【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「怪談」:千登世橋バス停付近の会話

2007-08-19 | ★池86系統(東池袋四丁目~渋谷駅)

女は橋の上を行き、男は橋の下を行く・・・。
なに、ひとりで感慨に耽ってるの?
いや、こういう立体交差の橋を眺めていると、男と女の心のすれ違いを思い出すわけよ。
ああ、男女の情痴をテーマにしたホラー映画「怪談」を観たばっかりだからね。
江戸時代を背景に、惚れあったはずの男が女の気持ちを裏切ったことから起こる怨念の世界。浮気した男を恨んで死んだ女房が幽霊になって現れるという、正統派の怪談映画だった。中田秀夫の映画だっていうから、「リング」みたいに見た目の恐怖で押してくるのかと思ったら、見た目より心情に訴える映画で、いつの世も女の思いこみは怖いっていう、実に身につまされる恐ろしさだった。
身につまされる?それって、どういう意味?
い、いや、他意はありません。
私には、浮気した男の後ろめたさが、死んだ女房の幽霊を出現させたというふうに見えたけどね。怖いのは、男の愚かさよ。
は、はい。
その男を演じるのが、歌舞伎役者の尾上菊之助だから、時代劇の様式美にはまってる。意味ありげな流し目とか、優柔不断なしぐさとか、この映画の世界観にぴったりでさすがよね。
でも、顔はデカかったなあ。女房役が黒木瞳だから、二人が顔を寄せ合うと、卵とスイカくらいの違いがあって、不釣合いもいいところだ。
そう言われればそうかも。
何が恐ろしいって、黒木瞳に抱かれた尾上菊之助の顔のデカさ。あれこそホラーだったぜ。
それより、尾上菊之助の浮気の相手が井上真央っていうのは、ちょっとムリがあったかな。
黒木瞳、麻生久美子、木村多江、瀬戸朝香といった女優陣の中に井上真央が入っちゃうと、どうしても子どもにしか見えなくて、そんな子どもに気が行く尾上菊之助、そんな子どもに嫉妬する黒木瞳がちょっとアホに見えちゃうんだよなあ。
浮気っていうより不純異性交遊だもんね。井上真央ちゃんの責任じゃなくて、キャスティング・ディレクターの責任だけど。もうちょっとおとなの女優はいなかったのかしら。
でも、江戸時代の怪談の雰囲気を出そうとした美術は買うね。
さくらん」みたいな目に痛い美術じゃなくて、しっとりとした品のある美術。正統派をめざす心意気は感じられたわね。
観た瞬間の怖さでいえば、「リング」のほうが怖いけど、映画の出来としてはこちらのほうが優れているかもしれない。
古典落語の名作を原作にしているから、時代を超えた普遍性がある、っていうところもあるわよね。
ただ、描写の緻密さという点では、重大な演出ミスがあった。
どこ?
尾上菊之助と黒木瞳が初めて出会う場面で、二人の手が偶然触れ合うシーンにナレーションを入れているんだ。情の触れあいを画でじっくり見せる繊細なシーンにナレーションをかぶせるなんて、信じがたいミスだ。二人の情の深さを予感させる名シーンになったところが台なしだ。
なるほどね。惚れたはれたの地獄を描くんだから、そのへんの気づかいはほしかったわね。
まあ、惚れたはれたの地獄なんて、俺たちには関係ないけどな。
あら、さっき、身につまされるって言ったばかりじゃない。そういう無責任なことを言うから信用できないのよ。
わかった、わかった。そんな怖い顔してにじり寄ってくるなよ。
この際、私は橋の上を行くから、あなたは橋の下を行って。
は、はい。


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千登世橋バス停



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