猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

僕がいない場所

2024-03-28 21:43:53 | 日記
2005年のポーランド映画「僕がいない場所」。

国立孤児院に預けられている11歳の少年・クンデル(ピョトル・
ヤギェルスキ)は孤児院を抜け出し、実の母親の元へ行く。しか
し、家で彼を待っていたのは男たちとの乱れた関係を続ける母の
姿だった。そんな中、クンデルは裕福な家の子供でありながらも、
親に愛されない淋しさや美しい姉への劣等感を抱える少女・クレ
ツズカ(アグニェシカ・ナゴジツカ)と出会う。

ポーランドの小さな町を舞台に、母親の愛に恵まれず孤独に生き
る少年と、彼と心を通わせるようになる少女の姿を描いた人間ド
ラマ。新聞に取り上げられていた実話を基に作られている。国立
孤児院に預けられている詩人を夢見る11歳の少年クンデルは、
孤独な生活を送っていた。彼の反抗的な態度と、度々起こす問題
に孤児院の先生は頭を抱え、クンデルには友達もいない。ある日
クンデルは孤児院を脱走し、母親の住む家へ行く。しかしそこで
寝ていた母親の隣には見知らぬ男が眠っていた。
母親はクンデルとの再会を喜ぶが、男を手放すこともできない。
そのことを嫌悪したクンデルは、母親とも離れ、1人で生きてい
く決意をし、町の川べりに打ち捨てられた舟に住み着く。孤児院
に預けられているとはいえ、クンデルは孤児ではない。母親の育
児放棄である。舟の中にはたくさんの空き缶が放り込まれており、
クンデルはそれらの空き缶や森で見つけたガラクタを鉄くず屋へ
持っていき、少しばかりの金を得て生活していた。母親は町で男
と楽しそうに生活している。
ある時、舟に酒の匂いをさせた少女、クレツズカが現れる。クン
デルと同じ年か1つ下くらいの彼女は、舟の近くに住む裕福な家
庭の子だったが、美しく賢い姉に劣等感を抱き、それを酒で紛ら
わしていた。小学生が酒を飲むとは驚きだが、ポーランドではよ
くあることなのだろうか。孤独な思いを共有する2人は次第に絆
を深めていく。やがてクンデルはクレツズカに一緒に町を出てい
こうと話すが、彼女は返事を濁す。
クンデルは再び母親の元へ行き、町を出ていくことを告げるが、
母親はクンデルの心配よりも、先日クンデルが来て以来彼女の元
に訪れなくなった男のことを気にかけ、「私は誰かに愛されてい
ないと生きていけないの。もう家には来ないで」と言う。母親に
なり切れない、「女」でしかない人なのだろう。男がいないと生
きていけない女はいるものだ。母親からの2度の拒絶に、クンデ
ルはどんなにか傷ついたことだろう。クンデル役のピョトル・ヤ
ギェルスキは監督が見つけてきた素人の少年らしいのだが、表情
演技がうまい。
クンデルがわずかばかりの金を持ってレストランへ行くシーンが
あるが、ウエイトレスは「お代はいらないわよ」と言う。でもク
ンデルは「払うよ」と金を差し出す。ウエイトレスは「じゃあ今
度来た時はいらないわ」と言うのだが、このシーンが好きだ。ク
ンデルに優しくした大人は彼女だけだったのではないだろうか。
社会から取り残された子供たちの気持ちを思うと胸が痛む。ラス
トシーンのクンデルの表情はとても印象に残った。ポーランド映
画は本当に暗い。好きだけど。


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血の学寮

2024-03-23 21:01:37 | 日記
1982年のアメリカ映画「血の学寮」。

大学生のジョアン(ローリー・ラピンスキー)、クレイグ(スティーヴン
・サックス)たち5人は、アルバイトで古い学生寮の取り壊し作業を手
伝いに訪れた。しかし冷酷残忍な殺人鬼に次々と襲われる。

とある学生寮を舞台に繰り広げられる惨劇の模様を描いたスプラッター
・ホラー。新作ということでレンタルしたのだが、観ていると、あれ?
何だか映像が古い…。わざとこういう撮り方をしているのかと思ったが、
何と1982年の劇場未公開映画だった。ということは昔VHSしか出てい
なくて、最近初めてDVD化されたということか。「13日の金曜日」系
の王道のスプラッター・ホラーである。5人の大学生の男女が、アルバ
イトで古い学生寮の取り壊し作業の手伝いに来る。彼らは正体不明の何
者かに次々と襲われる。
冒頭で若い男性が殺されていたが、誰だったのだろう。取り壊し作業に
は学生だけでなく作業員たちも来ているので、よくわからない。もちろ
ん作業員たちも殺される。ある女子学生が車で迎えにきた両親もろとも
殺されるシーンはびっくり。といっても昔の映画なのでグロテスク描写
は控え目で、グロ耐性のない人でも安心して観られる感じ。血の色なん
かいかにも絵の具だ。
殺人鬼の殺し方が釘バットで殴ったり、ドリルで後頭部を貫いたり、釜
茹でにしたり、バリエーション豊富で斬新(私は変態か)。寮の解体作業
をしている場所なので危険なものが色々置いてあるのだ。釜は何だろう
と思うが。こういう、若者が次々と惨殺されていく系のホラーは「犯人
は誰なのか」や「誰が生き残るのか」に興味を持つものだが、犯人は割
とわかりやすかった。ただ動機がサイコパスで思いつかなかった。警察
の無能さもおもしろい。そしてラストは意外だが私は好き。87分と観
やすいし、こういう系統が好きな人にはお勧め。


毛づくろいに余念がないノエル






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WILL

2024-03-18 22:07:36 | 日記
2024年の日本映画「WILL」を観に行った。

俳優の東出昌大は都会を離れ、猟銃を手に山へと向かう生活を
始める。ガスや水道もない場所で、自らの手で仕留めた鹿や猪
を食べ、地元の人々と交流しながら日々を過ごす。そのような
生活の中で彼が何を考え、感じ、山や生命と向き合っているの
かを映し出す。

俳優・東出昌大の雪山での狩猟生活を、エリザベス宮地監督が
およそ1年にわたり追ったドキュメンタリー。東出昌大のドキ
ュメンタリー映画なんてファンの女性しか観に来ないだろうと
思ったが、若い男性、中年の男性、初老の男性と、男性も割と
観に来ていた。あの人たちはファンなのだろうか。東出昌大は
北関東の山でもう2年くらい狩猟生活をしているようだ。撮影
には監督の他にプロデューサーや登山家の服部文祥などが同行
する。写真家の石川竜一の写真も所々に映し出される。
何故俳優である東出昌大が狩猟をしているのか、そしてその経
験は彼に何をもたらしたのか。私はドキュメンタリーというの
はあまり好きではないのだが、意外にとてもおもしろかった。
セリフではない東出昌大の言葉も聞けて良かった。当たり前だ
が彼は狩猟免許と猟銃所持許可も持っている。自分で仕留めた
鹿などを捌くシーンはそうでもないのだが、鹿を撃つシーンは
私にはきつかった。東出昌大が言っていたが、「鹿は死んだ時
目を閉じない」のだそうだ。死んだ後こちらを見ているようで
痛ましい。
「かわいそうだな、ごめんね、という思いで動物を撃つ。かわ
いそうだと思うなら殺すなよって話なんですけどね」という言
葉が印象的だった。途中で保育園児だか幼稚園児だかわからな
いが、複数人を先生が引率してくる。「今日は鹿を食べさせて
もらいます」「みんながいつも食べている牛さんや豚さんもこ
うして命を落としているんですよ」と先生が言う。鹿を食べた
くないと言う子もいたが、食べた子は「めっちゃおいしい!」
と言っていた。私は鹿肉を食べたことはないが、そんなにおい
しいのだろうか。子供たちの心にはどういう思いが残っただろ
うか。
東出昌大の山小屋にはいろんな人が訪れる。俳優仲間や近所の
人。そして皆で鍋を囲む。この人は人から好かれる人なんだろ
うなあ、と思った。良くも悪くも純粋でバカ正直。地元の猟友
会は少し排他的で、信頼できる奴しか仲間に入れないと言って
いたが、猟友会にもすんなり迎えられた。子供たちも懐いてい
た。本人が子供好きなのだろう。「動物を殺して命をいただく
」ということの残酷さや重要さを、間近で見た気がした。
けれども普段山で生活して仕事の時だけ東京に行くというのは
大変ではないのだろうか。舞台となると稽古の期間もあるだろ
うし。当分この生活を続けるつもりのようだが。MOROHAと
いう2人組のバンドが度々登場する。UKという人がアコーステ
ィックギターを担当し、アフロという人が歌を担当している。
歌といっても詩をがなり立てているのか歌を歌っているのかわ
からないような歌い方だ。彼らのステージが映画の中で何度も
登場したが、その「魂の叫び」のような演奏と歌は東出昌大の
野性的な魅力と共に強烈に印象に残った。



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告白、あるいは完璧な弁護

2024-03-13 21:46:23 | 日記
2022年の韓国映画「告白、あるいは完璧な弁護」。

IT企業の社長ユ・ミンホ(ソ・ジソブ)の不倫相手であるキム・
セヒ(ナナ)が、ホテルの密室で不審死を遂げる。彼女の殺害容疑
をかけられたミンホは身の潔白を証明するため、敏腕弁護士のヤ
ン・シネ(キム・ユンジン)を雇って事件の真相解明に乗り出す。
ミンホは事件の数日前に起きた交通事故がセヒ殺害に関わってい
るかもしれないと告白し、事件の再検証が始まる。そんな時、突
然現れた目撃者、ハン・ヨンソク(チェ・グァンイル)の存在によ
って事態は思わぬ方向へと転がっていく。

ミステリー・サスペンス。主人公であるユ・ミンホの供述が2転
3転し、予測がつかないスリリングな物語で、とてもおもしろか
った。IT企業の社長であるミンホの不倫相手、セヒがホテルの
密室で殺害され、遺体の上には紙幣がばらまかれていた。そばに
いたミンホが逮捕されるが、彼は何者かに鏡に頭をぶつけられ、
気を失っていたと言う。ミンホは敏腕弁護士として名高いヤン・
シネを雇って事件の真相を探り始める。
一時釈放されたミンホはマスコミを避けるために郊外の別荘へ行
き、そこへヤン・シネが現れる。話を聞いて弁護を担当するか決
めると言って、シネは事件について再びミンホに供述させる。ミ
ンホは不倫相手のセヒに「関係をバラされたくなかったらお金を
用意しろ」と脅され、先にホテルに着いていたセヒの元を訪ねる
と、セヒも同様の脅しを受けていたと言う。待っても誰も訪れず、
パトカーの音が聞こえてきたため2人は逃げようとするが、ミン
ホは突然何者かに鏡に叩きつけられ、気絶した、ということをシ
ネに話す。
ミンホは自分は殺していないと言うが、シネの携帯が鳴り、目撃
者が現れたという検察からの情報が入る。しかしホテルでの事件
に目撃者はいない。ミンホは何の目撃者なのかわからない。する
とシネは1枚のポスターをミンホに見せる。それは行方不明にな
った息子を捜しているというポスターだった。それを見てハッと
したミンホは、ある交通事故について話し出す。ミンホの話はミ
ンホが主体になっていたりセヒが主体になっていたりと、ころこ
ろと変わる。観ている方はそれを映像で観ているので、どちらが
本当の話なのかわからない。
あの時鹿が飛び出してこなければ、誰も死なずに済んだのだ。ミ
ンホとセヒは嘘をつくことを選んだために、悪循環が起きてしま
った。終盤のどんでん返しは秀逸。私は全然予想していなかった。
変だな?と思うところはあったが、まさかそういう真相だとは思
わなかった。でもネットのレビューには「すぐに真相がわかった
」と書いていた人もいたので、私は勘が鈍いのかもしれない。と
にかくよく練られた脚本が素晴らしく、殺人事件と交通事故の2
重構造になっているのがおもしろかった。弁護士役のキム・ユン
ジンがすごく顔が変わっていて驚いた。キム・ユンジンだとわか
らなかった。昔はもっときれいな人だった気がするのだが。



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#マンホール

2024-03-08 21:48:07 | 日記
2023年の日本映画「#マンホール」。

勤務先の不動産会社で営業成績ナンバーワンの川村俊介(中島裕翔)
は社長令嬢との結婚も決まって将来を約束されていた。しかし結婚
式の前夜、川村のために渋谷で開かれたパーティーで酩酊し、帰り
道にマンホールの穴に落ちてしまう。深夜、川村は穴の底で目を覚
ますが、脚をケガして身動きが取れず、スマホのGPSは誤作動を起
こし、警察に助けを求めてもまともに取り合ってもらえない。何と
か連絡が取れた元カノの工藤舞(奈緒)に助けを求めることができた
が、自分のいる場所がどこかわからない川村は、「マンホール女」
のアカウントをSNS上で立ち上げ、ネット民たちに場所の特定と
救出を求める。

シチュエーション・スリラーというのだろうか、ほぼ中島裕翔の1
人芝居である。2010年のスペイン映画「[リミット]」みたいな感
じ。舞台もほぼマンホールの中なのだが、とてもおもしろかった。
SNSを駆使して助けを求めるところが今時である。勤務先の不動産
会社で営業成績トップの川村俊介は、社長令嬢との結婚も決まりま
さに順風満帆な人生を歩んでいた。しかし結婚式の前夜、渋谷で開
かれたパーティーで泥酔し、マンホールの穴に落ちてしまう。深夜
川村は目を覚ますが、落下時に脚を負傷し身動きが取れなくなって
いた。
スマホのGPSは誤作動を起こし現在位置がわからない。川村は警
察に通報して「渋谷のマンホールに落ちた」と助けを求めるが、警
察官が巡回したところ「渋谷に蓋の開いたマンホールはない」と言
われてしまう。それではここは渋谷ではないのか?と思っていたと
ころ、警察から「どのくらい飲んだの?」と聞かれ、いたずらだと
思われてしまう。川村は友人や知り合いに電話をかけるがつながら
ない。やっと元カノの工藤舞が応答してくれ、協力してくれるが現
在位置がさっぱりわからない。
川村はSNSに「#マンホール女」というアカウントを立ち上げ、ネ
ット民たちに協力を求める。マンホール男ではなくマンホール女に
したのは、女性の方が助けてくれそうだと思ったからだ。次々にコ
メントがつき、穴の中から何が見えるかとか、何か音は聞こえない
かとか色々聞かれ、次第にそこが渋谷ではないことがわかってくる。
では誰かに連れてこられたのか?と川村は思うが、パーティーが終
わった後の記憶がまるでない。
それにしてもネット民というのはあんなに親切なのだろうか。皆と
ても親身になってくれている。まあ、暇なのかもしれないが。やが
て川村が雨が降ってきたことを書き込むと、渋谷から遠く離れた場
所であることがはっきりする。舞はそこに向かうと言ってくれる。
川村は舞を待っている間にある重大なことに気づく。どうやら川村
には何か秘密があるようだ。
おもしろかったのだが、わからないことが多少あった。川村をマン
ホールに落とした犯人は、どうして川村が自分の憎むべき相手だと
わかったのだろうか。それがわからない。伏線もなかった。なので
終盤はちょっと気が抜けてしまった。「そうなるの?」という感じ。
中島裕翔がとても演技がうまく、川村がスマホを使って奮闘する様
子は良かったのだが、終盤が残念。ラストは絶望的。



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