店 2011年(初出北海道新聞、中日新聞、東京新聞、西日本新聞2010年5月6日〜2011年5月2日)

見た夢を記録できるようになる近未来。小学生が同一人物を夢に見るという怪事件が起こる。夢判断を仕事とする主人公浩章の兄の死んだはずの婚約者が…その真相は…

うーん、これはちょっと。夢判断と言えば、何と言ってもフロイト。そのフロイト的な牽強付会な夢解釈がさらに現代的に広がる作品かなと想像すると、そういう感じでもなく、ホラーの割にそれほど恐くない。

夢を記録する夢札というネタは興味を惹くし、真相単体は悪くなかった。ので惜しいとは思う。長すぎるのが難点。

新聞連載だからこそ、まとまって読むとすごく面白い作品もあるし、そうでもないこともあるし。最近よく見かける、ガーリーな髪型とファッションがあるではないですか。ゆるかわ?であってる?あのファッションだからこそ、かわいく見える人もいるし、その逆もあるし。ってことと同じだろう。いや違うか。

では、また。



夢違
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『相田家のグッドバイ』森博嗣

2012-05-23 | books

「相田家のグッドバイ」森博嗣 幻冬舎 2012年

少し変わっていて、それでいて平凡な、そんな相田家の歴史を淡々と、ひたすら淡々と描く。父秋雄は駆け落ちして結婚し建築会社を興した。子どもを可愛がるでもなくかと言って邪険に扱うでもない。母紗江子は燃えるごみ以外のごみを出さない。ありとあらゆるものを取っておく。几帳面すぎるほどに。そんな二人に育てられた長男紀彦ははたしてどんな人間になるのだろうか。最終的には父と母を看取るまでの話…

うーむ。なんなのだろうこの小説は。何一つドラマティックなエピソードがない。全くないのにも関わらず面白いのだ。こんな小説読んだことがない。

最初は全く面白くなくて、放り投げておいた。しかし友人に面白いと薦められた。その人に「なんの話なの?」ときいたら、「うーん。わかんない」という意味不明の返事だった。でも悪くないと言うので読んでみたら、確かに何の話なのか口に出して言いにくい。

本当にあったことかどうかは別として、ドキュメントっぽい体裁、もしくは私小説っぽい。

こんな表現を読むと、作者の持つ哲学のようなものが感じられる。

保守的というわけではないけれど、自分の位置ができれば人類のばらつきの中心近くにあるように認識したい。という本能が人間にあるように思える。きっと、集団行動をする動物に備わっている感覚なのだろう。(15頁より引用)


相田家で飼っているプッチという犬が隣で工事している人たちに対して吠えた。職人が「煩いぞ、馬鹿」と叱った。それに紗江子が抗議した。その後で建築会社の社長が家に来て謝罪した。秋雄は和やかに対応した。紗江子はそれ以上は抗議しなかった。その後が、

ようするに、紗江子はあくまでも、この一件で自分は我慢をした。と認識しているのだった。客観的に見れば、彼女は我慢が出来ずに爆発してしまったわけだが、彼女にしてみれば、その爆発はプッチのための最低限の擁護でしかない。これは、ほかの事例でもまったく同じで、幾度も繰り返された。彼女は最低限の防御をまずして、そののち自分だけが我慢をすれば済むと制御する。外部からみれば、堪え性のない人に見えるのだが、彼女は自分を我慢強い人間だと評価しているのである。(83頁より引用)


うーむ。森博嗣の作品、もっと読んでみよう。

では、また。



相田家のグッドバイ
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『語りつづけろ、届くまで』大沢在昌

2012-05-20 | books

「語りつづけろ、届くまで」大沢在昌 講談社 2012年(初出十勝毎日新聞2009年2月23日〜12月4日)

食品会社に勤める主人公、坂田は、お年寄り向け新商品のPRのために老人会、ホームを訪れている。そこで知り合った男と話していたら、年寄りの気持ちをつかむのがうまいと褒められ、訪問販売のセールスマンの教育をしてくれと頼まれる。するとなぜか殺人事件に巻き込まれてしまう。いい人坂田の運命は…

うーん。大沢在昌「らしくは」ない。しかしすごく読みやすいことは確か。

段々とやくざや、男色、芸人などの人物が無理なく入り混じっていく様、坂田が好きな女性咲子と坂田の関係はどうなるのかと、期待させる様など、エンターテイメント小説の王道を行っているのは確か。

難点は、読んだ後に何かが残るということが特にないということ。「走らなあかん、夜明けまで「涙はふくな、凍るまで」の続編だそうなんだが、それを知らずに読んでしまったのがいけなかったのだろうか。

では、また。


語りつづけろ、届くまで

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『パラダイス・ロスト』柳広司

2012-05-19 | books

「パラダイス・ロスト」柳広司 角川書店 2012年(初出野生時代)

「ジョーカー・ゲーム」「ダブル・ジョーカー」に続く、第二次世界大戦時の日本の諜報の先端を行く結城中佐率いるD機関の暗闘を描く短編集。

<誤算> 1940年パリ、レジスタンスと仲良くなった日本人島野は記憶を失っていた。

<失楽園> シンガポール、恋人が米国人実業家を殺したとして逮捕される。

<追跡> 英国人新聞記者が結城中佐の過去に迫る。

<暗号名ケルベロス> サンフランシスコからホノルルへ向かう日本の客船。クロスワードパズル好きの男が殺される。その男は誰か。暗号解読の…

てな感じ。「追跡」がなかなか面白かった。先の2作が面白いと思える人なら十分に楽しめるだろう(十分と充分、どちらを使うかいまだに迷う)

最近、いや近年ガチガチのミステリーは体質に合わなくなってきていて、自分から好んで読まなくなってきた。歳を取ると食べ物の好みが変わると言う。同様に、本の好みも変わるのだろうか。

昔好物だったのは、ミステリ、冒険小説の類。近年は時代小説、純文学、そしてSF。この後何が好物になるのだろうか。

まだ、演歌は歌ってないけれど。

では、また。

パラダイス・ロスト
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『サファイア』湊かなえ

2012-05-17 | books

「サファイア」湊かなえ 角川春樹事務所 2012年(初出月刊ランティエ2010年〜2012年)

短編集。「告白」は衝撃的だったんだけれど、以降下降気味。もうこれを最後の湊かなえとしようとかなと思いながら読んだ。最初の一編があまり面白くなく感じ、ゆえに途中で投げ出した。しかし出た作品は全て読んでいるはずなのでこの作品だけ抜け落ちるのも気分が悪いなと思いもう一度読み始めた。すると、

<真珠>今は太っているが、昔はかわいかったと自称する中年女と彼女の話を聞く男。彼はカウンセラーなのか刑事なのか。女の少女めいた物言いがやや不気味で…

<ルビー>瀬戸内海の島が私の実家。久しぶりに帰ってきたら、隣には立派な祉施設が建っていた。母が農作業をしていると、入居者のおじいさんから話しかけられた。とても感じのいいおじいさんで、高価なお菓子をくれた。そのおじいさんは実は…

<ダイヤモンド>俺にはかわいい婚約者がいる。たまたま命を助けてやった雀が、あろうことか人間の姿になって俺の望むことをなんでもしてくれると言う。それならと、婚約者が欲しいものは何だか調べてくれと頼んだ。すると彼女には浮気相手がいると言う。雀の恩返しなのか…

<猫目石>マンションの隣に住む女性の飼う猫を探してあげた。するとお礼なのか、我が家のことを色々と調べてくれて…

<ムーンストーン>議員だった夫を殺してしまった… 中学の時あがり症だったわたしを助けてくれた小百合は… 過去と現在がクロスして。弁護してくれるのは…

<サファイア>旅行先で出会った男性と付き合うことになった。しかし彼は私の誕生日に駅のホームから転落死してしまう。宝石を売りつけるアルバイトと死の関係は…

<ガーネット>「サファイア」の続き。作家になった私は女優と対談することになった。作家になる前は食品会社で働いていた。彼の死の真相が…


おやおやおや。面白い。結構堪能してしまった。後味の悪さを売りにすることから、後味の良さへと転換して、それが実にうまくいったように思う。

どれがどれとはネタバレを避けて言わないけれど、いい話の結末が巧い。作者は後味が悪い作品よりも、いい話に向いているように思った。(いい人がいい話を書けるのかどうかは不明だけれど)

以前のレビューは、「告白」「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「往復書簡」「花の鎖」「境遇」



サファイア
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『母の遺産−新聞小説』水村美苗

2012-05-14 | books

「母の遺産−新聞小説」水村美苗 中央公論新社 2012年(初出読売新聞土曜朝刊2010年1月16日〜2011年4月2日)

やっと母が死んでくれた… 大学の非常勤講師をしている主人公美津紀。夫も大学の先生、姉は金持ちと結婚した。しかし姉は、美津紀は幸せなのだろうか。夫の浮気、怨念と打算、愛情と憎悪を混ぜながら、過去と現在を描く。

母がどんな人であったか、彼女の家族と彼女の過去の描写が続いてゆく。そしてやっと187頁になって、

覚えているのは、あの時初めて、明確に、かつ燃えるように、母に早く死んでほしいとはっきりと意識したことである。


この部分を読んだとき思わずため息をついた。ふぅ。あーついにこう思うようになったかそりゃそうだよな。この母のようなタイプは私が最も苦手とするタイプ。私ならもっとずっと早く死んでくれと思っていただろう。主人公が特に我慢強い性格というわけでもないかと思うが。

老人の介護という近年我々の身近になってしまった問題が話の一つの軸である。それは一つに過ぎず、最も大きな柱は女の「業」ではないであろうか。

嗚呼女は嫌だ。女の業なんて面倒だ。やめてくれヤメテクレこんな話読みたくない…と思いながら頁をめくる手が止まらない。

それが作者の巧さなのだろう。傑作という言葉をむやみやたらと使うべきじゃないが、この作品には使いたい。

では、また。

母の遺産―新聞小説
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『俄 - 浪華遊侠伝』司馬遼太郎

2012-05-11 | books

家斉配下の隠密として江戸から大阪にやって来た男。妻子あり。その子が万吉、11歳、主役。父は江戸に戻りたいと妻子を残して失踪する。丁稚に出ていた万吉は母親のために犯罪者となる決心をする。そのため無宿人となる。そうでないと捕まったときに迷惑がかかるから。しかし、と言って当てはない。たまたま見つけた賭博。そこで思いついたのはただ、積まれた銭の上に乗っかって、殴られ殴られ、諦めて放免されるまで殴られ、その金の一部でも盗んで帰ること。ただそれだけで、万吉はいかにして漢(おとこ)の中の漢になれるのか…実在した小林佐兵衛こと明石屋万吉の話。

「俄 - 浪華遊侠伝」司馬遼太郎 講談社 1966年(「侠客万助奇談」という短編1964年オール讀物→報知新聞連載1965年)

いやいやいやいや。冒頭に紹介したのは最初の60頁だけの話。一度読み始めればもう止まらない。止まらない。文庫で800頁を一気に読ませる。

司馬遼太郎の未読長編にこんな面白い作品があるとは思わなかった。本の雑誌がだいぶまえに出した、ブックカタログ1000の中でやくざの本10冊として北上次郎さんがこの小説を紹介しておられた(と記憶している)それ以来ずっと名前だけは覚えていたのだが、極道だかやくざの話しかと特に触手が伸びなかった。

しかし読み始めたら、痛快痛快。手放しでこれほどまでに人に薦められる時代小説もなかなかない。「竜馬がゆく」「影武者徳川家康」も苦手だという人には「真田太平記」を薦めてきたけれど、本作もまた時代小説食わず嫌いに薦めたい。

何も持たない男が漢になるその過程。つまらないとは言わせない。こんな奴が実在したのなら、昔の日本はほんと良かったんだろうと思う。幕末から明治へ一気に駆け抜けてゆく男の生き様、これはちょっと読み逃してはいけないよ。


「世間」という動物を絵にかけといわれれば五里霧中でわからないが、とにかく動物の肛門あたりはとっくりと見たような気がする(講談社文庫旧版80頁より引用)

要するに万吉は、彦蔵と梅吉が門前の野次馬と一緒になってめそめそ泣いているのが気に入らなかったのだ。他人の不幸に泣くなどというのは、万吉にいわせれば自分が安全な場所にいるという安堵感があってのことで、つまり自分が安全であることを陶酔しているにすぎない。その証拠に、わしらも腹も切ろうと万吉が言いだすと二人は狼狽し、泣きっ面をひっこめてしまった(685頁より引用)



では、また。



新装版 俄(上) 浪華遊侠伝 (講談社文庫) 新装版 俄(下) 浪華遊侠伝 (講談社文庫)
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『所有せざる人々』アーシュラ・K・ル・グィン

2012-05-08 | books

AD2300の未来、ウラスとアナレスの物語。ウラスという惑星からオドー主義者たちが脱出し、アナレスに暮らすようになった。それから150年が経過し、アナレスで生まれ育ったシュヴェックは物理学者としてウラスへと向かう。

「所有せざる人々」アーシュラ・K・ル・グィン 早川書房 1986年 訳者 佐藤高子
The Dispossessed, Ursula K.Le Guin 1974

幼少期からを描く章と現在を描く章が交互に来る。アナレスではオドー主義という共産主義のようなものによって人々の生活はコントロールされているらしい。らしいというのは、これは共産主義ですというような直接的な描写を避けて、少しずつ現象を描いているだけだから。こんな風に読者の想像力に大きく働きかけてくれていてその様がとても良い。最近は報道も小説も分かりやす過ぎるものが多い。本来分かりにくいものを無理して分かりやすくしてしまうことで誤った印象を与えてしまっているように思うことが多い。

そうそう。アナレスという共産主義的でアナーキーな世界。れに比較すればウラスは資本主義的世界。オドーという人物はマルクスを連想する。本書が書かれた1974年はまだ共産主義という壮大な実験によってその欠陥が判明する前(共産主義そのものの欠陥というより、共産主義を扱う人間の問題かと思うんだけれども。原子力そのものに欠陥があるというより原子力を扱う人間に問題があるのと同じで)(いやそんなことはどうでもいいか)

そんな1974年に書かれたのに全く色あせず古びていない。SF食わず嫌いが食わない理由の一つは、宇宙的ドンパチかと思う。私も宇宙的ドンパチにはあまり興味がない。本書では宇宙戦艦が出てくるでもなく、ビームで戦うこともない。自由主義と共産主義/アナーキズムというイデオロギーの対比がメインテーマだ。

アナレス人には、囚人に労働を強制することが理解できない(50頁)、労働の真の動機は経済的なものではない、好きで仕事をするのだ(196頁)というようなSFらしくない表現が多い。一番好きな部分を以下に引用。

「物事というのは、全体的に見ることさえできれば、いつだってきれいに見えるものなんだよ。惑星でも、人生でも……。けど、近くから見ると、世の中なんて汚物と石ころだらけさ。人は毎日の暮しに身をすりへらし、疲れ切って方向を見失ってしまう。距離が必要なんだ - 間隔が。地球がどんなに美しいか鑑賞しようと思うなら、それを月と見ることだ。人生の美しさを鑑賞するには、死という、見晴らしのきく場所から眺めることだな」(247頁より引用)


ル・グィンは必ずしも共産主義/アナーキズムが理想的な世界だとしているわけじゃないあ。じゃあどうなのか、それは読んでのお楽しみ。

では、また。



所有せざる人々 (ハヤカワ文庫SF)
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『罪と罰』ドストエフスキー

2012-05-05 | books

「罪と罰」ヒョードル・ドストエフスキー 新潮文庫 工藤精一郎訳
Преступление и наказание, Фёдор Миха?йлович Достое?вский 1866
 
中学生以来四度目の挑戦。いつも途中で挫折していた。やっと今回読み切った。

元大学生のラスコーリニコフ 金貸しの老婆アリョーナ・イワーノヴナを殺害するときに妹まで殺してしまう。予審判事ポリーフィリーとの対決、妹の結婚相手、娼婦ソーニャ…多くの登場人物が絡みに絡んで…

うーむ。筋だけを追うのではなく、ひたすら脂っこくしつこくこってりとした、天下一品のスープをさらに水分を飛ばしたような濃ゆい独白。これを楽しめればいいのか。ということに今回気づいた。

そう思えば、なかなか進まないストーリーも受け入れられる。

読み切ったことは読み切ったが、「完走したんだから途中のプロセスなんてどうでもいいじゃないか」状態であることは否めない。

ここで何かえらそーに語るほど読めたわけではないけれど、これはいつか再読しようと思う。「カラマーゾフの兄弟」も大審問官の部分以外は全て忘れてしまったので、近いうちに再読したい。

今回何の役にも立たないレビューになってしまった。いや、役に立たないのはいつものことか。

では、また。



罪と罰〈上〉 (新潮文庫) 罪と罰〈下〉 (新潮文庫)



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『ターミナル・エクスペリメント』ロバート・J・ソウヤー

2012-05-01 | books

「ターミナル・エクスペリメント」ロバート・J・ソウヤー 早川書房 1997年
The Terminal Experiment, Robert J. Sawyer 1995

自分の脳をスキャンして、コンピュータ内でシミュレーションが作れるようになった2011年。シミュレーションを3通り作った。何も手を加えないもの、老いの要素を取り除いたもの、肉体と関係するものを取り除いて純粋に精神的なもの。この3つのうちそれか一つが殺人を犯した。どれが?…

話は1995年に遡る。主人公ピーターは学生の時、脳死後の臓器移植に立ち会うが、そのときドナーの体が動くのを見た。本当にドナーは死んでいたのだろうか… ピーターの妻はキャシー。夫婦仲は極めて良好だった。彼女が浮気するまで。

ピーターは生物医学関係のモニターを作っている。ある老女が亡くなる時に脳波のモニターに不思議なものが映っていた。これはもしかすると魂なのか!

ふぅ。やっと短いプロローグ(殺人事件が起こったらしい)でいったい何がどうして起こったかがある程度分かるのに162頁もかかった。それまでは具体的には分からない。解説で作家の瀬名秀明氏が、プロローグを読めばだいたい掴めると書いておられるけどそれは無理だ。しかし何がどうなっているのか分からないままここまで難なく読ませるのはさすがだ。いや、超弩級のエンターテイメントだ。

コンピューターでシミュレートした自分と会話するというなかなか哲学的なシーン、キャシーがカウンセラーに相談するシーンなど純粋SFじゃないシーンが多く、SFファンじゃなくても読みやすい。瀬名氏はSF食わず嫌いを克服する処方箋だとしているが、その通り。ロケットも宇宙人も出てこないし、タイムマシンもない。

殺人事件があったとして、それがなぜ、コンピューターシミレーションと関係があるのかちょっとずつ分かっいくのが実に楽しい。知的な興奮だと思う。

精神と肉体は別なのか。脳で起こっていることは単に生化学的な反応にすぎないという唯物的世界観と、精神と肉体は別、あるいは精神と脳は別というデカルト的二元論。正しいのはどちらだろうか。


ターミナル・エクスペリメント (ハヤカワSF)
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『愉楽の園』宮本輝

2012-04-28 | books

「愉楽の園」宮本輝 文藝春秋 1989年(初出文藝春秋1986年5月号〜1988年3月号)

バンコク、内務大臣サムスーンの愛人として囲われる女、恵子、会社を辞め世界中を放浪しバンコクにたどりついた男、野口。サムスーンと暮らして三年。なぜ恵子はこのような生活を選ぶことになったのか…

うーむ。宮本輝作品の中で、そのトップクラスの作品である、とは言えない。何がテーマなのかよく分からないのと、登場人物に感情移入しにくいのが難点。

しかし、謎が解かれていく様は悪くないし、バンコクの描き方は秀逸だ。

野口が、バンコクで身も心も溶けてしまうのだが、私自身も同様の経験があって、自分がなぜあんな風になってしまったか考えるヒントを貰った。

東南アジアでどこか永住しなければならない国、もしくはまた行きたいところときかれたら、ベトナムかマレーシアと答える事との関連はよく分からないけれど。

いや、ほんと、分からないことが多すぎる。

では、また。


愉楽の園 (文春文庫)
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『捜査』スタニスワフ・レム

2012-04-27 | books

「捜査」スタニスワフ・レム 早川書房 1978年(原著は1959年に書かれた。ロシア語なの表記不可。訳者深見弾)

英国ロンドン、死体が消えるという事件が続発する。誰が何のために…

おお。なんという小説なんだろうか。「ソラニスの陽のもとに」の作者なんだからSF的かと思えば、SF的じゃないと言えないんだけれど、SF的だとは決して言えない(気になる人は読んでみて)

事件の共通点を探すと、猫が、霧が、など統計学的に…という解決をしようとする。色々と事件を解釈してみて…という話。詳しいことは書けない。

奇妙な味を舐めてみたい、凡百の味にはもう飽きたという人にぜひオススメしたい。

ラストは賛否両論あろうかと思う。私は嫌いじゃない。

では、また。



↓新刊で買うのは困難なようだ。
捜査 (ハヤカワ文庫 SF 306)
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『鋼鉄都市』アイザック・アシモフ

2012-04-24 | books

「鋼鉄都市」アイザック・アシモフ 早川書房 1979年 訳者福島正実
The Caves Of Steel, Isaac Asimov 1953

殺人事件を担当することになった。殺されたのは宇宙人、一緒に担当するのはロボット…
という意表をつくような冒頭から始まる。荒唐無稽なアホSFかと言えば決してそんなことはない。

地球人より宇宙人の方が出来が良いとか、宇宙人が地球に宇宙都市を建設しているとか、地球人がシティに暮らしていて、隣接する宇宙都市には簡単に行き来できないとか、様々なSF的な前提はある。そのような前提によって拘束されることによって出来上がったステキな物語がこれ。

SFが土台になっている上質なミステリだ。

1953年に書かれたとは思えない。全く古びていない。訳もいい。あちこちに現代に生きる我々に対する警句がある。

マルサス的なカタストロフィ(19世紀の経済学者マルサスによる、人口の爆発的増加によって食糧不足のが深刻化するといる一種の理論。その後食えなくなるがゆえに、人口はその後減少するとマルサスは書いていたような気がするけど、忘れてしまった)が、本書では現実化したとある。水不足も描写されていて、200年前のマルサス的世界観も、60年前のアシモフ的世界観も、どちらも我々が現在直面している世界と変わりない。

懐古主義とか古典主義がいつもいいものとは思わないけれど、しかししかししかし、昔の人の言ったことが正しいのだなと思う今日この頃。

あそうそう。本書では、ロボットが人間の仕事を奪い、それが人間による反ロボット運動に繋がっている。それもまた昨今の雇用状況を連想する。

アシモフというおじさんがとてつもなく、知的で想像力が豊かで、優しさと厳しさを兼ね備え、そして普遍的な美を追求していて、こんなおじさんになりたいなと、思った。

では、また。


鋼鉄都市 (ハヤカワ文庫 SF 336)
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『飼い喰い』内澤旬子

2012-04-22 | books

「飼い喰い 三匹の豚とわたし」内澤旬子 岩波書店 2012年

「世界屠畜紀行」の著者。食べる前の豚を知るために、飼うための場所を借り、自分で豚を飼育し、屠畜し、そして食べるというちょっと聞いたことのないドキュメント。

うーむ。スゴイ。この本と出会わなければ、豚を飼育することと屠ることをリアルに考えると事は決してなかった。

我々が生きているのは、豚や鳥、牛、魚、野菜などの大量の犠牲に成り立っている。そしてそれを意識しなくてはいけないと人は言う。確かにそう。理屈の上ではそう。しかしいつもそんなことをリアルに感じながら暮らすことは難しい。

それをこの内澤さんが身を以てリアルにレポートしてくれるのだ。

去勢するときに玉を抜くさまを読んでいたら、電車の中で軽い貧血になりそうになってしまうくらいだった。

また、飼っていれば愛情が湧いてしまうわけで、かわいそうだから食べられないという感情についても考えさせられる。

(女性に対して失礼な言い方かもしれないが)女っぽい湿っぽい表現や感情に任せたりするような表現をせずに乾いた文体を使ってくれている。この文体がとてもいい。三浦しをんや水村美苗に共通するような気がする。彼女のような文を書く女性。彼女のように物事にアプローチする生き方をする女性が私はとても好きだ。

私のタイプなどどうでもいいか。イラストにも実に味があって、読んでも決して時間の無駄にならないベリーグッドな本だった。

色んなことを、リアルに感じてしまうこの頃さ♪by佐野元春@サムデイ

では、また。



飼い喰い――三匹の豚とわたし
世界屠畜紀行
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『葡萄と郷愁』宮本輝

2012-04-21 | books

「葡萄と郷愁」宮本輝 光文社 1986年(文春文庫1995年 初出JJ1985年5月号〜1986年5月号)

1985年10月17日たった一日。日本では女子大生純子は、英国留学中の村井に手紙で求婚される。ブダペストでは、女子大生アーギがアメリカ人女性に養子にならないかと頼まれる。東京とブダペストを交互に描き、決して交わらない二人の生き方、周囲の人たちを通して、幸せとは何か、決断するとは何かを描く…

いやいやいや。まいった。宮本輝未読山脈にこんなお宝があったとは。

厳格な、けれども家族全員が揃いも揃ってお人よしな家庭に育った悦子は、他人と自分を比較して、喜んだり哀しんだりするという女性特有の性癖を、あまり表に出さなかったからである。(文庫版9頁より引用)


いきなりぶちかましてくれる。自分と他人の比較が幸福の基準になるが女性だとは。なるほど。80パーセントぐらいうなづける。

ストーリーは、それぞれの女性がどんな決断を下すのかなのだが、それに至るプロセスに一見物語と無関係の人物が入れ代わり立ち代わり現れそれが何ともうまいのだ。

純子の大学の二年先輩で、会社を辞め離婚し外国に行っていた岡部とバッタリ会う。その岡部が見せてくれた手紙。それはしばらく一緒にモロッコで暮らしていた女が夫から受け取った手紙。文庫版だと157頁にある。

この手紙を読んだときに、脊髄に細く尖った針を射ち込まれたような気持になった。

たった一冊の薄めの文庫本の中に、実は色んな形の恋愛が詰め込まれている。これから恋愛をはじめようという人、もう恋愛からは引退した人双方にオススメしたい。

では、また。



葡萄と郷愁 (光文社文庫)
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