頭の中は魑魅魍魎

いつの間にやらブックレビューばかり

『FACTFULLNESS(ファクトフルネス)』ハンス・ロスリング

2019-08-30 | books
例えば、世界の平均寿命は、A:50歳、B:60歳、C:70歳のうちどれか?とか自然災害で毎年亡くなる人の数は、過去100年でどう変化したか、A:2倍以上になった B:あまり変わっていない C:半分以下になった、というようなクイズが冒頭にあって、それに間違える人がとても多いそうだ。「先進国」に住む我々が当然だと思っていることのうちで、実は間違ってるのとが多い。ということを分かりやすく説明してくれる本。

これは素晴らしかった。

クイズ13問中、なんと私の正解はたったの1問。恥ずかしい。

いかに自分がメディアで報道されることに洗脳されているか、あるいは(メディアのせいではなく)勝手に自分で思い込んでいることが多いのかに驚く。

文章はとても読みやすく、またデータの話だけじゃなく、スェーデン出身の医者である著者のアフリカでのエピソードなど、著者個人の話もかなり面白い。

アフリカのある村で病気が流行したときに、村でただ一人の医者である著者は、村から病気が伝染しないように、バスの運行を停止させた。その結果、別の村へ作物を売りに行く女子どもはバスが動かないので仕方なく船に乗せてもらった。その船が転覆し多くの死者が出てしまった。というエピソードは、色々とかんがえさせられた。

「自分は頭がいい」とか「結構物知りだよ」なんて思ってる人にぜひ勧めたい。また、どうやって物事を考え結論づけるべきなのかなんて思考の枠組みを知りたい人にもオススメ。こんなスゴイ本に出会えて良かった。マジで。


 

今日の一曲

Thirty Seconds To Marsで、"Up In The Air"


では、また。
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『食堂メッシタ』山口恵以子

2019-08-28 | books
満希が一人で切り盛りする小さなお店は、酒場を意味する「メッシタ」 予約が取りにくく、美味しいイタリアンの料理を食べさせてくれる。満希が、この店を始める前に、どんな人生を歩んできたのか。

これはとっても良かった。

修行しに行ったイタリアで出会う料理がとにかく美味しそう。満希のキャラもいい。何かに真っ直ぐ突き進む様が心地いい。

しかし、やはり料理がいい。生シラスってイタリアでも食べるのかと思ったり、アーティチョークって食べたことないけれど、見た目よりも、食べられないところをとっちゃうと小さくなっちゃうんだー、と思ったり。

読んだ人はみな明日イタリア料理が食べなくなるな違いない。私?もちろん行きますわよ。サイゼリアに。

 

今日の一曲

ドラマ「凪のお暇」の主題歌。miwaで、「リブート」



では、また。


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『つらいと言えない人がマインドフルネスとスキーマ療法をやってみた。』伊藤絵美

2019-08-26 | books
荻上チキのSession-22で紹介されていたので読んでみた。

著者は臨床心理士で、認知行動療法(CBT)という心理利用を専門にしている。CBTは、ストレスに対する方法で、大雑把にまとめると、ストレスになるような事柄に触れると、1.気分 2.身体反応 3.認知 4.行動の反応をする。気分と身体反応は変えられないが、認知と行動は自分の努力で変えられる、とのこと。CBTには、別のモデルもあって、それが浅いレベルの認知の自動思考と深いレベルの認知のスキーマに分けられて、みたいな話。

そして、実際にクライアントの実例を示して、CBTやマインドフルネスを使って治療の実際を教えてくれる。

方法論も面白いのだけれど、実例がとてつもなく面白い。背中の痛みが精神的なものだと言われてやってきた傲慢な内科医。よーく話を聞いてみると(なかなか話そうともしないのだけれど)、意外な事実が浮かび上がる。この治療の過程でCBTやスキーマやマインドフルネスの具体的なやり方が紹介されていて、それも面白かった。

自分自身の心のトラブルを何とかしたいと思ってる人がや、人の心に興味のある人にオススメ。マインドフルネスについて書かれている本はたくさんあるけれど、これはかなり良かった。


 


今日の一曲

サイダーガールで、「メランコリー」



では、また。


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『店長がバカすぎて』早見和真

2019-08-24 | books
谷原京子は書店員。店長の無意味な朝礼は長いし、店頭に置きたい本は版元は送ってくれないし、クレーマー客はいるしで、ストレスたまりまくり。そんな彼女が、先輩や客、作家、営業たちと触れ合いながら怒り、笑い、泣き、成長していく物語。

最初は軽い、おこちゃま向け読み物程度だと思ってバカにしていた。しかし、実は出版業界や書店周辺のあまり良くない環境を赤裸々に描写していたり、また爆笑するような描写があちこちにあったりして、実は傑作だった。

覆面作家の正体とか主人公の恋など様々な読みどころがある。ものすごく読みやすいのに、滋養強壮に溢れる小説だった。本好き必読。


 


今日の一曲

Stingで、 "Desert Rose"



では、また。


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『戦場のアリス』ケイト・クイン

2019-08-22 | books
1947年、アメリカからシャーリーは戦時中に行方不明になったいとこのローズを探しにフランスにやって来た。手がかりを辿りついたのは英国の元スパイのイヴだった。第一次世界大戦のとき、ドイツ占領下のフランスでスパイとして過ごしたイヴの壮絶な過去と、第二次世界大戦中の話が交互に描かれる。

これは凄まじく面白かった。

イヴはフランスにおけるスパイのリーダーアリスのもとで働くのだが、このアリスネットワークは実在したものなのだそうだ!(わお) また、第二次大戦中のドイツによる信じられないような虐殺事件も実際にあったそうだ。他にも何人もの登場人物が実在したと著者あとがきに書いてある。

イヴがスパイとなり、潜入していく様、情報をとるため危険な目にあう様、読んでいてヒリヒリする。

650頁もあるので、余程の好き者でないと手に取らないかと思うが、好きな人には堪らないご馳走だった。


 

今日の一曲

The Smashing Pumpkinsで、"Ava Adore"



では、また。


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映画「新聞記者」

2019-08-20 | film, drama and TV
吉岡(シム・ウンギョン)は新聞記者。何者からか情報が送られてきた。内閣府からの指示で新規の大学設立が進められているらしい。なぜ文科省ではないのか。ウィルスの研究をするらしいがそれならなぜ厚労省じゃないのか。杉原(松坂桃李)は外務省から内閣情報調査室へ出向中。仕事は政権に都合の悪い情報が出たときに、偽情報を流して、本当の情報をもみ消すこと。北京の日本大使館にいたときに世話になった神崎(高橋和也)から久しぶりに連絡があり飲みに行った。それから数日後、彼は自殺してしまう。事件へと違う方向から迫る吉岡と杉原の運命は。

先日ラジオ「アフター6ジャンクション」で宇多丸が面白かったと言っていた。前から気になっていたので観てみたら、大当たりだった。

ジャーナリストによるレイプ事件の不起訴とか、現実に起こった事件を連想させるような描写があちこちにあり、ゾクゾクする。非常によく出来た社会派エンターテイメント作品。観て良かった。激しくオススメ。

原案
 
映画の予告編


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店名にツッコんでください221

2019-08-18 | laugh or let me die
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『震える山』C・J・ボックス

2019-08-16 | books
ワイオミング州猟区管理官ジョー・ピケットシリーズ第4作(第2作は未訳、電子書籍で出るらしい) 尊敬する先輩管理官ウィルが44マグナムをくわえて自殺した。自分の担当区域を離れ、ウィルが担当していた場所をしばらく担当しろと命じられた。ウィルが担当していたのはジャクソンという所で国立公園の入り口でもあり、宅地開発計画がありとてもややこしい場所だった。ウィルが自殺するわけがないと調査を始めるジョー。違法な猟をする者、開発を強引に進めようとする業者、誘惑してくる人妻。そして親友ネイト(前作参照)を殺そうとする者がやって来た・・・

大自然、孤高の男、人物造形、ストーリー展開。全てが完璧。しかも前作より読みやすく、しかも感情移入し易くなっている。多分、善人も悪人も、何故そういうことをしてしまうか、理解出来るからだろうと思う。

ジョーは奥さんメアリーベスや娘達と離れてしまうので、彼女らの話は少し薄まってしまうけれど、過去3作の中でベスト。12作目まで和訳されているので今後バッケンレコードを更新する可能性は充分にあるけれど。

翻訳ミステリーシンジケートのサイトに、シリーズの紹介があった。

読むのがもったいないので、他にすぐ読まなければならない本がない時とか、旅行中なので軽くて、確実に面白い本が読みたい時に読む。まったく同じポジションにいるのがマイクル・コナリーだった。

 

今日の一曲

Base Ball Bearで、「すべては君のせいで」



では、また。


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『訴訟王エジソンの標的』グレアム・ムーア

2019-08-14 | books
ひょんなことからウェスティングハウスの顧問弁護士になった若手ポール。エジソンのエジソン・ジェネラル・エレクトリックから300件以上訴えられている。どうすれば、エジソンに勝てるか?発明界の巨人に挑む姿を描くドキュメント風小説。
 
 
かなり事実に基づいているらしく、こんなことがあったのか驚きながら読んだ。(一応、エジソン=悪辣なヒール、ポールとウェスティングハウス=善人的に読み取った)
 
 
人物造形やストーリーが素晴らしいのだけれど、長い。レストランで何を食べたかなど瑣末な描写はもう少し控えて、三分の二ぐらいに抑えてくれればさらに良かった。
 
 
 
 
今日の一曲
 
Official髭男dismで、「宿命」
 
 
では、また。
 
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『いるいないみらい』窪美澄

2019-08-12 | books
子供を作る/作らない、欲しい/欲しくないというようか葛藤を抱える夫婦や独身の話ばかりの短編集。ちょっと苦手な話かと想像していたけれど、意外に面白かった。

子供を持つべきかというのは、(一部の)人類にとって普遍のテーマなのかも知れない。(一部の人は、深く考えず、持つのが当たり前と考えたり、持たないのが当たり前だと考えたり)

もし自分が◯◯という考えや感覚を持っていたとして、そうではない立場で考えたり感じたりすることが出来るってことは、小説の醍醐味の一つかも知れない。


 


今日の一曲

古臭い感じもするけれど、同時に今聴いても色あせない。The Whispersで、"In The Mood"



では、また。


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『119』長岡弘樹

2019-08-10 | books
消防士を主人公にする連作短編集。鮮やかに人命を救助する、というよりも人間臭い面を描いている。

最初はあまり頭に入って来なかったけれど、途中から加速して面白くなってきた。

消防士薀蓄があちこちにあり、それもまた良かった。

 
今日の一曲

スピッツで、「優しいあの子」



では、また。


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『ニコライ遭難』吉村昭

2019-08-08 | books
1891年来日したロシアの皇太子ニコライを、巡査の津田がサーベルで頭を切りつけた大津事件。事件より前のニコライの日本での過ごし方や、事件後の政府高官たちが、津田を死刑にしようと暗躍する様を描くドキュメント小説。
 
とっても面白かった。
 
ニコライが来る時に流れたデマが、実は西郷隆盛が生きていて西郷がやって来るのだというのが面白い。ロシアで西郷を見かけたという噂が流れたそうだ。西郷に帰ってきてもらっては困るので、ニコライ(=西郷?)をやっつけなくてはならないと考える輩がいるので、警戒が厳重になったとか。
 
ニコライは日本滞在を大いに楽しんだそうでその辺も面白い。
 
最大の読みどころは、松方首相や大臣の西郷従道たちが、津田を死刑にしようとするところ。ニコライは死ななかった(国に帰ると殺されちゃうけどね)ので、謀殺未遂にしかならない。その場合最高で終身刑。それだとロシアに怒られそう(世界最大の陸軍大国だし)なので、死刑にするために、刑法116条の天皇や皇太子に対する場合を適用しようとした。しかし、大審院長の児島は日本の皇室にしか当てはまらないとして、政府と闘う。
 
結果は歴史の教科書に書いてあるけれど、それをただ読むだけと、前後のエピソードを色々読むのでは、だいぶ違うわだなと改めて思った。
 
 
 
 
 

今日の一曲
 
Madonnaで、"Holliday"
 
  
では、また。
 
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『劇画ヒットラー』水木しげる

2019-08-06 | books
 
先日そごう美術館で「水木しげる 魂の漫画展」を観た。10代の頃から猛烈に絵が上手いのに驚いた。鬼太郎以外の漫画にも興味を持ったので読んでみた。
 
 
元々は浮浪者だったヒットラーが、戦争に行き、政党に加わり、一揆を起こし、投獄され、そして党首に、総統になり、ヨーロッパを恐怖の渦へと巻き込んで行く。
 
全276頁で、第二次世界大戦に突入するのは196頁になってからなので、ドイツ国内で権力を握るまでに詳しい。
 
 
知らない事が多く、意外にも面白かった。ナチスの高官の名前が多数登場するので、子供が読んでも分かりにくく、大人向け劇画だった。
 
 
 
 
 
 
今日の一曲
 
 
David Bowie で、"Modern Love"
 
 
 
 
では、また。
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店名にツッコんでください220

2019-08-04 | laugh or let me die
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『緋の河』桜木紫乃

2019-08-02 | books
秀男は釧路に生まれ、自分が女性的な言葉を使ったり、服を着たいという願望を隠し切れず、小さいうちから変人扱いされ父親からは叱られる。東京ではゲイボーイという仕事があると知り、家出をし、札幌でお店に入ることが出来た・・・

かなり面白かった。時代背景、主人公の造形、ストーリー展開、全てが好み。

カルーセル麻紀をモデルしたそうだけれど、作者のインタビューを読むと、家族構成など、変えている部分は多く、本人から聞いたエピソードでも使ってないものは多いそうだ。

カルーセル麻紀は、昔テレビでよく見かけた。毒舌なのと、性転換のパイオニアというぐらいしか記憶にない。彼女、あるいはこの時代の性同一性障害の人たちはこんな苦労をしたのだろうと想像させる。彼女はとても強い人だったので、皆がそうだとは言えないだろうけど。

また、性的に秀男が男性に気持ちを寄せたり、寄せられたりする箇所の描写が抜群に巧い。気持ち悪いと感じることはなく、むしろとてもエロチックだと感じた。

小説新潮で第2部の連載が始まった。続きはぜひ読みたいと思っていたので、嬉しい。

 


今日の一曲

Khatia Buniatishviliで、「モーツァルト ピアノ協奏曲23番」



では、また。


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