猫のひたい

杏子の映画日記
☆基本ネタバレはしません☆

ナイトビジター

2020-05-28 22:23:12 | 日記
1970年のイギリス映画「ナイトビジター」。

吹雪の夜、Tシャツに下着という出で立ちの男がある家に忍び込む。男は作男を
殺した罪で服役中の家の長男セイラム(マックス・フォン・シドー)だった。家の
中では、セイラムの妹エスター(リヴ・ウルマン)とその夫で医師のアントン(ペ
ール・オスカルソン)が、末妹のエミー(ハナ・ボーク)に家の売却に同意するよ
う説得していたが、エミーはそれを拒否する。その様子を確認したセイラムは、
その足でかつての恋人の家に向かい、彼女を殺害する。通報を受けた警察とアン
トンはヒモのようなものによる絞殺との判断を下す。アントンが帰宅するとエミ
ーがアントンの文鎮で殴り殺されていた。エスターによって部屋に閉じ込められ
たアントンは、そこにセイラムがいることに気付き、失神する。セイラムが犯人
だと主張するアントンが刑務所に電話をすると、セイラムはそこにいると言われ
る。

イギリスのサスペンス映画だが、雪景色と、マックス・フォン・シドーやリヴ・
ウルマンといったイングマール・ベルイマン作品の常連俳優が出演しているので、
北欧映画のような雰囲気がある。精神刑務所で服役しているセイラムはある吹雪
の夜脱獄をして自宅にこっそりと忍び込む。家の中ではセイラムの妹エスターと
その夫で医師のアントンが、家を売って街の病院に移ることを提案していたが、
末妹のエミーは父から受け継いだ土地を売ることに反対し、口論になっていた。
セイラムはアントンの診療鞄からモルヒネを取り出し、アントンのネクタイを鞄
に入れ、1本を持ち出した。そして元恋人の家へ行き、彼女をそのネクタイで絞
殺する。そして再び自宅に戻り、エミーをアントンの文鎮で殴り殺す。
物語は「刑事コロンボ」のように最初から犯人がわかっているので、セイラムは
何故殺人を犯したのか、何故脱獄して再び刑務所に戻ったのか、そしてどのよう
な方法で脱獄したのか、といったことが焦点になる。アントンはセイラムが犯人
だと主張するが、2件の殺人事件にはアントンのネクタイと文鎮が使用されてい
る。警察はセイラムが収監されている精神刑務所を訪れるが、高い壁に囲まれ要
塞のような刑務所を看守の目をくぐり抜けて脱獄するのは不可能だと思われた。
脱獄の方法は後半で明かされるが、セイラムの緻密な計画がすごい。
とにかくセイラムが寒そう。吹雪の中を下着姿でなんて、低体温症や凍傷になっ
てしまいそう。でも何故下着姿なのかも後半でわかってくる。外が極寒なので刑
務所の独房が暖かく居心地のいい場所に思えてくる。セリフが少なく説明も少な
いが、セイラムが何故そうまでして殺人を犯し刑務所に戻ったのかは次第にわか
ってくるし、とてもおもしろい。ラストはちょっと有り得ないというか「えーっ
!?」となってしまうが、そこに至る伏線もちゃんとあって、興味深い。なかな
かの傑作サスペンスだと思う。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ラスト・シャンハイ

2020-05-23 23:01:51 | 日記
2012年の中国・香港合作映画「ラスト・シャンハイ」。

貧しい家庭に生まれ育った青年チェン・ダーチー(ホアン・シャオミン)は、愛する
女性イエ・ジーチウ(ジョイス・フォン)と別れ、一旗揚げるために上海へやってく
る。持ち前の頭の良さや度胸を上海マフィアの権力者であるホン・ショウティン
(サモ・ハン・キンポー)と夫人(ユアン・リー)に気に入られ、ダーチーは次第に裏
社会で頭角を現す。時は流れ、日本軍が中国侵攻をうかがっていた1937年、ダー
チー(チョウ・ユンファ)は現在は有名京劇女優となっていたジーチウ(ユアン・チ
ュアン)と再会するが、お互いに別の人と結婚していた。そしてダーチーはジーチ
ウに近づき、抗日地下組織の一員であるジーチウの夫から地下組織のリストを手に
入れるよう命じられる。

チョウ・ユンファ主演のアクション犯罪映画。でもラブストーリーの要素もあり、
おもしろかった。ダーチーとジーチウは愛し合っていたが、ダーチーは大きなこと
をやってみたいと上海に、ジーチウは京劇女優を目指して北京へ行き、離れ離れに
なった。その後再会するが、ダーチーがもう違う世界の人間になってしまったこと
を痛感したジーチウは、彼の元を去ってしまう。更に時は流れ2人はまたも再会す
るが、ダーチーは裏社会のトップにのぼりつめており、ジーチウは京劇のスターと
なっていた。そしてそれぞれ別の相手と結婚していた。
ダーチーとジーチウが2度目に再会するシーンがいい。もうお互い全く別の世界の
人間になっており、言葉を交わすこともなかったが、感慨深い思いを抱く。だがジ
ーチウの夫は何かを感じたようだった。その夫は学者だが、実は抗日地下組織のメ
ンバーであり、ダーチーはジーチウを日本軍から守ろうとする。しかしかといって
ダーチーはジーチウに未練がある訳ではなく、妻を心から愛していた。ジーチウに
対する思い、妻に対する思いがどちらも一途なのだ。
白いスーツを着て銃を撃つチョウ・ユンファがかっこいい。白い長い服(何と言う
のか知らないが、当時の中国の衣装)もよく似合っていた。物語は現在と過去を行
き来しながら進行していく。登場人物が多すぎて少しわかりにくい面もあったが、
おもしろく観られた。当時の上海の雰囲気がよく感じられて良かった。舞台となっ
ている時代が「上海の伯爵夫人」と同じ頃なので、あの映画を思い出した。街の様
子がよく似ている。ダーチーの部下も忠実でかっこよかったし、日本軍の将校役の
倉田保昭も印象に残った。アクション、ラブストーリー、人間ドラマの要素が絡み
合っていて見応えのある映画だった。


ノエル in 洗濯カゴ。

コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

エッセンシャル・キリング

2020-05-19 22:59:15 | 日記
2010年のポーランド・ノルウェー・アイルランド・ハンガリー合作映画「エッセン
シャル・キリング」。

アフガニスタンでアメリカ兵を殺したアラブ人兵士ムハンマド(ヴィンセント・ギャ
ロ)は米軍に捕えられ、厳しい尋問を受けた後、移送される。護送車の事故に紛れて
脱走したムハンマドは、傷の痛みと飢えに苦しみながら、雪に閉ざされた深い森の中
を逃走する。

イエジー・スコリモフスキ監督による全編主人公のセリフがないという異色作。第
67回ヴェネツィア国際映画祭で審査員特別賞と最優秀男優賞を受賞した。アフガニ
スタンで米兵を殺したアラブ人兵士のムハンマドは、米軍に捕まり拷問を受け、どこ
かに移送されるが、護送車の事故に紛れて逃走する。それからのムハンマドはただひ
たすら雪の中を逃げる。民間人を殺して車を奪ったりもする。観ている方も寒くなり
そうな雪の森の中をとにかく必死で逃げるのだ。ムハンマドのセリフは一切ない。悲
鳴やうめき声くらいは上げるのだが。何故しゃべらないのかわからないが、とにかく
全くしゃべらない。
ムハンマドは傷を負っており、その痛みや飢えに苦しんでいる。蟻を食べたり樹皮を
剝がして食べたり釣り人から生魚を盗ったりする。彼が赤ん坊に授乳している母親に
取った行動は驚いた。しかし人間は極限状態に置かれるとああいうこともしてしまう
のかもしれない。銃を突き付けられた母親は不運でしかない。
ムハンマドは逃げ続ける。休んではいられない。凍死するからだ。けれども最初は米
軍の追手から逃げていたのが、途中からはどこへ行けばいいのかわからなくなる。そ
れでも止まる訳にはいかないのだ。退屈そうな映画に思えるかもしれないが、83分
という上映時間と、ヴィンセント・ギャロの鬼気迫る表情演技が素晴らしく、私はお
もしろく観られた。終盤少しホッとするシーンもあるが、ムハンマドの血が付いた白
馬が佇んでいるラストは印象的である。全編セリフなしで演じ切ったヴィンセント・
ギャロはすごい。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

評決の行方

2020-05-14 22:11:46 | 日記
2006年のアメリカ映画「評決の行方」。

1930年代、有能で成功しているニューヨークの弁護士サミュエル・レイボヴィッツ
(ティモシー・ハットン)に、弁護士団体から弁護の依頼が来る。2年前の貨物列車の
中で若い2人の白人女性を強姦したとして9人の黒人青年たちに集団レイプの容疑が
かけられていたのだった。証拠不十分な状況にも関わらず、白人のみの陪審員による
審議が行われ、最年少の被告人以外に死刑宣告が下されていた。サミュエルは事件を
追っていくうちに被害者の白人女性と接触し、ある疑問点が湧く。

実際に起きた事件を基にした映画。白人の弁護士サミュエルは、2人の白人女性を集
団レイプしたとして9人の黒人青年が逮捕され、最年少の被告以外に死刑宣告が下さ
れている事件の弁護を担当することになった。サミュエルの妻は反対するが、彼は事
件の起きたアメリカ南部へ出向いていく。アメリカ南部は現代でも人種差別が色濃く
残る場所である。当時の南部での黒人差別はもっとひどかっただろう。実際裁判では
陪審員は白人のみだった。サミュエルは被告人たちに面会するが、彼らはやっていな
いと言う。被害者女性たちにも会うが、サミュエルは彼女たちの言い分に疑問点を感
じる。
この事件がもし白人による黒人女性の強姦だったり、白人同士の強姦だったりしたら
裁判の結果は違ったものになっていたのではないかと思う。それに確かに強姦は許し
難い犯罪だが死刑は重すぎるのではないか。当時のアメリカでは黒人男性が白人女性
を強姦したら死刑だという決まりがあったのだろうか。陪審員が白人だけというのも
ひどい。あるシーンで黒人少女があからさまに白人から差別を受けていて、イラっと
したのだが、サミュエルもその光景に我慢ならなくなって怒りをぶつけていた。
ティモシー・ハットンはこういう誠実な人の役がよく似合う。映画は淡々と進み、そ
れほどおもしろいという訳ではないが、当時の人種差別の状況がよくわかって興味深
かった。裁判でサミュエルが被害者とされる女性たちを追い込んでいくシーンは良か
った。サミュエルは頑張ったが、結果は満足のいくものではなかった。だから物語と
してはすっきりしない。それでもサミュエルはその後も人権派弁護士として奔走し活
躍したようだ。アメリカの良心のような人だったのだなあ。私にとっての法廷もの映
画ベスト3は「評決」「ジャスティス」「レインメーカー」である。特に「評決」は
とても良かった。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング
コメント (2)
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

鬼はさまよう

2020-05-09 22:02:05 | 日記
2015年の韓国映画「鬼はさまよう」。

ソウル東南部を中心に女性や子供の連続失踪事件が起こる中、刑事テス(キム・サン
ギョン)は事件の捜査中に偶然当て逃げ犯を逮捕する。だが、押収された車の中にお
びただしい血痕が発見され、単なる当て逃げ犯だと思われたその男ガンチョン(パク
・ソンウン)が連続失踪事件の犯人だということが判明する。世間を震撼させている
事件の犯人逮捕で署内が沸き立つ中、テスの妹の夫スンヒョン(キム・ソンギュン)か
ら妹が行方不明だという電話が入る。

暗く重たいサスペンス映画。女性や子供の連続失踪事件を捜査していた刑事のテスは、
偶然当て逃げ犯を逮捕するが、その男ガンチョンこそが事件の犯人であると判明する。
凶悪犯の逮捕に世間は大騒ぎになるが、そんな時テスの元に妹の夫スンヒョンから連
絡が入り、妹が行方不明だと言う。少し前にガンチョンはテスの妹も拉致していたの
だった。ガンチョンの自供により拉致した女性たちは皆殺害され埋められていること
がわかる。ガンチョンには死刑判決が下されるが、3年経っても刑は執行されておら
ず、妻を殺されたスンヒョンは復讐の鬼と化していた。
とにかく陰惨な物語である。犯人は割と序盤で逮捕されるが、被害者たちを埋めた場
所を供述しようとせず、遺体が発見されたのはほんの数人だ。テスの妹の遺体も見つ
からない。テスは妹を埋めた場所を聞き出そうとするが、ガンチョンは薄笑いを浮か
べて「自分で捜せ」と言う。この男には人間らしい感情が少しもないようだ。いつも
無表情だったりニヤニヤ笑っていたりで、死刑が確定しているのに独房で体を鍛えて
いる。3年経ってもまだ死刑が執行されていないのも問題だろう。日本も死刑囚の執
行にかなり長い期間がかかるようだが、韓国でも同じ事情のようだ。
テスの義弟のスンヒョンがとてもかわいそうだった。おとなしいタイプの人だったの
に、復讐しか考えられなくなっている。スンヒョンが計画したことは、そんなにうま
くいくかな、と思う面はあるが、ガンチョンに妻の遺体を埋めた場所を聞き出してガ
ンチョンを殺すことに必死になっているのが悲しい。そしてテスは義弟を殺人犯にさ
せないために奔走する。おもしかったが、ガンチョンは女性をとても憎んでいるよう
で、その理由も描いて欲しかったなと思った。ラストでテスと妹夫婦が幸せだった頃
のシーンが流れるのだが、そのシーンがあるからこそこの映画の悲惨さがより強調さ
れていて、とても悲しくかわいそうだった。




映画評論・レビューランキング

人気ブログランキング
コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする