【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「犯人に告ぐ」:月島駅前バス停付近の会話

2007-12-05 | ★東16系統(東京駅~ビッグサイト)

なんだ、このこじんまりした建物は?
交番よ。
最近はこういう変わった交番があたりまえになってきたのか。
長髪でひげ面の警察官がテレビのワイドショーに出演するのもあたりまえになってきたしね。
そうなの?
「犯人に告ぐ」の主人公は、そうだったわよ。殺人事件を追う警察官がワイドショーに出演して犯人を挑発するって話。長髪でひげ面のまんま、出ていたわ。
あれは、豊川悦司が演じるから許されるんだろう。
初めて警察官の役をしたらしいけどね。
サウスバウンド」では元過激派やって、「犯人に告ぐ」では体制側の人間か。「椿三十郎」では体制派の悪者だし、豊川悦司も節操のない役者だなあ。
何言ってるのよ。そんなこと言ったら、死体の役をやった人は生きてる人間の役はできなくなっちゃうじゃない。
おいおい、いやに豊川悦司の肩を持つじゃないか。
あたりまえじゃない。彼って何をやってもサマになる男なんだから。あなたとは全然違って。
俺と違う?そんなことは、ないだろう。二人とも、目は二つだし、耳も二つだし、口は一つ、鼻も一つしかない。いったい、どこが違うっていうんだ?
うーん、比較するポイントが違うような気がするけど・・・。
しかし、彼も「今夜はふるえて眠れ」なんてクサいセリフを、冗談でなく、まじめな顔をして言い切っちゃうんだから、まいった。
犯人をあぶりだすために豊川悦司がテレビカメラに向かって吐くセリフね。
普通なら噴飯もののセリフなのに、みごとに決まってた。観てるこっちがふるえたぜ。
でしょ?豊川悦司の演技力よ。
そりゃまあ役者の力もあるだろうが、ああいうセリフを見せきってしまうなんて、瀧本智行監督の演出力も相当なもんだ。目を見張った。
二つある目をね。
ブルー系の冷たい色調、陰影の濃い映像で、硬派な犯罪映画の空気をみなぎらせ、あのひとことに向けて周到に雰囲気を高めていく。かつてのジャン・ピエール・メルビルの映画みたいだと言ったら誉め過ぎか。
懐かしいこと言うわねえ。一つしかない口で。
お、知っているのか。ジャン・ピエール・メルビルを。
「サムライ」とか「影の軍隊」の監督でしょ。聞いたことはあるわ。
どこでだ?
二つある耳で。
いや、そういう意味じゃなくて・・・。
わかってる、わかってる。ジャン・ピエール・メルビルって、フランスのフィルム・ノワールの第一人者だったんでしょ。
おう、よく知ってるじゃないか。男っぽい世界を描かせたらいまだに彼にかなう者はいない。
たしかに、硬派の映画っていう意味では、「犯人に告ぐ」は久しぶりに男っぽい世界だったわ。
冗談ひとつ言わない。近頃珍しく背骨のある映画だ。
犯人との対決っていうより、事件をめぐる警察内部の男たちの葛藤に力点を置いているように見えたけど。
そのぶん、犯人が線の弱い人間になっているのが、ちょっと残念だけどな。
ほんとに、ふるえて眠っちゃったって感じだもんね。
こういう本格的な映画がごくわずかな劇場でしか上映されないっていうのは、どういうことなんだろうな。
全然種類の違う映画だけど、「once ダブリンの街角で」も何ヵ所かでしか上映していないしね。どっちも誰が観てもいい映画だと思うんだけど、最近の映画界はどうなってるのかしらね。
わかった。俺がひと肌脱ごう。
どうするの?
大声で叫ぶのさ。「映画館に告ぐ!こういう映画を上映しろ。さもなくば、ふるえて眠れ」って。
うーん、あなたが言うと、鼻につくセリフになるわね。
そうか?
ええ。一つしかない鼻にね。


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ふたりが乗ったのは、都バス<東16系統>
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